安倍晋三自民党総裁が絶好調です。もっと金融緩和を行うべしと発言すると金融株や不動産株が上がり、脱原発は無責任と発言すると電力株が上がり、自民党の200兆円の国土強靭化計画への期待で建設株が上がっています。
しかし、どれも目先の利益を追求するだけの話です。今以上の金融緩和がほんとうに経済にプラスになるかはよくわかりませんし、原発の稼働は電力会社の経営にはプラスでしょうが、たまる一方の放射性廃棄物は未来への負の遺産となります。
10年間で200兆円を投資するという国土強靭化計画にしても、自民党は従来型の公共事業とは違うと主張していますが、どう違うのかよくわかりません。昔、自民党の公共事業は、地方活性化のためといわれ、また景気回復のためといわれましたが、今回は防災のためと名目が変わっただけとしか思えません。
公共事業で景気を回復させれば税収が増えるのでむしろ財政赤字はへるという理屈がありますが、この20年余り、その理屈通りにいったことはありません。小渕首相は公共事業を推し進めて「日本一の借金王」と自嘲し、森内閣もその政策を引き継ぎましたが、財政赤字が増えるばかりで、結局小泉内閣によって公共事業をへらす方向に転換しました。
自分たちの世代で電気やお金を存分に使い、放射性廃棄物や財政赤字は次の世代に負担させる。こういう政策が現実になりそうです。
安倍総裁は教育改革にも熱心で、自民党は教育分野に関する公約案をまとめました。
教科書検定を抜本改革 自民の教育公約案、強い保守色
自民党の教育分野に関する公約案が明らかになった。教育委員会の責任者を首長が任命する常勤にするほか、教科書の検定基準でアジア諸国との歴史的関係に配慮する「近隣諸国条項」を見直す。安倍晋三総裁主導の保守色の強い内容で、21日に正式決定する。
「教育再生実行本部」(本部長=下村博文元官房副長官)がとりまとめ、16日に安倍氏に提出した。
個々の学力に応じて留年や飛び級を選べるようにし、大学の秋入学も促す。自虐史観や偏向した記述が多いとして、「子供たちが日本の伝統文化に誇りを持てる教科書で学べるよう」にすることを目的に、教科書検定基準を抜本的に改革することも打ち出す。
いじめ問題などで対応の遅れが指摘された教育委員会の改革策として、自治体首長が議会の同意を得て任命する常勤の教育長を教育委の責任者と位置づけ、責任の所在を明確化。「いじめ防止対策基本法」を制定し、自治体のいじめ防止策に国が財政面で支援する仕組みを作る。
そのほか、年間何度も挑戦できる達成度テストの大学入試への採用なども盛り込んだ。
この案の中で子どものためになりそうなのは、留年や飛び級を選べるようにすることぐらいでしょうか。
「日本の伝統文化に誇りを持てる教科書で学べるようにする」なんて、子どもにとっては大きなお世話です。なにに誇りを持つかは自分で決めることです。
「『近隣諸国条項』を見直す」なんていうのも、子どもにとってはどうでもいいことです。
おとなだけで教育を論じているから、どうしても「おとなにとって都合のいい子どもをつくる教育」になってしまいます。ほんとうならまず子どもにアンケートを取って、それをベースに議論していかなくてはいけません。
今の消費社会では、各メーカーは消費者のニーズに合った商品を提供しようと努力していますが、たとえば社会主義体制やなにかの配給制度のもとだとすると、各メーカーがそんな努力をするでしょうか。今の教育制度は、社会主義体制みたいに上から指導するというもので、子どもや保護者のニーズはそっちのけになっています。
教育改革をするのなら、あるいはほんとうにイジメ防止をしようと思うなら、「子どもが毎日楽しく通える学校づくり」を目標にするしかないと私は思います。
経済政策や教育改革が若い世代を無視したものになっているのは、前回の「『選挙権の世代間格差』にも注目を」というエントリーで書いたように、少子高齢化で世代構成がいびつになっている上に、20歳未満の若者に選挙権が認められていないからです。
「高齢者のやりたい放題」になっているのが今の世の中です。
いや、もともとは上の世代にも下の世代を思いやる気持ちがあったのですが、日本ではその気持ちがどんどん失われています。子どもが普通に遊んでいるだけでうるさいと苦情が出る時代です。
今回の総選挙における隠れた争点は「おとな対若者」という世代対立だと思います。「目先の利益を追い求める政治」か「未来の利益を考える政治」か、「子どもをおとなのつごうに合わせる教育」か「子どもを幸せにする教育」かが問われています。
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