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「ドローン・オブ・ウォー」(アンドリュー・ニコル監督)を観ました。
この映画は従来の戦争映画とはまったく違います。戦争映画というよりも、「あるIТ技術者の日常生活と仕事の苦悩を描いた映画」に近い感じです。
 
アメリカ軍は前からアフガニスタンやパキスタンなどでドローンを使った攻撃をしていましたが、その実態はまったく報道されないので、イメージがわきませんでした。この映画はフィクションですが、「事実に基づく」という字幕が出るので、かなり現実に近いものではないかと思われます。報道統制がきびしいので、「アメリカン・スナイパー」もそうでしたが、戦争の現実を知るには報道よりも映画に頼らなければならない時代です。
 
イーガン少佐(イーサン・ホーク)はラスベガス近郊の空軍基地に勤務しています。基地には“ボックス”と呼ばれるコンテナのようなものがずらっと並んでいて、その中に入ってドローンの操縦をします。
操縦といっても、ドローンはほとんど上空を旋回しているだけなので、もっぱらモニターを見て、攻撃対象を発見するのが仕事です。「この地域に目標となる司令官がいる」というように、ある程度情報が提供されています。モニターは、人物が識別できるくらいの解像度があります。
ターゲットを特定すると、レーザーを照射し、ミサイルを発射します。着弾するまでに10秒前後かかります。
 
殺されるのはターゲットだけとは限りません。銃を持った武装グループを狙ってミサイルを発射すると、近くにいる民間人もいっしょにやられます。あるいは、発射したら、そこにボール遊びをしている子どもが走ってきて、ちょうどその瞬間に着弾します。
 
同じ地域をずっと監視していると、女をレイプするひどい男を発見します。しかし、この男はターゲットではないので、見逃します
 
イーガン少佐は仕事に疑問を持ちますが、そこにCIAが関与してきて、CIAの指示を受けて仕事をすることになります。上官は、CIAは軍の交戦規定とは別の規定を持っているが、それに従えと言います。
 
狙っていた司令官が車で帰ってきて家の中に入ります。家の中には妻と子どもがいることがわかっていますが、CIAはそれでも撃てと指示します。イーガン少佐はしかたなく撃ちます。
 
標的のいる家を撃つと、壊れた家から人を助け出そうと、人々が集まってきます。その連中はほとんど仲間だから、それも撃てと指示されるので、撃ちます。
 
司令官を殺すと、人々が遺体を運び出して、葬儀が始まります。葬儀には司令官の弟も参列するという情報が入ります。葬儀は数十人で行われますが、そこにもミサイルを撃ち込みます。
 
イーガン少佐の部下は、こんなことをしてはかえってテロリストをふやすだけではないかと言いますが、上官は、テロリストを見逃すとそれだけアメリカの安全が脅かされるという論理を示します。
 
ドローンは3000メートル以上の高空を飛んでいるので、地上からは見えないそうです。ミサイルも見えません。地上の人にすれば、突然爆発が起こり、人が死ぬわけです。まったく不条理な状況です。
 
イーガン少佐は毎日車で基地に通勤しています。家に帰れば妻と子どもがいますが、だんだん酒びたりになり、妻や子どもとの関係もうまくいかなくなります。
イーガン少佐は実際の戦闘機に乗る勤務を希望しますが、希望は叶えられません。
 
ドローン操縦の仕事は、誰にとっても過酷なようです。どんどん人が辞めていき、つねに新人を入れなければなりません。
 
普通の戦争は、こちらが撃たなければ相手に撃たれるという状況です。したがって、相手を撃つことは正当防衛という意味もあります。しかし、この戦争は、こちらは絶対的に安全ですから、一方的な殺戮です。
これが逆に精神的なダメージになるようです。
 
一方的な殺戮は、映画を観ていても楽しいものではありません。
わが身を危険にさらすからヒーローになれるので、この映画にはヒーローはいません。
ただ、ハリウッド映画らしく、最後に少しカタルシスがあるようなストーリーになっています。
 
この映画の戦争シーンは、すべでモニターの中の映像です。
ドローンが離着陸したり、ミサイルを発射したりするシーンもありません(基地に止まっているドローンは映ります)
CIAの人間も姿は現さず、ただ電話で指示してくるだけです。
それがバーチャルな戦争というものを実感させてくれます。
 
そんなに楽しい映画ではありませんが、今の戦争を知るということではとてもいい映画です。