村田基の逆転日記

親子関係から国際関係までを把握する統一理論がここに

2024年10月

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総選挙の結果は、与党215議席となり、過半数の233議席を割り込みました。
しかし、与党はもっと負けてもよかったはずです。

開票速報を見ていると、小選挙区で自民党候補が当選したところの多くは立憲民主党の候補がいないところでした。立民は候補者が少なすぎて、追い風を生かしきれなかった格好です。
国民民主党も比例区の候補者数が足りなくて、3議席が他党に配分されました。
両党とも国民の意識が読めていなかったわけです。

与党過半数割れという大きな変化が起きた選挙でしたが、選挙そのものは低調でした。投票率も53.84%で、3年前の衆議院選挙の投票率55.93%から下がっています。
要するに与党に対する気持ちは冷めたが、野党に対する熱い気持ちもなかったということです。

もし自民党総裁選で高市早苗氏が当選していたらどうなっていたでしょうか。
高市氏は靖国神社参拝など安倍氏の保守路線を継承するので、立民や社民や共産などと激しく対立し、選挙戦も盛り上がったかもしれません。
しかし、それでは55年体制に逆戻りで、なんの進歩もありません。
それに、高市氏を支持したような岩盤保守層というのは、声は大きいですが、国民的広がりがありません。だから自民党も高市氏を総裁に選ばなかったと思われます。

高市氏が総裁選で敗れて自民党に失望した保守層が保守党に流れるかとも思えましたが、保守党は3議席でした。
保守党はXのフォロワー数が自民党より多いということを誇っていましたが、国民の支持は自民党と比較にもなりません。

社民党の福島瑞穂党首は「頑固に平和、暮らしが一番」というスローガンを繰り返し叫んでいました(ニュース番組の映像で)。
平和を訴えるのはいいのですが、国際情勢がどんどん変化しているので、たとえば中国の軍拡をどう見るかとか、台湾有事にどう対処するかとか、訴え方が変わらなければなりません。「頑固に平和」という言葉は思考の硬直を示すだけです。社民党は沖縄の小選挙区で1議席を得ただけで、比例区では0議席だったのは当然です。


どの党も国民意識からずれていますが、もちろんいちばんずれているのは自民党です。
裏金問題と統一教会問題をうやむやにしたまま総選挙をやって、そこそこの結果を出せると思ったとすれば愚かです。
もっとも、自民党にはそれしかなかったということもいえます。
統一教会問題をつつくと、岸首相の時代から自民党は外国勢力に侵食されていたということが明るみに出て、自民党はますます支持を失います。
裏金問題も、派閥のトップが関与していないはずはないので、派閥のトップの責任を追及することになりますが、自民党の体質としてそれはできなかったわけです。

もし石破茂新総裁が裏金問題を解明して責任者を処分するということをしていれば、状況はまったく変わっていたでしょう。
しかし、石破首相はそうしませんでした。今まで党内野党の立場で気楽に発言していましたが、いざ責任ある立場になったら、実行する気概がなかったということでしょう。


ただ、そうした中で国民民主党は4倍、れいわ新選組は3倍と大きく議席を伸ばしました。
国民民主党は「手取りを増やす」ということを訴え、れいわは「消費税廃止」を訴え、どちらも若い世代の支持を集めました。
私などは「手取りを増やす」といっても、どうやって増やすかが問題だろうと思うのですが、若い世代に支持されたということは重要です。
新しい、小さい政党は小回りが利くので、国民のニーズに対応できます。
大政党はしがらみが多くて、変化できません。たとえば立憲民主党は電力労組などとの関係で脱原発を封印しています。

今回の選挙で比例区の得票数が3年前の総選挙と比べてどう増減したかを見ると、どの政党が支持されたかがよくわかります。
【増】
国民 259万票→617万票(358万票増)
れいわ221万票→380万票(159万票増)
立民 1149万票→1156万票(7万票増)

【減】
自民 1991万票→1458万票(533万票減)
維新 805万票→510万票(295万票減)
公明 711万票→596万票(115万票減)
共産 416万票→336万票(80万票減)
社民 101万票→93万票(8万票減)

【前回なし】
参政 →187万票
保守 →114万票
https://news.yahoo.co.jp/articles/1544d972f6cf1570fab4be2e17243f7ad1149d4e
立民は議席は増えましたが、得票はほとんど増えていません。

大きい政党よりも小さい政党、古い政党よりも新しい政党に勢いがあります(玉木雄一郎代表は55歳、山本太郎代表は49歳という若さもあります)。
単純に言って、古い政党は守旧派になり、新しい政党は改革派になります(維新も改革派として評価されて伸びてきました)。
ですから、日本を改革しようと思えば新しい政党をふやすことです。

ところが、日本は逆の方向に進んできました。
二大政党制がいいということで小選挙区制を取り入れましたが、小選挙区制だと小政党の存在が困難です。
併せて比例区も導入されましたが、これも新しい政党を排除する制度になっています。
今回比例区に候補を立てた日本保守党代表の百田尚樹氏はこのように語っています。
「私たちは今回、11ブロックのうち6ブロックの比例で戦った。国政政党は『うちは比例で通っても1人ぐらいかな』という時は1人出し、『2人ぐらいかな』と思ったら2人出して、1人当たり600万円かかる。ところが、政治団体は例えば私も戦った近畿ブロックにおいて定数の20%以上の人間を候補者に出さないと、そもそも比例で受け付けないという“謎の理屈”がある。そのため、私たちは近畿では絶対に通らないんですけど、6人の候補者を用意しなければいけなかった。これだけで3600万円だ。私たちはなんとかお金をかき集めて、各ブロックで1億数千万ぐらいのお金を集めて比例6つのブロックに立ったのだ。青雲の志を持って新しい政治正義を立てて比例ブロックで戦おうと思ったグループがいても無理だ。何億円というお金を用意できるはずがない。つまり、現実的には新規参入は比例ブロックでは立候補できないというルールになっている。おかしいと思わないか」
https://news.yahoo.co.jp/articles/a9f316bea4a3bd47af0e6be7360e0d8ff78f228d

つまり国政政党と認められるまではとんでもないお金がかかるのです。

それに加えて、公職選挙法がきわめて複雑にできていて、にわか勉強ではとても対応できません。へたをすると選挙違反になり、当選しても無効となってしまいます。
さらに、選挙運動ができるのは公示日から投票日の前日までです(衆院選は12日間)。新人候補はこんな短期間ではとても自分のことをわかってもらえません。
一方、現職議員は「政治活動」と称して、何人もの秘書を地元選挙区の事務所に張りつけておき、陳情を受けたり、冠婚葬祭や各種会合に顔を出したりという「選挙運動」を年中しています。
現職議員が圧倒的に有利ですし、地盤を引き継いだ世襲候補もほかの新人候補より圧倒的に有利です。
そして、現職議員は「政治活動」に必要だということで企業献金、政党助成金、パーティ収入で多額のお金を手にしています。


現職議員が自分たちに有利な制度をつくるので、新党と新人議員がなかなか出てこられません。
それが日本の政治が沈滞している最大の原因です。

では、どうすればいいかというと、まず被選挙権を18歳まで引き下げ、立候補に必要な供託金も大幅に引き下げ、公職選挙法も改正して、個別訪問、演説会、ポスター張り、ビラ配りなど選挙運動を自由に行えるようにすることです。
そうすれば新党がいっぱい出てくるでしょう。
若い人の政党が出てくれば、若者の投票率も自然と上がります(今の政党はほとんどが年寄りの政党です)。
小党分立で政治が混乱すると思う人もいるでしょうが、そんなことはありません。くだらない政党は淘汰され、支持される政党が勢力を伸ばしていくからです。
町工場からソニーやホンダが生まれ、シリコンバレーなどからGAFAが生まれたみたいなことが期待できます。


さて、与党が過半数割れして、新たな連立政権か、政策ごとの連携かという議論になっていますが、とりあえずするべきは政治改革です。
1995年改正の政治資金規正法は、政党助成金を導入する一方で、企業団体献金は5年後に「見直しを行うものとする」としていましたが、なんの見直しもなく企業団体献金は今日まで継続されてきました。
しかし、野党はすべて企業団体献金禁止を公約にしているので――と書いたところで改めて調べると、国民民主党は禁止とは言っていませんでした。これは自民党への擦り寄りでしょうか。
国民民主党が禁止に踏み切れば、すぐにでも企業団体献金禁止は実現できます。
企業献金がなくなれば、今まで金まみれだった自民党議員も目覚めて、少しはまともになるでしょう。

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アメリカ大統領選でトランプ氏勝利の可能性が高まっています。
世論調査ではハリス氏が数ポイントリードしていますが、大統領選の賭けサイトではトランプ氏の勝率が60%に達し、株式市場でも“トランプ銘柄”の上昇が目立っています。
どうしてトランプ氏は人気なのでしょうか。

トランプ氏は不法移民について「彼らは第三世界の刑務所や精神科病院から来た」「米国に悪い遺伝子が入っている」「米国の血を汚している」などと言っています。
そして、こうした犯罪者の侵略に責任があるのはバイデン大統領とハリス副大統領だとし、「ジョー・バイデンは精神的に障害を負った。カマラは生まれつきそうだった。考えてみれば、わが国にこんなことが起こるのを許すのは精神障害者だけだ」と語りました。

大統領選の投票日の混乱の可能性について問われ、インタビュアーが「外国の扇動者」の例を持ち出すと、トランプ氏は「より大きな問題は国内の人だと思う。米国には非常に悪い人間がいるし、病んだ人々もいる。急進左翼の異常者だ」とし、「必要なら州兵によって、あるいはもし本当に必要なら軍隊によって、ごく簡単に対処できると思う」と述べました。
投票日にトランプ氏は軍隊を動かすことはできないので、なにか勘違いをしていますが、もし権限があるなら、みずから映画「シビル・ウォー」のような内戦を起こすかもしれません。
また、ハマスによるイスラエル襲撃から1年たった日に「再選されたらユダヤ人嫌いを排除する」とも述べました。


トランプ氏は銃撃事件で耳を負傷したときから元気がなくなり、得意の攻撃的な弁舌も威力がなくなりました。
しかし、このところ元気が戻ってきて、攻撃的な言葉を連発しています。
それがどうやらアメリカ国民に受けているようです。
暴言を連発するほど支持率が上がるというのは、どういう理屈でしょうか。

どこの国であれ、人々は強いリーダーを求めます。
トランプ氏は体が大きく、タフで、その上強い言葉を発するので、それが強いリーダーのイメージになっています。
トランプ氏の「遺伝子」「血を汚している」「精神障害者」などの発言は差別的だとして批判されましたし、「不法移民がペットを食べている」という発言は事実でないと批判されましたが、トランプ氏は撤回も謝罪もしません。それがまた“強さ”と認識されているのでしょう。

トランプ氏の姪であるメアリー・L・トランプ氏が書いた暴露本によると、トランプ氏の父親は『権力を持つ者だけが、物事の善悪を決める。うそをつくことは悪ではなく「生き方」の一つ。謝罪や心の弱さを見せることは負け犬のすることだ』ということを子どもたちに教えたそうです。
トランプ氏はその教育方針を実践していることになります。

なお、パワハラで内部告発されて失職した兵庫県の斎藤元彦前知事は、世の中から総バッシングされても頑として自分の非を認めず、そうするうちにだんだんと斉藤前知事の支持者が増えてくるという現象が見られました。トランプ流はなかなか有効なようです。


暴言を連発するトランプ氏ですが、決してでたらめを言っているわけではなく、一貫性があります。
これらの暴言はすべて「悪いやつをやっつけてアメリカをよくする」ということを言っています。
「悪いやつ」が不法移民や精神障害者や急進左翼やユダヤ人嫌いであるわけです。

「悪いやつをやっつけて世の中をよくする」というのは、正義のヒーローが活躍するハリウッド映画の論理です。
こうした物語は一般に「勧善懲悪」といわれます。「水戸黄門」などは勧善懲悪の典型です。
しかし、ハリウッド映画には勧善懲悪という言葉は合いません。というのは「勧善」の部分がなくて「懲悪」ばかりだからです。
正義のヒーローが悪いやつを派手にやっつけるシーンを中心につくられています。

日本でもどこの国でも、勧善懲悪や正義の物語は一段低く見られて、それほどつくられません。
ところが、アメリカではきわめて多くつくられています。
アメリカ人は正義のヒーローが悪人をやっつける物語がとくに好きなようです。
ですから、悪いやつをやっつけると言うトランプ氏が正義のヒーローと重なって、アメリカ国民に人気なのでしょう。


正義の力で悪いやつをやっつけても世の中はよくなりません。
なぜなら善、悪、正義には定義がないので、「悪いやつ」というのは権力者が恣意的に決めるからです。
そうすると権力が暴走し、悪くない者が「悪いやつ」とされて、世の中が混乱するだけです。
そうならないように、誰が「悪いやつ」かは法律で厳密に決めるというやり方が採用されています。それが「法の支配」です。
ところが、アメリカではしばしば「法の支配」よりも「正義の支配」が優先されます(「正義の支配」は「力の支配」とイコールです)。
そのためトランプ氏の「悪いやつをやっつけてアメリカをよくする」という主張がアメリカ国民に支持されるのでしょう。


アメリカでは犯罪に徹底的にきびしく対処してきました。
犯罪者はどんどん刑務所に入れるというやり方です。
しかし、再犯率が高いので、「スリーストライク法」というのがつくられました。これは、1年以上の刑を2度受けた者は、3度目はどんな微罪でも終身刑になるという法律です。
その結果、2015年の数字ですが、アメリカの人口は世界の5%なのに囚人の数は世界全体の25%を占める約220万人にのぼり、アメリカの成人の100人に1人が刑務所の中にいるということになりました(今は少し減少しています)。
つまり「悪いやつをやっつける」という正義の論理によるアメリカの犯罪対策は失敗だったのです。

ところが、多くのアメリカ人は自分たちの失敗を認めたくないようです。
そのため「不法移民が犯罪を持ち込んでいる」というトランプ氏らの主張に食いついています(統計的には不法移民とアメリカ生まれの人の犯罪率に差はないとされます)。


ともかく、「悪いやつをやっつけてアメリカをよくする」というトランプ氏の主張は根本的に間違っているので、トランプ氏が当選してからの混乱が懸念されます。
とりわけ「急進左翼に軍隊を使って対処する」とか「ユダヤ人嫌いを排除する」と言っているので、トランプ政権の政策に反対する大規模なデモが起こったときに、警察や軍と衝突するといったことが懸念されます。

一方、トランプ氏が世界大戦の引き金を引くといったことはないかもしれません。
ハマスによるイスラエル襲撃の1周年の日にトランプ氏は「(国内の)ユダヤ人嫌いを排除する」と言いましたが、「ハマスを排除する」とか「ヒズボラを排除する」とは言いませんでした。

一方、バイデン大統領は、イスラエル軍がヒズボラの最高指導者ナスララ師を殺害したと発表したとき、「正義の措置だ」という声明を発表しましたし、やはりイスラエル軍がハマスの指導者シンワル氏を殺害したとき、「テロリストが正義から逃れることはできない」という声明を発表しました。
また、バイデン大統領はロシアのウクライナ侵略を「悪」と思っているので妥協しません。

トランプ氏とバイデン大統領は対照的です。
バイデン大統領はネタニヤフ首相を苦々しく思っていますが、ハマスやヒズボラをやっつけることは賞賛します。
トランプ氏はネタニヤフ首相と仲良しでイスラエルを支持していますが、ハマスやヒズボラをやつつけることにはあまり興味がないようです。

アメリカはロシア、中国、イスラム圏と争って覇権を確立するという世界戦略を持っています。
こうした考え方を代表するのがネオコンですが、ネオコンでなくても、アメリカ全体にこうした半ば無意識の世界制覇の野望が存在しています。
バイデン大統領はその世界戦略の中で動いていますし、ハリス氏も同じでしょう。
ところが、トランプ氏にはその野望がまったくありませんし、世界戦略も理解していません。
トランプ氏の関心はもっぱらアメリカ国内の対立に向けられています。
ですから、トランプ氏はウクライナを放棄するのも平気です。
日本や韓国に米軍を駐留させている意味がわからず、日本や韓国を守るためだと思っているので、日本や韓国に駐留の対価を要求します。
中国が台湾に侵攻したときに軍事力行使の可能性を問われると、「その必要はないだろう。中国に150から200%の関税を課す」と答えました。アメリカの歴代政権が軍事介入の可能性をほのめかして中国を牽制してきたのとはまったく違います。
トランプ氏はプーチン大統領とも金正恩委員長とも仲良しですし、習近平主席については「習近平は私のことを尊敬している」と語っています。
トランプ氏が大統領になれば、大きな戦争は起こりそうにありません。
ここはトランプ氏を評価できるところです。


アメリカ国民は「正義」が大好きです。
バイデン・ハリス氏らの「正義」は「世界の悪いやつをやっつける」というもので、世界を分断します。
トランプ氏の「正義」は「国内の悪いやつをやっつける」というもので、国内を分断します。
まさに「究極の選択」ですが、アメリカ国民は「世界の悪いやつをやっつける」ことに次第に興味を失って、トランプ流を支持しているようです。

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「シビル・ウォー アメリカ最後の日」(アレックス・ガーランド監督)を観ました。

アメリカで大ヒットし、日本でも公開第一週の観客動員は一位でした。
アメリカの分断がどんどん深刻化しているので、アメリカの内戦を描いた映画がリアルに感じられるのがヒットの理由でしょう。

近未来のアメリカ。憲法を改正して3期目に就いている大統領が独裁化し、それに反発した多くの州が分離独立を表明して、内戦状態になっています。テキサスとカリフォルニアが連合した「西部勢力」とフロリダを中心とした「フロリダ連合」が政府軍を撃破してワシントンD.C.に迫っているという状況です。
その中で4人のジャーナリストが大統領とのインタビューをしようとして、ニューヨークからワシントンD.C.へ「PRESS」と書かれた車に乗って向かいます。危険地域を避けて1400キロの旅です。

4人というのは2人の男性記者と2人の女性カメラマンで、駆け出しの若い女性カメラマンがベテラン女性カメラマンの指導を受けながら苛酷な体験をして成長していくという物語になっています。
しかし、こうした人間的な物語はあまり成功しているとはいえません。はっきりいって4人のキャラクターもとくに印象に残りません。
結局のところ「内戦下のアメリカ」を描くことで人気を博した映画だといえます。

アメリカで内戦が起こるとすれば、リベラル対保守の戦いではないかと想像されますが、そういう思想的なことはいっさい出てきません。
唯一、「お前はどこの出身だ」と聞いて、「香港」と答えた人間を即座に射殺するという場面があるぐらいです。大統領がどういう思想の持ち主かもわかりません。
ただ、大統領が独裁化して3期目をやっているということで、トランプ氏のような人間を当選させるとこんなことになるぞという反トランプの主張が読み取れるかもしれません(しかし、トランプ派の人は連邦政府が弱いから内戦になるのだという教訓を読み取るかもしれません)。


一行は車で旅するうちにいろいろな場面に出会います。
ガソリンスタンドに寄ると、建物の裏で略奪者らしい男を残酷にリンチしているのを目撃します。
頭に袋をかぶせ、後ろ手に縛った男を並べて処刑する場面にも出くわします。
スタジアムが難民キャンプになっています。
スナイパー同士が向かい合っているところに巻き込まれますが、そのスナイパーは敵が何者なのか知りません。
そうかと思うと、内戦などないかのように、みんなが平穏な生活をしている町があり、「トワイライトゾーンみたい」という言葉がもれます。
ロードムービーといわれますが、アミューズメントパークの冒険もののアトラクションみたいです。

銃声や爆発音に迫力と臨場感があります。監督がこだわったところのようです。
映画の終盤には派手な戦闘シーンもあります。


アメリカはほとんどの戦争を国外でしていて、第一次世界大戦以降、アメリカの国土が戦場になったのは、真珠湾攻撃と9.11テロぐらいしかありません。
ですから、自国が戦場になるというこの映画の設定は、アメリカ人にとってはショックでしょう。

自国が戦場になった経験のないアメリカ国民は、戦争のほんとうの悲惨さを知りません。
そのため、アメリカの戦争映画は敵をバタバタと痛快に倒していく娯楽映画がほとんどです。
スピルバーグ監督の「プライベート・ライアン」は戦争の悲惨さを描いているといわれますが、描いているのはあくまで「戦闘シーン」の悲惨さです。住んでいる町が焼かれたり、食料不足で飢えたり、敵に占領されて支配されたりする悲惨さは描かれません。
その点、ロシア(ソ連)は第二次大戦のときにドイツに侵略されてきわめて悲惨な目にあいましたから、ロシアの戦争映画は、兵士の英雄的な戦いを描くものでも、必ず悲惨さも描かれているので、観終わったあとに重苦しいものが残ります。
「シビル・ウォー」はそういう意味ではこれまでのアメリカの戦争映画とは一線を画しています。

もっとも、アメリカを戦場にした映画は、1984年制作の「若き勇者たち」(ジョン・ミリアス監督)というのがありました。共産圏と全面戦争になり、共産軍がアメリカに攻め込んできて、若者たちがゲリラ戦で対抗するという物語です。単純な反共映画になりそうでしたが、アメリカ国土が戦場になるという設定のために、シリアスな印象の映画になっています(リメイク版の「レッド・ドーン」では北朝鮮軍が攻め込んでくるというおかしな設定になっていました)。


正義と悪の戦いであれば、悪いやつらをやっつけてスカッとするということがありますが、この映画は正義や善悪は出てこないので、ただの残酷な殺し合いとして描かれます。
アメリカ人同士が殺し合うわけで、アメリカ人の観客にとってはいやな気分でしょう。

この映画には平和主義や人道主義も出てきません。
ジャーナリストたちも真実を伝えようというジャーナリスト魂を持っているのではないようです。
誰も大統領にインタビューしていないので、自分たちがインタビューして、一発当ててやろうという山っ気から行動しているように見えます。

政治思想や善悪や正義を全部消し去ると、そこに残ったものは戦争であり殺し合いです。
そういう意味では戦争の愚かさを描いた映画ともいえます。
しかし、反戦映画ともいえません。

ガーランド監督はイギリス人で、アメリカをある程度客観的に見る目を持っていますが、考えてみればイギリスも自国が戦場になったのはロンドン空襲ぐらいです。ロシア人のようには戦争の悲惨さを知らないかもしれません。

ガーランド監督が描きそこねたと私が思うのは、戦争犠牲者の存在です。
難民キャンプで女性と子どもが出てきますが、それはわずかのシーンです。
この映画に出てくるのはほとんどマッチョな男たちです。戦争をするのはマッチョな男ですから当然です。
一方に、女、子ども、老人という戦争犠牲者もいるはずです。
戦争犠牲者を描いてこそ戦争の全体を描いたことになります。
そうすれば、反戦などを訴えなくてもおのずと戦争の悲惨さが伝わるはずです。
戦争犠牲者を排除したところが、この映画のなんとも残念なところです。

また、分断を解消するのは「寛容」や「友愛」といった概念であるでしょう。
しかし、この映画にそうしたものはまったくなく、「力による解決」があるだけです(いかにもアメリカ的です)。

エンドロールが流れる背景は、死体を取り囲んで笑顔を浮かべる兵士たちの写真になっていて、皮肉がきいています。

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石破茂政権は最悪のスタートとなりました。
石破首相は総裁選のときは、予算委員会を開催してから信を問いたいと言っていたのに、総裁に選ばれるとすぐに衆院の解散を表明し、予算委員会を開かないで10月27日に投開票となる日程を発表しました。
裏金議員についても「厳正に判断する」と言っていたのに、「原則公認する」という情報が流れ、国民の反発が強いと見ると「一部非公認」となり、これもぶれた印象になりました。
所信表明演説にも、石破カラーがほとんど盛り込まれませんでした。

トランプ氏のように嘘を絶対撤回しない人も困ったものですが、前言を簡単にひるがえす人はもっと困ります。これからなにを言っても信用できないからです。

予算委員会を開催しないのは、党執行部の意向に押し切られたからだと言われます。
石破首相は党執行部に逆らえない事情があるのでしょうか。
ちなみに党執行部はこういうメンバーです。

総裁 石破茂 67歳
最高顧問 麻生太郎 84歳
副総裁 菅義偉 75歳
幹事長 森山裕 79歳
総務会長 鈴木俊一 71歳
政調会長 小野寺五典 64歳
選対委員長 小泉進次郎 43歳
組織運動本部長 小渕優子 50歳
広報本部長 平井卓也 66歳
国対委員長 坂本哲志 73歳

主要なポストはほとんど石破首相より年上です。
自民党は当選回数で序列が決まる上下関係にきびしい組織です。そのため必然的に長老支配になります。
自民党は女性が少ないというジェンダーギャップが指摘されますが、長老支配の問題も忘れてはいけません。日本がデジタル後進国になったのも自民党が年寄りの政党だからではないでしょうか。

とはいえ、この人事をしたのは石破首相自身です。石破首相は党内基盤が弱いとされるので、実力者に頼ろうとしたのでしょう。その時点で主導権は奪われています。


それにしても、石破首相が予算委員会を開くと言っていたのに、党執行部はどうして開かないという判断をしたのでしょうか。
総裁選はそこそこ盛り上がり、国民に人気のあった石破氏が選ばれたのですから、国会論戦を通して“石破自民”を国民にアピールしてから解散総選挙をやるという判断になってもいいはずです。

おそくら自民党としては、小泉進次郎氏を総裁に選んで、フレッシュな、いいイメージのあるときに解散して、選挙で勝利するというシナリオを描いていたのでしょう。
ところが、小泉氏が総裁選をやる中で自滅して、そのシナリオが崩れました。
そうすると、自民党に勝利の目はありません。小泉氏でなければ石破氏でも高市早苗氏でも同じことです。
将棋の棋士が形勢不利な中で唯一逆転できる手を狙っていたのに、その手の可能性がなくなって戦意を喪失したみたいなもので、今の自民党は投げやりな気分におおわれています。

石破首相は敗戦処理投手みたいなものです。
自民党内に石破政権を盛り上げようという空気はありません。
石破首相に期待する気持ちもないので、ボロが出る前に解散というスケジュールになりました。

石破首相もどうやらその空気に染まっているようです。
普通は新内閣や内閣改造のときには“目玉”になる閣僚が一人か二人はいるものですが、今回の新内閣には一人もいません(三原じゅん子少子化担当大臣はちょっと目を引きますが“目玉”ではありません)。
副大臣と政務官の人事も、8人が新たに任命されましたが、ほとんどは前のままです。
所信表明演説も持論を封印して、まったく特徴のないものになりました。

所信表明演説については、「野党のヤジがうるさくて演説が聞こえない。マナーの悪い野党はけしからん」という投稿がやたらXで目につきました。
しかし、演説のあった日の報道ステーションでは、政治部の記者が野党のヤジにはまったく触れずに、「いちばん気になったのは与党席が静かだったことだ。演説を盛り上げるための拍手や声援がほとんどなかった」と語りました。
いったいどちらが正しいのか気になったので、官邸ホームページで演説の動画を見てみました。

第二百十四回国会における石破内閣総理大臣所信表明演説

確かにヤジで演説が聞き取りにくいところがあります。しかし、それは最初の3、4分だけです。そのあとはほとんどヤジは飛ばなくなります(「野党のヤジがうるさい」という投稿は、久しぶりにネットサポーターが動員されたのでしょう)。
しかし、ヤジがなくても演説はうまく聞き取れません。活舌が悪いのかと思いましたが、それよりも言葉に力がないせいのようです。それに加えて、演説の内容がどうでもいいことなので、頭に入ってこないということもあります。
ただ、最後の1、2分は自分の言いたいことであったのか、言葉に力がありました。
逆に最後の1、2分があったために、それまでの演説は心のこもらないただの朗読だったのだということがわかりました。

この動画を見たおかげで石破首相にやる気がないし、自民党議員にもやる気がないことがわかりました。
「やる気」というと漠然としていますが、要するに政権を盛り上げて、国民に訴えて、野党と戦っていこうという熱意がないということです。

たとえば内閣の集合写真ですが、服装がだらしないし、姿勢が悪いということで、ネットで「だらし内閣」などと揶揄されています。
確かに安倍内閣の集合写真と比べると違いがわかります。

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服装や姿勢をきちんとさせるのは、本人よりもカメラマンや周りのスタッフの役割かもしれませんが、だとすると周りのスタッフもやる気がないことになります。


そもそも自民党が苦境に陥ったのは、裏金問題と統一教会問題にまともな対応ができなかったからです。
なぜ対応できなかったかというと、自民党の歴史と体質に深く関わる問題だからです。
長老支配の自民党には過去の歴史を否定することもできませんし、体質を変えることもできません。

人間は誰にも良心があります(良心は本能的なものです)。裏金と統一教会の問題をごまかしていることを自民党議員は誰しもやましく思っています。そのため、野党との戦いにまったく闘志がわいてこないのです。


自民党総裁選のポスターは「おじさんの詰め合わせ」と揶揄されましたが、ポスターには歴代自民党総裁全員の写真が載っていました。
なぜこの時期に歴代自民党総裁全員の写真を載せたかというと、無意識に“自民党の終わり”を予感していたからでしょう。
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それから、国民の最大関心事は経済問題ですが、自民党は長年政権を担当して、ついに「失われた30年」から脱出することができず、総裁選でも経済再生の道を示すことはできませんでした。
この点でも自民党は役割を終えたといえます。


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石破茂新政権はいくつもの火種を抱えて不安なスタートとなりました。
中でも気になるのが安全保障政策です。
安全保障は石破氏の得意分野ですが、人はしばしば得意分野で転ぶものです。

石破氏は総裁選に立候補するに当たって9月10日に政策発表会見を行い、アジア版NATOの創設を提案すると述べました。
私はこれを聞いたとき、単なる思いつきかなと思いました。アメリカがその気にならなければアジア版NATOはできるわけがないからです。
それから石破氏は、アメリカ国内に自衛隊の訓練基地を設置するとも述べました。
この案はそれなりに理解できました。
今の安保条約はアメリカが一方的に日本の防衛義務を負うものだという誤解があります(トランプ氏も誤解する一人です)。
実際はアメリカが日本の防衛義務を負い、日本は米軍基地の受け入れ義務を負うという双務的なものです。日本がアメリカ国内に基地を設置したいと要求することで、誤解を解くことができるでしょう。

これらのことは石破氏の思いつきではありませんでした。石破氏はその内容の論文をアメリカのシンクタンク「ハドソン研究所」に寄稿していたのです。
それがウェブ上に公開されました。

「Shigeru Ishiba on Japan’s New Security Era: The Future of Japan’s Foreign Policy」
(英文と日本文と両方載っています)

石破氏は『石破政権では 戦後政治の総決算として米英同盟なみの「対等な国」として日米同盟を強化し、地域の安全保障に貢献することを目指す』と書きます。これが石破氏の基本的な考えでしょう。
ただし、日本とアメリカが「対等な国」になるという意味ではなく、同盟関係を対等ななものにするということのようです。

その観点からすると、現在の安保条約は対等なものではありません。アメリカが日本の防衛義務を負い、日本がアメリカへの基地提供の義務を負うという関係は、「義務」という言葉こそ同じですが、「義務」の内容がぜんぜん違うというのが石破氏の考えです。
かといって、日本が軍事大国アメリカの防衛義務を負うというのも妙なものです。
そこでアジア版NATOという構想が出てきたのでしょう。
日本が韓国や台湾やフィリピンの防衛義務を負い、ついでにアメリカの防衛義務も負うということにすれば、不自然ではありません。

それから石破氏は自衛隊をグアムに駐留させるという案を提示します。そして、安保条約と地位協定の改定を行うというのです。
日米が相互に駐留すれば、地位協定も必然的に対等なものになるでしょう。

石破氏は総裁選の討論会が沖縄で行われたとき、9人の候補の中で唯一、地位協定の見直しに言及しました。それなりの戦略があっての発言だったわけです。


では、このアジア版NATO構想が実現するかというと、どう考えてもアメリカが乗ってこないでしょう。
ちなみに元米国防次官補代理でトランプ氏が当選したときには要職に就くかもしれないエルブリッジ・コルビー氏はXに投稿して、日米同盟をより対等にするには日本は防衛費を「3%程度に引き上げる必要がある」と述べました。
安易に「防衛費3%」を口にするとは、完全に日本を軽視しています。

日本国内の世論の支持があれば、アメリカも認めるかもしれません。
しかし、それもありえないでしょう。
安倍晋三氏や高市早苗氏を支持しているような保守派は、「地位協定の見直し」など口にしたことがありません。アメリカに従属するのが当たり前で、その一方で中国と韓国には強いことを言いたがるのが保守派です。

では、リベラルや左翼はどうかというと、これも支持しそうにありません。
というのは、石破氏は論文の中で、アジア版NATO創設のためには「国家安全保障基本法」の制定と憲法改正が必要であると述べているからです。

マスコミも対米従属路線ですから、石破構想を認めるわけがありません。
朝日新聞はかねてから地位協定の見直しを主張していますが、石破氏の論文についてはこのように書いています。

石破は新総裁に選出された27日付で、米シンクタンク・ハドソン研究所のホームページ上で外交政策論文を発表。「『非対称双務条約』を改める時は熟した」として安保条約・地位協定改定を提唱した。関係者によると、石破側はもともと総裁選中の掲載を考えていたというが、「次期首相」の見解として掲載されており、日本国内でのこれまでの「石破節」では済まされない。信頼醸成を図る前に、一方的に現在の日米関係の不満を表明したと米側に受け取られかねず、稚拙な政治手法とのそしりは免れない。
https://www.asahi.com/articles/DA3S16046491.html?iref=pc_ss_date_article
「稚拙な政治手法」を非難することで論文そのものを否定する印象の文章になっています。
朝日新聞でこれですから、ほかのマスコミは推して知るべしです。


鳩山由紀夫政権が辺野古移設の見直しをしようとしたときのことが思い出されます。
鳩山政権は東アジア共同体構想を持っていました。これはアジア版EUです。
対等な日米関係をつくるには日本一国の力ではむりなので、周辺国を巻き込もうということです。
石破氏のアジア版NATOもそれと同じことです。
鳩山政権の辺野古移設見直しはマスコミにも官僚にも足を引っ張られて、みごと玉砕し、これが鳩山政権の命取りになりました。
石破政権も同じ道をたどりかねません。

アメリカはもちろん国内の誰も賛成しないような案を出してくるとは、石破氏は政治音痴だといわざるをえませんが、ただ、日米同盟を対等なものにしたいという根本のところは評価できます。
もし石破氏が鳩山氏と同じ道をたどったら、もう二度と日米同盟を対等なものにしたいという有力政治家は出てこないでしょう。


石破氏はもともとタカ派政治家で九条改憲論者として知られていましたから、護憲派やハト派は石破氏を忌み嫌っているでしょう。
しかし、石破氏は保守派ではあっても、安倍氏や高市氏らとは根本的に違います。

慰安婦問題について、石破氏は東亜日報のインタビューで「納得を得るまで(日本は)謝罪するしかない」と述べたことがあります。
この発言が保守派から批判されると、石破氏は「謝罪」という言葉は使っていないと弁明しましたが、東亜日報に抗議はしませんでした。

南京大虐殺についても石破氏は「少なくとも捕虜の処理の仕方を間違えたことは事実であり、軍紀・軍律は乱れていた。民間人の犠牲についても客観的に検証する必要がある」と述べています。

安倍氏も高市氏も靖国神社参拝にこだわっていましたが、石破氏は2002年に防衛庁長官として初入閣して以降、靖国参拝はしていません。
なぜ靖国参拝をしないのかについて、石破氏は『正論』2008年9月号の対談で次のように語っています。

「あの戦争は、まともに考えれば勝てるはずのない戦争だった。決して後知恵で言っているのではありません。昭和16年7月には陸軍主計課が緻密な戦力分析を行い、8月にはそのデータを引き継いだ政府の総力戦研究所が日米開戦のシュミュレーションで日本必敗の結論を出して、総理はじめ政府中枢に報告している。(中略)勝てないとわかっている戦争を始めたことの責任は厳しく問われるべきです。(中略)さらに”生きて虜囚の辱めを受けることなかれ”と大勢の兵士に犠牲を強いた。神風特攻隊も戦艦大和の海上特攻も、何の成果も得られないと分かった上で、死を命じた行為が許されるとは思わない。陛下の度重なる御下問にも正確に答えず、国民に真実も知らせず、国を敗北に導いた行為が、なぜ”死ねば皆英霊”として不問に付されるのか私には理解できない」

石破氏は軍事オタクです。軍事オタクというのはある意味、現実主義者であり合理主義者です。
しかし、安倍氏や高市氏のような保守派は違います。天皇制、靖国神社、教育勅語、特攻隊を崇拝します。要するに神がかりです。ですから、日本会議や統一教会とも結びついています。

リベラル、左派、護憲派は石破構想を一概に否定するべきではなく、むしろ応援したほうがいいかもしれません。


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