シリーズ「横やり人生相談」です。今回もまた家族関係の問題ですが、家族関係の問題については若い人のほうが理解が進んでいるのではないでしょうか。最近は小説や映画やドラマでも、主人公は家族関係の問題を抱えているという設定が多いような気がします。
「自分を好きになりたい」相談者 高校2年生女子
高校2年生、16歳女子です。自分の全部が大嫌いです。
私の父は自尊心が強く、他人を見下し、自分の優越感を満たすことを好む人です。自分が正しいと思ったことは、必ず他人も同調させなければ気の済まない性格で、それがかなわなければ、怒りに我を失うほどです。
それは、生まれてから今日まで父を尊敬し信頼し、疑うことなく育ってきた私の精神にも深く刻み込まれました。
この性格を抑えることなく行動し、失った友情もあります。最近、過去の自分を省み、なんと愚かな発言をしたのかと毎日罪の意識に悩まされました。
それに気付いて以来、私は、流されることなく本来あるべき自分を確立できるように努めています。数少ない友人を尊重し、「ありがとう」「ごめんなさい」を常に心掛け、他人の意見を受け入れ、よい所を見つけるようにしています。
しかし、どうしても根底に残る醜い思いが消えないのです。
他の人より認められたい欲望が先走り、他人に対して自分の我を通してしまうことがあります。今まで性格は簡単に変えられると思ってきましたが、幾多の努力を重ねた今、本当に難しいものだと痛感しています。
他人を見下すことでしか自分を愛せないとしたら悲しすぎます。本当の意味で自分を好きになるには、どのような努力が必要でしょうか。(朝日新聞「悩みのるつぼ」2011年11月12日)
この人生相談の回答者は、作家の車谷長吉さんです。
車谷さんは、よい友だちをつくる努力をしてくださいとアドバイスします。よい友だちがいたら自分が好きになれるかもしれませんし、あなたに恋する少年がいたら自分も変わらざるをえないでしょう、というわけです。
なるほど、これはよい方法のようです。ですから、人生相談の回答としてはいいのですが、私の立場からすると不満があります。そのことを書いてみます。
車谷さんは相談者の父親についていっさい言及していません。回答文に「父」という言葉が一度も出てこないのです。
しかし、相談者は相談の2行目で父のことを書いています。相談者は、自分で自分が大嫌いなのは父が原因であるに違いないと推測しているのでしょう。ですから、そこに焦点を当てた回答が必要ではないかと思うのです。
子どもが親の影響を受けるのは当たり前です。とくに幼児期に受けた影響は、インプリンティングといってもいいぐらいに心に深く刻まれてしまいます。相談者が「それは、生まれてから今日まで父を尊敬し信頼し、疑うことなく育ってきた私の精神にも深く刻み込まれました」と書いている通りです。
ちなみに私の父親も、他人を見下し、自分の優越感を満たすことを好む人でした。ただ、そんなに激しい性格ではなく、ネチネチと言うタイプです。
もちろん私も父親の影響を受けています。もしかしてこのブログも父親がネチネチと言っていたみたいな……いや、そんなことはありません。内容がぜんぜん違います。
ともかく、私も相談者と似たような境遇だったので、自分自身の経験からアドバイスできることがあると思います。
この相談者は父親の姿を的確にとらえているようです。ですから、問題は半分解決しているといっても過言ではありません。
これから相談者がするべきことは、まず心の中で父親を思いっきり軽蔑することです。それによって、現在いっしょに暮らしている父親の影響を受けないようにするのです(もしかして、自分の親を軽蔑しろなどと若い人にアドバイスするのは私ぐらいかもしれませんが、それはほかの人がみな間違っているからです)。
それから、自分の幼児期を回想し、父の言動や父との関わりをひとつひとつ思い出して、それを心の中で否定していくという作業をしなければなりません。いわばインプリンティングをクリーンアップする作業です。
これはけっこう時間がかかりますが、気長にやらなければなりません。やればやっただけ効果があります。
こうして父親と自分の人格を切り離し、自分が父親の上にくるようにします。
自分が親より人間的に向上すれば、人類はほんのわずかとはいえ向上することになります。みんながこのようにして親を軽蔑し、親より人間的に向上すれば、人類は大きく向上することになります。
世の中には、親を尊敬しているという人がいっぱいいます。
もちろん親に尊敬する部分はあるでしょう。しかし、完璧な人間はいませんから、必ず軽蔑するべき部分もあるはずです。その部分をきちんと軽蔑しないと、その軽蔑すべき部分を自分が受け継いでしまうことになります。
これでは人類の向上はありません。
親に軽蔑するべき部分を見いだし、親より向上した人間になる。これが人間としての正しい生き方です。
ところで、親を軽蔑して、親と喧嘩する人がいますが、これはよくありません。自分も精神的なダメージを受けてしまいます。
親を軽蔑して乗り越えるという作業は心の中だけで行えばいいのです。

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