そのとき、ほとんど死語となった“ジャパニーズスマイル”という言葉を思い出しました。
東方経済フォーラムにおいて安倍首相がプーチン大統領から「前提条件なしに年内に日露平和条約を締結しよう」と提案されて笑みを浮かべるのを見たときです。
 
ジャパニーズスマイルは、日本人が欧米人に対して浮かべる意味不明の笑いのことです。たいていは言葉がわからないためですが、言葉がわからなければ、「わけのわからんことを言うな」と不機嫌な顔をしてもいいはずです。笑みを浮かべるのは、日本人の欧米人に対するコンプレックスです。
安倍首相にも欧米コンプレックスがあるのでしょうか。
 
 
安倍首相は201612月に安倍首相の地元・山口県にプーチン大統領を招いて日露首脳会談を行いましたが、このときは北方領土返還が実現するのではないかという期待が大いに盛り上がっていました。しかし、プーチン大統領は北方領土返還についてはゼロ回答で、3000億円の経済協力だけ合意しました。日本としてはぼったくられた格好です。
 
しかし、安倍首相は会談のあと、各局のニュース番組に出まくって、日露首脳会談は成功したというイメージをふりまきました。で、安倍政権のマスコミ支配がうまくいっていることもあって、そのイメージ戦略がけっこう成功しました。
以来、北方領土返還問題はまったく進展しないのに、安倍首相は日露関係はうまくいっているというイメージ戦略を続けています。
 
そのひとつがプーチン大統領を「ウラジミール」と呼んで親密ぶりをアピールすることですが、プーチン大統領は「シンゾウ」とは呼びません。
中島みゆきの「ひとり上手」という歌が思い出されますが、安倍首相にはたくさんの安倍応援団がついているので、「ひとり大本営発表」といったほうがいいでしょうか。
 
もちろんプーチン大統領はすべて見抜いています。そして、経済協力の進展が遅いことに不満を募らせていて、「前提条件なしに日露平和条約を」という発言が飛び出すのですが、この発言には伏線がありました。
 
安倍首相はプーチン大統領を含む各国首脳の前で講演し、このように語りました。
 
「日本とロシアには、他の二国間に滅多にない可能性があるというのに、その十二分な開花を阻む障害が依然として残存しています。それこそは皆さん、繰り返します、両国がいまだに平和条約締結に至っていないという事実にほかなりません」
「プーチン大統領、もう一度ここで、たくさんの聴衆を証人として、私たちの意思を確かめ合おうではありませんか。今やらないで、いつやるのか、我々がやらないで、他の誰がやるのか、と問いながら、歩んでいきましょう」
「プーチン大統領と私は、今度で会うのが22回目となりました。これからも機会をとらえて、幾度となく会談を続けていきます。平和条約締結に向かう私たちの歩みをどうか御支援を皆さん、頂きたいと思います。力強い拍手を、聴衆の皆さんに求めたいと思います。ありがとうございました」
 
聴衆の拍手まであおって、「平和条約締結を目指す安倍首相」をアピールしています。
安倍首相は総裁選のさなかなので、国際会議の場を自身の選挙運動に利用したのです。
 
ちなみにこの講演で安倍首相は、領土問題に関することは一言もいっていません。
 
プーチン大統領がこの講演を聞いて、領土問題は後回しにして平和条約締結を先にしようと提案したのは当然です。その場の思いつきではあっても、安倍首相の発言に呼応しています。
 
すべては安倍首相の「日露関係はうまくいっている」というイメージ戦略、あるいは「ひとり大本営発表」のせいです。
なぜそんなことをするのかというと、欧米へのコンプレックスとしか考えられません。
安倍首相はトランプ大統領に関しても、個人的な親密さをアピールし、「日米関係はうまくいっている」というイメージをふりまいています。
一方、北朝鮮、韓国、中国に対しては、ぜんぜんそんなことはしません(最近、中国に対しては少し変わってきていますが)
欧米には卑屈になり、アジアには威張るという昔の日本人のままです。
 
麻生太郎財務相は9月5日、盛岡市の講演で、「G7の国の中で、我々は唯一の有色人種であり、アジア人で出ているのは日本だけ」と述べました。
これはなにを言っているのかというと、日本人は有色人種あるいはアジア人の中でいちばんだということを自慢しているのです。
これは白人の有色人種に対する差別を前提としていますから、麻生財務相は白人に対してコンプレックスを持っているに違いありません。
 
安倍首相も麻生財務相も欧米コンプレックスの持ち主なので、まともな外交ができません。
 
安倍首相がプーチン大統領の提案に笑みを浮かべるだけでなにも言えなかったのは、突然のことだからしかたがないと擁護する意見もありますが、日本政府はプーチン大統領の提案に抗議などの反応はしないと決めました。
日本政府がプーチン大統領に対して“ジャパニーズスマイル”を浮かべているのです。
 
人種差別というと、差別する側がもっぱら批判されますが、卑屈に差別を受け入れる側も批判されなければなりません。