村田基の逆転日記

親子関係から国際関係までを把握する統一理論がここに

2025年11月

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高市早苗首相の台湾有事発言を巡る問題がこじれています。

私は前回の「アメリカ抜きの防衛論議に意味はない」という記事で、高市首相はアメリカ依存を認めたくないので、日本が台湾有事に単独で介入すると受け取られる答弁をしてしまったと指摘しました。
これは中国にとっては軍事力による威嚇なので、中国もきびしく反応してきたわけです。

アメリカに依存しているのに依存を認めないのは、高市首相だけでなく日本人全体の傾向です。
日本はとくに軍事面ではアメリカに完全に依存していて、属国状態です。日本の意志でどこかの戦争に参加するということはありえません。そのことは日本国民もよく理解しています。
安保法制と「存立危機事態」という概念も、自衛隊が米軍と共同行動するためにつくられたものです。
台湾有事の場合、アメリカが介入して、アメリカが日本に支援を求めてきたとき初めて「存立危機事態」を認定して、自衛隊を出動させることになります(日本はアメリカの要請を断ることもできますが、自民党政権に断るという選択肢はなさそうです)。
しかし、高市首相も「台湾有事に日本がどうするかはアメリカ次第です」と答弁するのは独立国としてあまりにもカッコ悪いので、まるで日本が単独で判断し、単独で武力行使するような答弁をしました。

高市首相は「戦艦を使って、武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になりうるケースだ」と答弁しましたが、そのあとさらに「武力攻撃が発生したら、これは存立危機事態に当たる可能性が高い」とも述べています。
それに対して岡田克也議員は「最後のところがよくわからなかったんですが、武力攻撃が発生したら存立危機事態に当たる。どういう意味ですか。誰に発生するんですか」と聞いています(「誰に」という言葉は聞き取りにくい)。
ここは高市首相にとって「アメリカ」ということを言うチャンスでした。しかし、高市首相は法律の条文を読むだけでした。


(問題の個所は14分ごろから)

高市首相は日本が単独で台湾有事に武力介入すると受け取られる答弁をしたのです。
これは安保法制からしてありえないことですし、現実にもありえないことです。
そのため、国内では高市首相はそんなことは言っていない、アメリカが介入したという前提で言っているのだという声が多くあります。
しかし、そんな声があるのは日本だけです。世界はまったく違います。

ひろゆき氏も国内と海外の受け止めの違いを指摘しています。
 ひろゆき氏はXで、米国、イギリス、フランスの報道でも高市発言が「中国が武力で台湾を支配しようとした場合、日本は軍事的で対抗する可能性がある」「中国が台湾を攻撃したら自衛隊を展開する可能性がある」「台湾が海上封鎖されたら日本は軍隊を派遣」との趣旨で報道されていると記した。

 「同盟軍の米国が攻撃を受けたら集団的自衛権が発動という文脈はありません」と伝え、「米軍の被害無しに自衛隊を派遣するのが本意なのか?」「高市政権は怠慢なのか誤解を解く気がないのか?」「高市政権が動かないのは怠慢以外に理由があるの?」「何故、高市政権は同盟国の米国の誤解を解かないのか?馬車馬のように働くはずでは、、?」と疑問提起した。
https://news.yahoo.co.jp/articles/c16b4b9ff8a98da4dfbde4c636f142abbf9d4cae
 ひろゆき氏は「カタールのアルジャジーラ紙でも高市首相は『中国が台湾に対して軍艦の使用や軍事行動を伴う場合、間違いなく存立危機事態になる可能性がある』と言ったと報道」とカタールでの報道を取り上げ、「同盟軍の米国が攻撃を受けたら集団的自衛権が発動とは書かれず」と存立危機事態の大前提となる「密接な関係にある他国が武力攻撃を受ける」という部分が抜け落ちていることを指摘。「欧米・中東のメディアで誤解が広まってるのに高市政権はなぜ放置?」と疑問を呈した。
https://news.yahoo.co.jp/articles/a9be83c97924b2a95e17dcfacfec33b223c33e8f

ひろゆき氏は海外が誤解していると思っていますが、海外は高市首相の答弁をそのまま受け取っているだけです。ですから、外務省も訂正のしようがありません。訂正するべきは高市首相の答弁です。

高市首相は存立危機発言の3日後の衆院予算委員会で「政府の従来の見解に沿ったものであり、特に撤回・取り消しをするつもりはない」と述べたきり、フリーズしてしまいました。
「日本の行動はアメリカ次第です」と言うわけにはいかないからでしょう(そのために「実際に発生した事態の個別具体的な状況に即して政府が全ての情報を総合的に判断します」という紋切型の答弁が用意されているのですが)。


高市首相がフリーズしている間に中国は高市発言批判を強め、中国の国連大使は国連事務総長に書簡を送付し、「日本が中国に武力行使すると脅しをかけたのは初めてであり、中国の核心的利益を挑発するものだ」「中国側が繰り返し強い抗議をしたにもかかわらず、日本側は反省せず誤った発言の撤回を拒否している」などと主張しました。

さらに在日中国大使館はXに『「国際連合憲章」には「敵国条項」が設けられており、ドイツ・イタリア・日本などのファシズム/軍国主義国家が再び侵略政策に向けたいかなる行動を取った場合でも、中・仏・ソ・英・米など国連創設国は、安全保障理事会の許可を要することなく、直接軍事行動を取る権利を有すると規定している』と投稿しました。

中国の王毅外相は11月222日、訪問先のタジキスタンで「日本の軍国主義の復活を決して許さない」と述べ、日本を名指しで批判しました。
中国では高市首相と軍国主義を結びつけた風刺マンガがSNSだけでなくメディアにも出回っています。


高市首相と軍国主義を結びつけるのは中国のプロパガンダではありますが、半分ぐらいは当たっているのが日本にとってはつらいところです。
日本の保守派はこぞって靖国神社参拝を重視しています(高市首相は首相就任後の参拝はしない方針のようですが)。
靖国神社は軍国主義に利用されてきた神社であり、戦後は(戦死者でない)A級戦犯を合祀したことで軍国主義を正当化した神社になりました。そんな神社にこだわるのは軍国主義者と見なされてもしかたありません。
高市首相は教育勅語を信奉しているそうですが、教育勅語は天皇が国民に下されたもので、戦後の主権在民の理念に反します。
保守派は南京虐殺はなかったとか、従軍慰安婦は売春婦だったとか、日中戦争は日本の侵略ではなかったとか、真珠湾攻撃はやむをえなかったとか、東京裁判は不当だとか、占領軍による洗脳(WGIP)で自虐史観が植えつけられたとか、戦後憲法は押しつけだとか主張しますが、これらはすべて軍国日本を正当化し、戦後日本を否定するものです。

保守派のこうした実態が世界に知られたら、「高市首相は軍国主義復活を目指している」という中国のプロパガンダが効いてきます。


保守派は戦前回帰志向がある反面、親米というか従米の傾向も強めています。
防衛費はアメリカに言われるままに増額し、日米地位協定の見直しはせず、辺野古基地はつくり続けています。
戦前回帰と親米は決定的に矛盾します。
保守派はなんとかごまかしながらやってきましたが、安倍首相は靖国参拝をしたあとアメリカに「失望」を表明され、それから参拝しなくなりました。
また、慰安婦問題では安倍首相はアメリカにむりやり日韓合意で「おわびと反省」を言わされました。


高市首相はふたつの矛盾をかかえています。
ひとつは、軍事的には完全にアメリカの属国化しているのに、タカ派のプライドからそれを認めることができず、独立国のようにふるまおうとすることです。
もうひとつは、表面的には親米政策をとりながら、内心では軍国主義回帰の志向を持っていることです。
考えてみると、このふたつは似ています。政治学者の白井聡氏は、「永続敗戦」という言葉を使って、あの戦争に負けたという事実をちゃんと認めないのでずるずると対米従属が続いていくのだと説明しています。

安倍首相はアメリカ議会で演説したとき、原爆投下と真珠湾攻撃には言及しませんでした。
高市首相はトランプ大統領と仲良しのようにふるまいましたが、このふたつについて話し合うことはないでしょう。
歴史認識というとアジアの侵略と植民地支配ばかりが問題になりますが、日米戦争を正しく認識することも大きな課題です。

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戦艦ミズーリ

高市早苗首相は11月7日の衆院予算委員会で、台湾有事においてどのような事態が「存立危機事態」になるのかと質問され、「戦艦を使って、武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になりうるケースだ」と答えました。
「戦艦」という言葉が出てきたのに驚きました。「強力な軍事力」のたとえとしたのでしょうが、艦種は関係ありません。小さい艦艇でも多数あれば強力な軍事力です。

中国に戦艦はあったかなと調べてみると、中国に戦艦はないどころか、2006年以降、世界に戦艦といわれるもので現役のものは一隻もありません。戦艦は完全に時代遅れとなりました。
高市首相は戦争オンチかと思いましたが、もしかすると戦艦ではなく軍艦と言いたかったのかもしれません。つまりミサイル攻撃や空爆だけでなく、軍艦が上陸部隊を伴って攻めてくるような状況は「存立危機事態」だと言いたかったのでしょうか。
「存立危機事態」と認定すれば、日本が攻撃されていなくても武力行使が可能となります。
高市首相は、中国軍が台湾を攻めれば、自衛隊は中国軍を攻撃するかもしれないと言ったわけです。

これに対して中国の薛剣(せつけん)駐大阪総領事がXに「勝手に突っ込んできたその汚い首は一瞬の躊躇もなく斬ってやるしかない」と投稿しました。
この投稿が物議をかもし、保守派は薛剣総領事を国外追放にしろなどと騒いでいます。

このことはトランプ大統領の耳にも届くことになりました。
高市総理が「台湾有事は日本の存立危機事態になりうる」とした国会答弁について、中国の薛剣駐大阪総領事が「汚い首を斬ってやる」とSNSに投稿し、波紋が広がっています。
トランプ大統領は10日、FOXニュースのインタビューの中で、司会者から一連の経緯を紹介され、「中国は我々の友人と言えないのではないか」と問われたところ、「多くの同盟国だって友人とは言えない。中国以上に貿易で我々を利用してきた」と答え、中国への直接的な批判を避けました。
https://news.yahoo.co.jp/articles/86a393775c379e0868c1426af59d77aadc18c8ce?source=sns&dv=pc&mid=other&date=20251111&ctg=wor&bt=tw_up

高市首相はトランプ氏を日本に迎えたとき、いかにも良好な関係をつくったかのように見えましたが、なんの効果もなく、日本はトランプ氏に梯子を外されました。
「日本はわれわれを食いものにしてきた」というのがトランプ氏の持論で、それは少しもゆるぎませんでした。

それでも高市首相の接待ぶりは日本では評価されていて、高市首相がトランプ氏から肩を抱き寄せられても、多くの日本人は無礼だとも屈辱だとも思わず、むしろ喜んでいます(高市首相の夫である山本拓氏はどう思ったでしょうか)。


アルコール依存症の人は、自分はアルコール依存症ではないと思っていることが多く、そのため「否認の病」ともいわれます。
日本はアメリカに依存しているのに、多くの日本人は依存していないと思っていて、「否認の病」状態です。
この「認知のゆがみ」がさまざまな問題を生みます。


高市首相の「存立危機事態」の答弁には、「アメリカ」という言葉が出てきません(質問者の岡田克也議員もアメリカ抜きで議論しています)。
中国と台湾が戦争状態になったとき、日本が単独で介入して、自衛隊が中国軍を攻撃するということはまったく考えられません。
アメリカが参戦して、日本にも強く参戦を要請してきたときにどうするかということが問題です。

ベトナム戦争のとき、アメリカの同盟国である韓国とオーストラリアはアメリカの要請に応えて参戦しましたが、それは両国にとって黒歴史となりました。
日本は憲法と国民感情を理由にして参戦しませんでした。
その後もアメリカは湾岸戦争、アフガン戦争、イラク戦争とつねに日本の参戦を求めてきましたが、日本はなんとかして断り、中途半端な形の参加にとどめてきました。
アフガンにはNATOの多くの国も軍を派遣しましたが、兵士は傷つき、現地の人も傷ついて、やはり黒歴史になりました。

なお、独ソ戦のときはルーマニア、ハンガリー、フィンランド、イタリアもドイツとともに戦いました。「わが軍の兵士が血を流して戦っているのに、お前たちはなにもしないのか」と言われると、断りにくいのでしょう。“同盟国はつらいよ”というところです。

日本も、強まるアメリカの圧力に抗しきれず、安倍政権は解釈改憲で新安保法制を成立させ、日本が攻撃されなくても参戦できる理屈をつくりました。それが「存立危機事態」です。
安倍首相はアメリカの圧力に屈したのに、日本がみずから望んでやったことだとしました。
この「認知のゆがみ」は高市首相にも受け継がれて、今回もまるで日本が単独で軍事介入するようなことを言いました。

中国にしてみれば、日本は軍事的にはアメリカの陰に隠れている国と思っていたら、突然前面に出てきて武力行使の可能性を言ったので、驚いたでしょう。
それも、日本が攻撃されたわけでもないのに、しかもアメリカと関係なく中国を攻撃するというのですから、あまりにも中国をバカにした態度だということになります。


そもそも「存立危機事態」というのは、「日本と密接な関係にある他国への武力攻撃により、日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由、幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること」というのを前提とします。
台湾への武力攻撃により日本の存立が脅かされるかというと、そんなことはありません。日本は傍観していればいいのです。
ポーランドはウクライナとロシアと国境を接している国ですが、ウクライナ戦争に参戦したりはしません。それと同じです。

では、どんなときに「存立危機事態」になるかというと、アメリカが参戦して、アメリカ軍が攻撃されたときです。「アメリカの危機は日本の危機」というわけです。
私はアメリカ軍は世界最強なので、日本はなにもしなくていいと思いますが、アメリカの圧力にさらされる日本政府としてはそうはいかないのでしょう。


立憲民主党の辻元清美参院議員はXで《安保法制の議論は「台湾が米国に要請をし、米国(我が国と密接な関係にある他国)の軍隊が攻撃されるか、在日米軍基地が攻撃された場合」》に限定されていたが、《高市答弁の「台湾有事は日本有事」は「台湾から日本が援助要請を受けて集団的自衛権を行使」するパターンのようで当てはまらない》と指摘しました。

辻元議員の指摘するように、アメリカ抜きで日本が台湾有事に介入することは法的にもありえませんし、現実的にもありえません。
高市首相は今回の発言について「特に撤回、取り消しをするものではない」と述べましたが、へんな意地を張るとこじれます。
「アメリカの参戦かアメリカの要請があったということを前提とした議論でした」とでも言って訂正するしかありません。
今の高市首相の発言のままでは、自衛隊員は台湾を守るために死ぬことになります。

アメリカは中国をアメリカの覇権に挑戦する可能性のある「唯一の競争相手」と認定しているので、アメリカは中国と戦う理由があります。
しかし、日本は中国と戦う理由はありませんし、中国も日本と戦う理由がありません。

自衛隊も中国との戦争に備えていません。
戦闘機は地上で破壊されないように頑丈なコンクリートの掩体壕に入れておかなければなりませんが、自衛隊の飛行場に実質的に掩体壕があるのは北海道と青森だけです。
つまり自衛隊はソ連との戦争には備えていましたが、中国との戦争にはいまだに備えていないのです。
自衛隊はもっぱら空母をつくったりスタンド・オフ・ミサイルを配備したりして、防衛力より攻撃力をつけています。アメリカ軍と共同行動するためです。


今回の高市首相の不用意な発言は、首相になったのに頭の切り替えができていなかったからです。
「『内向きナショナリズム』の時代」という記事で書いたのですが、自国ファーストなどのナショナリズムの主張は、国内で言っている分には問題ありませんが、対外的に主張すると他国と衝突します。ですから、首相になれば、対外的には国際協調や互恵主義を打ち出すしかありません。
ところが、高市首相はいつもの調子で、勇ましいことを言えば受けると思って、「戦艦」などという言葉を持ち出してしまったのです。
「世界の真ん中で咲き誇る日本外交」という言葉も捨てなければいけません。
「分相応の日本外交」を目指すべきです。


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11月4日に行われたニューヨーク市長選でゾーラン・マムダニ氏が当選しました。
マムダニ氏は34歳、インド系、イスラム教徒で、民主社会主義者です。
マムダニ氏は家賃の値上げ凍結、保育や市営バスの無料化、富裕層への増税を公約に掲げていました。かなり社会主義的な政策です。
トランプ大統領の支持率は下がり続けていますが、民主党の支持率は上がりません。そうした中で現れたマムダニ氏は民主党の希望の星になれるでしょうか。

ラストベルトの白人労働者の不満をトランプ大統領はすくいあげたが、民主党はポリコレやDEIばかり言っていて、中間層の不満に向き合わなかったということがいわれました。民主党は労働者の党ではなくインテリと富裕層の党になったともいわれました。

では、トランプ大統領が労働者の不満に応えたかというと、そんなことはありません。
トランプ氏の政策によって労働者の給料が上がったということはなく、逆に物価高によって生活は苦しくなっています。
トランプ大統領のやったのは富裕層への減税です。格差は拡大しました。

トマ・ピケティが『21世紀の資本』で明らかにしたように、資本主義社会では資産家の収入の増加率は労働者の収入の増加率を上回るので、貧富の差はどこまでも拡大します。
とりわけアメリカの格差社会の進展はすさまじいものがあります。
上位1%の富裕層の所得シェアは、1980年では10.0%でしたが、2008年には21%にまで増加しました。
上位1%の富裕層がアメリカ国内40%以上の金融資産を持っています。 下位50%のアメリカ人が持つ総資産が全体に占める割合はたったの2.5%です。

つい先日も、テスラの株主総会はイーロン・マスク氏への1兆ドル(約150兆円)の報酬を承認したというニュースがありました。
マスク氏は確かに優秀な経営者ですが、能力と報酬が見合っていません。その報酬のほとんどは従業員と取引先に分け与えられるべきものです。

労働者の不満を解消するには、「格差の解消」や「所得の再分配」が必要です。
しかし、アメリカでは、とくに保守的な人々にとっては、そういう主張は社会主義的で受け入れられないのでしょう。

ただし、今年8月に行われたギャラップ社の世論調査によると、資本主義を好意的に捉えているとの回答は全体の54%にとどまり、2021年の60%から低下し、調査が始まった10年以降で最も低い数字となりました。
一方、社会主義への支持は全体で39%とほぼ横ばいでしたが、民主党支持者では3分の2が社会主義に好意的な見方を示し、10年の半数から大きく増加しました。
冷戦後に成人した世代は、年配者ほど社会主義に対する否定的なイメージを持っていないということです。
それがマムダニ氏当選の下地になったわけです。

マムダニ市長のニューヨーク市政が成功すれば、民主党も共和党も格差問題に向き合うことになるでしょう。
マムダニ市政の動向に注目です。



アメリカの民主党ではもう一人の新星が現れました。
11月7日付朝日新聞の『「赤い州」反トランプの新星』という記事が、テキサス州議会の下院議員で来年の中間選挙の上院選に立候補を表明しているジェームズ・タラリコ氏を紹介していました。
タラリコ氏は36歳の白人、元中学教師、祖父はバプテスト派牧師で、みずからも最近まで神学校に通っていました。リベラル派には珍しく、キリスト教的観点から保守派を批判しています。
たとえば演説はこういった調子です。
「人々は『別の種類』の政治を渇望している。憎しみでも、恐怖でも、分断でもなく、愛の政治を。それは州への愛、国への愛、そして壊れた米国を癒す相互愛だ」
タラリコ氏が中間選挙への立候補を表明すると、3週間で600万ドル(約9億2000万円)を越える献金を集めました。「白人版バラク・オバマ」などといわれています。
当のオバマ氏もタラリコ氏のことを「彼はすばらしい。ほんとうに才能ある若者だ」と称賛しました。
これまで共和党を支持してきた小学校教師(37歳)は、保守派について「彼らは物事に悲観的で憎しみに満ちている」と感じ、「タラリコ氏は隣人を愛し、助け合うキリスト教の本質を掘り下げている」と語りました。

キリスト教は愛の宗教です。「汝の敵を愛せよ」とか「右の頬を打たれたら、左の頬を差し出しなさい」という言葉がその本質を表現しています。
しかし、昨今「汝の敵を愛せよ」という言葉はまったく聞かれません。
福音派を初めとするキリスト教勢力は、きわめて攻撃的で憎しみに満ちたトランプ氏を支持しています。
つまりキリスト教は愛の宗教であることをやめて、別のものに変質しているのかもしれません。
そういう意味でタラリコ氏の訴えはキリスト教の王道です。分断が深刻化するアメリカで王道の訴えが人々の心に響くようになったのでしょうか。

タラリコ氏がどういう政策を訴えているのかよくわかりませんが、愛の政治をするなら、貧困層への福祉を重視し、格差社会も問題にするでしょう。
つまりマムダニ氏の社会主義的政策と似たものになるはずです。
両者の政治が合体すると、社会主義と愛の結合体になります。
これは新しい可能性ではないでしょうか。



最近、斎藤幸平氏の著作の影響もあって、マルクス主義が見直されているようです(マルクス主義の見直しは世界的だそうです)。
斎藤氏はソ連型の国有化でない社会主義として「コモン」という概念を提示します。コモンというのは、水や電力、住居、医療、教育といったものを公共財として市民が共同で管理することを目指すものです。もともとマルクスも労働者の相互扶助として「アソシエーション」という言葉を使っていて、アソシエーションがコモンを実現するというわけです。
もうひとつわかりにくい感じもしますが、コモンには市場原理や競争原理がなく、相互扶助があるとすると、これを「愛」の原理といってもいいのではないでしょうか。
競争社会にうんざりしている人にとっては、社会主義と愛の結合体は魅力的です。


もっとも、なかなかそううまくはいかないでしょう。
富裕層はマムダニ市長の社会主義的な政策を全力でつぶしにかかります。これがアリの一穴になってはたいへんだからです。
貧困層が富裕層に打ち勝つのはきわめて困難です。力がまったく違うからです。
日本では、格差問題を正面から取り上げているのはれいわ新選組と共産党ぐらいです。
立憲民主党も「富裕層への増税」を言っていないわけではありませんが、あまり強くは主張していません。マスコミの経営陣は富裕層ですから、あまり強く主張するとつぶされるからです。

民主社会主義者のバーニー・サンダース上院議員は、若者に人気で、大統領選の民主党予備選に二度立候補しましたが、どちらも敗れました。マムダニ市長は85歳のサンダース議員の後継者と目されていますが、果たしてサンダース議員を越えることができるでしょうか。


タラリコ氏も前途は多難です。
テキサス州は共和党の強いところですから、タラリコ氏が上院議員選に出馬しても当選はむずかしいと目されています。中央政界にデビューできないかもしれません。
それに、政治の世界では「愛」という言葉は嫌われます。というか、バカにされます(「愛国心」は他国への敵意を前提に国内の結束を固めるためのものですから、愛とはいえません)。
政治は権力を巡る戦いですから、愛のある人は戦いに不利です。
平和主義者と戦争主義者(好戦主義者)が戦えば戦争主義者が勝ちます。
他国への敵意をあおり、勇ましいことを言う政治家は、平和を説く政治家よりも国民の支持を得ます。
そうして人類は戦争を繰り返してきました。
その挙句、ヒトラーが登場し、今またトランプが登場しました。
人類も少しは反省して、憎しみと攻撃の政治家ではなく愛と平和の政治家を選ぶべきと思うようになってもおかしくありません。

資本主義は競争原理なので、人々は互いに争うことにうんざりしています。また、なにも手当をしないとどこまでも格差は拡大していきます。
「社会主義と愛」がリベラルの生きる道です。

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右派、保守派の基本はナショナリズムです。ナショナリズムは国家規模の利己主義ですから、各国に保守派政権ができると必然的に互いに衝突し、戦争になる可能性が高まります。
そうならないようにナショナリズムの主張を弱めると、国内の支持者が失望するというジレンマに陥ります。ですから、保守派政権は長続きしないだろうということを私は前に書きました。
しかし、時代が変わって、ナショナリズムも変わりました。いわば旧型から新型にモデルチェンジしていたのです。
どうモデルチェンジしたのか、改めて確認しておきたいと思います。


高市首相は韓国の李在明大統領と10月30日に会談し、李大統領が「心配はすべてなくなった」と述べるなど、きわめて友好的な会談だったようです。
翌日には習近平主席と会談し、「戦略的互恵関係」を確認しました。
高市首相はナショナリズムの主張を封印し、現実的な対応をしましたが、高市支持者から不満の声は上がりません。むしろうまくやったと評価されているようです。
靖国神社参拝については前から行わないことになっていましたが、やはり不満の声は上がっていません。
つまり高市支持者は、高市政権が中国や韓国に強い態度に出ることを望んでいるわけではないのです。
高市支持者の関心はもっぱら国内にあります。

参政党のスローガンは「日本人ファースト」でした。これが日本の保守派の心情にぴったりなのです。
「日本ファースト」だと外国とぶつかってしまいます。それは望まないわけです。
国内で外国人を差別している限り国際的な問題になりません。
それに外国人は犯罪的だとか、マナーが悪いとかの理由をつければ、これは差別ではないという言い訳が立ちやすくなります。
つまり今のナショナリズムは、国内だけで完結する内向きのナショナリズムです。

これはヨーロッパでも同じようです。
ドイツでもフランスでも極右政党が伸びています。いずれ政権を取るかもしれません。そうすると二十世紀のようにドイツとフランスが戦争をすることになるかというと、そうはならないでしょう。
イタリアでは2022年の総選挙で極右政党「イタリアの同胞」が第一党となり、党首のジョルジャ・メローニ氏が首相に就任しました。メローニ首相はイタリア史上初の女性首相です。くしくも高市首相と同じです。
極右政権ができたということで警戒されましたが、メローニ首相はそれまでの極右的な主張を封印して現実路線をとり、一応安定政権を築いています。
考えてみれば、ヨーロッパの極右政党がもっとも強く主張することは移民排斥です。移民を国から追い出すことに限れば国内問題です。他国との摩擦は起きません(追い出される移民の母国は不愉快でしょうが)。

今はグローバル経済のもとで各国が互いに密接につながっているので、自国ファーストを主張して他国と対立することは損にしかなりません(自国ファーストの主張ができるのはアメリカぐらいですが、それですらうまくいっていません)。ましてや戦争になると、ウクライナ戦争を見てもわかるように、ただ悲惨なだけです。
極右政党とその支持者もそういうことはわきまえているのでしょう。
高市政権とその支持者も同じです。


日本の保守派はみな反中国です。
しかし、中国に直接なにかを強く言うことはありません。
尖閣諸島について強く主張したところで、中国が日本の領有権を認めることは考えられませんし、習近平主席がへそを曲げるとやっかいです。なにしろ中国のGDPは日本の約4.5倍です。
保守派やネトウヨもそういうことはわかっているので、彼らは日本の親中国の政治家、たとえば引退した二階俊博氏や林芳正衆院議員などを“媚中派”として非難するだけです。
中国人が日本の土地を買うのを規制しろとか、中国人留学生が優遇されすぎているとか、中国人のマナーが悪いとかいったこともよくいわれますが、これらはすべて国内問題です。

対象は中国人に限りません。外国人の犯罪が多いとか、外国人のマナーが悪いとか、オーバーツーリズムをなんとかしろとか、外国人が生活保護を受けているとか、社会保険料を払っていないとか、起訴されないとかといったことが盛んにいわれます。
たいていは大げさであるかフェイクですが、こうして外国人を差別して非難することが保守派のメインの“仕事”になっています。

高市首相は総裁選のときに外国人が奈良公園の鹿をいじめているという話をし、これは根拠がないと批判されましたが、それによって支持も得ました。
今、高市内閣が高い支持率を得ているのは、こうした外国人差別の人の支持があるからでしょう。


しかし、国内の外国人を差別するだけでは終わりません。保守派の矛先は日本人にも向けられます。
高市政権は「スパイ防止法」制定に向けて動き出しました。
スパイ防止法はかつて「日本はスパイ天国」というデマのもとに制定に向けた動きが強まった時期がありましたが、特定秘密保護法が制定されてスパイ防止法の必要性がなくなりました。
今度は「スパイ防止法がないのは日本だけ」というプロパガンダが行われています。
防止法の対象となる「国家機密」がきわめてあいまいで広範囲であり、機密を「探知・収集」、「外国に通報」、「他人に漏らす」などの行為もあいまいで広範囲なので、誰にでも「スパイ」の汚名を着せることができます。
参政党の神谷宗幣代表は先の参院選で「極端な思想の人たちを洗い出すのがスパイ防止法」と発言しました。
スパイ防止法ができなくても、法案について議論するだけで、「スパイ防止法に反対するのはスパイ」と言って日本人を分断することができます。

日本国を侮辱する目的で日本国旗を損壊した人を罰する「国旗損壊罪」を制定しようとする動きもあります。
バカバカしい法律なので、いちいち批判は書きませんが、この法案に反対する人を「反日日本人」と決めつけて、やはり日本人を分断しようという考えでしょう。


つまり今の保守派は、外国に対してはなにも主張せず、もっぱら国内で外国人を差別し、日本人を分断する「内向きナショナリズム」になっています。
「内向きナショナリズム」は互いに連携することが可能です。バンス副大統領やイーロン・マスク氏は欧州の極右政党の支持を表明しています。
つまり欧州の極右政党やトランプ政権の移民排斥運動は、世界的な人種差別運動と見ることができます。
「内向きナショナリズム」は、グローバルノース対グローバルサウスの世界的対立の一部です。
日本の保守派は“名誉白人”のつもりで外国人差別をしているわけです。

ナショナリズムの変質を見きわめて、今は外国人差別と日本人分断に対処することがたいせつです。


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高市早苗氏の公式Xより

高市早苗首相は10月27日から29日にかけて来日したトランプ大統領を「おもてなし」し、日米首脳会談をこなし、トランプ氏との親密さをアピールしました。
トランプ氏をもてなす高市首相の姿に日本の問題が集約されています。

日本はアメリカに対して防衛費増額の前倒しを表明し、80兆円の対米投資の具体策を示しました。
一方、日本がアメリカから得たものはなにもありません。
日米共同声明の発表もありませんでしたし、両首脳の共同記者会見もありません。
それでも少なからぬ日本人は、高市首相がトランプ氏との親密さを演出したことで“高市外交”は成功したと喜んでいます。
昔、中曾根康弘首相がレーガン大統領と“ロン・ヤス関係”を築いたということで日本人は大喜びしましたが、そのころとあまり変わっていません。

高市首相はトランプ氏とともに横須賀の米軍基地を訪問し、空母「ジョージ・ワシントン」においてスピーチをしました。
そのときトランプ氏の隣で飛びはねてはしゃぐ様子が賛否を呼びました。

スクリーンショット (2)

高市首相はなぜ米軍基地へ行ったのでしょうか。トランプ氏が日本に来たのですから、トランプ氏とともに自衛隊基地に行くのが筋です。
空母に乘るにしても、日本にも「いずも」と「かが」という実質空母があるのですから、それに乘ればいいのです。
日本はこのところ急速に防衛力を増強したのですから、その成果をトランプ氏と世界に見せるいいチャンスでした。
日本の首相がアメリカ軍の空母に乘ってはいけないとはいいませんが、本来の姿ではありません。

改めて思ったのですが、日本人は保守派も含めて、自衛隊を「戦力」とは思っていないのではないでしょうか。
防衛費はGDP比1%だったのがもうすぐ2%になります。そうとう戦力は強化されているはずですが、そういうことはほとんど話題になりません。みんな関心がないようです。
戦争についてはアメリカにおんぶにだっこというのが日本人の意識です。


ともかく、高市首相のトランプ氏に対する態度は賛否を呼んでいます。
駐日ジョージア大使のティムラズ・レジャバ氏の説が『駐日ジョージア大使、高市首相めぐる「外交ではなく接待」の声にキッパリ「外交官の仕事は…」』という記事で紹介されていました。
作家の吉村萬壱氏が「高市氏のは外交ではなく接待だ」と高市首相を批判したのに対して、レジャバ氏は「私たち外交官の仕事は『接待』です」「机上でどんなに見栄えの良いオファーでも、限られた滞在時間において、来客の心を掴みそびれれば、全ては水の泡です」と述べて、高市首相を擁護しました。

この説は高市首相と欧州外交官を同列に見ています。高市首相を見下し、欧州外交官の優越感を示しています。
ところが、この説に賛同する日本人が多いというのに驚きます。


トランプ氏は自身のSNSに高市首相と腕組みして迎賓館内の階段を降りる写真を投稿しました。

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トランプ氏の公式トゥルース·ソーシャルより

これがモノクロ写真であるのは、トランプ氏の投稿がそうなっているからです。
おそらくひと昔前の紳士淑女に見立てたものでしょう。
いずれにしてもトランプ氏の腕にすがるとは、独立国の首相の態度ではありません。

ところが、この高市首相の態度を擁護する人もいます。
テレビのコメンテーターでおなじみの中林美恵子早大教授の意見が『早大教授、高市早苗首相への評価めぐり「欧米メディアはネガティブなことは書いていない」と私見』という記事に紹介されていました。
中林教授はトランプ氏が投稿した写真について問われると、「日本人が見るあの(2人の)距離感と、欧米人が見る距離感は、全然違うと思う」と指摘。「しかも日本で初めての女性のトップということで、欧米メディアはけしてネガティブなことは書いていない。ポジティブ、ポジティブに、とにかく女性にはしっかりサポートしないといけない、というのがあちらの文化。そういう意味では、(欧米でも)いいリポートが当面は出ている」と解説し、高市首相の話題は、欧米でも好意的に報じられているとの見方を示したということです。

「女性にはしっかりサポートしないといけない」といいますが、国家のリーダー同士なのですから、そんなサポートは不要です。
それに、トランプ氏が高市首相をサポートしているのではなく、高市首相がトランプ氏にすがっているのです。
もしサポートが必要というなら、高市首相が79歳のトランプ氏をサポートするべきです。

中林教授の意見は、男性と女性、欧米人と日本人についての中林教授の偏見です。国家のリーダー同士についての正しい意見ではありません。


ひろゆき氏がXに投稿した意見は『ひろゆき氏、高市氏外交への一部批判の声うけ持論「学校で歴史の時間にやったはずなんだけどね」』という記事に紹介されました。
ひろゆき氏は「外交は、外交文化のマナーと様式を踏襲する事で、話してわかる文明国なのかを西洋が判断してきた歴史があります」と書き出し、「『日本人から見て違和感』だとしても、外交では『外国人から見て違和感』を減らすのが目的なのです」と述べ、「というのを、鹿鳴館を作った理由として学校で歴史の時間にやったはずなんだけどね」と続けました。

ひろゆき氏は鹿鳴館時代の価値観のままです。フランス在住という事情もあるのでしょうか。
確かに明治以降、日本は欧米を手本にしてきました。脱亜入欧論の福沢諭吉から進歩的知識人の丸山真男まで一貫しています。
とくに保守、右翼の欧米依存は深刻です。三島由紀夫あたりまでは右翼も欧米に対抗する意志がありましたが、今の保守、右翼は平均的日本人よりもさらに欧米依存です。
日本がG7で唯一非欧米の国であるのは、欧米に決して意見しない国と見なされたからですし、実際そうでした。中国やインドは日本以上の経済大国になってもG7には招かれません。
駐日ジョージア大使はもちろん、中林教授やひろゆき氏も欧米目線で日本を見ています。

しかし、最近はグローバルサウスの台頭で欧米中心の価値観が崩れようとしています。
日本は有利な立場にあるはずなのに、それを生かせていないのは残念です。


高市首相はトランプ氏に対して女性としてふるまいました。
まるでオペラ「蝶々夫人」の海軍士官ピンカートンに対する芸者の蝶々さんです。
これは欧米男性と日本人女性の関係のステレオタイプとして、世界的に理解しやすいものです。
しかし、日本の首相としてはあってはならないことです。

高市首相を支持したのは、鹿鳴館や「蝶々夫人」の時代の価値観、つまり性差別意識と欧米崇拝意識を持っている人たちです。
そういう人が日本の進歩を妨げています。

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