麻生太郎財務相が内部留保をふやす企業を「守銭奴」といって批判したことが波紋を呼んでいます。
麻生大臣においては毎度おなじみの失言ですが、これはアベノミクスの成否ともつながっている問題です。
 
内部留保は「守銭奴」…麻生氏、賀詞交歓会で
 麻生副総理・財務相は5日、東京都内で開かれた信託協会の賀詞交歓会であいさつし、企業が手元にためる内部留保(利益剰余金)が増えていることについて、「まだお金をためたいなんて、単なる守銭奴に過ぎない」と述べた。
 
 麻生氏はこれまでも、黒字企業が積極的に設備投資や賃上げをしていないと批判してきたが、「守銭奴発言」で波紋が広がりそうだ。
 
 麻生氏は「内部留保は昨年9月までの1年で304兆円から328兆円に増えた。毎月2兆円ずつたまった計算だ」と指摘。「その金を使って、何をするかを考えるのが当たり前だ。今の日本企業は間違いなくおかしい」と強調した。
 
 一方、経団連の榊原定征さだゆき会長は、5日に都内で開かれた連合の賀詞交歓会に歴代の経団連会長として初めて出席し、「賃金の引き上げに向けて最大限の努力をしていきたい」とあいさつした。今後、経済界がどれだけ「本気度」を示せるかが注目される。
 
お金をためこんでいる企業を批判する声は、麻生大臣に限らずこれまでもありました。ですから、麻生大臣の発言を擁護する意見もあります。
 
しかし、「守銭奴」という言葉はやはり問題でしょう。これは道徳的非難の言葉だからです。
 
経済の世界に道徳を持ち込んではいけません。
 
もし麻生大臣の「守銭奴」発言が認められるなら、次は資産を持っている高齢者も「守銭奴」と非難されるようになるでしょう。
あるいは、工場を海外に移転させた企業をなぜ「売国企業」といって非難しないのかということにもなります。
 
このように経済の世界に道徳を持ち込むと、わけのわからないことになってしまいます。
 
経済の世界に精神主義を持ち込むのも同じです。
不景気が続くと、「景気は気から」などといって、「みんなが悲観主義に陥っているから景気がよくならないのだ。もっと元気を出そう」などという声が出てきますが、そんなことで景気がよくなるなら経済政策などいらないことになります。
 
ところが、麻生大臣だけでなく、安倍首相も同じようなことを言っています。
 
安倍首相の年頭所感は、あまりマスコミに取り上げられませんでした。内容がどうでもいいものだったからでしょう。その後半の部分だけ引用します。
 
安倍内閣総理大臣 平成27年 年頭所感
(前略)
 「なせば成る」。
 
上杉鷹山のこの言葉を、東洋の魔女と呼ばれた日本女子バレーボールチームを、東京オリンピックで金メダルへと導いた、大松監督は、好んで使い、著書のタイトルとしました。半世紀前、大変なベストセラーとなった本です。
 
 戦後の焼け野原の中から、日本人は、敢然と立ちあがりました。東京オリンピックを成功させ、日本は世界の中心で活躍できると、自信を取り戻しつつあった時代。大松監督の気迫に満ちた言葉は、当時の日本人たちの心を大いに奮い立たせたに違いありません。
 
 そして、先人たちは、高度経済成長を成し遂げ、日本は世界に冠たる国となりました。当時の日本人に出来て、今の日本人に出来ない訳はありません。
 
国民の皆様とともに、日本を、再び、世界の中心で輝く国としていく。その決意を、新年にあたって、新たにしております。
 
 最後に、国民の皆様の一層の御理解と御支援をお願い申し上げるとともに、本年が、皆様一人ひとりにとって、実り多き素晴らしい一年となりますよう、心よりお祈り申し上げます。
 
平成27年1月1日
 内閣総理大臣 安倍晋三
 
 
今さら「なせば成る」という言葉を持ち出したのにはあきれます(省略した前半にも「改革断行の一年」「アベノミクスをさらに進化」「成長戦略を果断に実行」といった抽象的な言葉しかありません)
 
安倍首相はまた、経済団体の新年祝賀パーティでこんなことも言っています。
  
安倍首相「楽観主義が必要」=ゴルフ成績引き合いに
 「私たちが必要としているのは楽観主義だ。きょうよりあす、今年より来年、間違いなく良くなっていく日本をつくっていきたい」。安倍晋三首相は6日、経済3団体共催の新年祝賀パーティーで、年始の2回のゴルフでスコアが好転したことを引き合いに、楽観主義の意義を説いてみせた。
  首相は3日に経団連の榊原定征会長らと、4日は富士フイルムホールディングスの古森重隆会長夫妻らとゴルフを楽しんだ。自身のスコアについて、首相は「(初日は)すごく立派ではなかったが、(2日目は)2打改善した。『たった2打』と考えずに、たった1日で2打も改善したと思うことが今年のテーマではないか」と話し、会場の笑いを誘っていた。
  
こういう精神主義が持ち出されるのは、現実がうまくいっていないときです。日本軍がアメリカ軍に戦力的に対抗できなくなるとどんどん精神主義に傾斜していったのがいい例です。
 
安倍首相や麻生大臣の言葉を見ると、ご本人たちも(半ば無意識に)アベノミクスがだめだと自覚しているようです。