
高市早苗首相の台湾有事発言を巡る問題がこじれています。
私は前回の「アメリカ抜きの防衛論議に意味はない」という記事で、高市首相はアメリカ依存を認めたくないので、日本が台湾有事に単独で介入すると受け取られる答弁をしてしまったと指摘しました。
これは中国にとっては軍事力による威嚇なので、中国もきびしく反応してきたわけです。
アメリカに依存しているのに依存を認めないのは、高市首相だけでなく日本人全体の傾向です。
日本はとくに軍事面ではアメリカに完全に依存していて、属国状態です。日本の意志でどこかの戦争に参加するということはありえません。そのことは日本国民もよく理解しています。
安保法制と「存立危機事態」という概念も、自衛隊が米軍と共同行動するためにつくられたものです。
台湾有事の場合、アメリカが介入して、アメリカが日本に支援を求めてきたとき初めて「存立危機事態」を認定して、自衛隊を出動させることになります(日本はアメリカの要請を断ることもできますが、自民党政権に断るという選択肢はなさそうです)。
しかし、高市首相も「台湾有事に日本がどうするかはアメリカ次第です」と答弁するのは独立国としてあまりにもカッコ悪いので、まるで日本が単独で判断し、単独で武力行使するような答弁をしました。
高市首相は「戦艦を使って、武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になりうるケースだ」と答弁しましたが、そのあとさらに「武力攻撃が発生したら、これは存立危機事態に当たる可能性が高い」とも述べています。
それに対して岡田克也議員は「最後のところがよくわからなかったんですが、武力攻撃が発生したら存立危機事態に当たる。どういう意味ですか。誰に発生するんですか」と聞いています(「誰に」という言葉は聞き取りにくい)。
ここは高市首相にとって「アメリカ」ということを言うチャンスでした。しかし、高市首相は法律の条文を読むだけでした。
(問題の個所は14分ごろから)
高市首相は日本が単独で台湾有事に武力介入すると受け取られる答弁をしたのです。
これは安保法制からしてありえないことですし、現実にもありえないことです。
そのため、国内では高市首相はそんなことは言っていない、アメリカが介入したという前提で言っているのだという声が多くあります。
しかし、そんな声があるのは日本だけです。世界はまったく違います。
ひろゆき氏も国内と海外の受け止めの違いを指摘しています。
ひろゆき氏はXで、米国、イギリス、フランスの報道でも高市発言が「中国が武力で台湾を支配しようとした場合、日本は軍事的で対抗する可能性がある」「中国が台湾を攻撃したら自衛隊を展開する可能性がある」「台湾が海上封鎖されたら日本は軍隊を派遣」との趣旨で報道されていると記した。「同盟軍の米国が攻撃を受けたら集団的自衛権が発動という文脈はありません」と伝え、「米軍の被害無しに自衛隊を派遣するのが本意なのか?」「高市政権は怠慢なのか誤解を解く気がないのか?」「高市政権が動かないのは怠慢以外に理由があるの?」「何故、高市政権は同盟国の米国の誤解を解かないのか?馬車馬のように働くはずでは、、?」と疑問提起した。https://news.yahoo.co.jp/articles/c16b4b9ff8a98da4dfbde4c636f142abbf9d4cae
ひろゆき氏は「カタールのアルジャジーラ紙でも高市首相は『中国が台湾に対して軍艦の使用や軍事行動を伴う場合、間違いなく存立危機事態になる可能性がある』と言ったと報道」とカタールでの報道を取り上げ、「同盟軍の米国が攻撃を受けたら集団的自衛権が発動とは書かれず」と存立危機事態の大前提となる「密接な関係にある他国が武力攻撃を受ける」という部分が抜け落ちていることを指摘。「欧米・中東のメディアで誤解が広まってるのに高市政権はなぜ放置?」と疑問を呈した。https://news.yahoo.co.jp/articles/a9be83c97924b2a95e17dcfacfec33b223c33e8f
ひろゆき氏は海外が誤解していると思っていますが、海外は高市首相の答弁をそのまま受け取っているだけです。ですから、外務省も訂正のしようがありません。訂正するべきは高市首相の答弁です。
高市首相は存立危機発言の3日後の衆院予算委員会で「政府の従来の見解に沿ったものであり、特に撤回・取り消しをするつもりはない」と述べたきり、フリーズしてしまいました。
「日本の行動はアメリカ次第です」と言うわけにはいかないからでしょう(そのために「実際に発生した事態の個別具体的な状況に即して政府が全ての情報を総合的に判断します」という紋切型の答弁が用意されているのですが)。
高市首相がフリーズしている間に中国は高市発言批判を強め、中国の国連大使は国連事務総長に書簡を送付し、「日本が中国に武力行使すると脅しをかけたのは初めてであり、中国の核心的利益を挑発するものだ」「中国側が繰り返し強い抗議をしたにもかかわらず、日本側は反省せず誤った発言の撤回を拒否している」などと主張しました。
さらに在日中国大使館はXに『「国際連合憲章」には「敵国条項」が設けられており、ドイツ・イタリア・日本などのファシズム/軍国主義国家が再び侵略政策に向けたいかなる行動を取った場合でも、中・仏・ソ・英・米など国連創設国は、安全保障理事会の許可を要することなく、直接軍事行動を取る権利を有すると規定している』と投稿しました。
中国の王毅外相は11月222日、訪問先のタジキスタンで「日本の軍国主義の復活を決して許さない」と述べ、日本を名指しで批判しました。
中国では高市首相と軍国主義を結びつけた風刺マンガがSNSだけでなくメディアにも出回っています。
高市首相と軍国主義を結びつけるのは中国のプロパガンダではありますが、半分ぐらいは当たっているのが日本にとってはつらいところです。
日本の保守派はこぞって靖国神社参拝を重視しています(高市首相は首相就任後の参拝はしない方針のようですが)。
靖国神社は軍国主義に利用されてきた神社であり、戦後は(戦死者でない)A級戦犯を合祀したことで軍国主義を正当化した神社になりました。そんな神社にこだわるのは軍国主義者と見なされてもしかたありません。
高市首相は教育勅語を信奉しているそうですが、教育勅語は天皇が国民に下されたもので、戦後の主権在民の理念に反します。
保守派は南京虐殺はなかったとか、従軍慰安婦は売春婦だったとか、日中戦争は日本の侵略ではなかったとか、真珠湾攻撃はやむをえなかったとか、東京裁判は不当だとか、占領軍による洗脳(WGIP)で自虐史観が植えつけられたとか、戦後憲法は押しつけだとか主張しますが、これらはすべて軍国日本を正当化し、戦後日本を否定するものです。
保守派のこうした実態が世界に知られたら、「高市首相は軍国主義復活を目指している」という中国のプロパガンダが効いてきます。
保守派は戦前回帰志向がある反面、親米というか従米の傾向も強めています。
防衛費はアメリカに言われるままに増額し、日米地位協定の見直しはせず、辺野古基地はつくり続けています。
戦前回帰と親米は決定的に矛盾します。
保守派はなんとかごまかしながらやってきましたが、安倍首相は靖国参拝をしたあとアメリカに「失望」を表明され、それから参拝しなくなりました。
また、慰安婦問題では安倍首相はアメリカにむりやり日韓合意で「おわびと反省」を言わされました。
高市首相はふたつの矛盾をかかえています。
ひとつは、軍事的には完全にアメリカの属国化しているのに、タカ派のプライドからそれを認めることができず、独立国のようにふるまおうとすることです。
もうひとつは、表面的には親米政策をとりながら、内心では軍国主義回帰の志向を持っていることです。
考えてみると、このふたつは似ています。政治学者の白井聡氏は、「永続敗戦」という言葉を使って、あの戦争に負けたという事実をちゃんと認めないのでずるずると対米従属が続いていくのだと説明しています。
安倍首相はアメリカ議会で演説したとき、原爆投下と真珠湾攻撃には言及しませんでした。
高市首相はトランプ大統領と仲良しのようにふるまいましたが、このふたつについて話し合うことはないでしょう。
歴史認識というとアジアの侵略と植民地支配ばかりが問題になりますが、日米戦争を正しく認識することも大きな課題です。






