現在の年金制度は若者に不利だといわれています。将来的には破綻するという説もあります。とすると、若者が年金に加入しているのはバカらしいということになります。実際のところはどうなのでしょうか。
私は年金の専門家ではありませんし、たいして年金制度に詳しいわけでもありませんが、それでもかなりの自信を持って言うことができます。
若者は年金に加入していて損はない。今は損でも、将来取り戻せる。
どうしてそんなことが言えるのかを説明する前に、今の年金制度が若者にとってどうなのかをはっきりさせておかなければなりません。若者には不利だという説を紹介しておきましょう。
21歳の若者は年金制度で約2200万円損をする
「将来の人口構造を考えれば、日本では今後、絶対に年金は成り立ちません。今払ってる分も、ほとんど戻ってこないでしょう」と主張するのは、政策研究大学院大学の松谷明彦教授。
「国民皆年金が始まった1961年当時は、10人の現役世代で高齢者1人を支えていました。しかし2005年には、現役世代3人に対し高齢者1人になり、2050年になると、現役世代1人に対し高齢者は0.8人。現役世代の所得の半分を高齢者に移転しなければならない状態です。こんな状況で、年金なんて仕組みが成り立つはずがありません」(松谷教授)
ちなみに、経済学者の鈴木亘氏は、著書『年金は本当にもらえるのか?』で、払った金額に対していくらもらえるかの損得勘定を、世代別に算出。その結果、21歳ならば2240万円から2280万円の損となるという。これでは、超低金利でも元本割れのない銀行預金として積み立てたほうがはるかにマシという状態だ。
年金制度についてはいろいろな意見があって、これはその中のひとつです。私はどの意見が正しいとか判断する能力はありませんが、大局的な見地から、若者が損をすることはないと考えています。
ごく大ざっぱに、30年をワンジェネレーションとして、60代の団塊世代を30代の若者世代がささえているというのが現状だとします。この関係は、60代が有利で、30代が不利です。
しかし、30年たてば、当たり前ですが、今の30代は60代になっていて、団塊世代はほぼ死に絶えています。となると、景色もまったく変わってきます。
つまり、30年後は今の30代が支配的な立場に立つのです。
当然、年金制度も自分たちに有利なようにできます。
自分たちに不利な制度にするわけがありません。
具体的にどうやるかというと、若い世代にたくさん支払わせて、自分たちの年金給付をふやせばいいわけです。若い世代が文句を言っても、「自分たちも上の世代のために支払ってきたのだ」と言って突っぱねます。そして、年金を強制加入式にして、年金制度を維持します。
要するに今の60代は、自分たちは少なく支払って多く給付されるという虫のいい制度をつくっているわけです。となれば、将来の60代もそれを見習って同じことをするに決まっています。
年金の専門家は、30年後も「同じような制度」を維持するという前提で考えているのでしょう。そうすると、少子化が進むと制度の維持は不可能になります。
しかし、私は30年後も「同じように上の世代が有利になる制度」が維持されると考えています。そうすると、今の若い世代も年金に加入していて不利はありません。むしろ有利になります。
ただ、そうすると次の若い世代はより不利になりますが、その不利はやはり30年後に取り戻すことができるわけです。
たとえていえば、不良の多い学校に入学したらいきなり上級生のカツアゲにあって、お金を取られたとします。これを上級生から取り戻そうとするのはまず不可能です。上級生は結束していますし、喧嘩の経験も積んでいます。では、どうするか。1年待って、新入生が入ってきたら、カツアゲして取り返せばいいのです。そうすれば損はありませんし、得をすることも可能というわけです。
よく「将来世代にツケを回すのはよくない」と言います。しかし、そんなことを言いながら、どんどんツケは回されていきます。人類はこれまでずっとそうしてきたのです。
たとえば原発にしても、核廃棄物の処理は将来世代のツケになります。年金も同じことです。
私はこれを「年齢差別」「若年者差別」「子ども差別」というふうに呼んでいます。
年長者が若者を抑圧し、その若者が年長者になったとき、また若者を抑圧する。人類の歴史において、これがずっと繰り返されているのです。年金制度もその中のひとコマです。
もちろんそれがよいことだと考えているわけではありません。むしろ若者は反乱を起こすべきだと思っています。
もっとも、今の日本の教育は若者を政治的に目覚めさせないように努めていて、きわめて成功しています。
