村田基の逆転日記

親子関係から国際関係までを把握する統一理論がここに

カテゴリ: 戦争・テロ・平和

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最近はテロ組織に属さない個人のテロリスト、ローンオフェンダーが増えています。
ローンオフェンダーによるテロは発生の予測が困難なので、防止策が課題とされます。
テロにはなにかの政治的な主張があるものですが、ローンオフェンダーの場合は、そうした政治的主張よりも深層の動機に注目する必要があります。

この4月、アメリカでトランプ大統領暗殺計画が発覚しました。
17歳の高校生ニキータ・カサップ被告は2月11日ごろ、母親タティアナ・カサップさん(35)と継父ドナルド・メイヤーさん(51)を射殺し、車で逃亡しているところを逮捕されました。車内には拳銃のほかに両親のクレジットカード4枚、複数の宝石類、こじ開けられた金庫、現金1万4000ドル(約200万円)がありました。
被告の携帯電話からは、ネオナチ団体「ナイン・アングルズ教団」に関する資料や、ヒトラーへの賛辞が見つかりました。さらに、トランプ大統領暗殺計画をかなり詳しく書いていました。
両親を殺したのは、トランプ大統領暗殺計画のじゃまになるからで、また、爆薬やドローンを購入する資金を奪うためでもありました。
反ユダヤ主義や白人至上主義の信条も表明していて、政府転覆のためにトランプ大統領暗殺を呼びかけていました。

「ナイン・アングルズ教団(The Order of Nine Angles)」というのは、ナチ悪魔主義の団体ともいわれていて、カルトの一種のようです。
本来あるべきユダヤ・キリスト教の思想は何者かによって歪められているという教義が中心になっており、組織ではなく個人の行動により社会に騒乱をもたらし新世界秩序を再構築することを目的としているそうです。

計画段階で終わりましたが、この被告はまさにローンオフェンダーです。
ただ、動機が不可解です。
白人至上主義なのにトランプ氏暗殺を計画するというのも矛盾していますし、トランプ氏暗殺のために両親を殺害するというのも奇妙です。


私がこの事件から連想したのは、山上徹也容疑者(犯行当時41歳)による安倍晋三元首相暗殺事件です。
山上容疑者は親を殺すことはありませんでしたが、母親を恨んでいたはずです(父親は山上容疑者が幼いころに自殺)。それに、統一教会というカルトが関係しています。最終的に元首相暗殺計画を実行しました。「親・教祖・国家指導者」という三つの要素が共通しています。

山上容疑者の母親は統一教会にのめり込んで、家庭は崩壊状態になりました。また、統一教会に多額の寄付をし、そのために山上容疑者は大学進学がかないませんでした。
したがって、山上容疑者は母親を恨んでいいはずですが、誰でも自分の親を悪く思いたくないものです。そこで山上容疑者は「母親をだました統一教会が悪い」と考え、教団トップの韓鶴子総裁を狙おうとしましたが、日本にくる機会が少なく、警護も厳重でした。
そうしたところ安倍元首相が教団と深くつながっていることを知り、安倍元首相を狙うことにしたわけです。
親、教祖、元首相と標的は変遷していますが、共通点があります。
親は子どもの目から見れば超越的な存在です。教祖や神も超越的です。国家指導者も国民から見れば超越的です。
戦前までの天皇陛下は、国民は「天皇の赤子」といわれて、天皇と国民は親子の関係とされていました。天皇は現人神であり、国家元首でもありました。
つまり天皇は一身で「親・教祖・国家指導者」を体現していたわけです。
オウム真理教の麻原彰晃も教団を疑似国家にして、教祖兼国家指導者でした。そして、教団そのものがテロ組織となりました。


「親・教祖・国家指導者」が似ているというのは理解できるでしょう。
問題はそこに殺人だの暗殺だの政府転覆だのがからんでくることです。
その原因は親子関係のゆがみにあります。親子関係はすべての人間関係の原点です。そこがゆがんでいると、さまざまな問題が出てきます。

ところが、人間は親子関係がゆがんでもゆがんでいるとはなかなか認識できません。
これはおそらく哺乳類としての本能のせいでしょう。
たとえばキツネの親は、天敵の接近を察知すると警告音を発して子どもを巣穴に追いやり、遅れた子どもは首筋をくわえて運びます。そのやり方が乱暴でも子どもは抵抗しません。子どもは親のすることは受け入れるように生まれついているのです。そうすることが生存に有利だからです。
人間の子どもも親から虐待されても、それを受け入れます。それを虐待と認識できないのです。
これは成長してもあまり変わりません。二十歳すぎて、親元を離れて何年かたってから、自分の親は毒親だったのではないかと気づくというのがひとつのパターンです。

ヒトラーも子ども時代に父親に虐待されていました。そのこととヒトラーのホロコーストなどの残虐行為とが関連していないはずがありません。ところが、ヒトラーが子ども時代に虐待されていたことはヒトラーの伝記にもあまり書かれていないのです。このことは「ヒトラーの子ども時代」という記事に書きました。

心理学は幼児虐待を発見しましたが、一方でそれを隠蔽し、混乱を招いてきました。この問題は『「性加害隠蔽」の心理学史』という記事に書きました。


不可解な事件が起こったとき、「そこに幼児虐待があったのではないか」と推測すると、さまざまなことが見えてきます。
たとえば冒頭の17歳高校生の両親殺しの事件ですが、高校生は両親から虐待されていたと推測できます。17歳の少年に凶悪な動機が芽生えるとしたら、それしか考えられません。しかし、本人は自分が虐待されているとは認識できないので、自分の中の凶悪な感情が理解できません。そこにナチ悪魔主義教団の教義を知り、トランプ氏暗殺肯定の主張を知ります。トランプ氏暗殺は自分の凶悪な感情にふさわしい行為に思えました。そして、トランプ氏暗殺のためには親殺しが必要だという理屈で親殺しをしたのです。

昨年7月に演説中のトランプ氏が銃撃され、耳を負傷するという事件がありました。
その場で射殺された犯人はトーマス・マシュー・クルックスという20歳の白人男性です。写真を見る限り、平凡でひ弱そうな若者です。共和党員として有権者登録を行っていました。親から虐待されていたという報道は見かけませんでしたが、20歳の平凡な若者に大統領候補暗殺という強烈な動機が生じたのは、やはり親から虐待されていた以外には考えられません。

2023年4月、選挙応援演説を行っていた岸田文雄首相にパイプ爆弾が投げつけられるという事件がありました。その場で逮捕された木村隆二被告(犯行当時24歳)は、被選挙権の年齢制限や供託金制度に不満を持ち、裁判を起こすなどしましたが、自分の主張が認められないため、岸田首相襲撃事件を起こしました。政治的な主張のテロですが、その主張と首相暗殺とは釣り合いがとれません(被告は殺意は否定)。
木村隆二被告については、父親から虐待されていたという報道がありました。
『「父親は株にハマっていた」「庭は雑草で荒れ果てていた」岸田首相襲撃犯・木村隆二容疑者の家族の内情』という記事には、近所の人の証言として「お父さんがよく母親や子どもたちを怒鳴りつけててね。夜中でも怒鳴り声が聞こえることがあって、外にまで聞こえるぐらい大きな声やったもんやから、近所でも話題になってましたね。ドン!という、なにかが落ちるものとか壊れる音を聞いたこともあった。家族は家の中では委縮していたんと違うかな」と書かれています。

親に虐待された人は生きづらさを感じたり、PTSDを発症したりします。そのときに親に虐待されたせいだと気づけばいいのですが、国家指導者のせいだと考えると、どんどん間違った方向に行って、最終的にテロ実行ということになります。
これがローンオフェンダーの心理です。

とくに政治的主張がなくて、世の中全体を恨むような人は、通り魔事件を起こします。
ですから、ローンオフェンダーと通り魔は根が共通しています。


したがって、ローンオフェンダー型テロや通り魔事件をなくすには、根本的な対策としては世の中から幼児虐待をなくすことです。そして、幼児虐待のためにPTSDを発症した人などへの支援を十分にすることです。
目先の対策などどうせうまくいかないので、こうした根本的な対策をするしかありません。

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2月28日のアメリカ・ウクライナの首脳会談は思いもかけず決裂しました。
合意のための条件が折り合わなかったのではありません。
メディアの前で両首脳が友好的な姿を見せる演出をしていたところ、「失礼だ」「感謝がない」などという言葉をきっかけに感情的な言い争いになって、決裂したのです。
こんな外交交渉は前代未聞でしょう。

「情報7daysニュースキャスター」(TBS系)で言い争いの部分をノーカットで放送していましたが、私が見たところ、ゼレンスキー氏が「外交ではプーチンの侵略を止められなかった」とプーチン氏の批判をしたところ、バンス副大統領が感情的になり、それがゼレンスキー氏とトランプ氏に伝染していったという感じです。
つまりゼレンスキー氏はどうしてもプーチン氏が許せないし、バンス氏とトランプ氏はどうしてもプーチン批判が許せないということで言い争いになったのです。

会談が決裂したきっかけがなんだったかは別にしても、トランプ氏とプーチン氏が太い絆で結ばれていることは確かです。これがなんとも不思議です。
ロシアは2016年の米大統領選に介入して、トランプ氏当選に貢献したといわれます。トランプ氏は自分の事業が危機に瀕したときロシア人ビジネスマンに助けられ、それからロシアはトランプ氏を「育ててきた」という説があります。
最近のニュースで、元カザフスタン諜報局長のアルヌール・ムサエフ氏がモスクワのKGB第6局に勤務していたとき、資本主義国からビジネスマンをリクルートする仕事をしていて、トランプ氏を「クラスノフ」というコードネームで採用したという話をフェイスブックに投稿したというのもありました。
こんな話はこれまではデマだと一蹴していましたが、トランプ氏のプーチン氏への入れ込み方を見ると、信じたくなってきます。

トランプ氏がこんなにもプーチン氏を支持するのはなぜかということは誰もが疑問に思うはずです。
一応の説明としては、アメリカにとって中国が主要な敵なので、中国とロシアを引き離そうという戦略だというのがあります。
これは理屈としてはありそうですが、もし中国を主要な敵とするなら、トランプ氏は同盟国をたいせつにし、途上国を味方につけなければなりません。
しかし、トランプ氏はまったく逆のことをしているので、トランプ氏は覇権国になるのを諦めたのだということを、私は前回の「トランプ、覇権国やめるってよ」という記事に書きました。

トランプ氏が覇権国になるのを諦めたのはその通りだと思いますが、トランプ氏の外交はそれだけでは説明しきれません。
トランプ外交の謎について考えてみました。


バンス副大統領は2月14日、ミュンヘン安全保障会議で演説し、「欧州が最も懸念すべき脅威はロシアではない。中国でもない。欧州内部だ」と述べ、もっばら欧州批判を展開しました。SNSの偽情報対策を「言論の自由の弾圧」だとして糾弾し、移民排斥を唱える欧州の極右政党の主張に「同意する」と語りました。さらにドイツの主流政党が極右政党AfDとの連立を否定していることは「民主主義の破壊」だと述べ、さらに環境、エネルギー問題なども論じました。
聴衆はバンス氏がウクライナ問題や関税問題についてトランプ政権の立場を説明するのかと思って聞いていたところ、バンス氏が欧州の内政批判ばかりを述べたので、最後のほうでは場内は静まり返ったといいます。
要するにバンス氏は、欧州の政治を保守対リベラルととらえて、米大統領選でバイデン陣営やハリス陣営を批判したのと同じようなことを述べたのです。

イーロン・マスク氏は1月26日、ドイツの極右政党AfDが開いた大規模な選挙集会にオンライン参加し、AfD支持を表明し、さらに欧州の主要国の政権批判をしました。
これも内政干渉で選挙介入だと批判されました。

トランプ氏は2月26日の記者会見で、「EUは米国をだますために設立された」「それがEUの目的であり、これまではうまくやってきた。だが、今は私が大統領だ」などと述べました。
EUはリベラルやWoke(意識高い系)に支配された組織だという認識なのです。
トランプ氏はEUを離脱したイギリスを前から賞賛しています。

トランプ氏やマスク氏やバンス氏は、EUや欧州の主要国がリベラルなのはけしからん、移民排斥、反DEI、反脱炭素、反LGBTQの方向に舵を切るべきだと主張して、保守の立場から欧州の政治に介入しているのです。
アメリカの分断をそのまま欧州に持ち込んだ格好です。

なお、トランプ氏は南アフリカが白人差別の土地政策をしているなどの理由で南アフリカへの経済援助を停止する大統領令に署名しました。
南アフリカは白人支配の政府が倒され、黒人の政権になりました。それがトランプ氏やマスク氏には許せないのでしょう(マスク氏は南アフリカ出身)。
これを見てもトランプ政権が白人至上主義の外交をしていることがわかります。

プーチン氏は保守かリベラルかといえば、もちろん保守です。ロシア国内にほぼリベラル勢力がないので保守らしさが目立たないだけです。
ですから、プーチン氏とトランプ氏が理解し合うのは当然です。
トランプ氏はプーチン氏や欧州の極右政党とともに欧州のリベラルと戦っているわけです。



最近、欧州で極右政党が台頭しているのには、世界の勢力図の変化が影響しています。

トランプ氏は2月13日、G7にロシアを復帰させるべきだと述べました。
主要国首脳会議(サミット)は、1998年にロシアが加わってG8となりましたが、クリミア併合のためにロシアは追放されて、それ以降G7となっています。
G7の内訳は日本、アメリカ、カナダ、フランス、イギリス、ドイツ、イタリアです(それとEU)。
昔はこれで「主要国」と称してもよかったのですが、今は状況が違います。ロシアを加えるなら中国やインドやブラジルも加えるべきだということになります。

2023年のGDPトップ10は次の国です(ロシアは11位)。

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しかも、昔の主要国と新興国の経済成長率が大きく違うので、今後5年、10年たつと世界の勢力図が大きく変わることが予測できます。
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アメリカでは人口における白人の割合が、1960年には89%だったのが2020年には60%にまで低下し、そのうち過半数を割ることは確実です。
オバマ黒人大統領の誕生もあって、白人の危機感が高まり、それがトランプ大統領誕生の原動力になりました。
それと同じことが世界規模で起こっていて、非白人国の経済力、軍事力、政治力がそのうち白人国を凌駕しそうです。
白人至上主義者がそれに対する危機感を深め、それが欧州において移民排斥を訴える極右勢力の台頭につながっています。

ところが、メディアは極右の台頭を欧州内部の政治状況としてしかとらえていないので、なぜ最近になって極右が台頭してきたのかよくわかりません。
極右はレイシストであることを隠しているので、「不法」移民はよくないとか、「移民の犯罪が多い」などと理由をつけますが、移民の犯罪が今になって増えたわけではありません。


非白人国の勢力はグローバルサウスと呼ばれるものとだいたい一致します。
日本ではグローバルサウスの力を軽視して、まだ世界は欧米中心に回っていると考えています。
そのため、ウクライナ戦争が始まってロシアに対する経済制裁が始まったとき、ロシアは長く持たないだろうなどといわれました。
しかし、実際は3年持っていますし、むしろ最近ロシア経済は好調です。
中国、インド、その他グローバルサウスの国がロシア経済をささえているからです。

グローバルサウスが力をつけてきたことに欧米は危機感を持って、そのため内部で保守対リベラル、あるいはレイシズム対反レイシズムの対立が激化しています。
トランプ政権もその中で保守ないしレイシズムの側でプレーしているわけです。
そして、プーチン政権を味方につけることで有利な立場に立とうとしています。
そう考えると、トランプ政権の外交が見えてくるのではないでしょうか。

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アメリカ大統領選でトランプ氏勝利の可能性が高まっています。
世論調査ではハリス氏が数ポイントリードしていますが、大統領選の賭けサイトではトランプ氏の勝率が60%に達し、株式市場でも“トランプ銘柄”の上昇が目立っています。
どうしてトランプ氏は人気なのでしょうか。

トランプ氏は不法移民について「彼らは第三世界の刑務所や精神科病院から来た」「米国に悪い遺伝子が入っている」「米国の血を汚している」などと言っています。
そして、こうした犯罪者の侵略に責任があるのはバイデン大統領とハリス副大統領だとし、「ジョー・バイデンは精神的に障害を負った。カマラは生まれつきそうだった。考えてみれば、わが国にこんなことが起こるのを許すのは精神障害者だけだ」と語りました。

大統領選の投票日の混乱の可能性について問われ、インタビュアーが「外国の扇動者」の例を持ち出すと、トランプ氏は「より大きな問題は国内の人だと思う。米国には非常に悪い人間がいるし、病んだ人々もいる。急進左翼の異常者だ」とし、「必要なら州兵によって、あるいはもし本当に必要なら軍隊によって、ごく簡単に対処できると思う」と述べました。
投票日にトランプ氏は軍隊を動かすことはできないので、なにか勘違いをしていますが、もし権限があるなら、みずから映画「シビル・ウォー」のような内戦を起こすかもしれません。
また、ハマスによるイスラエル襲撃から1年たった日に「再選されたらユダヤ人嫌いを排除する」とも述べました。


トランプ氏は銃撃事件で耳を負傷したときから元気がなくなり、得意の攻撃的な弁舌も威力がなくなりました。
しかし、このところ元気が戻ってきて、攻撃的な言葉を連発しています。
それがどうやらアメリカ国民に受けているようです。
暴言を連発するほど支持率が上がるというのは、どういう理屈でしょうか。

どこの国であれ、人々は強いリーダーを求めます。
トランプ氏は体が大きく、タフで、その上強い言葉を発するので、それが強いリーダーのイメージになっています。
トランプ氏の「遺伝子」「血を汚している」「精神障害者」などの発言は差別的だとして批判されましたし、「不法移民がペットを食べている」という発言は事実でないと批判されましたが、トランプ氏は撤回も謝罪もしません。それがまた“強さ”と認識されているのでしょう。

トランプ氏の姪であるメアリー・L・トランプ氏が書いた暴露本によると、トランプ氏の父親は『権力を持つ者だけが、物事の善悪を決める。うそをつくことは悪ではなく「生き方」の一つ。謝罪や心の弱さを見せることは負け犬のすることだ』ということを子どもたちに教えたそうです。
トランプ氏はその教育方針を実践していることになります。

なお、パワハラで内部告発されて失職した兵庫県の斎藤元彦前知事は、世の中から総バッシングされても頑として自分の非を認めず、そうするうちにだんだんと斉藤前知事の支持者が増えてくるという現象が見られました。トランプ流はなかなか有効なようです。


暴言を連発するトランプ氏ですが、決してでたらめを言っているわけではなく、一貫性があります。
これらの暴言はすべて「悪いやつをやっつけてアメリカをよくする」ということを言っています。
「悪いやつ」が不法移民や精神障害者や急進左翼やユダヤ人嫌いであるわけです。

「悪いやつをやっつけて世の中をよくする」というのは、正義のヒーローが活躍するハリウッド映画の論理です。
こうした物語は一般に「勧善懲悪」といわれます。「水戸黄門」などは勧善懲悪の典型です。
しかし、ハリウッド映画には勧善懲悪という言葉は合いません。というのは「勧善」の部分がなくて「懲悪」ばかりだからです。
正義のヒーローが悪いやつを派手にやっつけるシーンを中心につくられています。

日本でもどこの国でも、勧善懲悪や正義の物語は一段低く見られて、それほどつくられません。
ところが、アメリカではきわめて多くつくられています。
アメリカ人は正義のヒーローが悪人をやっつける物語がとくに好きなようです。
ですから、悪いやつをやっつけると言うトランプ氏が正義のヒーローと重なって、アメリカ国民に人気なのでしょう。


正義の力で悪いやつをやっつけても世の中はよくなりません。
なぜなら善、悪、正義には定義がないので、「悪いやつ」というのは権力者が恣意的に決めるからです。
そうすると権力が暴走し、悪くない者が「悪いやつ」とされて、世の中が混乱するだけです。
そうならないように、誰が「悪いやつ」かは法律で厳密に決めるというやり方が採用されています。それが「法の支配」です。
ところが、アメリカではしばしば「法の支配」よりも「正義の支配」が優先されます(「正義の支配」は「力の支配」とイコールです)。
そのためトランプ氏の「悪いやつをやっつけてアメリカをよくする」という主張がアメリカ国民に支持されるのでしょう。


アメリカでは犯罪に徹底的にきびしく対処してきました。
犯罪者はどんどん刑務所に入れるというやり方です。
しかし、再犯率が高いので、「スリーストライク法」というのがつくられました。これは、1年以上の刑を2度受けた者は、3度目はどんな微罪でも終身刑になるという法律です。
その結果、2015年の数字ですが、アメリカの人口は世界の5%なのに囚人の数は世界全体の25%を占める約220万人にのぼり、アメリカの成人の100人に1人が刑務所の中にいるということになりました(今は少し減少しています)。
つまり「悪いやつをやっつける」という正義の論理によるアメリカの犯罪対策は失敗だったのです。

ところが、多くのアメリカ人は自分たちの失敗を認めたくないようです。
そのため「不法移民が犯罪を持ち込んでいる」というトランプ氏らの主張に食いついています(統計的には不法移民とアメリカ生まれの人の犯罪率に差はないとされます)。


ともかく、「悪いやつをやっつけてアメリカをよくする」というトランプ氏の主張は根本的に間違っているので、トランプ氏が当選してからの混乱が懸念されます。
とりわけ「急進左翼に軍隊を使って対処する」とか「ユダヤ人嫌いを排除する」と言っているので、トランプ政権の政策に反対する大規模なデモが起こったときに、警察や軍と衝突するといったことが懸念されます。

一方、トランプ氏が世界大戦の引き金を引くといったことはないかもしれません。
ハマスによるイスラエル襲撃の1周年の日にトランプ氏は「(国内の)ユダヤ人嫌いを排除する」と言いましたが、「ハマスを排除する」とか「ヒズボラを排除する」とは言いませんでした。

一方、バイデン大統領は、イスラエル軍がヒズボラの最高指導者ナスララ師を殺害したと発表したとき、「正義の措置だ」という声明を発表しましたし、やはりイスラエル軍がハマスの指導者シンワル氏を殺害したとき、「テロリストが正義から逃れることはできない」という声明を発表しました。
また、バイデン大統領はロシアのウクライナ侵略を「悪」と思っているので妥協しません。

トランプ氏とバイデン大統領は対照的です。
バイデン大統領はネタニヤフ首相を苦々しく思っていますが、ハマスやヒズボラをやっつけることは賞賛します。
トランプ氏はネタニヤフ首相と仲良しでイスラエルを支持していますが、ハマスやヒズボラをやつつけることにはあまり興味がないようです。

アメリカはロシア、中国、イスラム圏と争って覇権を確立するという世界戦略を持っています。
こうした考え方を代表するのがネオコンですが、ネオコンでなくても、アメリカ全体にこうした半ば無意識の世界制覇の野望が存在しています。
バイデン大統領はその世界戦略の中で動いていますし、ハリス氏も同じでしょう。
ところが、トランプ氏にはその野望がまったくありませんし、世界戦略も理解していません。
トランプ氏の関心はもっぱらアメリカ国内の対立に向けられています。
ですから、トランプ氏はウクライナを放棄するのも平気です。
日本や韓国に米軍を駐留させている意味がわからず、日本や韓国を守るためだと思っているので、日本や韓国に駐留の対価を要求します。
中国が台湾に侵攻したときに軍事力行使の可能性を問われると、「その必要はないだろう。中国に150から200%の関税を課す」と答えました。アメリカの歴代政権が軍事介入の可能性をほのめかして中国を牽制してきたのとはまったく違います。
トランプ氏はプーチン大統領とも金正恩委員長とも仲良しですし、習近平主席については「習近平は私のことを尊敬している」と語っています。
トランプ氏が大統領になれば、大きな戦争は起こりそうにありません。
ここはトランプ氏を評価できるところです。


アメリカ国民は「正義」が大好きです。
バイデン・ハリス氏らの「正義」は「世界の悪いやつをやっつける」というもので、世界を分断します。
トランプ氏の「正義」は「国内の悪いやつをやっつける」というもので、国内を分断します。
まさに「究極の選択」ですが、アメリカ国民は「世界の悪いやつをやっつける」ことに次第に興味を失って、トランプ流を支持しているようです。

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「シビル・ウォー アメリカ最後の日」(アレックス・ガーランド監督)を観ました。

アメリカで大ヒットし、日本でも公開第一週の観客動員は一位でした。
アメリカの分断がどんどん深刻化しているので、アメリカの内戦を描いた映画がリアルに感じられるのがヒットの理由でしょう。

近未来のアメリカ。憲法を改正して3期目に就いている大統領が独裁化し、それに反発した多くの州が分離独立を表明して、内戦状態になっています。テキサスとカリフォルニアが連合した「西部勢力」とフロリダを中心とした「フロリダ連合」が政府軍を撃破してワシントンD.C.に迫っているという状況です。
その中で4人のジャーナリストが大統領とのインタビューをしようとして、ニューヨークからワシントンD.C.へ「PRESS」と書かれた車に乗って向かいます。危険地域を避けて1400キロの旅です。

4人というのは2人の男性記者と2人の女性カメラマンで、駆け出しの若い女性カメラマンがベテラン女性カメラマンの指導を受けながら苛酷な体験をして成長していくという物語になっています。
しかし、こうした人間的な物語はあまり成功しているとはいえません。はっきりいって4人のキャラクターもとくに印象に残りません。
結局のところ「内戦下のアメリカ」を描くことで人気を博した映画だといえます。

アメリカで内戦が起こるとすれば、リベラル対保守の戦いではないかと想像されますが、そういう思想的なことはいっさい出てきません。
唯一、「お前はどこの出身だ」と聞いて、「香港」と答えた人間を即座に射殺するという場面があるぐらいです。大統領がどういう思想の持ち主かもわかりません。
ただ、大統領が独裁化して3期目をやっているということで、トランプ氏のような人間を当選させるとこんなことになるぞという反トランプの主張が読み取れるかもしれません(しかし、トランプ派の人は連邦政府が弱いから内戦になるのだという教訓を読み取るかもしれません)。


一行は車で旅するうちにいろいろな場面に出会います。
ガソリンスタンドに寄ると、建物の裏で略奪者らしい男を残酷にリンチしているのを目撃します。
頭に袋をかぶせ、後ろ手に縛った男を並べて処刑する場面にも出くわします。
スタジアムが難民キャンプになっています。
スナイパー同士が向かい合っているところに巻き込まれますが、そのスナイパーは敵が何者なのか知りません。
そうかと思うと、内戦などないかのように、みんなが平穏な生活をしている町があり、「トワイライトゾーンみたい」という言葉がもれます。
ロードムービーといわれますが、アミューズメントパークの冒険もののアトラクションみたいです。

銃声や爆発音に迫力と臨場感があります。監督がこだわったところのようです。
映画の終盤には派手な戦闘シーンもあります。


アメリカはほとんどの戦争を国外でしていて、第一次世界大戦以降、アメリカの国土が戦場になったのは、真珠湾攻撃と9.11テロぐらいしかありません。
ですから、自国が戦場になるというこの映画の設定は、アメリカ人にとってはショックでしょう。

自国が戦場になった経験のないアメリカ国民は、戦争のほんとうの悲惨さを知りません。
そのため、アメリカの戦争映画は敵をバタバタと痛快に倒していく娯楽映画がほとんどです。
スピルバーグ監督の「プライベート・ライアン」は戦争の悲惨さを描いているといわれますが、描いているのはあくまで「戦闘シーン」の悲惨さです。住んでいる町が焼かれたり、食料不足で飢えたり、敵に占領されて支配されたりする悲惨さは描かれません。
その点、ロシア(ソ連)は第二次大戦のときにドイツに侵略されてきわめて悲惨な目にあいましたから、ロシアの戦争映画は、兵士の英雄的な戦いを描くものでも、必ず悲惨さも描かれているので、観終わったあとに重苦しいものが残ります。
「シビル・ウォー」はそういう意味ではこれまでのアメリカの戦争映画とは一線を画しています。

もっとも、アメリカを戦場にした映画は、1984年制作の「若き勇者たち」(ジョン・ミリアス監督)というのがありました。共産圏と全面戦争になり、共産軍がアメリカに攻め込んできて、若者たちがゲリラ戦で対抗するという物語です。単純な反共映画になりそうでしたが、アメリカ国土が戦場になるという設定のために、シリアスな印象の映画になっています(リメイク版の「レッド・ドーン」では北朝鮮軍が攻め込んでくるというおかしな設定になっていました)。


正義と悪の戦いであれば、悪いやつらをやっつけてスカッとするということがありますが、この映画は正義や善悪は出てこないので、ただの残酷な殺し合いとして描かれます。
アメリカ人同士が殺し合うわけで、アメリカ人の観客にとってはいやな気分でしょう。

この映画には平和主義や人道主義も出てきません。
ジャーナリストたちも真実を伝えようというジャーナリスト魂を持っているのではないようです。
誰も大統領にインタビューしていないので、自分たちがインタビューして、一発当ててやろうという山っ気から行動しているように見えます。

政治思想や善悪や正義を全部消し去ると、そこに残ったものは戦争であり殺し合いです。
そういう意味では戦争の愚かさを描いた映画ともいえます。
しかし、反戦映画ともいえません。

ガーランド監督はイギリス人で、アメリカをある程度客観的に見る目を持っていますが、考えてみればイギリスも自国が戦場になったのはロンドン空襲ぐらいです。ロシア人のようには戦争の悲惨さを知らないかもしれません。

ガーランド監督が描きそこねたと私が思うのは、戦争犠牲者の存在です。
難民キャンプで女性と子どもが出てきますが、それはわずかのシーンです。
この映画に出てくるのはほとんどマッチョな男たちです。戦争をするのはマッチョな男ですから当然です。
一方に、女、子ども、老人という戦争犠牲者もいるはずです。
戦争犠牲者を描いてこそ戦争の全体を描いたことになります。
そうすれば、反戦などを訴えなくてもおのずと戦争の悲惨さが伝わるはずです。
戦争犠牲者を排除したところが、この映画のなんとも残念なところです。

また、分断を解消するのは「寛容」や「友愛」といった概念であるでしょう。
しかし、この映画にそうしたものはまったくなく、「力による解決」があるだけです(いかにもアメリカ的です)。

エンドロールが流れる背景は、死体を取り囲んで笑顔を浮かべる兵士たちの写真になっていて、皮肉がきいています。

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トランプ前大統領の口止め料を巡る裁判で有罪評決が下りましたが、トランプ氏は控訴を表明し、「不正な裁判だ」「判事は暴君だ」などと述べました。
トランプ支持者も有罪評決でめげることはなく、逆に気勢を上げているようです。トランプ陣営は有罪評決後の24時間で約82億円の寄付が集まり、うち3割は新規の寄付者だったと発表しました。
アメリカの有権者の35%が4年前の大統領選は不正だったと思っているそうです。

「法の支配」は社会の基本ですが、トランプ氏とその支持者は「法の支配」など平然と無視しています。
これはトランプ氏のカリスマ性のゆえかと思っていました。
しかし、それだけでは説明しきれません。
私は、アメリカ人はもともと「法の支配」なんか尊重していないのだということに気づきました。

私の世代は若いころに映画とテレビドラマで西部劇をいっぱい観ました。
西部劇には保安官や騎兵隊も出てきますが、基本は無法の世界で、男が腰の拳銃を頼りに生きていく様を描いています。
今、アメリカで銃規制ができないのはその時代を引きずっているからです。

銃規制反対派は市民が権力に抵抗するために銃が必要なのだと主張しますが、アメリカの歴史で市民が銃で国家権力に抵抗したのは独立戦争のときだけです。
では、銃はなんのために使われていたかというと、ほとんどが先住民と戦うためと黒人奴隷を支配するためです。
それと、支配者としての象徴でしょう。
日本の侍が腰に刀を差しているのと同じ感覚で西部の男は腰に拳銃を吊るして、先住民、黒人奴隷、女子どもに対する支配者としてふるまっていたのです。
ですから、「刀は武士の魂」であるように「銃はアメリカ男子の魂」なので、銃規制などあってはならないことです。

西部開拓の時代は終わり、表面的には「法の支配」が確立されましたが、今もアメリカ人は「法の支配」を軽視しています。
たとえば白人至上主義者は平気で黒人をリンチしてきました。
『黒人リンチで4000人犠牲、米南部の「蛮行」 新調査で明らかに』という記事によると、米南部では1877年から1950年までの間に4000人近い黒人が私刑(リンチ)によって殺されていたということです。

同記事には『私刑のうち20%は、驚くことに、選挙で選ばれた役人を含む数百人、または数千人の白人が見守る「公開行事」だった。「観衆」はピクニックをし、レモネードやウイスキーを飲みながら、犠牲者が拷問され、体の一部を切断されるのを眺め、遺体の各部が「手土産」として配られることもあった』と書かれています。ナチスの強制収容所を連想します。人種差別主義者は似ているのでしょう。

リンチの犯人がかりに裁判にかけられることがあっても、陪審員は白人ばかりなので有罪になることはありません。
最近でも似たようなものです。警官が黒人を殺す場面が動画に撮られて大きな騒ぎになった事件でも、警官は裁判にかけられても無罪か軽い罪で、恩赦になることもあります。

そういうことから、白人至上主義者にとってトランプ氏の裁判で有罪の評決が出たのは「不当判決」なので、平然と無視できるのでしょう。


「法の支配」を軽視するのはアメリカ人全体の傾向です。
それは国際政治の世界にも表れています。
国際刑事裁判所(ICC)は5月20日、ガザ地区での戦闘をめぐる戦争犯罪容疑でイスラエルのネタニヤフ首相らとハマスの指導者らの逮捕状を請求したと発表しました。
これに対してバイデン大統領は「言語道断だ。イスラエルに対する国際刑事裁判所の逮捕状請求を拒否する。これらの令状が何を意味するものであれ、イスラエルとハマスは同等ではない」などの声明を発表しました。
「法の支配」をまったく無視した態度です。

バイデン大統領はトランプ氏への有罪評決に関して「評決が気に入らないからといって『不正だ』と言うのは向こう見ずで、危険で、無責任だ」「法を超越する存在はないという米国の原則が再確認された」などと語っていました。
評決が気にいらないからといって「不正だ」と言うのはバイデン大統領も同じです。
なお、アメリカは国際刑事裁判所(ICC)に加盟していませんが、加盟していないということがすでに「法の支配」を軽視しています(ロシア、中国も加盟していませんが、アメリカの態度が影響しているともいえます)。


国際司法裁判所(ICJ)は24日、イスラエルに対しガザ地区南部ラファでの軍事攻撃を即時停止するよう命じましたが、イスラエル首相府はこれを真っ向から否定しました。
アメリカもこれを容認しています。
国際司法裁判所(ICJ)は国連の機関なので、各国は法的に拘束されますが(執行力はない)、ここでもアメリカは法を無視しています。


トランプ氏が「アメリカファースト」を言うのは、もちろんアメリカは他国よりも優先されるという意味ですが、結果的にアメリカは法の上にあることになります。
バイデン大統領もこの点ではトランプ氏と変わらないようです。


アメリカもいつも無法者のようにふるまうわけではなく、表向きは「法の支配」を尊重していますが、いつ無法者に変身するかわかりません。
そうなるとアメリカの世界最強の軍事力がものをいいます。
当然、世界のどの国もそのことを意識せざるをえません。

日本も例外ではありません。
日本はアメリカと繊維、自動車、半導体などさまざまな分野で通商摩擦を演じてきましたが、どれも最終的に日本が譲歩しています。
日本がとことん強硬に主張し続けると、アメリカはテーブルをひっくり返して腰の拳銃を抜くかもしれないからです。
軍事行動に出なくても、貿易や金融などで不当な仕打ちをしてくるということはありえます。WTOに提訴するぐらいでは防げません。
なにかの理由をつけて経済制裁をしてくるということも考えられます。イランやキューバは今ではなんの理由だかわからなくなっても制裁され続けています。

どの国もアメリカと二国間交渉で対等な交渉はできません。
アメリカがGDP比3.45%もの巨額の軍事費を支出しているのも、それによって経済的な利益が得られるからに違いありません。



世界が平和にならないのは、アメリカが「法の支配」を無視ないし軽視して「力の支配」を信奉する国だからです。
世界を平和にするには、国際社会とアメリカ国内の両面からアメリカを変えていかなければなりません。

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ウクライナ戦争が始まって2月24日で丸2年になりましたが、着地点がまったく見えません。
そもそも現在の戦況すらよくわからないので、問題を整理してみました。

ロシア軍は2月17日、激戦地のドネツク州アウディイフカを完全制圧したと発表し、ゼレンスキー大統領も戦略的判断による撤退を認めました。
また、各地でロシア軍は前進しているということです。
どう考えてもロシア軍有利の戦況になっていますが、報道は「ウクライナ軍有利」を思わせるようなものがほとんどです。

「ウクライナ空軍はここ数日でロシアのSu-34戦闘爆撃機など7機を撃墜した」
「早期警戒管制機A50を先月と今月と立て続けに2機撃墜した」
「ウクライナ軍はロシア軍のミサイル艇を撃沈、大型揚陸艦を撃沈、黒海艦隊の3分の1を無力化した」
「ウクライナ軍は2月15日、ロシア軍の最新鋭戦車T-90Mを4両破壊した」
「ウクライナ軍はアウディイフカから撤退を強いられたにもかかわらず消耗戦では勝ちつつある」

これらのニュースを見ていると、「ロシア軍が前進している」というニュースがかき消されてしまいます。
ウクライナ国内で国民と兵士の士気を高めるためにこうした“大本営発表”が行われるのはわかりますが、日本で行われるのは不可解です。誰がメディアを操作しているのでしょうか。


こうしたことは開戦当初から行われていました。
開戦直後、アメリカを中心とした国はロシアにきびしい経済制裁をしました。

・石油ガスなどの輸入禁止
・高度技術製品などの輸出禁止
・自動車メーカーやマクドナルドなど外国企業の撤退
・国際的決済ネットワークシステムであるSWIFTからの排除

これらの制裁によってロシア経済は大打撃を受け、財政赤字が拡大し、ハイテク兵器がつくれなくなるなどと喧伝されました。
しかし、ロシアのGDP成長率は、2022年こそ-1.2%でしたが、2023年は3.6%のプラス成長でした。兵器もかなり製造しているようです。
全然話が違います。

経済制裁は、北朝鮮やイランやキューバに対してずっと行われていますが、それによって情勢が変わったということはありません。
ロシアへの経済制裁の効果も大げさに宣伝していたのでしょう。


ロシアからドイツへ天然ガスを送る海底パイプライン「ノルドストリーム」が2022年9月に爆破されるという事件がありました。
西側はロシアの犯行だとしてロシアを非難し、ロシアは西側の犯行だと反論し、激しい応酬がありました。
1か月ほどしたころ、ニューヨーク・タイムズが米情報当局者らによる情報として、親ウクライナのグループによる犯行だということを報じました。
独紙ディ・ツァイトは、爆発物を仕掛けるのに使われた小型船はポーランドの会社が貸したヨットだとわかったとして、ヨットの所有者は2人のウクライナ人だと報じました。
さらに独誌シュピーゲルは、ウクライナ軍特殊部隊に所属していた大佐が破壊計画の調整役として中心的役割を担ったと報じ、ワシントン・ポストは米当局の機密文書に基づき、ウクライナ軍のダイバーらによる破壊計画を米政府が事前に把握していたと報じました。
流れは完全にウクライナの犯行のほうに傾きました。
ところが、このころからぱたっとノルドストリーム爆破に関する報道はなくなりました。当然、ウクライナはけしからんという声も上がりません。
ウクライナにとって不都合なことは隠されます。


しかし、戦況がウクライナ不利になっていることは隠せなくなってきました。
なぜウクライナ不利になっているかというと、主な原因は砲弾の補給がうまくいっていないことです。

東京で行われたウクライナ復興会議に出席するため来日したウクライナのシュミハリ首相はNHKとのインタビューで「ウクライナも自国での無人機の製造を100倍に拡大したほか、弾薬の生産にも取り組んでいますが、必要な量には達していません。ロシアは大きな兵器工場を持ち、イランや北朝鮮からも弾薬を調達していて、ウクライナの10倍もの砲撃を行っているのです」と語りました。
この「10倍」というのは話を盛っているかもしれません。ほかの報道では、ロシアはウクライナの5倍の砲弾を補給しているとされます。

現代の戦争では、銃撃で死ぬ兵士は少なく、ほとんどの兵士は砲撃と爆撃で死にます。
ウクライナ軍の砲弾不足は致命的です。

なぜこんなことになっているのでしょうか。
EUは昨年3月、1年以内に砲弾100万発を供給する計画を立てましたが、約半分しか達成できていないということです。
EUの各国に砲弾製造を割り当てればできるはずです。
できないのは、よほど無能かやる気がないかです。
ゼレンスキー大統領は激怒してもいいはずですが、さすがに支援される立場ではそうもいかないでしょう。
代わって西側のメディアが砲弾供給遅れの責任を追及するべきですが、そういう報道もありません。“支援疲れ”などという言葉でごまかしています。


なぜEUは砲弾の供給を計画通りにやらないのかと考えると、本気で勝つ気がないからと思わざるをえません。
これはアメリカやNATOも同じです。
ロシアは勝つために必死で砲弾やその他の兵器を増産しているので、その差が出ていると考えられます。

アメリカ、ドイツ、フランス、イギリスなどが新鋭戦車をウクライナに提供したのは、開戦からかなり時間がたってからで、しかも数量が限定的でしたから、ゲームチェンジャーにはなりませんでした。
F-16の提供も遅れたために、今はまだパイロットの訓練中です。
多連装ロケット砲のハイマースや155ミリ榴弾砲も供与されていますが、肝心の弾が不足です。
ロシア領土に届くような長距離ミサイルは供与されていません。
つまり「戦力の逐次投入」をして、しかもその戦力が不足です。
アメリカなどの支援国が本気で勝つ気なら、勝つためにはどれだけの兵器が必要かを計算して、最初から全面援助しているのではないでしょうか。

なぜアメリカなどに勝つ気がないかというと、理由は単純で、ロシアを追い詰めると核戦争になるかもしれないからです。
このところ通常兵器の戦闘が続いているので、核兵器の存在を忘れがちですが、核兵器抜きに戦争は論じられません。

プーチン大統領は開戦初期に何度も核兵器の使用の可能性に言及しました。
この発言は「核による脅し」だとして各国から批判されましたが、その発言の効果が十分にあったようです。
アメリカなどがウクライナ支援を限定的にしていることがわかってからは、プーチン大統領は核について発言することはなくなりました。

ウクライナにとっての理想は、開戦時点の位置までロシア軍を押し戻すことでしょう。
しかし、そんなことになればロシアは多数の戦死者をむだ死にさせたことになるので、プーチン大統領としては絶対認められません。
そのときは核兵器を使うかもしれません。
戦術核を一発使えば、ウクライナ軍に対抗手段はないので、総崩れになるでしょう。

そのとき、アメリカは弱腰と言われたくなければ、「もう一発核を使えばアメリカは核で報復するぞ」と言わねばなりませんが、これは最終戦争につながるチキンレースです。

このチキンレースでアメリカとロシアは対等ではありません。
ロシアはウクライナと国境を接して、NATOの圧力にさらされているので、日本でいうところの「存立危機事態」にありますが、アメリカにとってはウクライナがどうなろうと自国の安全にはなんの関係もありません。
ですから、トランプ元大統領のウクライナ支援なんかやめてしまえという主張がアメリカ国民にもかなり支持されます。

ともかく、アメリカとしては「ロシアに核兵器を使わせない」という絶対的な縛りがあるので、ロシアを敗北させるわけにいかず、したがってウクライナはどこまでいっても「勝利」には到達できないのです。
このことを前提に停戦交渉をするしかありません。
最終的に朝鮮半島のように休戦ラインをつくることになるでしょうか。


アメリカは東アジア、中東、ヨーロッパと軍隊を駐留させて、支配地域を広げてきました。
まさに「アメリカ帝国主義」です。
しかし、戦争においては、進撃するとともに補給や占領地の維持が困難になり、防御側も必死になるので、いずれ進撃の止まるときがきます。それを「攻勢限界点」といいます。
アメリカ帝国主義もヨーロッパ方面では「攻勢限界点」に達したようです。
核大国のロシアにはこれ以上手出しできません。


もっとも、アメリカ人は自国を帝国主義国だとは思っていないでしょう。
「自由と民主主義を広める使命を持った国」ぐらいに思っています。
現実と自己認識が違っているので、ウクライナ支援をするか否かということでも国論が二分してしまいます。

トランプ氏再登板に備えて、日本人もアメリカは帝国主義か否かという問題に向き合わなければなりません。

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米空軍のオスプレイが屋久島沖で搭乗員8人死亡の墜落事故を起こしたことで、全世界でオスプレイの飛行が停止されましたが、さらに米国防総省はオスプレイの新規調達を終了すると決定し、生産ラインも閉鎖されることになりました。
アメリカも欠陥品ないし失敗作であると認めたわけです。
これまで400機余りが製造されましたが、アメリカ以外で購入したのは日本だけです。
しかも日本はオスプレイ17機を2015年当時で3700億円という高値で購入しています。
「もったいない」というしかありません。

辺野古新基地建設には防衛省の試算でも9000億円以上の費用がかかります。
最初は普天間飛行場を日本に返還してもらうという話だったのですが、アメリカが代替基地を要求してきたので、自然破壊しながらバカ高い費用で日本が辺野古に新基地を建設することになりました。
大阪万博の会場建設費が2350億円にふくれ上がって批判されていますが、辺野古の建設費はそれどころではありません。
これも「もったいない」というしかありません。

しかし、究極の「もったいない」は防衛費の倍増です。
今後5年間の防衛費の総額が43兆円になると発表されていますが、それで終わるわけではありません。その先も今の2倍を払い続けるわけです。
これまでの防衛費は年間5兆円余りですから、今より毎年5兆円をよけいに支出することになります(今の経済規模が続くとして)。
かなりの「防衛増税」をしないとおっつきません。

世界の主要国で最大の財政赤字をかかえ、ほとんど経済成長しない日本が防衛費を増大させるとは、信じられない愚かさです。


私は前回の「イスラエルやウクライナを支持する人の思考法」という記事で、人類は「互恵的利他主義」によって互いに協力することで文明を発達させてきたのだから、軍事費に関しても「こちらは軍事費を削減してそちらを安全にするから、そちらも軍事費を削減してこちらを安全にしてくれ」ということが可能だと述べました。
もっとも、書いている途中で「互恵的利他主義」のことを思いついたために、中途半端な内容になってしまいました。
「互恵的利他主義」はスケールの大きな問題なので、改めて書き直すことにしました。


動物が利他行動をすることはダーウィンの時代から知られていましたが、生存競争をする動物が利他行動をすることは当時の進化論ではうまく説明できませんでした。しかし、遺伝子が発見されたことで「血縁淘汰説」が生まれ、親が子の世話をすることや、自分は子孫を残さない働きバチが群れのために働くことなどがうまく説明できるようになりました。この説は数式で表され、「2人の兄弟か、8人のいとこのためなら死ねる」という言葉がその数式の内容を表しています。
血縁関係にない個体同士においても利他行動は見られます。それはゲーム理論を用いることで説明できました。それが「互恵的利他主義(互恵的利他行動)」です。
互恵的利他主義というのは、あとの見返りを期待して行われる利他行動のことです。リチャード・ドーキンスは「ぼくの背中を掻いておくれ。ぼくは君の背中を掻いてあげる」という言葉で説明しました。
動物の場合は、はっきりとした見返りの見通しなしに利他行動をしますが、人間の場合は、約束や契約などで見返りを確かなものにすることができるので、幅広く利他行動をするようになりました。人間が文明を築けたのはそのためだという説があります。

互恵的利他主義を頭の中に入れておけば、「こちらは軍事費を削減してそちらを安全にするから、そちらも軍事費を削減してこちらを安全にしてくれ」という発想はおのずと出てきます。もちろん協定や条約で見返りを確かなものにすることができます。軍事費を削減できれば双方が得をして、まさにウィンウィンです。


前回はこういうことを書いたのですが、よく考えると、これはうまくいきません。
たとえば、日本が中国に対して、互いに軍縮しようと提案すれば、どうなるでしょうか。
中国は応じるはずがありません。というのは、中国はアメリカに対抗するために軍拡をしているからです。日本はほとんど眼中にありません。
北朝鮮にしても同じことです。米軍と韓国軍に対峙しているので、日本はどうでもいい存在です。
ロシアももっぱらアメリカの軍事力を意識しています。

アメリカの軍事費は世界の軍事費の約4割を占めていて、世界第2位の中国の約3倍です。
アメリカは軍事力のガリバーです。

アメリカがなぜこれほどの軍事力を持つかというと、ひとつには海外に米軍を駐留させているからです。
ウィキペディアの「アメリカ合衆国による軍事展開」によると、海外基地に駐留する米軍の人員がもっとも多いのは日本で約5万7000人です。2番目がドイツで約3万5000人、3番目が韓国で約2万7000人、4番目がイタリアで約1万2000人となっています。
要するにアメリカが戦って占領した国に今も駐留しているのです。

昨年9月の『「米国は日独韓をいまだに占領」とロ大統領』という記事にはこう書かれています。
 ロシアのプーチン大統領は30日の演説で「米国はいまだにドイツや日本、韓国を事実上占領している。指導者たちが監視されていることを全世界が知っている」と述べ、同盟関係が対等でないと批判した。

同盟関係が対等でないか否かは別にして、日本もドイツも韓国も強力な軍隊を持っていますから、その上に米軍が駐留しているのは、ステーキの上にハンバーグが載っているみたいにへんな格好です。
ロシアや中国や北朝鮮から見れば、この「二重軍事力」は自分たちに対する攻撃が目的としか思えません。
よく「その地域から米軍がいなくなると『力の空白』が生じる」ということを言いますが、「力の空白」が生じることはなく、「二重軍事力」が解消されるだけです。


アメリカ軍は世界のどこへでも展開できる体制をとっています(オスプレイもそのためのものです)。
昨年10月、バイデン政権は外交戦略の基本となる「国家安全保障戦略」を発表しましたが、それによると、米軍を「世界史上最強の戦闘部隊」と自慢した上で、「米国の国益を守るために必要である場合には、武力を行使することもためらわない」としています。
決して「国を守るため」ではありません。「国益を守るため」なのです。
ですから、アフガニスタンにもイラクにも攻めていきます。
「国益を守るため」という名目さえつけば、ロシアにも中国にも攻めていくでしょう。
なお、「国家安全保障戦略」には「世界平和を目指す」みたいな文言はまったくありません。


もしどこの国の軍隊も自国を守ることに徹していれば、戦争は起こらない理屈ですし、もし起これば、どちらが「侵略」でどちらが「防衛」かが明白になります。
ところが今は、アメリカの過剰な軍事力が世界各地に「二重軍事力」を生み出しているので、「侵略」と「防衛」の区別がつきません(ロシアも「防衛」を主張しています)。


「世界史上最強の戦闘部隊」を維持するには巨額の軍事費がかかります(アメリカの軍事費はGDP比3.5%です)。それで引き合うのかというと、引き合うのでしょう。
たとえば、アメリカはイラクに大量破壊兵器があると嘘をついて攻め込み、イラクを混乱させましたが、大量破壊兵器の情報が捏造であるとわかってからも、イラクに対して謝罪も賠償もしていません。こんなことが許されるのは、アメリカが強大な軍事力を持っているからです。

また、日本はアメリカと数々の貿易摩擦を演じてきましたが、結局は日本が譲ってきました。たとえば日本の自動車メーカーはアメリカに工場をつくり、アメリカで多くの部品を調達しています。人件費の高いアメリカに工場をつくるのはメーカーにとって損ですし、日本にとっても日本人の雇用がアメリカに奪われました。

アメリカはイランやキューバに対して長年経済制裁をしています。国際基準ではなく“自分基準”の制裁ですが、アメリカの経済力は大きいので、制裁された国は苦境に陥ります。
アメリカはいつどの国に経済制裁をするかわからないので、どの国もアメリカに対して貿易交渉などで譲歩せざるをえません。
アメリカが自由に経済制裁できるのも、背後に軍事力があるからです。


ともかく、アメリカは軍事力を使って国益を追求しています。
こういう国が一国でもあれば、互恵的利他主義で軍縮を成立させることはできません。

世界が平和にならない理由は明らかです。
アメリカが世界平和を目指さないからです。

中国や北朝鮮が脅威だと騒いでいる人は、自国中心でしかものごとを見られない愚かな人です。
グローバルな視点で見れば、世界にとっての脅威はアメリカです。
今後、世界は力を合わせてアメリカを「普通の国」にしていかなければなりません。

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ウクライナとパレスチナで同時進行している戦争を見ていると、戦争の残酷さ、愚かさ、虚しさが身にしみて、早くやめてもらいたいとしか思えません。
ところが、世の中にはもっと戦えと主張する人がいます。
そういう人たちの頭の中はどうなっているのでしょうか。

さすがにストレートに「戦争賛成」と言う人はいません。
代わりに、イスラエルのガザ攻撃について「テロをしたハマスが悪いのだから、イスラエルが攻撃するのは当然だ」というふうに言います。
しかし、ハマスのテロによって約1400人が殺されましたが、その後のイスラエルの攻撃によってすでに10倍以上の人が殺されています。
それに、ネタニヤフ首相は「ハマスの殲滅」を目的にすると言っていますが、明らかに自衛権の範疇を超えています。

イスラエルを支持するのはどういう人かというと、要するに安倍元首相を支持していたような保守派の人です。保守派はほぼ完全にイスラエル支持です。
日本がイスラエルを支持してもなんの国益にもなりません。むしろ中東産油国をたいせつにしたほうが国益です。
もっとも、日本の同盟国であるアメリカは強力にイスラエルを支持しているので、保守派の人の頭の中は完全にアメリカにシンクロしているのでしょう。


ウクライナ戦争は、完全に戦線が停滞しています。第一次世界大戦や朝鮮戦争と同じで、双方が塹壕と地下陣地で守りを固めて、前進できないのでしょう。このままでは双方の損害が増大するばかりですから、停戦するしかない状況です。
ところが、日本では「侵略したロシアが悪いのだから、侵略開始時点へ押し戻すまでウクライナは停戦するべきでない」という声があります。
勝利の展望があるなら戦い続ける選択肢もありますが、勝てないばかりかウクライナが劣勢になり、ロシアがますます占領地域を広げる可能性もあります。
そして、戦い続けろという声はやはり保守派から上がっています。
これもアメリカがウクライナを支援しているからでしょう。

つまり戦争継続を主張している人は、ほとんどが保守派で、アメリカに同調してイスラエルとウクライナを支持しているのです。
しかし、イスラエルとウクライナは保守派が支持できる国でしょうか。


ネタニヤフ首相は11月28日にイーロン・マスク氏と対談した際、戦前のドイツと日本を「有毒な体制( the poisonous regime)」と称し、それらの国々が辿った末路のようにハマスを殲滅させるべきだと主張しました。さらに、マッカーサー元帥が日本にしたように、ハマスに対しても「文化的改革」を行う必要性があると述べました。

ゼレンスキー大統領は昨年3月16日に米連邦議会でオンライン演説をした際、「真珠湾攻撃を思い出してほしい。1941年12月7日、あのおぞましい朝のことを。あなた方の国の空が攻撃してくる戦闘機で黒く染まった時のことを」と語り、さらに9.11テロとも関連づけました。

日本の保守派はいまだに戦前の日本の体制を美化し、理想としています。
こうはっきり戦前の日本を否定する指導者のいる国を支持していいのでしょうか。


ともかく、戦争するどちらかの国に肩入れすると、「勝利か敗北か」という発想になり、平和や停戦を目指そうということになりません。
ですから、第三者の立場から双方を公平に見ることがたいせつです。

しかし、そこに「自分」が入ってくるとむずかしくなります。
自分と相手の関係を客観的に公平に見るのは容易ではないということです。

たとえば日本と北朝鮮の関係について、日本人はどうしても日本につごうよく考えてしまいます。
北朝鮮は11月末に軍事偵察衛星の打ち上げに成功したと発表し、日本にとって脅威だと騒がれています。
しかし、日本はこれまでに19機の偵察衛星を打ち上げていますし、アメリカはもっとです。
公平な立場からは、北朝鮮が偵察衛星を持つことを非難することはできません。
また、北朝鮮は核兵器とICBMを開発して、これも日本とアメリカにとって脅威だとされていますが、アメリカの核兵器は北朝鮮にとってはるかに脅威です。
北朝鮮は自衛権があり、抑止力を持つ権利もあり、2003年に核拡散防止条約を脱退しているので核武装の権利もあります。
ですから、アメリカは北朝鮮の核兵器開発を防ぐために、北朝鮮が核兵器開発を断念する代わりにアメリカが軽水炉を提供するという「米朝枠組み合意」を締結したのですが、アメリカ議会が軽水炉の予算を承認しなかったために、合意は崩れてしまいました。

中国の軍拡も脅威だとされていますが、中国はGDPに合わせて軍事費を増やしているだけです。
今でもアメリカの軍事費は中国の軍事費の3倍あります。
アメリカにとって中国が脅威であるよりも、中国にとってアメリカが脅威であることのほうがはるかに大きいといえます。

自国中心主義を脱すると、世界のあり方が正しく見えてきます。


人類が高度な文明を築けたのはどうしてかというと、互恵的利他主義によって互いに協力してきたからだとされます。
互恵的利他主義というのは、あとの見返りを期待して行われる利他行動のことですが、遺伝子レベルに組み込まれているので、見返りを期待しないで行われることも多いものです。
互恵的利他主義だと「こちらは軍事費を削減してそちらを安全にするから、そちらも軍事費を削減してこちらを安全にしてくれ」ということになり、双方が利益を得られます。
ところが、互恵的利他主義は共同体から機能社会にまで広がっていますが、まだ国際社会には広がっていません。そのため、どの国も軍事費を増大させて財政を苦しくし、戦争になったときの損害を大きくしています。
日本国憲法前文が「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」となっているのは、互恵的利他主義を前提としたものと思われますが、国際社会はまだその段階に達していません。

国際社会に互恵的利他主義を広めるには、まず自国中心主義を脱し、世界を公平に見る視点を確立しなければなりません。



なお、イスラエルを支持する人は決まって、ハマスは「テロ」をしたからイスラエルが攻撃するのは当然だと主張します。
ウクライナを支持する人は、ロシアは「侵略」をしたからウクライナは撃退するまで戦い続けるべきだと主張します。
つまり向こうはテロや侵略などの「悪」であり、それと戦うこちらは「正義」だということです。
このように「悪」と「正義」のレッテル張りをすると、もう自分と相手を公平に見ることはできません。

善悪や正義を頭の中から消去することが世界を公平に見るなによりのコツです。

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岸田文雄首相は11月16日、サンフランシスコにおいてバイデン大統領と会談したあと、「来年早期の国賓待遇の公式訪問の招待を受けた」と語りました。
アメリカから国賓待遇の招待を受けるというのは、岸田外交の大きな成果とされるはずですが、今のところそういう反応はありません。
ヤフーコメントには「年内退陣が噂される中、バイデンに泣きついて年明けの訪米に招待して貰ったんでしょう」などと書かれています。

これまで岸田首相は「聞く力」をアメリカに対して大いに発揮してきました。
その最たるものは、防衛費をGDP比1%から2%へ増額したことです。
予算というのは1割、2割増やすのもたいへんなのに、あっさり倍増したのには驚きました。

岸田政権はウクライナ支援にも巨額の支出をしています。
今年2月の時点で岸田首相は「55億ドル(7370億円)の追加財政支援をすると表明した」と日経新聞は書いています。

日本の防衛費増額やウクライナ支援はアメリカにとってありがたいことですから、バイデン大統領が岸田首相を国賓待遇で招待したのも当然です。

このようにひたすらアメリカに追従する外交を日本国民も支持してきました。
岸田首相も長年外務大臣を務めたことからそれがわかっていて、自信を持ってやってきたのでしょう。
ところが、最近は国民の意識が変わってきました。


要するにこれまでの日本外交は「経済大国の外交」でした。
たとえば日本の首相がアジア・アフリカの国を訪問すると、必ず経済援助の約束をします。豊かな国が貧しい国に援助するのは当然です。しかし、日本がどんどん貧しくなってくると、国民の不満が高まってきました。こんな“バラマキ外交”をするのではなく、国内のことに金を使うべきだという声が強まりました。

防衛費増額もウクライナ援助も要するに「経済大国の外交」です。今の日本にそんなことをする余裕はありません。

アメリカはNATO諸国にも軍事費GDP比2%を要求していて、ドイツも2%に引き上げることを約束しました。
しかし、日本とドイツなどの国では財政赤字のレベルが違います。

債務残高の国際比較(対GDP比)
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財政赤字国の日本は他国並みの負担を要求されても断って当然です。ところが、日本は断らなかったのですから、これはバイデン大統領にとっては大きな成果です。
「日本は長期にわたり軍事費を増やしてこなかったが、私は日本の指導者に、広島(G7広島サミット)を含めて3回会い、彼を説得した」と語って、その成果を自慢しました。


岸田首相はバイデン大統領に屈しましたが、防衛費GDP比1%を2%にするのはたいへんです。
これまで防衛費と文教科学振興費はだいたい同額でしたから、文教科学振興費をゼロにして、それをそのまま防衛費に回す計算です。
もちろんそんなことはできませんから、文教科学振興費のほかに福祉や公共事業費などを少しずつ削り、増税し、国債を増発するということになり、今その議論をしているわけです。


岸田首相は所信表明演説で「経済、経済、経済」と言いましたが、日本は乏しい金をアメリカに貢いでいるので、少しも経済はよくなりません。
日本は敵基地攻撃能力として400発のトマホークを3500億円で購入して配備する予定ですが、本来ならアメリカが自費で購入するところを日本が代わりに購入するのですから、アメリカにとっては笑いがとまりません。


このところ岸田内閣支持率が急落しているのは、防衛費倍増のツケが回ってきたからです。
岸田首相は国民の税金を使ってみずからの国賓待遇を買ったようなものです。

今後日本は、分相応の「財政赤字国の外交」をしていくしかありません。

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ハマスが10月7日にイスラエルを攻撃したことについて、松野官房長官は12日、「残虐な無差別攻撃である点を踏まえ、本事案を『テロ攻撃』と呼称することとした」と語りました。
ということは、これまで日本政府は「テロ」という言葉を使っていなかったのです。

岸田首相は8日にXに次の文章を投稿しました。
岸田文雄 @kishida230 10月8日
多くの方々が誘拐されたと報じられており、これを強く非難するとともに、早期解放を強く求めます。
また、ガザ地区においても多数の死傷者が出ていることを深刻に憂慮しており、全ての当事者に最大限の自制を求めます。
ハマスの行動を非難する一方で、イスラエルによるガザ空爆を憂慮して、バランスをとっています。

ところが、バイデン大統領は違います。
東京新聞の記事はこう伝えています。
【ワシントン=吉田通夫】バイデン米大統領は10日に演説し、イスラム組織ハマスの攻撃を「悪の所業」と断じ、イスラエルは「悪質な攻撃に対応する権利と責務がある」と一定の報復措置を容認した。
 また中東情勢のさらなる混乱を防ぐため、最新鋭の原子力空母ジェラルド・フォードを配置して抑止力を強化したと説明し「テロの憎悪と暴力に反対する」と強調した。空母打撃群は10日、東地中海に到着した。
(後略)

バイデン大統領はイスラエルの報復を支持し、空母打撃群を派遣することでイスラエルに加勢しようとしています。
つまり多数のパレスチナ人を殺すことを容認ないし奨励しているのです。

もちろんパレスチナ人を一方的に殺すことはできず、イスラエル軍にも損害は出ますし、長期的には報復が報復を呼び、パレスチナ問題はさらに泥沼化します。
いや、他国を巻き込んで戦火が拡大する恐れもあります。

世界には心情的にイスラエルを支持する人とパレスチナを支持する人がいて、国家指導者も同じですが、こういうときはその心情を抑えて、戦いをやめるように呼びかけるべきです。
岸田首相が「全ての当事者に最大限の自制を求めます」と呼びかけたのは適切な対応でした。
ところが、バイデン大統領は戦争をけしかけるようなことをしているのです。

岸田首相はバイデン大統領をいさめるべきです。
それが平和日本の外交です。

ところが、岸田首相はバイデン大統領を説得する気持ちがないばかりか、逆に迎合しようとしています。
ハマスの行為を「テロ攻撃」と呼称変更したのは、バイデン大統領がハマスの行為を「悪の所業」「テロ」と呼んだのに合わせたからに違いありません。
イスラエルの軍事行動を容認する準備です。
いつものこととはいえ対米追従外交は情けない限りです。


トランプ前大統領は今回の出来事についてどういう認識なのでしょうか。
「トランプ氏、ネタニヤフ氏を痛烈批判 ハマスによる攻撃巡る諜報の落ち度で」という記事にはこう書かれています。

ワシントン(CNN) 米国のトランプ前大統領は13日までに、イスラエルのネタニヤフ首相を厳しく批判した。パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスの攻撃に対し、同首相が不意を突かれたとの見解を示した。一方でレバノンの武装組織ヒズボラを「非常に賢い」と称賛した。
(中略)
自身が大統領ならハマスによる攻撃は起きていなかったとも示唆。支持者らに対し、「大統領選で不正がなければ、誰だろうとイスラエルに侵入するなど考えもしなかっただろう」と語った。

ヒズボラを「非常に賢い」と称賛したのは、プーチン大統領や金正恩委員長と友だちになるトランプ氏らしいところです。
ネタニヤフ首相を批判したのは、ネタニヤフ首相はトランプ氏と親しくしていたのに、大統領選でバイデン氏の勝利を認めたので、それからトランプ氏は敵意を抱くようになったからだと解説されています。
要するにトランプ氏はすべてを自己中心に考えているということです。
それでも「平和志向」というものが感じられなくはありません。

バイデン大統領に「平和志向」は感じられません。
ウクライナに対しても、まったく戦争を止めようとせず、軍事援助ばかりしています。戦争をけしかけているも同然です。


従来、イスラエル対アラブの戦争について国際世論はイスラエル寄りでした。西欧が世界の支配勢力だったからです。
しかし、最近は世界の勢力図が変化しています。
昔はアラブ世界の情報を伝えるメディアはアルジャジーラぐらいしかありませんでしたが、今ではガザ地区からの情報発信はイスラエルからの情報発信と同じくらいあります。

それに加えてウクライナ戦争の影響もあります。
ロシアがウクライナに攻め込んだのは「侵略」であり「力による現状変更」であるとして批判されているときに、イスラエル軍がパレスチナ自治政府の支配地域に攻め込めば、まったく同じ批判が起こるに違いありません。
日本政府がイスラエルの軍事行動を容認するような態度を示せば、日本も批判されることになります。

日本は対米追従外交を脱却するチャンスです。

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