
7月20日投票の参院選の争点に「外国人問題」が急浮上しています。
参政党が「日本人ファースト」を掲げたのに対抗したのか、自民党は「違法外国人ゼロ」を掲げました。日本維新の会は「外国人受け入れ総量規制」、日本保守党は「移民政策の是正」です。
その背景には「外国人が過度に優遇されている」ということと「外国人犯罪で治安が悪化している」という認識があるようです。
私は「外国人が過度に優遇されている」と聞いたとき、昔2ちゃんねるで盛んに言われた「在日特権」を思い出しました。在日の人は税金の優遇を受けるなどさまざまな特権を持っていると言われたのですが、結局のところはことごとくがデマでした。今ではまったく言われなくなっています。
「外国人の過度な優遇」もデマに決まっています。外国人は選挙権もなく政治力もないからです。
NHKNEWSの『「外国人優遇」「こども家庭庁解体」広がる情報を検証すると…』という記事が割と詳しく「外国人優遇」がデマであることを検証していました。
「外国人犯罪で治安悪化」については、ネットで犯罪のデータを調べるだけでデマだとわかります。
外国人の犯罪件数は減少しているからです。

令和4年版「犯罪白書」より
外国人の数は増えているのに犯罪件数はへっています(来日外国人検挙人員は微増する時期もありました)。
ただ、このグラフは令和3年までしかありません。
このあとを数字で示すと、こうなります。
【来日外国人による刑法犯の検挙人数と前年比増減率】
令和4年 5,014人 -10.0%
令和5年 5,735人 +14.4%
令和6年 6,435人 +12.2%
ここ2年は増加しています。
コロナ禍が収束したことによる反動と、インバウンド客の急増などが原因ではないかと思われます。
ともかく、「外国人犯罪増加」ということがいえるのは直近の2年間についてだけです。
それまで約20年間、外国人犯罪はへり続けていました。
「外国人は怖い」とか「外国人は犯罪的だ」というイメージがあるかもしれません。
外国人の犯罪率と日本人の犯罪率を比較してみました。

外国人の犯罪率は日本人の2倍強です。
しかし、日本人は高齢者が多く、外国人は貧困者が多いという事情があり、外国人は日本のコミュニティになじんでいないことなどを考えると、それほど大きくは違わないと思われます。
もともと日本人の犯罪率はひじょうに低いので、日本にくる外国人もなかなか“優秀”だといえます。
治安が悪化しているか否かは、外国人犯罪だけでなく日本全体の犯罪件数で判断する必要があります。

2002年をピークに犯罪件数はへり続けています。
2022年と23年は増加しています。これもコロナ禍の反動と思われますが、それだけでは説明できないかもしれません。
2024年は、刑法犯認知件数が約728,000件、前年比+3.5%でした。
全犯罪件数も外国人犯罪件数もへり続けています。
ここ2、3年に関しては少し増えていますが、あくまで少しであり、今のところ「治安が悪化した」とまではいえないでしょう。
「川口市クルド人問題」というのがあります。川口市在住のトルコ国籍のクルド人が治安を悪化させているというのです。
しかし、6月13日、川口市議会において市側は県警の統計として「昨年の外国籍の刑法犯の検挙数が178人で、中国とトルコ国籍が54人ずつ、ベトナムが27人」と答弁しました。
川口市の人口は約60万人で、うち外国人は約4万人とされるので、川口市の外国人の犯罪率は約0.44%です。全国平均の約0.33%より少し高い程度です。
それにトルコ国籍の人が54人ですから、人口60万人の川口市で絶対数が少なすぎます。
「川口市クルド人問題」は完全に捏造されたものです。
捏造したのは産経新聞です。
トルコは日本の友好国ですから、トルコ人を悪くいうわけにいきませんが、トルコ内のクルド人はクルド労働者党をつくって独立運動をし、トルコ政府はクルド労働者党をテロ組織に認定しました。ですから、クルド人を批判する限りはトルコ政府も許容しそうです。
2023年7月、クルド人同士の喧嘩があり、川口市立医療センター周辺に100人ほどのクルド人が集まり、7人が逮捕されるという騒ぎがありました(全員不起訴)。これをきっかけに産経新聞はクルド人をヘイトの対象にすることにしたようです。
ねらい通りに「川口市クルド人問題」は燃え上がり、Xには「クルド人の犯罪」と称する映像や動画が多数投稿されましたが、映像ではそれがクルド人かどうかわかりませんし、犯罪かどうかもわかりません。
この少し前からX上では「犯罪をする外国人」や「マナーの悪い外国人」といった投稿が急増しました。
「悪いやつを攻撃する」というのは確実にインプレッションを稼げます。まさにヘイトビジネスです。
この背景には、欧米で移民排斥運動が高まっているということがあるでしょう。
欧米と日本の動きはきわめて似ています。
たとえばアメリカでは不法移民が犯罪をしているというのが移民排斥の理由になっています。
しかし、不法移民の犯罪率が高いというデータはありません。
日本で「外国人犯罪で治安悪化」と騒いでいるのと同じです。
ただ、欧米では人種差別感情が根強いので、それが移民の犯罪を生むということがあります。
日本人にはそれほどの人種差別感情がないので、移民との共生が比較的うまくいっているということがいえそうです。
ここ2、3年の犯罪増加は気になりますが、「外国人犯罪で治安悪化」というのは完全なデマです。
どうしてこうしたデマが広がったのでしょうか。
SNSでは「外国人犯罪」の動画がいくつもアップされ、一方、「日本人犯罪」の動画はまったくアップされないので、世の中は外国人犯罪だらけだと勘違いする人が出てきます。
こうした勘違いは犯罪の統計データを示せば解消できます。そうしたことをするのはSNSではなくてオールドメディアの役割でしょう。
ところが、オールドメディアはそうした役割をまったく果たしてきませんでした。
「刑法犯認知件数」のグラフを見れば、犯罪件数はピークから3割以下にまで減少し、治安は大幅に改善したことがわかります。ところが、マスコミはそうしたことはほとんど報道しません。
『警察白書』は毎年発表され、新聞はその内容の概略を伝えますが、「犯罪は順調にへっている」みたいなことは書かず、「高齢の被害者が増えた」とか「手口が巧妙化した」とか「ネット犯罪が増加した」といったことを見出しにするので、犯罪は深刻化している印象になります。
なぜマスコミはそうした伝え方をするのでしょうか。
世界的ベストセラーになったハンス・ロスリング著『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』は、人間は間違った思い込みによって世界を見ているということを書いています。その思い込みは10に分類されるのですが、最初のふたつは、
・分断本能「世界は分断されている」という思い込み
・ネガティブ本能「世界はどんどん悪くなっている」という思い込み
であるといいます。
たとえば「日本人と移民は分断されている」という思い込みは分断本能の典型です。
「犯罪が増加して治安は悪くなっている」というのはネガティブ本能です。
マスコミは人々のこうした思い込みに合わせて報道していると考えられます。
それに、凶悪犯罪の報道というのは、メディアにとっては優良コンテンツです。犯人への憎しみを煽り立て、もう一方で被害者への同情も煽り立てて、人々の感情をゆさぶることができるからです。
そのためマスコミの報道はどうしても犯罪を大げさに描き、治安悪化を印象づけるものになります。
「犯罪は減少して治安は改善している」という主張に対しては、誰かが「体感治安」という言葉を考え出して、「体感治安は悪化している」という反論が行われてきました。
少年犯罪についても同じです。少年犯罪もずっと減少し続けてきたのですが、専門家がいくら「少年犯罪は減少していて、凶悪化はしていない」と力説しても、マスコミは逆のイメージをつくりあげて、そのために少年法が厳罰化される方向に改正されました。
外国人犯罪についても同じです。マスコミが「外国人犯罪は減少している」と指摘するのを聞いたことがありません。そのため外国人犯罪が増加しているというイメージがつくられてきました。
そうした報道の背景には、マスコミと警察の癒着という問題も指摘できます。
マスコミは警察から情報をもらって報道をするので、警察に不都合なことは報道しません。
犯罪件数はピーク時から3割以下にまで減少しているということが広く知られたら、警察の予算をへらせという議論が起きるはずです。
「犯罪の増加・凶悪化」というイメージをつくることは警察とマスコミの両方の利益です。
つまりもともとオールドメディアが「外国人犯罪の増加」というイメージづくりをしていて、そこにSNSなどでの外国人へのヘイトスピーチが上乗せされて、外国人問題が参院選の大きな争点になるまでになったのです。
オールドメディアは犯罪報道を過度に娯楽化してきたことを反省し、犯罪件数のような基礎的な情報をきちんと伝えていくべきです。