村田基の逆転日記

親子関係から国際関係までを把握する統一理論がここに

2025年12月

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2025年はかつてなく混乱した年でした。
混乱の中心にいたのはトランプ大統領です。
関税で世界経済を混乱させ、イスラエルのガザ侵攻の後ろ盾になり、ウクライナ戦争を終わらせることができず、アメリカ国内では分断を深めました。
これはトランプ大統領個人の問題というよりも、トランプ氏を支持してきたアメリカ国民の問題でもあります。
アメリカ国民が変わらないと、またトランプ氏みたいな大統領が出てきます。

アメリカでは麻薬汚染と犯罪が深刻です。
麻薬汚染と犯罪のひとつの原因は格差社会です。希望を失った貧困層の人は麻薬に逃避し、犯罪のハードルが下がります。
もうひとつの原因は家庭崩壊です。家族関係で傷つき、家族のささえをなくした人間は、やはり麻薬と犯罪に走りがちです。
しかし、トランプ大統領は麻薬は外国のせい、犯罪は移民のせいにしています。
国民もそういうトランプ氏を支持してきました。
そのためにアメリカ社会の病理は深刻化する一方です。


J.D.バンス副大統領はアメリカの矛盾を一身に集約したような人物です。
バンス氏はオハイオ州の貧しい労働者階級の家庭に生まれました。幼いころに両親は離婚し、それから母親は男をとっかえひっかえし、バンス氏には何人もの義理の父親がいます。実の父親とは疎遠でした。母親はずっと麻薬依存症で、治療によって快復したこともありますが、また麻薬にはまります。バンス氏は主に祖父母の家で育ちましたが、祖父母はアルコール依存症で、祖父からは暴力をふるわれました。ただ、祖母はバンス氏をたいせつにしてくれ、姉もよく世話してくれました。
周りも貧しい労働者の家庭で、離婚、暴力、麻薬、犯罪が横行しています。そういう環境から成り上がるのはきわめて困難です。
バンス氏は高校卒業後、地元の大学に進むつもりでしたが、学費の負担がたいへんです。そこで海兵隊に入り、4年間勤務してからオハイオ州立大学に入りました。復員兵援護法によって学費のかなりの部分がカバーできました。
オハイオ州立大学は二流ないし三流大学のようです。バンス氏はそこからアイビーリーグであるイェール大学のロースクールに進みます。そして、高給取りの弁護士になって、作家として成功します。
今やアメリカは階層が固定し、貧困層の崩壊家庭から富裕層に垂直移動したバンス氏のような例はまれです。そうしたことも注目され、上院議員から副大統領にまでなりました。


トランプ大統領は富裕層の生まれです。父親は手広く不動産業を営んでいましたが、黒人嫌いで、KKKに所属して活動していたことがあるといわれています。
トランプ氏は子どものころ度重なる不良行為が原因で13歳で陸軍幼年学校に転入させられます。ペンシルベニア大学を卒業後、父親の会社に入ります。
長男である兄のフレッド・トランプ・ジュニア氏はパイロットを志して家業を継がなかったために父親とトランプ氏から軽蔑されました。トランプ家では「勝者か敗者か」という価値観が強く、家業を継がない者は敗者と見なされたのです。フレッド・ジュニア氏はアルコール依存症になり、アルコール依存症が原因の心臓病で42歳で死亡しました。
トランプ氏は20代のときに辣腕弁護士のロイ・コーン氏に出会い、薫陶を受けます。映画『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』によると、ロイ・コーン氏はトランプ氏に「勝つための3つのルール」を教えます。それは「攻撃、攻撃、攻撃」「非を絶対に認めるな!」「勝利を主張し続けろ!」というものです。大統領選でバイデン氏に負けたとき「選挙は盗まれた」と主張し続けた理由がわかります。

富裕層に生まれたからといって楽な生き方ができるわけではありません。「勝者か敗者か」というプレッシャーにさらされ続けます。バンス副大統領もイェール大学のロースクールから一流弁護士事務所に就職するときはきびしい評価にさらされました。
トランプ大統領もバンス副大統領もろくな家庭で育っていませんが、これがアメリカの現実です。息子ブッシュ大統領も一時期アルコール依存症でした。


トランプ氏の今の家庭はどうなのでしょうか。
トランプ氏は3回結婚しています。女性関係は派手で、元ポルノ映画スターのストーミー・ダニエルズ氏に不倫の口止め料を支払い、裁判沙汰になったこともあります。
少女への性的虐待罪で起訴されたあとに死亡したジェフリー・エプスタイン氏とも交友があり、トランプ氏も性的虐待を行ったのではないかという疑惑は今や大問題になっています。

こんな女好きの男が家族を重視する保守派に支持されるのは不思議です。
女好きの男には支持されるかもしれませんが、女性はどうなのでしょうか。

メラニア夫人がトランプ氏を嫌っていてもおかしくありません。現にメラニア夫人がトランプ氏と手つなぎを拒否する動画があります。



人間は誰でも家族の人間関係の中で人格の基礎的な部分を形成をします。
トランプ氏は父親の差別主義と「勝者か敗者か」という価値観を身につけました。
トランプ氏にとっては、USAIDやオバマケアなどは敗者を救済する間違ったものなのでしょう。

バンス氏は祖母を心のささえにしていますが、祖母は激しい気性で、バンス氏は祖母が銃で人を殺すのではないかと本気で恐れたことが何度もあります。祖母は家の各所に銃を常備していて、家の中に19丁の装填済みの銃があったということです。
ということは、バンス氏の中にも暴力的なものがあるでしょう。バンス氏が大統領になれば軍事力行使のハードルが低いかもしれません。


保守派が理想とする家父長制の家庭は、父親が妻と子どもを力で支配する家庭です。
それが離婚、暴力、虐待という崩壊家庭を生みます。
崩壊家庭でない家庭は力で支配された家庭です。
バンス氏は崩壊家庭で育ち、トランプ氏は力で支配された家庭で育ちましたが、どちらも根は家父長制です。
家父長制の家庭で育った人間がアメリカの指導者になり、また家父長制の家庭を再生産します。
これではアメリカは少しも変わりません。


しかし、変わる可能性はあります。
キーマンはバンス氏です。


バンス氏の著書『ヒルビリー・エレジー』によると、バンス氏にはロースクールでウシャというクラスメートの恋人ができます。ウシャはバンス氏の“精神的指導者”になります。

バンス氏が受けた有名法律事務所の二次面接が街の最高級レストランで開かれました。テーブルの上にバカげた数のナイフとフォークが置かれていて、スプーンだけで3本もあります。バンス氏はトイレに行くふりをしてウシャに電話をします。ウシャは「外側から順番に使っていけばいいのよ。お皿が替わったら、同じナイフやフォークを使っちゃだめ。いちばん大きなスプーンはスープ用よ」と教えてくれ、おかげで恥をかかずにすみました。
このエピソードは、貧困層から上に行くことの困難さをよく示しています。

感謝祭の日にバンス氏がウシャの実家を初めて訪れたとき、家の中の雰囲気が穏やかなことに驚きます。ウシャの母親は夫の陰口を一言も口にしませんし、会話の中で親類や友人の誰それが嘘つきだとか裏切者だとかいった話はまったく出ません。ウシャの両親はそれぞれの親をほんとうに愛しているようで、兄弟とも仲良く会話していました。

バンス氏はつき合っている中で、しばしばウシャに怒りを爆発させて、暴言を吐いてしまいます。それでもウシャはバンス氏を捨てませんでした。やがてバンス氏は、数世代にもわたって家族を苦しめてきた、愛する人を傷つけてしまう気質を自分も受け継いでいることに気づきます。
カウンセリングを受けることも考えましたが、それよりも図書館へ行って調べることにしました。そうすると、自分の問題は重要なテーマとして研究されていることがわかりました。心理学者はそれを「逆境的児童期体験(ACE)」と呼んでいました。
ACEは被虐待経験だけでなく、幼児期における家族の精神疾患、家族の自殺、養護施設での生活なども含まれます。崩壊家庭における苦しい体験といっていいでしょう。
ACEは依存症の原因になるだけでなく、うつ病、糖尿病、心筋梗塞、脳卒中、肺炎、腰痛・頭痛、がんなどになる可能性を高めます。

ACEの概念は最近日本に入ってきましたが、アメリカでは10年以上前からいわれていたわけです。
アメリカでは薬物依存症やアルコール依存症の治療法も普及しています。バンス氏の母親も何度も薬物依存症の治療を受けて、一時的には立ち直っています。有名人が薬物依存症であることを告白することもよくありますが、批判されることはなく、むしろ治療に立ち向かうことを応援されます。日本ではまだ本人の意志の弱さが責められるでしょう。

このような心理学的アプローチは、麻薬や犯罪を外国や移民のせいにするのと違って、王道です。
この道が家族を再生させます。
バンス氏はそうした心理学を学び、自分の家族とウシャの家族の違いを考え、生き方を変えていきました。

あるとき運転中に割り込んできた車にクラクションを鳴らすと、運転席の男はこちらに向かって中指を立てました。赤信号で停車したので、バンス氏はドアを開けようとしました。相手の男に謝らせるつもりで、向こうがその気なら喧嘩もいとわない気持ちでした。名誉が傷つけられたとき男はそうするものだと思っていたのです。しかし、バンス氏は車から降りるのをやめてドアを閉めました。前に同じようなことがあったときはウシャが「バカなことはやめて!」と叫んで止めたのですが、今回はその前に思いとどまったのです。彼女は「自分を抑えられるあなたを誇りに思う」とほめてくれました。

バンス氏はウシャと結婚し、『ヒルビリー・エレジー』を書いたときも彼女は原稿を何十回も読み、アドバイスをしてくれたそうです。バンス氏の夫婦仲はトランプ氏の夫婦仲とはまったく違うものと見えます。


上院議員となったバンス氏は、最初は反トランプの立場でしたが、あるときから態度を変えてトランプ支持になりました。それが奏功して副大統領になりました。
最近は祖母の生き方を肯定するようなことも言っていて、家父長制の側に戻ったようです。
しかし、一度はアメリカの病理の根本は家族にあると気づいたのですし、今も妻のウシャはそばにいます。
バンス氏は祖母の生き方かウシャの生き方か、ふたつの道で迷っているのかもしれません。

トランプ氏のやっていることは支離滅裂なので、今後どんどん支持率は下がっていくでしょう。
バンス氏も副大統領としていっしょに沈んでしまってはだめですが、どこかで路線変更すれば、次の大統領選で有力候補になることができます。

今のアメリカの問題の根本は家族のあり方にあると気づいているのは、民主党の人間にもほとんどいなくて、今のところバンス氏ぐらいではないかと思われます。
アメリカの問題を移民と外国のせいにする今のやり方が見捨てられたとき、バンス氏の出番になるでしょう。
大統領にならなくても、『ヒルビリー・エレジー』に書かれたことはアメリカ再生の道を示しています。


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高市内閣が高い支持率を保っています。
とくに若者の支持率が高く、産経新聞・FNN合同世論調査によると、18~29歳が92・4%、30代が83・1%と驚異的な高さでした。
コアな保守派の支持だけではこんな数字にはなりません。
では、どういう人が支持しているかというと、女性首相の誕生で初めて政治に関心を持った“政治初心者”ではないかと思われます。

人間は守るよりも攻めるのが好きです。
それは人に将棋や囲碁を教えてみるとわかります。
ルールを覚えたばかりの人が将棋や囲碁の実戦をすると、攻めの手ばかり指して、守りの手を指しません。
将棋は自分の「玉」の駒を取られたら負けなのですが、駒をどんどん前に進めていって、玉の守りがおろそかになり、簡単に負けてしまいます。
何度かそういう負けを経験すると、守りのたいせつさが少しずつわかってきます。
完成された将棋の定跡というのは、序盤は双方ともにひたすら玉の守りを固め、それから戦いを始めることになっています。
サッカーでも、フォワードの選手が注目され、人気選手となり、ディフェンダーやキーパーはあまり注目されません。
シュートを決めることと、相手の決定的なシュートを防ぐことは同じくらい価値があるはずですが、どうしてもシュートを決めることのほうが注目されます。

高市首相はタカ派ですから、外交も攻撃的です。
そうした姿勢が台湾有事について「戦艦を使って、武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になりうる」という発言になって現れました。
高市首相は今では言いすぎたと思って後悔しているかもしれませんが、高市首相らしい勇ましい発言ではあります。

高市首相はそれから、非核三原則の「持ち込ませず」の見直しに言及しました。
核を持ち込ませるというのはアメリカに便宜をはかるだけで、勇ましいことではありませんが、護憲派や反核団体が反発するので、勇ましいイメージになります。

さらに、官邸高官が個人的見解として「日本は核武装するべきだ」と語ったことが物議をかもしました。
木原稔官房長官がいち早く「政府としては非核三原則を政策上の方針として堅持している」と語り、高市首相からもなんの発信もなかったので、核武装論は封じられた格好になりました。
要するに官邸高官が不用意な発言をしたということだったようですが、政権の攻めの姿勢は印象づけたかもしれません。

積極財政も「攻め」の一種です。
マーケットは円安と債券安で積極財政に否定的な評価を下していますが、政治初心者はそういうことはわからず、積極財政の目先の効果を評価しています。

ともかく、高市政権のタカ派外交と積極財政という攻めの姿勢が政治初心者や一般大衆に受けて、高支持率につながっていると思われます。


守りより攻めが好きなのは、誰もが生まれつき持っている人間の本性と思われます。
ということは「人間は守りより攻めを好む傾向がある」という認知バイアスがあることになりますが、私が調べたところ、そういう研究は存在しないようです。
しかし、似たような認知バイアスはあります。
Copilotは次のものを挙げました。

楽観バイアス(optimism bias)
- 自分は成功する/被害を受けないと過大に見積もる傾向
→ 攻めの行動のリスクを軽く見てしまう。

過信バイアス(overconfidence bias)
- 自分の能力や判断を過大評価する傾向
→ 攻撃的・挑戦的な行動を選びやすくなる。

行動バイアス(action bias)
- 何もしないより「何かする」方を好む傾向
→ 守り(待つ・静観する)より攻め(動く・仕掛ける)を選びやすい。

 進化心理学的な説明
- 人類史の大半は「資源獲得(攻め)」が生存に直結
- 守りは“現状維持”でしかなく、繁殖成功に結びつきにくい
→ そのため、攻めの行動が報酬系を刺激しやすいという説もある


なにもしないで事態が改善するということはめったにないので、困ったときはとにかく積極的に動いてみるという傾向があるのは納得できます。
自分を過信し、状況を楽観視することで積極的な行動が生まれます。

よく考えてみると、「守る」という行為は日常生活ではあまりありません。
攻められなければ「守る」という行為もないからです。
「攻め」と「守り」についての研究がないのも当然です。

私が最初に「人間は守るよりも攻めるのが好き」といったのは、ゲームやスポーツを念頭に置いていたからです。
野球はイニングごとに「攻め」と「守り」が交代して、「攻め」と「守り」の区分が明快です。
現実の世界では「攻め」と「守り」の区分ははっきりしません。
例外は戦争のときです。籠城戦をしていて、守り続けるか打って出るかの選択を迫られるときなど、「攻め」と「守り」の区分が明快です。

日本では、昔は非武装中立という選択肢がありましたから、「攻めるか守るか」ではなく「守るか守らないか」が議論されていました。
今は自衛隊が認知されているので、「守る」ことは前提となりました。
さらに新安保法制によって「攻める」ことが可能になりました。
ですから、今の日本の選択肢は「攻めるか守るか」ではなく「攻めるか攻めないか」になりました。

高市首相は台湾有事に関して「攻めるか攻めないか」において「攻める」を選択するかもしれないと言ったわけです。
ほんとうはアメリカが先に介入して、アメリカの要請で日本が介入するという手順になるのですが、高市首相は日本がアメリカに従属しているという現実を認めたくないのか、日本がアメリカ抜きで単独介入するようなことを言って、中国を怒らせました。


世界のほとんどの国は、「攻めるか攻めないか」という選択肢を持っています。
攻めても得はないので、攻めることはめったにありませんが、ロシアのウクライナ侵攻とかイスラエルのガザ侵攻とかアメリカのイラクやアフガンへの侵攻とかがありました。
愚かな戦争と思えますが、ここに認知バイアスが関わってきます。
「攻めるか攻めないか」というとき、人間は積極行動である攻めるほうを選択しがちです。
自分の実力を過信し、状況を楽観視するからです。
『孫氏の兵法』に「彼を知り己を知れば百戦して殆うからず」という言葉がありますが、人間は己を過信し、敵を知らないために、しなくてもいい戦争をしてきました。


ここは理性を働かせて、人間には攻めるのを選びがちだという認知バイアスがあることを知り、自分の認識を修正しなければいけません。
つまりメタ認知が必要です。
政治初心者はそういうことはできませんから、戦争の専門家がアドバイスする必要があります。
ところが、戦争の専門家は戦争の危機があるから商売になっているので、逆に危機感をあおるようなことを言います。
今のように台湾有事がいわれるようになったそもそものきっかけは、2021年3月、米インド太平洋軍のデービッドソン司令官が米上院軍事委員会の公聴会で「中国が今後6年で台湾に侵攻する恐れがある」と証言したことです。
中国指導部の6年後の政治的判断を予測することは占い師でなければできないことで、アメリカの軍人にできるわけがありません。しかも、このときデービッドソン司令官は退任直前でした。無責任な証言です。
ここから台湾有事論がどんどんふくらんでいくのですが、その発信元はすべてアメリカです(「習近平は2027年までに台湾を武力攻撃する」というアメリカの主張の根拠は?)。

日本では敵基地攻撃能力を持てば抑止力が高まるという議論がされていますが、抑止理論というのは相手が合理的な判断をすることが前提となっています。
実際には相手国は「座して死を待つ」よりはと無謀な攻撃をしてくる可能性があります。
日本の真珠湾攻撃などもその類でしょう。


言論においても、「攻めない」という選択肢は弱腰だと批判され、「攻める」につながる攻撃的な言説が幅を利かせる傾向があります。
「攻めるか攻めないか」を冷静に判断したいものです。

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オーストラリアでは12月10日から16歳未満SNS利用禁止法が施行されました。
対象はInstagram、TikTok、X(旧Twitter)、YouTubeなど10のサービスで、運営企業に年齢確認の義務が課されます。
運営企業が違反すると最大約51億円の罰金が科されますが、若者や保護者に対する罰則はありません。
年齢を偽ってアカウントをつくればいいともいわれていますが、今後年齢確認の方法が厳格化されるのかもしれません。

ひところ「ゲーム脳」ということがいわれ、「スマホ脳」ということもいわれました。ほとんど科学的根拠がありません。
その流れで「SNS脳」という考え方があるのかもしれません。
一応禁止の理由としては、ネットいじめや犯罪から子どもを守るということと、SNS依存症の防止ということが挙げられています。

昔、『テレビに子守りをさせないで』という本がベストセラーになったことがあります。
今も日本小児科医会が「スマホに子守りをさせないで」というキャンペーンをやっています。
新しいメディアが出現すると、メディアの子どもへの影響は未知数ですから、おとなは不安を感じるもののようです。

私の世代は子どものときからテレビ漬けになっていました。その悪影響はあるのでしょうか。
昔と比べると、世の中の人間関係は希薄になっています。そこにテレビの影響はあるかもしれませんが、「悪影響」といえるかは疑問です。

SNSをすることでいじめにあったり、犯罪に巻き込まれたりすることはあるでしょう。しかし、それは一般社会にもあるのですから、SNS禁止に意味があるとは思えません。
SNSを使わないでいると、SNSを使うスキルも向上しません。16歳になって初めてSNSに触れると、かえって危険かもしれません。たとえば詐欺で金を取られるにしても、年齢がいっていると金額も大きくなる理屈です。
禁止するのではなく、正しい使い方を教えるべきです。
今後はパソコンやスマホを使いこなす能力は、仕事をする上でも必須です。若いうちからパソコンやスマホになじんでいたほうがいいに決まっています。


子どもがSNSに夢中になり、SNS依存症になるという懸念はあるでしょう。
依存症にならないまでも、SNSに時間を取られるとその分、親子のふれ合いの時間が少なくなります。
これはデータでも示されています。
子どものインターネットの利用時間が親子関係に与える影響をみるために、平日一日のインターネットの利用時間を、「3時間以上」(「4時間以上」「3時間〜4時間未満」)、「1時間〜3時間未満」(「2時間〜3時間未満」「1時間〜2時間未満」)、「1時間未満」(「1時間未満」「ほとんどしない」)という3つのグループに分け、親子関係に関する項目とクロス集計しています。

その結果、日本、アメリカ、中国、韓国の4か国とも、インターネットの利用時間が長いほど、親との会話が少なく、親と話すことや一緒にいることが「好き」と回答する割合も、親と一緒にいるのが「とても楽しい」と回答する割合も低くなっていました。

また4か国とも、インターネットの利用時間が長いほど、親は真剣に自分の話を聞いてくれることが「よくある」という回答の割合が低く、逆に「家族が一緒にいてもそれぞれが携帯電話やスマートフォンを操作している」ことが「よくある」と回答する割合や、「家族と食事や団らんのときでもよく携帯電話を操作する」の肯定率が高かったのです。
https://news.yahoo.co.jp/articles/32fbe7796a76f8667389f93a9ef295cd863f4460?page=1
オーストラリアのアルバニージー首相は16歳未満SNS禁止法が施行された日に、「若者にとって重要な改革だ。子供は子供らしく過ごし、親は安心感を持てるようになってほしい」「巨大IT企業から豪州の家庭が力を取り戻して復権する日だ」などと語りました。
要するに子どもにSNSを禁止すれば、それだけ親子の対話や家族団らんが増えるだろうと期待していて、これが法律の狙いのようです。

しかし、それは考え違いです。
SNSを禁止すれば、その代わりにゲームやテレビに費やす時間が増えるだけかもしれません。

SNSは誰がアクセスしても同じですが、家庭のあり方はすべて違います。
SNSに多くの時間を費やして家族との対話が少ない子どもと、SNSはあまりやらずに家族との対話が多い子どもとなにが違うかというと、SNSは同じなのですから、家族のあり方の違いしかありません。
親との関わりにうんざりしている子どもは、SNSにはまったり、ゲームにはまったり、不良仲間と繁華街をうろついたりして家庭から逃避します。つまりSNSは逃避先のひとつです。
SNSを禁止すれば別の逃避先を見つけるでしょう。親と関わる時間が増えるとは限りません。

最近は依存症に対する見方が変わってきました。
たとえばアルコール依存症や薬物依存症の人は、アルコールや薬物のおかげでここまで生き延びてこられたと考えるのです。
依存することはその人にとって必然だったのであり、単純に依存する対象を取り上げればいいというものではありません。


親が子どもとの会話を増やしたければ、親子の人間関係を改善するしかありません。それが「家庭復権」ということです。
親子が普通に会話を始めても、次第に親が子どもに説教、ダメ出し、叱責をするようになり、そういう会話が繰り返されると、子どもは最初から会話を拒むようになります。そういう家庭が多いのではないでしょうか。
子どもが原因で親子の会話がうまくできないということはありえません。親は子どもより視野が広いので、子どもに問題があっても、親はそれをカバーできるはずだからです。
うまくいかなくて悩んでいる親は、周りの家庭を見て、親子関係がうまくいっている家庭の親はどう子どもに対処しているかを観察すればいいのです。

親子のコミュニケーション法である「親業訓練」を学ぶという方法もあります。

『「親業」に学ぶ 子どもと心を通わせる言葉かけのヒント5選』


SNS禁止というのは、親は変わらずに子どもを変えようという発想です。
しかも、子どもの選択肢を奪っています。これは子どもの権利の侵害です。
こういうことをパターナリズム(父権主義)といいます。「お前は自分にとってなにがよいか判断できないので、私が代わりに判断してやる」ということで、子どもを見下しています。
親が子どもと会話しているうちに説教、ダメ出し、叱責をするようになるのもパターナリズムがあるからです。

もしどこかの家庭で親が子どものSNSを禁止したり、スマホを取り上げたりしたら、子どもは親に反発して、親子関係は悪化します。
オーストラリアはそれを国家規模でやったわけです。


「子どもの権利」ということを理解すれば、こんなおかしな法律をつくることはありません。
オーストラリアの若者には、みずからの権利を守るために戦ってほしいものです。

国全体でSNSを禁止したのはオーストラリアが初めてですが、ニュージーランド、ギリシャ、ルーマニア、フランスなどが同様の措置を検討中だそうです。
バカな国はオーストラリアだけにしてほしいものです。

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トランプ政権は9月2日にベネズエラ沖で米軍によって麻薬密輸船とされる船を攻撃し、乗組員11人を殺害しました。
それを皮切りに米軍は中南米海域で20件以上の麻薬密輸船とされる船に対する攻撃を行い、80人以上を殺害したとされます。

麻薬密輸船なら通常は警察か沿岸警備隊が拿捕し、逮捕するものです。
アメリカの法律が適用されないなら、当事国の警察に情報を提供して逮捕してもらうことになります。
船を攻撃して沈没させ、乗組員全員を殺せば、麻薬を積んでいたかもわかりませんし、彼らが犯罪者だったかもわかりません。それに、犯罪者だとしても殺していいことにはなりません。
これはただの殺人事件です。

9月2日の攻撃のとき、船の残骸につかまっている2人の生存者が発見され、2度目の攻撃によって全員が殺害されました。ヘグセス国防長官が「全員殺せ」と命令していたと報道されましたが、のちにヘグセス長官は命令していないと言い、ホワイトハウスのレヴィット報道官は、命令したのはブラッドリー提督だと言いました。また、ヘグセス長官は最初は「全部見ていた」と言っていましたが、あとで「爆発と煙で見えなかった」と言い直しました。
戦時国際法のジュネーヴ条約は、負傷した戦闘員を意図的に攻撃することを禁じ、負傷者らは捕らえて手当てすべきだと定めているので、2度目の攻撃は戦争犯罪に当たる可能性があるそうです。
つまりこれは法的には「戦争」であるようです。

実際にも戦争になりそうです。トランプ大統領は12月3日、「まもなくベネズエラに対して地上での作戦も始める」と述べました。
さらに「誰であれ我々に麻薬を売れば攻撃の対象になる。ベネズエラだけではない」とも述べました。
自分から戦争を始めたのでは、ノーベル平和賞どころではありません。


麻薬の密輸を防ぐための戦争といえばアヘン戦争がありました。当時のイギリスは清国に輸出するものがあまりなく貿易赤字だったので、インドでアヘンを製造し、清国政府が禁止するアヘンを密輸してもうけていたために戦争になったものです。戦争に勝ったイギリスは香港を獲得するなどしました。麻薬密輸でもうけて、戦争でももうけるという、むちゃくちゃな時代でした。

アヘン戦争のときは麻薬密輸をしていたのはイギリスだけでしたが、今のアメリカに麻薬を密輸している国は一国ではありません。
アメリカは昔からコロンビアやメキシコの麻薬犯罪組織と戦ってきましたが、トランプ氏はフェンタニルについてメキシコ、カナダ、中国を名指しして圧力を加えています。
ということは、アメリカ周辺国のほとんどが麻薬密輸国です。
したがって、ベネズエラとの麻薬戦争に勝ってもアメリカへの麻薬密輸が止まるわけではありません。
アメリカは麻薬の大消費地です。高値でも買いたいという消費者がいる限り、供給者が出てくるのは止められません。

麻薬犯罪組織はアメリカ国外にだけあるのではありません。アメリカに密輸された麻薬はアメリカ国内の麻薬犯罪組織が売りさばいているわけです。
アメリカは国内の麻薬犯罪組織をちゃんと取り締まればいいわけですが、それができないので外国のせいにしています。
一般の犯罪も移民のせいにしています。
こうしたアメリカの他責思考が世界を混乱させています。


なぜアメリカは国内の麻薬対策がうまくいかないのでしょうか。
ひとつには麻薬に対する感覚の違いがあると思われます。
アメリカの戦記ものを読んでいると、激戦の戦場での衛生兵の主な役割は負傷兵にモルヒネを打って回ることです。傷の手当よりもまずモルヒネという感じです。
日本軍もモルヒネは持っていましたが、手術のときに使うぐらいで、戦場の負傷兵に打つということはなかったと思います。
アメリカでは医者が患者に容易に痛み止めを処方し、患者のほうもそれを求めるようです。こうした痛み止め薬の総称をオピオイドといいます。
オピオイドの一種にオキシコンチンというのがあり、モルヒネ以上に鎮痛効果があるのですが、依存性があり、過剰摂取で死亡の危険性もあります。製薬会社はそうしたことを知りながらもうけ主義のためにオキシコンチンを売り、医師ももうけ主義のために処方しました。そのため大量の麻薬中毒者が合法的に生み出されたのです。
オキシコンチンが禁止されると、麻薬中毒者はフェンタニルに目をつけました。フェンタニルはモルヒネの100倍の効果を持つとされる鎮痛薬で、今も合法に使われていますし、アメリカ国内の製薬会社でつくられています。薄めて使いやすくしたり、コカインやヘロインに混ぜたりしたものは違法となり、そこが取り締まりのむずかしいところかもしれません。


最終的にはアメリカ人が麻薬を求めることが問題です。
アメリカでは薬物過剰摂取による死者がだいたい年間10万人ぐらいいます。
体に悪いとわかっている薬物になぜ手を出すかというと、PTSDが大きな原因であることがわかっています。
ベトナム戦争でトラウマを負った帰還兵が多く薬物依存症になったことでそのことが知られるようになりました。
トラウマの原因は戦争だけでなく災害や事故などもありますが、いちばん多いのは幼児期に親から虐待されたことです。
PTSDは薬物依存症だけでなく、アルコール依存症、ギャンブル依存症などさまざまな依存症の原因になります。
アメリカは肥満も深刻ですが、肥満は糖質依存症と見なすことができます。

最近は逆境的小児期体験(Adverse Childhood Experiences)、略してACE(エース)といわれる概念が使われるようになっています。
ACEは虐待だけでなく、幼児期における家族の精神疾患、家族の自殺、養護施設での生活なども含まれます。崩壊家庭における苦しい体験といっていいでしょう。
ACEは依存症の原因になるだけでなく、うつ病、糖尿病、心筋梗塞、脳卒中、肺炎、腰痛・頭痛、がんなどになる可能性を高めます。
人間は精密機械のようなものです。幼児期から長期にわたって正しく調整しないと正しく機能しません。

アメリカは先進国なのに平均寿命がきわめて低い国です。

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とくに健康寿命の低さが目立ちます。これはやはりACEが原因ではないでしょうか。

メキシコのオブラドール前大統領はフェンタニルが問題視されることに対して、「アメリカの過剰摂取危機は麻薬の問題よりも家族や道徳的価値観の崩壊に関係している」と主張しましたが、当たっているでしょう。


PTSDやACEは、過去の体験が今に影響しているということですが、未来のことも今に影響しています。
アメリカは薬物依存症だけでなくアルコール依存症による死者も多く、さらに自殺者も多くいます。
ノーベル賞経済学者のアンガス・ディートンとアン・ケースはこれらの死亡を「絶望死」と名づけて『絶望死のアメリカ』という著作で分析しました。
1990年代末から、世界的には死亡率が低下している中でアメリカの中年白人・低学歴層では死亡率が上昇する現象が見られました。その背景には雇用の不安定化、家庭崩壊、社会的孤立があるとされました。黒人などはもっと悪い状況に置かれていますが、改善の方向にあります。白人の低学歴層では悪化の方向にあり、それが絶望を強めているようです。

アメリカでは低学歴で低収入になると、そこから浮かび上がることはきわめて困難です。
日本でも似たようなものかもしれませんが、日本では地道に働く人生にも価値があるという考え方があります。しかし、アメリカではアメリカン・ドリームという言葉があるように、夢をつかんだ人間や高所得層だけが成功者で、成功者でない人間は敗残者と見なされる文化があるような気がします。そうなると、貧困層は現実逃避をするためにドラッグやアルコールにおぼれ、犯罪に走りがちになります。

白人の低学歴層というのは、トランプ氏を支持したラストベルトの白人労働者層と重なります。
彼らはトランプ氏に希望を託しましたが、トランプ氏の政策は富裕層を豊かにするばかりで、低所得層はますますきびしい状況に置かれています。


PTSDやACEはもっぱら心理学的なアプローチによる概念で、絶望死は主に経済的・社会的なアプローチによる概念です。
両方からのアプローチによって、アメリカ社会の根本的な問題は格差社会と家庭崩壊であることが明らかになりました。
しかし、トランプ政権に限らずアメリカの政治は、格差解消の方向に動きそうにありません。
また、保守派はマッチョな男が強権的・暴力的に女子どもを支配するという家庭を肯定しているので、家庭を立て直すことも困難です。
しかし、アメリカ人の健康度を改善し、麻薬依存症を治していくには、地道に格差解消と家庭の立て直しに取り組むしかありません。
麻薬犯罪組織に対して派手な軍事行動をするのは、これもまた現実逃避にほかなりません。

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