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(「週刊文春」1月18日号より)

1月8日、吉本興業は松本人志氏の芸能活動休止を発表しました。
あくまで「活動休止」であって、「活動自粛」でも「謹慎」でもありません。つまり悪いことはしていないというスタンスです。

吉本興業としては、松本氏へのスポンサーや国民の風当たりが強いので、松本氏に謝罪の言葉を述べさせてしばらく謹慎させたかったでしょう。そうすれば半年ぐらいで復帰できるかもしれません。
しかし、松本氏は「謝罪しない人」です(杉田水脈議員もそうです)。これまで謝罪するべき場面でも笑いを混ぜてごまかしてきました。
今回は「自分は悪くない」という態度を貫いていて、活動休止発表と同じ日にXへ「事実無根なので闘いまーす。それも含めてワイドナショー出まーす」と投稿しました。

吉本興業は松本氏の意向を尊重して、「裁判に注力するため」という理由をつけて「活動休止」としました。
裁判といっても実務は全部弁護士がやるので、松本氏は裁判しながら芸能活動をすることは十分に可能です。「裁判に注力するため」というのはあくまで口実です。

週刊文春編集部もその日のうちに「一連の報道には十分に自信を持っており、現在も小誌には情報提供が多数寄せられています。今後も報じるべき事柄があれば、慎重に取材を尽くしたうえで報じてまいります」というコメントを発表しています。
そして、次号に掲載される記事の見出しが明らかになりました。それがこの冒頭に掲げたものです。
それによると、新たに3人の被害女性が証言しています。

これから起きる裁判は、松本氏が名誉棄損で週刊文春を訴えるものになると思われますが、被害女性の証言の信憑性が問題になります。写真や録音の証拠がないのが弱みでしたが、何人もの証言がだいたい一致していれば、それが信憑性を保証することになります。
裁判はどう考えても松本氏が不利です。


松本氏は世の中の変化がまるで見えていなくて、ドン・キホーテのように世の中に向かって突進しています。
Xへの「事実無根なので闘いまーす。それも含めてワイドナショー出まーす」という投稿にも、世間の風は完全に逆風です。「ワイドナショーで後輩芸人相手にしゃべっても意味はない。記者会見をしろ」「フジテレビは公共の電波を一人の男の弁解のために使わせるつもりか」などの声が上がっています。
「事実無根なら記者会見で説明しろ」という声はもっともなもので、松本氏の欺瞞を浮き彫りにしています。

なお、松本氏はXを更新して、「ワイドナショー出演は休業前のファンの皆さん(いないかもしれんが💦)へのご挨拶のため。顔見せ程度ですよ」とトーンダウンしました。
「事実無根」であることをテレビで説明できないのであれば、裁判闘争もまともにできるとは思えません。


松本氏はまた、1月5日にXに「とうとう出たね。。。」というコメントとともにあるLINEの画像を貼り付けました。
その画像は「週刊女性PRIM」が報じたもので、被害女性A子さんが小沢一敬氏に宛てたものとされます。文面は「小沢さん、今日は幻みたいに稀少な会をありがとうございました。会えて嬉しかったです。松本さんも本当に本当に素敵で、●●さんも最後までとても優しくて小沢さんから頂けたご縁に感謝します。もう皆それぞれ帰宅しました ありがとうございました」というものです。
性加害にあった女性がこんなLINEをするはずがないと松本氏は主張したいのでしょう。
しかし、レイプされた被害者が加害者に迎合するのはよくあることです。

伊藤詩織さんが山口敬之氏にレイプされた事件において、伊藤さんはレイプされた日の3日後に山口氏にあてて「山口さん、お疲れ様です。無事ワシントンへ戻られましたでしょうか?VISAのことについてどのような対応を検討していただいているのか案を教えていただけると幸いです」というメールを送っていました。
山口氏はこれを性行為に合意があった証拠だとし、山口氏の応援団もこぞって、「レイプされた人間がこんなメールを送るはずがない。伊藤詩織はうそつきだ」と言い立てました。
しかし、人間の心理として、あまりにも衝撃的な出来事があって、心がそれを受け止められないとき、あたかもそれがなかったかのようにふるまうということがあるものです。これがひどくなると、解離性障害といって、記憶が飛んだり、人格が変わったりします。
東京地裁は2019年12月の判決で、このメールに関して「同意のない性交渉をされた者が、その事実をにわかに受け入れられず、それ以前の日常生活と変わらない振る舞いをすることは十分にあり得る」「メールも、被告と性交渉を行ったという事実を受け入れられず、従前の就職活動に係るやり取りの延長として送られたものとみて不自然ではない」と明快に判断しました。
私はこの判決を見て、ほっとしたのを覚えています。当時の常識からは、このメールがレイプのなかった証拠とされることもありそうだったからです。

当時は伊藤詩織さんへの誹謗中傷が激しく、伊藤さんは日本を脱出してイギリスに移住せざるをえませんでした。
しかし、伊藤さんの奮闘のあと、#MeToo運動が起こり、自衛官の五ノ井里奈さんの告発があり、ジャニー喜多川氏の性加害の被害者が声を上げて、世の中の価値観が変わってきました。
ところが、松本氏はこうした世の中の変化を理解していなかったようです。
松本氏から性加害を受けたという女性が次々と出てきたのは誤算だったでしょう。


松本氏は時代が読めないドン・キホーテであるだけではありません。

松本氏の周りの芸人たちは、この問題に関してほとんどコメントしていません。
12月29日の「ワイドナショー」で、東野幸治氏は「ちょっとびっくりしましたけど」と言い、今田耕司氏は「僕が知ってる松本さん、小沢君がとても言うとは思えないです、記事に書かれているようなコメントを。合コンとかしたこと、何度もありますけど」と言い、あと、ほんこん氏は自分のYouTubeチャンネルで「俺の子を産めとか言うかな?」「俺は相当、(松本氏は)自信があるのではないかなと思いますけどね」と言いましたが、3人とも松本氏と直接話はしていないわけです。
親しい関係なら「文春の記事、ほんまでっか?」と聞いて、その返事をみんなに伝えます。
おそらく松本氏は周りの芸人からも超越的な存在なので、おそれ多くて誰もなにも聞けないのでしょう。


吉本興業の経営陣も同じです。
活動休止を発表した前日、日本テレビ「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!」の放映があり、冒頭でダークスーツ姿の藤原寛吉本興業副社長が「番組を始める前にわたくしのほうから謝罪とお知らせをさせていただきたいと思います」と切り出し、「2023年、弊社所属芸人が皆様に多大なご迷惑、ご心配をおかけしまして、本当に申し訳ございませんでした」と頭を下げましたが、なにについて謝罪しているのかは言いません。
隣の松本氏が「誰のことやねん。いっぱいいるからわからへん」などと突っ込んでいました。

松本氏の性加害問題を笑いにしてごまかすのかと驚きましたが、どうやらこの番組が収録されたのは文春が性加害を報道する以前のことだったようです。ですから、謝罪の対象は“当て逃げ”の藤本敏史氏のことだったと思われます(ほかに浜田雅功氏の“パパ活”などもありました)。
しかし、冒頭場面をカットするか撮り直しすることもできたはずです。そのまま放映したのは、吉本興業はやはり松本氏の性加害問題を笑いでごまかしたかったのでしょう。

吉本興業の岡本昭彦社長も藤原寛副社長も、今は万博催事検討会議共同座長をやっている大崎洋前会長も、みんなダウンタウンのマネージャーだった人です。つまりダウンタウンのマネージャーをやることで出世して経営の中枢に上り詰めたのです。
経営陣と松本氏は一体です。
経営陣も「事実無根」という主張は無理筋だと思っていても、松本氏にはなにも言えないのでしょう。

松本氏はお笑い芸人として圧倒的権威となり、吉本興業においても稼ぎ頭となったことから、誰も意見できない「裸の王様」になりました。


裸の王様はいずれ恥をかくことになりますが、このままでは吉本興業もいっしょに恥をかいてしまいます。
裁判のゆくえ以前に、吉本興業と松本氏の関係に注目です。