
トランプ氏が米大統領に就任して1か月と少しがたちましたが、トランプ氏とイーロン・マスク氏は目まぐるしく政策を打ち出し、物議をかもす発言を連発しています。
トランプ氏とマスク氏にはいろいろと批判はありますが、活動量の多さが常人の域を超えていることは認めなければなりません。
ただ、気になる情報もあります。
マスク氏は麻酔薬でうつ病治療にも用いられるケタミンを医師に処方してもらって常用しています。
うつ病治療薬ということは気分をハイにするものでしょう。彼にうつ病らしいところはまったくなく、むしろ万年躁病みたいですが、ケタミンのせいかもしれません。
ともかく、トランプ政権は次々となにかやらかすので、こちらの頭が混乱してしまいます。
そこで、トランプ政権のやっていることを整理してみました。
トランプ氏は就任演説で「常識の革命」と言いました。
意味不明の言葉なので、ほとんど無視されていますが、トランプ大統領のやっていることの多くは「常識」という言葉でとらえられます。
ただ、一般の人にとっては「昔の常識」です。
「今の常識」を打ち壊して「昔の常識」をよみがえらせることがトランプ氏の「常識の革命」です。
トランプ氏は「ガザ地区から住民を全員移住させてガザ地区はアメリカが所有する」と発言し、世界中の顰蹙を買いました。
これはイスラエル建国のときにアラブ人を追放した「ナクバ」と同じだという声が上がりました。
しかし、トランプ氏としては「ナクバ」という意識はなく、インディアンとの戦いで勝利したあと、生き残ったインディアンを居留地に移住させて、その土地にアメリカ人が入植したのと同じことを提案しただけです。
つまりそれがアメリカにとっての「常識」というわけです。
トランプ氏は「パナマ運河を取り戻す」と発言し、その際に軍事力行使の可能性も否定しませんでした。
むちゃくちゃな発言のようですが、トランプ氏にとっては「常識」です。
パナマは1903年にコロンビアから独立しましたが、そのときの憲法ではパナマ運河地帯の主権はアメリカに認めるという規定がありました。しかし、ナショナリズムの高まりによりパナマ政府はカーター政権と条約を結び、1979年に運河地帯の主権を獲得しました。
ですから、アメリカが運河を所有するのは「古い常識」なのです。
なお、アメリカは1989年、パナマに軍事侵攻し(麻薬犯罪対策と米国人保護が名目)、ノリエガ大統領を逮捕し、アメリカに連行して裁判にかけました(有罪となり刑務所で服役)。
私はアメリカが小国といえども他国の国家元首を逮捕して自国の裁判にかけたことにびっくりしましたが、当時の国際社会ではほとんど問題にされませんでした。
中南米は「アメリカの裏庭」というのが当時の「常識」だったからです。
トランプ氏はグリーンランド購入も主張しています。
この話も今に始まったことではありません。
1867年にアメリカがロシアからアラスカを購入した当時の国務長官ウィリアム・H・スワードは、次にグリーンランド購入も画策しました。グリーンランドを購入すれば、アラスカとグリーンランドの中間にあるカナダもアメリカのものにならざるをえないだろうとも指摘しています。
トランプ氏の主張はすべて「昔の常識」なのです。
ですから、保守派の人の共感を呼びます。
トランプ氏は「昔の常識」を復活させるとともに「正義」も利用しています。
トランプ氏は不法移民を犯罪者呼ばわりし、麻薬に関してメキシコ、カナダ、中国を非難しています。
また、ハマス、ヒズボラ、イランなどを敵視しています。
正義のヒーローが活躍するハリウッド映画には必ず「悪役」が存在します。悪いやつをやっつける「正義の快感」を描くのがこれらの映画の「常識」です。
トランプ氏も手ごろな「悪役」を仕立てて、それを攻撃することでアメリカ国民に「正義の快感」を味わわせています。
トランプ氏とマスク氏は連邦政府職員を次々とクビにしています。
トランプ氏がかつて司会を務めていたテレビ番組「アプレンティス」でトランプ氏が発する決めぜりふは「お前はクビだ!」でした。
無能な者や怠け者に対して「お前はクビだ!」と言うのは快感です。
トランプ支持者は今その快感を味わっています。
しかし、映画には終わりがありますが、現実に終わりはありません。
悪いやつをやっつけて「正義の快感」を味わっても、そのあと事態がよくなるとは限りません。
政府職員の仕事は、単純なものもありますが、高度に専門的なものも多く、誰をクビにするかは簡単には決められません。
トランプ政権が目先の快感を追求していると、やがてしっぺ返しを食らうでしょう。
トランプ大統領の基本方針はもちろん「アメリカ・ファースト」です。
これはアメリカ人にとってはよいことであっても、世界にとっては不利益でしかありません。
今、世界はアメリカ・ファーストのアメリカにどう対処するか困惑しているところです。
アメリカ・ファーストに対してジャパン・ファーストで立ち向かうというのはだめです。利己主義と利己主義がぶつかると力のあるほうが勝つからです。
利己主義には「法の支配」を掲げて対抗するのが正しいやり方です。
日本一国ではだめですから、世界でトランプ包囲網をつくれるかどうかが今後の課題です。
ただ、トランプ氏は単純なアメリカ・ファーストではありません。
アメリカ・ファースト以上に「自分ファースト」だからです。
そのためにトランプ氏の外交はひじょうにわかりにくいものになっています。
トランプ氏はウクライナ戦争について、明らかにロシア寄りで停戦交渉をしようとしています。
アメリカはロシアに対して経済制裁をやり尽くして、もはやカードが残っていません。
そうすると停戦交渉をまとめるにはウクライナに譲歩させるしかありません。
トランプ氏が停戦交渉をまとめたいのは自分の手柄になるからです。
トランプ氏は他国にいろいろなことを要求し、関税をかけたりしていますが、中国にはまだきびしいことはしていません。
中国は手ごわいからです。
弱い国を相手にして早く成果を挙げようという考えです。
トランプ氏がほんとうにアメリカ・ファーストを考えるなら、アメリカが覇権国であり続けるように中国やロシアを抑え込まなければなりません。
それには同盟国との信頼関係を深め、途上国に援助して味方につけることです(ときにはCIAを使って反米政権を転覆します)。
ところがトランプ氏は同盟国にきびしい要求をつきつけ、主に途上国援助をしていたUSAIDの解体をいい、CIAの人員削減を進めています。
まるで覇権国でいることを諦めたみたいです。
NATO諸国もトランプ氏とプーチン氏の接近ぶりを見て、トランプ氏に距離を置き始めています。
トランプ氏は性格的に、他国に援助してアメリカの味方を増やすということができません。早急に成果を求めます。
そのため、本人は意図していないかもしれませんが、アメリカは覇権国の地位を失っていくでしょう。
トランプ氏はウクライナに対してレアアースの権益を要求していましたが、さらに「アメリカはウクライナに3500億ドル(約52兆円)支出したので、それに見合うものが、石油でもレアアースでもなんでもいいからほしい」と発言しました。
しかし、これまでにアメリカの議会が計上した支援予算は約1830億ドル(約27兆円)だということで、いつもながらトランプ氏の言うことはでたらめです。
それにしても、支援した分を取り返すというのはいかにもドライな、トランプ氏らしい発想です。
この調子では、もし日本周辺で戦争が起きて米兵が死亡したら、戦争の経費はもちろん死者一人あたりいくら払えといった要求を日本に突きつけてくるかもしれません。
日本はつねにアメリカとの信頼関係を重視してきましたが、トランプ氏との間に信頼関係を築こうとするのは八百屋で魚を求めるみたいなものです。
世界に法の支配を確立するにはどうすればいいかを考えるよい機会です。