訪米中のローマ法王が米議会で演説しました。比較してはいけないかもしれませんが、安倍首相の米議会での演説とは大違いです。
 
 
<ローマ法王>神や宗教の名の下の紛争増加…米議会で演説
 
【ワシントン和田浩明】米国訪問中のフランシスコ・ローマ法王は24日、ローマ法王として初めて米連邦議会上下両院合同会議での演説を行った。法王は人類の「共通の責任」に繰り返し言及し、紛争を悪化させる武器取引の禁止や、難民や移民の保護、貧困者の支援や地球環境の保護などへの取り組みを呼びかけた。
 
  法王は下院本会議場で英語で演説。奴隷解放宣言を行ったリンカーン大統領や人種差別と闘ったキング牧師など米国の歴史的人物に言及しながら「正義と平和」の追求の重要性を説いた。「神や宗教の名の下に犯される紛争、憎しみ、残虐行為が増えている」と原理主義に注意を呼びかけ、「善悪、敵味方と分ける単純な思考」に身を委ねるな、と訴えた。
 
  法王は、世界各地で続く武力紛争終結のためにも武器取引の禁止が必要だと指摘。こうした取引で得られる資金は「罪のない人々の血に浸っている」と述べ、問題に関し「恥ずべき、犯罪的な沈黙」が続いていると批判した。また世界的な死刑廃止を呼びかけた。
 
  さらに米国への欧州からの入植者が現地住民多数を殺害し土地を奪った歴史に間接的に言及。「過去の過ちを繰り返してはならない」として、移民受け入れに関し柔軟な対応を求めた。
 
  欧州に押し寄せている難民については、「人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい」と聖書から引用して人道的対応を求めた。
 
  米国では2016年の大統領選挙を控え、人工妊娠中絶問題への候補者の態度に注目が集まっているが、法王は「人間の生命を、その全ての段階で守るべきだ」と間接的表現にとどめた。
 
 
「善悪、敵味方と分ける単純な思考」「武器取引の禁止」「死刑廃止」「米国への欧州からの入植者が現地住民多数を殺害し土地を奪った歴史」と、アメリカ人には耳の痛いことばかり言っています。

ローマ法王の演説が報道されたのと同じ日に、朝日新聞にマララさんのインタビュー記事が載っていましたが、マララさんもアメリカに対して言うべきことを言っています。
インタビューの一部を引用します。
 
 
マララさん「教育は義務であり責任」 インタビュー全文
 
 ――今年は被爆70年で、一方であなたの国パキスタンも隣国インドも核兵器を持っています。核というもの、あるいは兵器全般についてどう考えますか。
 
 残念なことに、兵器は常に破壊をもたらします。人々を殺害し、破壊する。世界は兵器にお金を費やしすぎています。もし世界の指導者たちが、軍に費やす総額のわずか8日分だけでも支出をやめようと言いさえすれば、その8日分の額だけで、世界中のあらゆる子供が12年間にわたり教育を受けるための1年分を確保できるのです。だから世界の政治指導者たちが軍と兵器、戦争への支出を止めれば事態は実際に大きく変わるはずなのですが、彼らにとっての優先事項として決めてしまっているのです。
 
 でも、私たちは戦いをやめず、彼らに対して、教育や保健衛生こそが人々にとって重要なのだと思い出させる必要があります。銃を製造することで人を助けることはできないのです。子供に銃を渡して、助けていることになりますか。私はこのお金を銃には使わず、代わりに学校や医療に使うと言うことこそ、その人を、その子供を助けることになるのです。
 
 ――オバマ米大統領に対して無人機の問題を提起したそうですが、それが理由ですか。
 
 私が無人機攻撃の問題に触れたのは、無人機がテロリストを殺害できるのは確かですが、テロリズムを、テロリズムの思想自体を殺すことはできないからです。テロリズムに対してそれを止めたければ、あらゆる児童が質の高い教育を受けられるよう保証する必要があります。こうした人たちの多くは教育を受けておらず、職がなく失業中で、希望もないのです。そして彼らは銃を取るのです。子供たちに銃を取らせたくないのであれば、本を与えなければなりません。
 
 
マララさんはオバマ大統領に直接、テロ対策の誤りを指摘したようです。
ローマ法王といいマララさんといい、世界をよくしたいと思うなら、アメリカに意見するのは当然のことです。
 
ひるがえって、わが安倍首相はというと、今年4月に米議会で演説しましたが、自分はいかにアメリカを敬愛しているか、日本はいかにアメリカの恩恵を受けてきたかを言うばかりで、アメリカに対する批判はもちろん要望さえも言いませんでした。
 
米国連邦議会上下両院合同会議における安倍内閣総理大臣演説
 
日本はアメリカと同盟関係だから友好を演出したのだという意見があるかもしれませんが、アメリカと実質的な同盟関係にあるイスラエルのネタニヤフ首相は今年3月、安倍首相と同じく米議会の上下両院合同会議で演説し、オバマ大統領の対イラン政策を痛烈に批判しています。
 
安倍首相も、アメリカはもっとアジアを重視するべきだとか、北朝鮮に対してもっときびしくするべきだとか、言うべきことがあったはずです。
 
アメリカに対してなにも言えないというのは、安保法案反対派も同じです。
マララさんも言っているように、アメリカの対テロ戦争でテロリズムをなくすことはできません。日本がアメリカの対テロ戦争に協力しても決して勝利することはなく、恨まれてテロの標的になるだけです。
しかし、少なくとも国会の論戦でそういう主張を聞いたことがありません。
政治家は、野党ですらアメリカを批判しないのです。
そういう意味では、安保法制の議論がわかりにくいのは、野党にも責任があります。
 
ローマ法王は権威も権力もありますが、マララさんはあくまで個人としてオバマ大統領に意見しています。日本人もやればできるはずです。