11月8日の報道ステーションで、ほめれば学習効果がアップするということが科学的に立証されたということを言っていました。しかし、この実験はかなりへんです。ほめられたグループと、ほめられなかった(ほとんど無視された)グループの比較しかしていないからです。ほめられたグループと叱られたグループを比較しないと意味がないのではないでしょうか。
「ほめれば上達」実験で証明
人体の生命活動を解明する国の研究機関である生理学研究所が、「ほめられると学んだことをより忘れにくくなることが証明された」と発表した。生理学研究所の実験チームは、右利きの成人男女48人を対象に、左手でパソコンのキーボードを早く、そして正確に入力するトレーニングをさせた。その直後、48人を「トレーニングの成績にかかわらずほめる」「他人がほめられている映像を見る」「自分の成績を示したグラフだけを見る」という3つのグループに分けた。そして、翌日に再び同じ作業をしたところ、ほめられたグループは前日よりも約20%多く入力できた一方、ほかのグループは約14%にとどまっていたという。
この実験結果は、報道ステーションでしか報道されていません。ほかのメディアはこの実験のおかしさに気づいていたので、報道しなかったのではないかと思われます。
また、10月20日のNHKEテレで「すくすく子育て『子どものほめ方』」という番組をやっていました。
番組の最初に、ある夫婦が3歳ぐらいの子どもがなにかするたびに大げさにほめているVTRが紹介され、それを材料に専門家を交えて話が進められます。
子育て中の夫婦5組が視聴者参加という形でその番組に出ていたのですが、司会者に聞かれると全員が同じようにほめていると答えていました。そういう夫婦を番組に集めたと言ってしまえばそれまでですが、「ほめて伸ばす」という考えが相当広く受け入れられているということでもあるでしょう。
ところが、その番組に出ていた2人の専門家は、大げさにほめることには否定的です。「下心が見えるようなほめ方はよくない」とか「お父さんお母さんにとってつごうのよいことをしたときにほめられるということを学習してしまう」といったことを言っていました。
確かにわざとらしい感じのほめ方はよくないでしょう。それでは親子關係がほんとうの人間関係にならないはずです。
それにしても、子育てに限らず、社員教育やスポーツのコーチングでも、ほめることのたいせつさが強調されます。なぜほめることのたいせつさが強調されるかというと、おそらくみんな叱りすぎているからです。
子育て中のお母さんで、毎日子どもを叱ってばかりで、叱り疲れして、お母さん自身が悩んでいるという話もよくあります。
ほめることと叱ることはワンセットで、要するにアメとムチにたとえられます。
人を自分の思う通りに動かそうとするとき、相手を説得するという方法もありますが、それは時間がかかりますし、相手がこちらの考えに同調してくれるとは限りません。それよりはアメとムチで動かすことが手っ取り早い方法です。
とくに相手が小さい子どもだと、説得するにも相手に理解力がありませんから、アメとムチでやるしかないのが実情です。
アメとムチをバランスよく、適切に使い分けるのがよいはずですが、なかなかそうはいきません。どうしてもムチに頼りがちになります。
その理由は簡単です。アメよりもムチのほうが効果的だからです。
アメがほしいのはがまんすることができますが、ムチの痛みはなかなかがまんできません。とくにムチには即効性があります。
たとえば子どもがうるさくしているとき、「いい子だから静かにしてね」とやさしく話しかけるよりは、「うるさい!」と叱りつけたほうが簡単で効果的です。そのため誰もがほめるよりも叱ることに傾きがちです。
そして、主に叱られて育った子どもは、自分が親になると同じように子どもを叱ります。いや、さらに叱るほうに傾きます。つまり世代を経るごとにほめるよりも叱るほうに傾いていくのです。
そうして今では、親は子どもを叱りすぎて、自分でも理不尽だと思いながら止められないというような状態に陥っています。これに暴力が伴うと虐待ということになります(実際は暴力が伴わなくても精神的虐待です)。
このような“叱りすぎ社会”だからこそ、ほめることのたいせつさが強調されるというわけです。
ところで、そもそも子育てにアメとムチはほんとうに必要なのでしょうか。
たとえば企業ではセールスマンの成績を向上させるために、成績が悪いと叱り、成績優秀者には特別の褒美を出すというようにアメとムチが使われていますが、これは会社の利益のために行われているわけです。
子育てでアメとムチを使うのは、子どものためだということになっています。つまり、子どもを善悪の判断ができる人間にするためだということです。
しかし、アメとムチで操作されてきた人間が自分で善悪を判断できるようになるでしょうか。
アメとムチで人間を操作することは、決してその人間のためではなく、操作する側の利益のために行われているのが実態ではないでしょうか。
NHKEテレの「すくすく子育て『子どものほめ方』」でも、専門家は「ほめる」ことよりも「大好き」と伝えることがたいせつだと言っていました。
親が子をアメとムチで操作すること自体が悲しいことです。
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