
高市首相は国連総会出席のために訪米し、9月22日にトランプ大統領と会談しました。
会談冒頭に高市首相は三度も「ドナルド」と呼んで親密さをアピールし(トランプ大統領は一度も「サナエ」とも「高市首相」とも言いませんでしたが)、その後の記者会見では「本日、正にこのタイミングでのトランプ大統領との会談は、日米同盟の強さを世界に示すものになった」などと語りました。
今はアメリカ共和党の中間選挙の候補者ですらトランプ大統領と距離を置こうとしているのに、高市首相は世界の空気が読めていません。
高市首相の目にはトランプ大統領が偉大な大統領に見えているようです。
戦後日本はずっと対米依存でやってきましたが、高市首相の対米依存あるいはトランプ依存は度がすぎます。
おとなが依存してよいことはなにもありません。
ギャンブル依存、アルコール依存がマイナスでしかないのは明らかですし、人に依存するとその人にいいように利用されます。
冷戦が終わってから日本はますます対米依存を強めました。
そのためトランプ関税をかけられたときも、中国、カナダ、メキシコ、EUは報復関税で対抗しましたが、日本はなにも対抗措置はせず、80兆円余りの対米投資を約束させられました。
経済問題はまだしも、安全保障の分野になると、日本の対米依存はきわめて深刻です。
日本はずっと防衛費をGDP比1%未満でやってきましたが、2021年10月の衆院選向けの自民党選挙公約に「GDP比2%以上も念頭に増額を目指す」という文言が入りました。そのときは岸田政権で、政調会長は高市首相でした。
そして、その選挙公約が発表された8日後に米上院外交委員会の公聴会に次期駐日大使のラーム・エマニュエル氏が出席し、「日本が防衛費を(GDP比)1%から2%に向けて増やそうとしているのは、日米の安全保障協力にとっても非常に重要だ」と述べました。
これによって防衛費GDP比2%は対米公約のようになりました。
現在、GDP比2%はほぼ達成されましたが、アメリカはNATO各国や日本にGDP比3.5%以上を要求しています。対米依存の深い日本に断る選択肢はありません。
日本は安保条約があるおかげで軽武装でやってきたので高度成長ができたといわれていますが、もはや軽武装とはいえません。
アメリカは国際刑事裁判所(ICC)の赤根智子所長に対して資産の凍結などの制裁を行いました。「法の支配」を破壊する暴挙ですが、高市首相はアメリカに対する批判はしませんでした。
対米依存があるとまともな外交もできません。
多くの日本人はこうした対米依存について、「日本はアメリカに守ってもらっているからしかたがない」と思っています。
しかし、アメリカを信頼しているわけではありません。
2025年2―4月に実施された朝日新聞世論調査では、「いざという場合、アメリカは本気で日本を守ってくれると思いますか」という問いに対し、77パーセントが「そうは思わない」と回答しました。
日本人はアメリカに依存しつつ、アメリカは守ってくれないのではないかという不安を持っています。
ですから、アメリカから防衛費増額を要求されると断りにくく、日本の首相や外相はことあるごとに「日米の信頼関係は深まった」とか「日米の連携を確認した」などと言って国民を安心させようとしているわけです。
しかし、日本はほんとうにアメリカに守ってもらわねばならないのでしょうか。
日本の軍事力は、代表的指標であるGlobal Firepowerの2026年世界軍事力ランキングで世界7位と評価されています。
しかも日本は島国で、国土の7割が山地で、人口が1億2000万人もあるのですから、これほど攻めにくい国はありません(イギリスも島国ですが、ほとんどが平地で、面積も日本の3分の2ぐらいで、しかも大陸がすぐ近くです)。
スイスは徴兵制があり、かつ民兵制を採用しているので、国民の多くが軍事訓練を受け、各家庭に銃があります。そのため強力な軍事力で国を守っているようなイメージがありますが、これは誰かがつくり上げたイメージです。スイスの軍事費はGDP比約0.7%ですから、山岳国の利点を生かしてひじょうに安上がりに国を守っている国です。
アフガニスタンも山岳国ですから、これまでイギリス、ソ連、アメリカに侵略されましたが、ことごとく撃退しました。
ネパールも山岳国で、イギリスと中国(清朝)に侵略されたことがあり、一部はイギリスに占領されましたが、ずっと独立を守ってきました。
日本は島国なので、外国の本格的な侵略を受けたのは元寇のときだけです(薩英戦争と下関戦争もありましたが)。
ヨーロッパの国はほとんど平地でつながっているので、互いに攻めたり攻められたりを繰り返してきました。
島国でかつ山岳国の日本がNATO並みのGDP比3.5%を目指すのは愚かです。
ともかく、日本単独で国を守れるとなれば、日本は対米依存から脱却できます。
果たして日本単独で国は守れるのでしょうか。
それは日本が攻められたときのことを具体的に考えればわかります。
ところが、ほとんどの日本人は戦争のことが具体的に考えられません。
第二次大戦末期の悲惨な体験がトラウマになっているからです。
民間人は無差別爆撃を受け、原爆投下にもあい、食糧難に苦しみ、家族、親族の死に直面しました。
軍人・軍属の死者は約230万人ですが、餓死者と、栄養失調による病死など広義の餓死者の合計は約140万人になるという推計があります(吉田裕著『日本軍兵士』)。
それに加えて、突然の「無条件降伏」がありました。
それまで政府は聖戦継続を唱えて、「本土決戦」へと突き進んでいました。
「本土決戦」がどんなものになるかと考えると、今まで以上に悲惨なことになるのは確実です。
突然の降伏によって「本土決戦」がなくなり、国民は最初は戸惑いましたが、「本土決戦」を回避できたのはよいこととして歓迎しました。
こうして日本人は、戦争のことは考えたくないし、「本土決戦」のことはなおさら考えたくないようになりました。
戦後日本は、自衛隊をつくってからは「専守防衛」でやってきました。
「専守防衛」とはなにかというと「本土決戦」です。
敵が攻めてきたときに迎え撃つのですから、主な戦場は本土ということになるからです。
したがって、日本人は国防のことが具体的に考えられません。
社会党の「非武装中立論」が一定の支持を集めていたのも、国防についてなにも考えなくていいからです。
自衛隊は国民の間に定着しましたが、国民が国防について具体的に考えられないのは今も変わりません。
現在、日本人が気にしているのは中国の急速な軍拡で、盛んに「中国脅威論」が語られています。
しかし、中国のなにが脅威かは語られません。
ひところは尖閣諸島に漁民に偽装した武装民兵が上陸するという説が盛んに唱えられましたが、このところすっかり影をひそめました。
令和7年版『防衛白書』の「概観」を見ると、「厳しさを増すインド太平洋地域の安全保障」「中国 ~力による一方的な現状変更の試みや活動の活発化~」との見出しを立てて、「中国脅威論」をあおっていますが、具体的に日本がどんな攻撃を受ける可能性があるのかは書かれていません。
もしアメリカが日本を守ってくれるなら、これは当然のことです。アメリカに守られた日本を中国が攻撃するわけがないからです。
つまり日米安保体制がある限り中国は脅威ではありません。
安保体制のもとで「中国脅威論」をあおるのは矛盾しています。
しかし、アメリカはほんとうに日本を守ってくれるでしょうか。
外務省のホームページには、安保条約の「第5条は、米国の対日防衛義務を定めており、安保条約の中核的な規定である」と書かれています。
しかし、「防衛義務」という言葉は安保条約の中にありません。
安保条約の第5条はこうなっています。
第五条 各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。「自国の憲法上の規定及び手続に従つて」という言葉が曲者です。
アメリカ大統領は自身の判断で戦争をすることができますが、宣戦布告をするのは議会の権限なので、議会にはかることもできます。議会が開戦を否決すれば、大統領は軍を出動させない理由が得られます(NATOのあり方を定めた北大西洋条約には「自国の憲法上の規定及び手続に従つて」に当たる文言はありません)。
かりにアメリカに「防衛義務」があるとしても、アメリカがアメリカ兵の命を懸けてそれを遵守するでしょうか。
日本政府はアメリカが日本を守ってくれるという立場ですが、そんな保証はありません。
ことは日本国の存立に関わることですから、アメリカが守ってくれなくても大丈夫なようにしておくべきでしょう。
ところが、今の自衛隊の編成はそのようになっていません。
たとえば日本には弾薬の備蓄が2週間分ぐらいしかないといわれます。米軍の来援があるまで持ちこたえればいいという考えだからです。
弾薬の備蓄量は“軍の機密”ですから、ほんとうかどうかはわかりませんが、自衛隊が長期戦に備えていないことは確かです。
しかも、守りにもあまり備えていません。
自衛隊が備えているのは、米軍を支援することです。
今年3月に熊本に配備された射程約1000キロで中国本土に届くミサイルとか、7月にイージス艦から実射試験をした射程約1600キロのトマホークとかは、「抑止力」という理由づけがされていますが、実際はアメリカ軍が中国軍と戦うのを支援するための兵器だといえます。
実質空母である自衛艦の「いずも」と「かが」も、あまり国防の役に立ちそうもありません。どこか海外で稼働するためのものでしょう。
自衛隊はしばしばアメリカ軍と共同で離島上陸や離島奪還演習をしていますが、これもどこかに攻めていくための演習でしょう。
国防のためなら上陸軍を迎え撃つ演習をしてもらいたいものです。
小泉進次郎防衛相は「原子力潜水艦の保有も検討する」と発言しましたが、原子力潜水艦も金がかかる割に国防に役に立つ感じがしません。
現在の自衛隊はアメリカ軍と共同でどこか国外で行動するための装備に金をかけているので、「専守防衛」に徹すればうんと安上がりですみます。
もっとも、専守防衛ということは、敵に先制攻撃されるということです。
必然的に「皮を切らせて肉を切る。肉を切らせて骨を断つ」という作戦になります。
戦争嫌いの日本人は「皮を切らせる」ということすらいやなので、「抑止力」という言葉にだまされたり、依存できないアメリカに依存したりするのです。
実際のところは、中国軍は大軍を日本に上陸させるだけの能力がないので、中国軍が上陸してくるという心配はまったくありません。だから、誰もそんなことは言わないし、『防衛白書』にもそんなことは書いてないのです。
かりに自衛隊をしのぐ大軍が上陸してきたとしても、地形を生かして反撃すればいいのです。長期戦になれば守るほうが有利です。日本は広いので、とうてい占領することはできません。
中国軍は上陸はしないで、空爆やミサイルで攻撃してくるかもしれません。ですから、防空システムは強化する必要があります。
もちろんすべては防ぎきれません。
そのとき「一方的に攻撃する中国は不当だ」という国際世論がわき上がれば、中国もそういうことはできません。
日本が中国本土に届くミサイルを配備したり空母を運用したりするのは、中国に攻撃する口実を与えるので危険です。
アメリカの核の傘が必要だという意見もあるでしょう。
しかし、イランは核の傘がありませんが、そのことは問題になっていません。
核兵器は、追い詰められた国が使うことはあるかもしれませんが、攻撃側が使えば圧倒的な国際的非難を浴びるのは確実なので、実質的に使えない兵器になっています。
もっとも、日本人はヒロシマ、ナガサキのトラウマがあるので、なかなか割り切ることができないかもしれません。
しかし、そうするとアメリカ依存をいつまでも克服できないことになります。
「日本はアメリカに守ってもらっているからしかたがない」という考えこそ、対米依存の根本原因です。
日本人の戦争嫌いが対米依存を深めてきました。
戦争を直視することは、対米依存を克服するだけでなく、世界平和実現にもつながります。









