
石破茂政権は最悪のスタートとなりました。
石破首相は総裁選のときは、予算委員会を開催してから信を問いたいと言っていたのに、総裁に選ばれるとすぐに衆院の解散を表明し、予算委員会を開かないで10月27日に投開票となる日程を発表しました。
裏金議員についても「厳正に判断する」と言っていたのに、「原則公認する」という情報が流れ、国民の反発が強いと見ると「一部非公認」となり、これもぶれた印象になりました。
所信表明演説にも、石破カラーがほとんど盛り込まれませんでした。
トランプ氏のように嘘を絶対撤回しない人も困ったものですが、前言を簡単にひるがえす人はもっと困ります。これからなにを言っても信用できないからです。
予算委員会を開催しないのは、党執行部の意向に押し切られたからだと言われます。
石破首相は党執行部に逆らえない事情があるのでしょうか。
ちなみに党執行部はこういうメンバーです。
総裁 石破茂 67歳
最高顧問 麻生太郎 84歳
副総裁 菅義偉 75歳
幹事長 森山裕 79歳
総務会長 鈴木俊一 71歳
政調会長 小野寺五典 64歳
選対委員長 小泉進次郎 43歳
組織運動本部長 小渕優子 50歳
広報本部長 平井卓也 66歳
国対委員長 坂本哲志 73歳
主要なポストはほとんど石破首相より年上です。
自民党は当選回数で序列が決まる上下関係にきびしい組織です。そのため必然的に長老支配になります。
自民党は女性が少ないというジェンダーギャップが指摘されますが、長老支配の問題も忘れてはいけません。日本がデジタル後進国になったのも自民党が年寄りの政党だからではないでしょうか。
とはいえ、この人事をしたのは石破首相自身です。石破首相は党内基盤が弱いとされるので、実力者に頼ろうとしたのでしょう。その時点で主導権は奪われています。
それにしても、石破首相が予算委員会を開くと言っていたのに、党執行部はどうして開かないという判断をしたのでしょうか。
総裁選はそこそこ盛り上がり、国民に人気のあった石破氏が選ばれたのですから、国会論戦を通して“石破自民”を国民にアピールしてから解散総選挙をやるという判断になってもいいはずです。
おそくら自民党としては、小泉進次郎氏を総裁に選んで、フレッシュな、いいイメージのあるときに解散して、選挙で勝利するというシナリオを描いていたのでしょう。
ところが、小泉氏が総裁選をやる中で自滅して、そのシナリオが崩れました。
そうすると、自民党に勝利の目はありません。小泉氏でなければ石破氏でも高市早苗氏でも同じことです。
将棋の棋士が形勢不利な中で唯一逆転できる手を狙っていたのに、その手の可能性がなくなって戦意を喪失したみたいなもので、今の自民党は投げやりな気分におおわれています。
石破首相は敗戦処理投手みたいなものです。
自民党内に石破政権を盛り上げようという空気はありません。
石破首相に期待する気持ちもないので、ボロが出る前に解散というスケジュールになりました。
石破首相もどうやらその空気に染まっているようです。
普通は新内閣や内閣改造のときには“目玉”になる閣僚が一人か二人はいるものですが、今回の新内閣には一人もいません(三原じゅん子少子化担当大臣はちょっと目を引きますが“目玉”ではありません)。
副大臣と政務官の人事も、8人が新たに任命されましたが、ほとんどは前のままです。
所信表明演説も持論を封印して、まったく特徴のないものになりました。
所信表明演説については、「野党のヤジがうるさくて演説が聞こえない。マナーの悪い野党はけしからん」という投稿がやたらXで目につきました。
しかし、演説のあった日の報道ステーションでは、政治部の記者が野党のヤジにはまったく触れずに、「いちばん気になったのは与党席が静かだったことだ。演説を盛り上げるための拍手や声援がほとんどなかった」と語りました。
いったいどちらが正しいのか気になったので、官邸ホームページで演説の動画を見てみました。
第二百十四回国会における石破内閣総理大臣所信表明演説
確かにヤジで演説が聞き取りにくいところがあります。しかし、それは最初の3、4分だけです。そのあとはほとんどヤジは飛ばなくなります(「野党のヤジがうるさい」という投稿は、久しぶりにネットサポーターが動員されたのでしょう)。
しかし、ヤジがなくても演説はうまく聞き取れません。活舌が悪いのかと思いましたが、それよりも言葉に力がないせいのようです。それに加えて、演説の内容がどうでもいいことなので、頭に入ってこないということもあります。
ただ、最後の1、2分は自分の言いたいことであったのか、言葉に力がありました。
逆に最後の1、2分があったために、それまでの演説は心のこもらないただの朗読だったのだということがわかりました。
この動画を見たおかげで石破首相にやる気がないし、自民党議員にもやる気がないことがわかりました。
「やる気」というと漠然としていますが、要するに政権を盛り上げて、国民に訴えて、野党と戦っていこうという熱意がないということです。
たとえば内閣の集合写真ですが、服装がだらしないし、姿勢が悪いということで、ネットで「だらし内閣」などと揶揄されています。
確かに安倍内閣の集合写真と比べると違いがわかります。


服装や姿勢をきちんとさせるのは、本人よりもカメラマンや周りのスタッフの役割かもしれませんが、だとすると周りのスタッフもやる気がないことになります。
そもそも自民党が苦境に陥ったのは、裏金問題と統一教会問題にまともな対応ができなかったからです。
なぜ対応できなかったかというと、自民党の歴史と体質に深く関わる問題だからです。
長老支配の自民党には過去の歴史を否定することもできませんし、体質を変えることもできません。
人間は誰にも良心があります(良心は本能的なものです)。裏金と統一教会の問題をごまかしていることを自民党議員は誰しもやましく思っています。そのため、野党との戦いにまったく闘志がわいてこないのです。
自民党総裁選のポスターは「おじさんの詰め合わせ」と揶揄されましたが、ポスターには歴代自民党総裁全員の写真が載っていました。
なぜこの時期に歴代自民党総裁全員の写真を載せたかというと、無意識に“自民党の終わり”を予感していたからでしょう。

それから、国民の最大関心事は経済問題ですが、自民党は長年政権を担当して、ついに「失われた30年」から脱出することができず、総裁選でも経済再生の道を示すことはできませんでした。
この点でも自民党は役割を終えたといえます。
