参院選の期日前投票が行われていますが、職員が間違った投票用紙を渡したために投票が無効になるというニュースがありました。選挙のたびにこうしたニュースがあり、頭の中を素通りしていくのですが、今回のこの記事には引っかかってしまいました。
 
 
期日前投票で用紙交付ミス
新潟市選管、9人の投票無効の見込み
 
 新潟市選挙管理委員会は6日、中央区役所東出張所(蒲原町)で同日、参院選の期日前投票をした有権者9人に、選挙区と比例代表の投票用紙を間違えて手渡すミスがあったと発表した。9人は比例代表の用紙に選挙区の候補者名を、選挙区の用紙に比例代表の候補者名などを記入したとみられ、投票は無効になる見込み。
 
 市選管によると、期日前投票は選挙区を投票した後に、比例代表の用紙を手渡す仕組み。用紙を1枚ずつ取り出す機械が選挙区用と比例代表用に2台あり、臨時職員が用紙を入れ間違った。
 
 投票が始まった午前8時半から午前9時半ごろまでに、誤った用紙を受け取った男性6人、女性3人が投票した。有権者からの指摘を受け、ミスが発覚した。
 
 用紙は選挙区が黄色、比例代表が白の用紙で識別できるようになっている。当時、東出張所の投票所には正職員1人と臨時職員4人が勤務し、マニュアルに基づき複数の職員で入れ間違いがないか確認したが、気付かなかった。
 
 公職選挙法では、有権者1人が投票できるのは1票に限ると規定されており、投票用紙の再交付はできない。中央区選管は投票者の自宅を回って説明し、謝罪した。
 
 市選管の委員長は「有権者の一票の権利を無効にしてしまい、心からおわびします」とコメント。再発防止に向け、複数の職員によるチェックを徹底するとしている。
 
 
この記事のなにに引っかかったかというと、「公職選挙法では、有権者1人が投票できるのは1票に限ると規定されており、投票用紙の再交付はできない」というところです。
この規定によって投票が無効になるということのようですが、役人のミスで有権者が権利を行使できないということがあっていいはずありません。これはなにかがおかしいと思いました。
 
ところで、神奈川県でも同じようなミスがあって、それはこんな記事になっています。
 
 
2013参院選:あすのかたち 投票用紙誤交付 6人分無効の可能性−−山北 /神奈川
 毎日新聞 20130707日 地方版
 
 山北町選挙管理委員会は6日、同町役場1階の参院選期日前投票所で、有権者2家族6人に対し、比例代表と選挙区の投票用紙を誤って逆に交付したと発表した。6人は比例代表で全員が、選挙区でうち4人が誤った用紙で投票し、これらの投票は無効になる可能性があるという。
 
 同選管によると、比例代表の用紙に選挙区候補者名、選挙区用紙に比例代表の政党名簿登載者名か名簿届け出政党名を記載して投票した場合は無効となる。2家族目の1人が用紙の誤りに気がついた。選管は開票日の21日に判断するが、無効になる可能性が高いという。【澤晴夫】
 
 
こっちの記事だけ読んでいたら、たぶん頭の中をすり抜けていったでしょう。というのは、投票が無効になる根拠がとくに示されていないからです。
前の記事は、なまじ公職選挙法を持ち出したために引っかかってしまいました。
 
選挙権というのは国民にとって、神聖とはいわないまでもきわめて重要な権利です。役人のミスによって奪われていいはずがありません。
しかも、その権利が奪われる根拠に法律が持ち出されるというのもおかしなことです。
そこで、公職選挙法を確かめてみました。
 
公職選挙法
 第六章 投票
 
(選挙の方法)
第三十五条 選挙は、投票により行う。
 
(一人一票)
第三十六条 投票は、各選挙につき、一人一票に限る。ただし、衆議院議員の選挙については小選挙区選出議員及び比例代表選出議員ごとに、参議院議員の選挙については選挙区選出議員及び比例代表選出議員ごとに一人一票とする。
 
一人一票なのは当たり前のことですし、選挙区と比例区がある場合は一人二票になるのも当たり前のことです。
「一人一票に限る」と書いてありますが、その一票が無効であれば、再投票するのは当然の理屈です。この条文から、再投票してはいけないということは読み取れません。
 
本当なら用紙が違っても、その投票を有効とすればいいのですが、それについてはこんな規定がありました。
 
(無効投票)
第六十八条  衆議院(比例代表選出)議員又は参議院(比例代表選出)議員の選挙以外の選挙の投票については、次の各号のいずれかに該当するものは、無効とする。
一  所定の用紙を用いないもの
 
2  衆議院(比例代表選出)議員の選挙の投票については、次の各号のいずれかに該当するものは、無効とする。
一  所定の用紙を用いないもの
 
3  参議院(比例代表選出)議員の選挙の投票については、次の各号のいずれかに該当するものは、無効とする。
一  所定の用紙を用いないもの

これでは無効にせざるをえないかもしれません。
しかし、一度の投票が無効であれば、二度目の投票が認められていいはずです。
というか、有権者には再投票する権利があるはずです(もし公職選挙法やなにかの法律で再投票が禁じられているとすれば、その法律は違憲になるはずです)。
 
おそらく役所が再投票を認めたくないのは、「前例がない」「作業が面倒だ」というお役所的発想からではないでしょうか。
そして、その根底にあるのは、国民の投票権に対する軽視です。
 
そもそも期日前投票制度が実施されたのは2003年からです。それまでは、投票日に投票に行けない人は不在者投票をするしかありませんでしたが、不在者投票の際には不在事由を書面ないしは口頭で説明しなければなりません。つまり、投票権を行使するというより、不在者投票を役所に認めていただくという形になっていました。そのため不愉快な思いをしたという人も少なくなかったようです。
 
役所が国民の投票権を軽視しているから、役所のミスによって国民の投票権が奪われるなどということがまかり通っているのです。
 
そして、もうひとつの問題は、マスコミがそのことにまったく無批判であることです。
 
今年の3月、成年後見人がついた者は選挙権を失うという公職選挙法の規定は違憲だとする東京地裁の判決があり、マスコミはこのことをかなり大きく取り上げました(政府は一旦控訴しましたが、のちに取り下げて判決が確定)
大きく取り上げたのは、選挙権のたいせつさがわかっているからでしょう。
 
ところが、その同じマスコミが、役所のミスによって選挙権が奪われるという事態にはまったく無批判です。
なぜその投票が無効になるのかについて納得のいく説明のない記事を書いています。おそらく役所の発表のままに書いているのでしょう。
新聞記者は、役所の発表のとき、「役所のミスで投票が無効になるのはおかしいのではないか」「再投票はどうしてできないのか」などと質問はしているのでしょうか。
 
私も今回初めて疑問を持ったので、あまり偉そうなことはいえませんが、役所のミスによって投票権が奪われるということが当たり前のように報道されているのは、マスコミが役所と癒着して国民を軽視していることの現れではないかと思います。