日本政府は韓国政府に対して、竹島の領有権問題を国際司法裁判所に共同で提訴するように求めています。ということは、中国政府が尖閣諸島の領有権問題を国際司法裁判所に提訴するよう求めてきたら、日本政府は受けるのでしょうか。
こんなことを書くと、「竹島と尖閣はぜんぜん違うだろ!」などと怒ってくる人が出てきそうです。
週刊文春と週刊新潮の見出しを見ると、激しい煽り文句が並んでいます。
 
「『野田総理』尖閣に立つべし」
「馬鹿の一つ覚え『大人の対応』で日本外交は負け続けた」
「驕れる韓国・中国をしめ上げろ!」
「経済制裁発動で中国韓国を“兵糧攻め”にせよ」
 
領土問題は週刊誌にとって優良コンテンツであるようです。
しかし、こんなことで頭に血をのぼらせても、興奮するだけ損というものです。日本がなにをやっても、中国が「尖閣は諦めました」とか韓国が「独島は差し上げます」とか言うわけがありません。
石原慎太郎都知事は、都が尖閣の土地を購入すれば中国が領有権を諦めるとでも思ったのでしょうか。
 
将棋の世界では初心者に“3手の読み”ということを教えます。自分が次にどう指すかを考えるだけでなく、自分の手に対して相手がどう指すかを考え、それに対する自分の手まで考えなさいということです。初心者というのは往々にして相手の立場に立って考えることができないので、それを戒める教えです。“3手の読み”ができれば、あとは経験を積むうちに10手でも100手でも読めるようになるというわけです。
 
石原知事を初め日本人の外交感覚は“3手の読み”以前の段階にあるようです。
 
ともかく、尖閣や竹島で興奮するエネルギーと時間があるのなら、ほかのことに振り向けるべきです。
というわけで、ここでは領土問題でヒートアップした頭をクールダウンさせることを考えましょう。
有識者や新聞の論説委員なども「冷静な対応」を呼びかけていますが、「冷静になれ」と言われても冷静になれるものではありません。それなりのやり方が必要です。
 
 
人間は平原において集団で狩りをするサルです。狩猟採集生活をしていたころ、人間は50人から250人くらいまでの群れをつくっていたと考えられ、群れ単位でなわばりを維持していました。なわばりの維持のために群れと群れの闘争も当然ありました。
現代人もそのころの人間と生物学的にはほとんど変わりません。ある生物学者は「現代人はラップトップを持った原始人だ」と表現しています。ですから、なわばりのために闘う本能は同じように持っているはずです。
 
なわばりの大きさは、狩猟の単位から戦争の単位となり、今は国家が戦争の単位です。
現在、尖閣や竹島の問題で頭に血がのぼるのは、基本的にはその本能のゆえです。
たいていの人は、人間は動物よりも上等だと思っています。自分の感情が動物的本能に基づくものだと思ったら、その感情もおのずと冷めるのではないでしょうか。
 
また、人間は序列を持つサルです。序列によって狩猟の連携が決まり、獲物の分配も序列によります。これはオオカミニに似ていると思われます。人間もオオカミも平原において集団で狩りをする動物です。ですから、人間は1万5000年以上も前にオオカミを飼い慣らして狩猟の手伝いをさせたのです。
人間は序列本能を持っているので、周りの人間との上下関係に敏感です。上司と部下、先輩と後輩の関係によって行動はまったく違ってきますし、初対面の相手とはどちらが格上かを素早く判断する能力を持っています(現実には名刺によって判断することが多いですが)
 
人間はまた、国家と国家の関係も序列本能によって判断すると思われます。
そのため日本人は、日本と中国との関係について、ひじょうに感情的になります。つまりこれまで日本人は中国を格下の国と思ってきたのですが、GDPで抜かれたころから中国が格上の国になってきました。国際社会もそう認識しているのですが、日本人としてはすぐに認識を切り替えることができず、なんとかして中国を格下の国と見なしたいという感情があるわけです。
そのため尖閣の問題についてもひじょうに感情的になってしまいます。
 
私の考えとしては、中国は日本よりも経済力はもちろん政治力外交力でも格上の国です。はっきりいって日本はぜんぜん太刀打ちできません。中国は民主主義国ではありませんが、10年単位で次の指導者を育成しており、毎年のように首相が変わる日本と政治力でまったく違いますし、国際社会での存在感も日本の比ではありません。日本人は「中国経済はもうすぐ崩壊する」などという幻想は捨てて、日本は中国の格下と認めてしまえば、尖閣問題についてもそれほど興奮することはなくなると思われます。
 
ちなみに韓国はまだまだ日本よりも格下です。
考えてみれば韓国という国は気の毒です。周りは中国、日本、アメリカ、ロシアという大国ばかりで、しかも自分は北朝鮮という荷物をかかえています。やたら他国の文化を韓国起源だと主張したりするのも、コンプレックスの裏返しでしょう。また、竹島問題や従軍慰安婦問題は、韓国が日本に対して優位に立てる数少いネタです。
そういうことを理解すれば、韓国に対してそれほど感情的になることもなくなると思われます。
 
日本において嫌韓や反韓を叫ぶ人は、もしかして韓国を日本と同等に近い国と見なしているのではないでしょうか。あるいは、日本という国をひじょうに卑下しているのかもしれません。
 
また、北朝鮮は日本よりも超格下の国ですが、核兵器を保有したという点では日本よりも優位で、しかもこの優位はあらゆることを凌駕するかもしれません。そのため、日本人は北朝鮮にどう対処していいかわからなくなっています。たとえば、8月29日から日朝協議が行われる予定で、拉致問題などの点からも日本にとっては重要な協議ですが、今のところ誰も話題にしません。
 
 ともかく、領土問題で興奮するのは動物的本能からきているのだと考えると、それだけである程度冷静になれますし、国と国の関係もよく見えてくるのではないでしょうか。