
総選挙の結果は、与党215議席となり、過半数の233議席を割り込みました。
しかし、与党はもっと負けてもよかったはずです。
開票速報を見ていると、小選挙区で自民党候補が当選したところの多くは立憲民主党の候補がいないところでした。立民は候補者が少なすぎて、追い風を生かしきれなかった格好です。
国民民主党も比例区の候補者数が足りなくて、3議席が他党に配分されました。
両党とも国民の意識が読めていなかったわけです。
与党過半数割れという大きな変化が起きた選挙でしたが、選挙そのものは低調でした。投票率も53.84%で、3年前の衆議院選挙の投票率55.93%から下がっています。
要するに与党に対する気持ちは冷めたが、野党に対する熱い気持ちもなかったということです。
もし自民党総裁選で高市早苗氏が当選していたらどうなっていたでしょうか。
高市氏は靖国神社参拝など安倍氏の保守路線を継承するので、立民や社民や共産などと激しく対立し、選挙戦も盛り上がったかもしれません。
しかし、それでは55年体制に逆戻りで、なんの進歩もありません。
それに、高市氏を支持したような岩盤保守層というのは、声は大きいですが、国民的広がりがありません。だから自民党も高市氏を総裁に選ばなかったと思われます。
高市氏が総裁選で敗れて自民党に失望した保守層が保守党に流れるかとも思えましたが、保守党は3議席でした。
保守党はXのフォロワー数が自民党より多いということを誇っていましたが、国民の支持は自民党と比較にもなりません。
社民党の福島瑞穂党首は「頑固に平和、暮らしが一番」というスローガンを繰り返し叫んでいました(ニュース番組の映像で)。
平和を訴えるのはいいのですが、国際情勢がどんどん変化しているので、たとえば中国の軍拡をどう見るかとか、台湾有事にどう対処するかとか、訴え方が変わらなければなりません。「頑固に平和」という言葉は思考の硬直を示すだけです。社民党は沖縄の小選挙区で1議席を得ただけで、比例区では0議席だったのは当然です。
どの党も国民意識からずれていますが、もちろんいちばんずれているのは自民党です。
裏金問題と統一教会問題をうやむやにしたまま総選挙をやって、そこそこの結果を出せると思ったとすれば愚かです。
もっとも、自民党にはそれしかなかったということもいえます。
統一教会問題をつつくと、岸首相の時代から自民党は外国勢力に侵食されていたということが明るみに出て、自民党はますます支持を失います。
裏金問題も、派閥のトップが関与していないはずはないので、派閥のトップの責任を追及することになりますが、自民党の体質としてそれはできなかったわけです。
もし石破茂新総裁が裏金問題を解明して責任者を処分するということをしていれば、状況はまったく変わっていたでしょう。
しかし、石破首相はそうしませんでした。今まで党内野党の立場で気楽に発言していましたが、いざ責任ある立場になったら、実行する気概がなかったということでしょう。
ただ、そうした中で国民民主党は4倍、れいわ新選組は3倍と大きく議席を伸ばしました。
国民民主党は「手取りを増やす」ということを訴え、れいわは「消費税廃止」を訴え、どちらも若い世代の支持を集めました。
私などは「手取りを増やす」といっても、どうやって増やすかが問題だろうと思うのですが、若い世代に支持されたということは重要です。
新しい、小さい政党は小回りが利くので、国民のニーズに対応できます。
大政党はしがらみが多くて、変化できません。たとえば立憲民主党は電力労組などとの関係で脱原発を封印しています。
今回の選挙で比例区の得票数が3年前の総選挙と比べてどう増減したかを見ると、どの政党が支持されたかがよくわかります。
【増】立民は議席は増えましたが、得票はほとんど増えていません。国民 259万票→617万票(358万票増)れいわ221万票→380万票(159万票増)立民 1149万票→1156万票(7万票増)【減】自民 1991万票→1458万票(533万票減)維新 805万票→510万票(295万票減)公明 711万票→596万票(115万票減)共産 416万票→336万票(80万票減)社民 101万票→93万票(8万票減)【前回なし】参政 →187万票保守 →114万票https://news.yahoo.co.jp/articles/1544d972f6cf1570fab4be2e17243f7ad1149d4e
大きい政党よりも小さい政党、古い政党よりも新しい政党に勢いがあります(玉木雄一郎代表は55歳、山本太郎代表は49歳という若さもあります)。
単純に言って、古い政党は守旧派になり、新しい政党は改革派になります(維新も改革派として評価されて伸びてきました)。
ですから、日本を改革しようと思えば新しい政党をふやすことです。
ところが、日本は逆の方向に進んできました。
二大政党制がいいということで小選挙区制を取り入れましたが、小選挙区制だと小政党の存在が困難です。
併せて比例区も導入されましたが、これも新しい政党を排除する制度になっています。
今回比例区に候補を立てた日本保守党代表の百田尚樹氏はこのように語っています。
「私たちは今回、11ブロックのうち6ブロックの比例で戦った。国政政党は『うちは比例で通っても1人ぐらいかな』という時は1人出し、『2人ぐらいかな』と思ったら2人出して、1人当たり600万円かかる。ところが、政治団体は例えば私も戦った近畿ブロックにおいて定数の20%以上の人間を候補者に出さないと、そもそも比例で受け付けないという“謎の理屈”がある。そのため、私たちは近畿では絶対に通らないんですけど、6人の候補者を用意しなければいけなかった。これだけで3600万円だ。私たちはなんとかお金をかき集めて、各ブロックで1億数千万ぐらいのお金を集めて比例6つのブロックに立ったのだ。青雲の志を持って新しい政治正義を立てて比例ブロックで戦おうと思ったグループがいても無理だ。何億円というお金を用意できるはずがない。つまり、現実的には新規参入は比例ブロックでは立候補できないというルールになっている。おかしいと思わないか」
https://news.yahoo.co.jp/articles/a9f316bea4a3bd47af0e6be7360e0d8ff78f228d
つまり国政政党と認められるまではとんでもないお金がかかるのです。
それに加えて、公職選挙法がきわめて複雑にできていて、にわか勉強ではとても対応できません。へたをすると選挙違反になり、当選しても無効となってしまいます。
さらに、選挙運動ができるのは公示日から投票日の前日までです(衆院選は12日間)。新人候補はこんな短期間ではとても自分のことをわかってもらえません。
一方、現職議員は「政治活動」と称して、何人もの秘書を地元選挙区の事務所に張りつけておき、陳情を受けたり、冠婚葬祭や各種会合に顔を出したりという「選挙運動」を年中しています。
現職議員が圧倒的に有利ですし、地盤を引き継いだ世襲候補もほかの新人候補より圧倒的に有利です。
そして、現職議員は「政治活動」に必要だということで企業献金、政党助成金、パーティ収入で多額のお金を手にしています。
現職議員が自分たちに有利な制度をつくるので、新党と新人議員がなかなか出てこられません。
それが日本の政治が沈滞している最大の原因です。
では、どうすればいいかというと、まず被選挙権を18歳まで引き下げ、立候補に必要な供託金も大幅に引き下げ、公職選挙法も改正して、個別訪問、演説会、ポスター張り、ビラ配りなど選挙運動を自由に行えるようにすることです。
そうすれば新党がいっぱい出てくるでしょう。
若い人の政党が出てくれば、若者の投票率も自然と上がります(今の政党はほとんどが年寄りの政党です)。
小党分立で政治が混乱すると思う人もいるでしょうが、そんなことはありません。くだらない政党は淘汰され、支持される政党が勢力を伸ばしていくからです。
町工場からソニーやホンダが生まれ、シリコンバレーなどからGAFAが生まれたみたいなことが期待できます。
さて、与党が過半数割れして、新たな連立政権か、政策ごとの連携かという議論になっていますが、とりあえずするべきは政治改革です。
1995年改正の政治資金規正法は、政党助成金を導入する一方で、企業団体献金は5年後に「見直しを行うものとする」としていましたが、なんの見直しもなく企業団体献金は今日まで継続されてきました。
しかし、野党はすべて企業団体献金禁止を公約にしているので――と書いたところで改めて調べると、国民民主党は禁止とは言っていませんでした。これは自民党への擦り寄りでしょうか。
国民民主党が禁止に踏み切れば、すぐにでも企業団体献金禁止は実現できます。
企業献金がなくなれば、今まで金まみれだった自民党議員も目覚めて、少しはまともになるでしょう。