自民党は6月13日、公明党に対し、集団的自衛権行使容認のための新しい前提条件を示しました。
その条件のひとつが「他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるおそれがあること」というものです。
 
私が思い出したのは、満州事変当時の「滿蒙は日本の生命線」という言葉です。
「中東の石油は日本の生命線」という言葉をつくれば、日本は中東にも自衛隊を派遣して戦争ができることになります。
 
公明党は「平和の党」だからということで、公明党の抵抗に期待する人もいるようですが、公明党は「平和の党」よりも「連立を維持したい党」なので、私は最初から期待していませんでした。
 
安倍政権にブレーキをかけるものがあるとすれば、それは世論だと思っていました。世論が圧倒的に集団的自衛権行使容認に反対であれば、安倍政権も考え直すのではないかと期待したのです。
 
しかし、世論の盛り上がりは今一歩です。
その理由のひとつは、読売新聞が集団的自衛権行使容認の立場から、強力に世論をリードしようとしているからではないかと思われます。
たとえば、安倍首相は5月15日の記者会見で、日本人を輸送するアメリカの軍艦を自衛隊が救助要請を受けて守るというありえない例を挙げましたが、これについて読売新聞は世論調査を実施し、一面トップにデカデカと『米艦防護「賛成」75%』という見出しを掲げました。
ありえない例について世論調査をするというのはどうかと思いますし、日本一の大新聞が集団的自衛権容認のムードをあおっている影響はかなり大きいはずです。
 
ちなみに読売新聞の世論調査についての疑念を書いているニュースサイトはこちら。
 
集団的自衛権 「読売」世論調査への疑念 
 
公明党も世論も頼りにならないとすると、集団的自衛権行使容認の閣議決定を阻止するのは困難なようです。
そこで、閣議決定が行われたあとどうなるのかということをこのごろ考えています。
 
「朝鮮半島有事」の際に自衛隊の参戦があるのかどうかですが、そもそも「朝鮮半島有事」の可能性があまりありません。
北朝鮮軍の実力からして、北朝鮮から開戦するということは考えにくいですし、たとえあったところで、北朝鮮軍がどんどん南下して、大量の難民が発生するということも考えられません(ですから、安倍首相の挙げた例も考えられないのです)
ただ、北朝鮮軍の長距離砲とロケット砲はソウルを射程に収めており、それによって「ソウルを火の海にする」(北朝鮮高官発言)ことは可能です。つまり、これが北朝鮮にとっての抑止力になっていて、米軍と韓国軍から北朝鮮を攻撃するということもありえません。
 
北朝鮮の体制が崩壊して混乱が発生するということはあるかもしれませんが、その場合、自衛隊が出動して北朝鮮の治安維持に当たるというようなことは韓国が拒否するはずです。
 
そんなことを考えると、「朝鮮半島有事」に自衛隊が出動する可能性はほとんどなさそうです。
 
では、中東でアメリカが戦争するときに日本に参加要請がくるということはどうでしょうか。
 
現在、イラクではスンニ派過激派組織「イラクとレバントのイスラム国(ISIL)」がファルージャ、モスル、ティクリートなどの都市を掌握し、バグダッドへ進撃する勢いとなっています。これに対してオバマ大統領は、空爆は検討しているようですが、地上軍の派遣はまったく考慮していません。
アメリカはアフガン戦争とイラク戦争をやって、得たものはなにもなく、そのためアメリカ国民は厭戦気分に陥っていますから、当面、日本にも協力を要請するような大規模な戦争をするとは思えません。
 
とすると、国連のPKO活動に参加して、戦闘場面に遭遇することを狙わなければなりませんが、そんなおあつらえ向きの危険なPKO活動はそうそうあるものではありません(その前にPKO協力法を変更する必要がありますが)
 
つまり、集団的自衛権行使容認を閣議決定して、それに合わせて国内法を整備しても、開店したものの注文のこないデリバリーサービスのピザ店みたいなことになるのではないかと思われます。
 
もともと集団的自衛権行使の問題は、湾岸戦争のとき金だけ出してアメリカから評価されなかったことがトラウマになった外務官僚に、なにがなんでも戦争がしたい安倍首相らが乗っかって持ち出されたものです。現在の国際情勢に合わせたものではないので、注文のこないピザ店になっても当然です。
 
しかし、アメリカではオバマ大統領を“弱腰”と批判する声もあります。何年かたてばこうした声が優勢になり、またブッシュ大統領みたいなおかしな大統領が出現して、アメリカは戦争を始めるかもしれません。
もしそうなれば、日本は参戦の要請を断るのは容易ではありません。これまでは「憲法があるのでできません」と言って断ればよかったのですが、これからは「できますが、今回はやりません」と言って断らなければならず、それでは日米関係にヒビが入ります。
 
そうならないように、早く政権交代を実現させて、「解釈改憲の解釈し直し」をやらなければなりません。
安倍首相の戦争観は一般国民のものとずれているので、第二次安倍政権の時代をみんなが「おかしな時代があったなあ」と回顧するときがきても不思議ではないと私は思っています。