村田基の逆転日記

親子関係から国際関係までを把握する統一理論がここに

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日本とアメリカで国のトップを選ぶ選挙が同時進行中です。
アメリカの大統領選挙を見ると、アメリカはとんでもないことになっているなあと思います。
日本の自民党総裁選を見ると、日本はどうしようもないなあと思います。
どちらもそこで思考停止してしまいます。
しかし、日米の選挙を比べてみると、いろんなことが見えてきます。

アメリカでは4年前も8年前も移民問題が選挙の大きな争点です。移民や外国人へのヘイトスピーチの行きつく果てが、トランプ氏の「移民がペットを食べている」という発言です。
日本でもネットでは外国人へのヘイトスピーチがあふれているので、日本もアメリカも似たようなものに思えますが、自民党総裁選の各候補の政策や議論においては、移民や外国人労働者や不法入国者の問題はほとんど取り上げられていません。
日本経済は外国人労働者に大いに恩恵を受けていますし、外国人犯罪は少なく、しかも減少傾向です。
日本で移民や外国人労働者の問題が争点にならないのは当然です。

アメリカでは中絶禁止が大きな争点です。
もちろん日本にはその問題はありません。代わりに争点になっているのが選択的夫婦別姓です。
ちなみにアメリカでは夫婦別姓が選択できます。約7割の夫婦は妻が夫の姓に変えるようですが、別姓のままでいることもできますし、結婚と同時に新たな姓に変えることもできます(たとえば二人の姓をつなげた姓にするなど)。
アメリカでも保守派は「家族の絆」を重視しますが、同姓であることは必要条件とはならないようで、そこが日本の保守派と違うところです。

大麻使用の自由化もアメリカでは争点です。リベラルは大麻に寛容で、保守派は大麻反対です。
このところ大麻を解禁する州がどんどん増えていて、トランプ氏もフロリダ州の住民投票に関して大麻自由化を容認する考えを示しました。
大麻が取り締まれないほど蔓延しているので、取り締まるのをやめようという流れです。
日本では大麻使用が争点になるということはまったくありません。麻薬対策も政治上の議論になっていません(安倍昭恵氏は医療用大麻解禁の考えを表明したことがありますが)。

アメリカではインフレ対策も大きな争点です。
日本ではインフレ対策ではなく、どうやって経済再生するかが争点です。
アメリカは圧倒的な経済大国なのにまだ高い成長を続けています。ついこの前もダウ平均は史上最高値を更新しました。
「失われた30年」から脱出できない日本とは根本的に違います。


このように日米の選挙の争点を比較すると、国のあり方が根本的に違うということがわかります。
日本の目立った特徴は治安のよいことです。
そして、アメリカの目立った特徴は治安の悪いことです。豊かなのにこれほど治安が悪い国はほかにありません。

アメリカで移民排斥を訴える人たちはみな、アメリカの治安が悪いのは移民のせいだと主張します。
しかし、これは事実に反します。
ロイターの『アングル:「犯罪の背景に不法移民」と主張するトランプ氏、実際の研究データは』という記事から一部を引用します。

複数の学術機関やシンクタンクなどの研究は、移民が米国生まれの人々よりも多く犯罪を犯しているわけではないことを示している。
また、米国の不法移民の犯罪に対象を狭めた研究では、犯罪率も(米国生まれの人より)高くないことが分かっている。
ロイターが確認した研究の一部は学術研究員によって行われ、査読を経て学術誌に掲載されている。
こうした研究は米国の国勢調査結果や不法移民の推定人口などのデータに基づいて書かれている。
複数の研究が米国における不法移民の犯罪率を調査するにあたってテキサス州公安局のデータを引用していた。同局では逮捕時に移民であるか否かを記録している。
テキサス州のデータを引用した研究者の一人、ウィスコンシン大学マディソン校のマイケル・ライト教授は犯罪率は州によって異なったが、同州の数字は入手可能な中では最も良いものだったと語った。同教授はこの研究で、同州では2012ー18年、不法移民の逮捕率は、合法的な移民と米国生まれの市民より低かったとしている。
(中略)
前出のライト氏は、米国の研究を総合的に見て移民が犯罪を犯しやすいとは言えないと述べた。
「もちろん、外国生まれの人々が罪を犯すこともある」とライト氏は取材で語った。
「だが、外国生まれの人々が米国生まれの人々よりも有意に高い確率で犯罪を犯すかといえば、その答えは非常に決定的にノーだ」

トランプ氏は「バイデン政権が何百万人もの犯罪者やテロリスの越境を許したため治安が悪化した」と主張しています。
独裁国で国民の不満をそらすため外国への敵愾心をあおるプロパガンダを行うことがよくありますが、それと同じです。
トランプ氏らは、アメリカ社会が犯罪を生み出しているという事実に向き合おうとせず、外部に責任転嫁しているわけです。そのためまったく犯罪対策が進みません。


麻薬に関しても同じ構図があります。
アメリカは昔から麻薬汚染が深刻ですが、メキシコやコロンビアなどの凶悪な麻薬犯罪組織が麻薬をアメリカ国内に持ち込むせいだと、やはり外部に責任転嫁してきました。
しかし、アメリカ国内に麻薬の需要があって、高く売れるとなれば、供給者が出てくるのは当然です。

最近は麻薬の種類が非合法のものから合法のオピオイド(麻薬性鎮痛薬)に変わってきました。
オピオイドというのは、医師が処方する合法的な麻薬です。もうけ主義の医師が処方箋を書き、もうけ主義の製薬会社が供給し、たちまち全米に広がりました。2017年には年間7万人以上が薬物の過剰摂取で死亡し、アメリカで公衆衛生上の非常事態が宣言されました。
これは麻薬犯罪組織のせいにするわけにはいきません。
それでもトランプ大統領は、中国からオピオイド「フェンタニル」が大量に国内に流入しているせいだと主張しました。もっとも、中国政府に「他国のせいにするのではなく、アメリカ政府は自国の問題として解決すべきだ」と突っぱねられています。
トランプ大統領はコロナ禍のときも“チャイナウイルス”と呼んで中国への責任転嫁を企てました。

他国に責任転嫁をするのはトランプ氏だけでなく、アメリカによくある傾向です。
アメリカで貿易赤字が問題になったときは、日本の自動車産業などのせいにされました。
こういうことができるのは、アメリカが大国であるからです。DV親父が自分の人生がうまくいかないのを妻や子どものせいにして暴力をふるうみたいなものです。


犯罪の大きな原因は格差社会ですが、麻薬汚染も原因です。
人はなぜ薬物依存症になるのでしょうか。
薬物依存症もアルコール依存症もギャンブル依存症も、その他の依存症もみな同じですが、PTSDが原因であるということが次第に明らかにされてきました。
PTSDの原因のひとつは苛酷な戦場体験です。ベトナム戦争帰還兵から薬物依存症者、アルコール依存症者、犯罪者が多く出ました。
しかし、戦場体験のある人はそんなに多くありません。PTSDの原因でもっとも多いのは、幼児期に親から虐待された体験です。
最近は「愛着障害」という言葉がよく使われます。親との愛情関係がうまくつくれないという意味ですが、その原因は親による虐待です。

アメリカは幼児虐待が深刻です。少なくとも日本とは大きく違います。
幼児虐待の統計の取り方は国によって違うので、幼児虐待による死者数を比較すると、アメリカでは2021年の死者数は1820人で、日本では2022年度は74人でした。
アメリカでは幼児虐待だけでなく、夫婦間DV、デートDVも深刻です。

「米国人の1割が親子断絶 なぜ疎遠な家族は増えているのか」という記事によると、コーネル大学ワイル医科大学院のカール・ピルマー教授が米国人6800万人を調査したところ、27%が家族の誰かと疎遠な関係にあり、10%は親子間が疎遠であるという事実が明らかになったということです。
親子間が疎遠だという10%は、離れることで問題を解消したわけです。やっかいなのは、こじれたままの親子関係が継続しているケースです。それはもっと多いはずです。

トランプ氏に選ばれて共和党の副大統領候補になったJ. D. バンス氏は、その自伝的著書『ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち』によると、薬物依存の母親とアルコール依存の祖父母のもとで暴力とともに育ったということです。この著書が幅広い共感を呼んでベストセラーになったのは、このような家庭が白人貧困層では多いからでしょう。

トランプ氏の姪であり臨床心理士でもあるメリー・トランプ氏が出版した暴露本によると、ドナルド・トランプという「怪物」を生み出した元凶は、支配的な父フレッド・トランプの教育方針にあったということです。その教育方針はこのようなものです。
世の中は勝つか負けるかのゼロサムゲーム。権力を持つ者だけが、物事の善悪を決める。うそをつくことは悪ではなく「生き方」の一つ。謝罪や心の弱さを見せることは負け犬のすることだ――。トランプ家の子どもたちはこう教えられ育った。親の愛情は条件付きで、フレッドの意に沿わないと残酷な仕打ちを受けた。

ドナルドは、幼い頃から素行が悪く、病気がちな母親にも反抗的で、陰で弟をいじめるような子どもだったが、父親の機嫌を取るのが上手で、事業の後継者候補として特別扱いされたという。一方、優しく真面目な長男フレディは、父親の支配に抵抗を試み、民間機のパイロットになったが、父親やドナルドからの執拗(しつよう)な侮辱で精神を病み、42歳でアルコール依存症の合併症で亡くなった。
https://globe.asahi.com/article/13780825

バイデン大統領の次男ハンター・バイデン氏は、6月にデラウェア州の連邦裁判所で有罪評決を言い渡されました。その罪状のひとつは、銃を購入する際に薬物の使用や依存を正しく申告しなかったというものです。

息子ブッシュ大統領は若いころアルコール依存症で苦しんでいましたが、40歳にして禁酒に成功。それにはローラ夫人とキリスト教への信仰がささえになったというのは有名な話ですです。

レーガン大統領の次女であるパティ・デイヴィス氏も『わが娘を愛せなかった大統領へ』という本を書いていて、それによると、パティ・デイヴィス氏は母親からことあるごとにビンタを食らい、父親は子どもにはまったく無関心。つまり暴力とネグレクトの家庭に育ち、薬物依存症になり、男性遍歴を繰り返すという人生を歩みました(現在は作家で女優)。レーガン大統領というと「よき父親」のイメージをふりまいて国民的人気がありましたが、テレビや雑誌の取材でカメラの前に立ったときだけ笑顔になっていたということです。

トランプ氏の支持者であるイーロン・マスク氏には12人の子どもがいるようですが、そのうちの1人が男性から女性への性転換に伴う名前の変更と新たな出生証明書の公布を申請しました。トランスジェンダーを嫌うマスク氏とは断絶したようです。マスク氏がテイラー・スウィフト氏を「子なしの猫好き女」と揶揄したときには、そのトランスジェンダーの娘さんはマスク氏のことを「凶悪なインセル」と罵倒しました。
なお、マスク氏の公式伝記である『イーロン・マスク』(ウォルター・アイザックソン著)によると、マスク氏自身も父親から虐待を受けていたということです。


病んだ家族というと、貧困層において暴力や薬物、アルコールに汚染されているというイメージですが、大統領周辺のセレブの家族も十分に病んでいます。病んだ家族というのはアメリカ全体の問題と見るべきです。
こうした家族から薬物依存や犯罪が生み出されます。
そのためアメリカは犯罪大国、麻薬大国です。

ところが、多くのアメリカ人は自分自身の家庭の中に問題があるのに、それを見ようとせず、外国や移民や犯罪組織に責任転嫁しています。
そして、そうした思考が分断を生みます。たとえば「犯罪が増えたのは民主党が警察予算をへらしたせいだ」といった具合です。
このような外部に責任転嫁する思考法は戦争の原因にもなるので、注意しなければなりません。

保守派は、父親が暴力で家族を支配しているような家庭を「伝統的な家族」として賛美し、問題を隠蔽してきました。
ここにメスを入れることがアメリカの分断解消の道です。


日本の治安がひじょうにいいのは、おそらく親子が川の字で寝て、母親が赤ん坊をおんぶするなどして、親子関係が密接であり、子どもに「基本的信頼感」ができやすいからではないかと思われます。
また、人種、階層、身分などによる格差や差別が少ないことも大きいでしょう。
最近日本でも格差が拡大しているといわれますが、アメリカの格差とは比べようもありません。
日本の保守派はアメリカやヨーロッパのまねをして、外国人犯罪を非難し、川口市クルド人問題などを盛り上げようとしていますが、日本は治安がよいので、さっぱり効果はありません。

日本の選挙を見ると、アメリカのような深刻な対立も分断もありません。
経済が停滞して社会の活力が失われているせいでもあるでしょうから、単純に喜んでもいられません。

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私はロシアのウクライナ侵攻はありえないと思っていたので、いざ本格侵攻が始まったときにはびっくりしました。
世界のほとんどの人がそうだったでしょう。なにしろウクライナ国民も、国外脱出も食料の買いだめもしていなかったのですから。

アメリカだけはかなり早い段階からキエフを攻撃するような本格侵攻があると言い続けていました。
侵攻計画はプーチン大統領とロシア軍の上層部ぐらいしか知らないはずですから、CIAはそこまで食い込んでいたのです。
そして、プーチン大統領は情報がアメリカに筒抜けになっていることを知りながら、当初の計画通りに侵攻したのです。

これはひじょうに奇妙なことです。
なにがあったのか考えてみました。
おそらくロシアは早い段階でアメリカに対して「われわれはウクライナに侵攻することを考えている。そのときアメリカはどうするのか」と打診したのです。
バイデン大統領は「武力介入もありうる」と言ったでしょう。プーチン大統領は「だったら第三次世界大戦になる」と言ったかもしれません。
つまりお互いの腹のさぐりあいがあったのです。

アメリカはもちろん第三次世界大戦は避けたいし、アフガニスタンとイラクで失敗したので国民の厭戦気分が高まっているという事情もありました。
プーチン大統領はアメリカの軍事介入はないと判断して、計画通りに侵攻しました。

このように考えると、アメリカだけがロシアの侵攻を早くから正確に予想していたことが説明できます。


それにしても、プーチン大統領のウクライナ侵攻の判断は異常です。
健康状態や精神状態を懸念する声もあります。

プーチン大統領は2000年に大統領に就任してから、途中首相だった時期もありますが、22年間にわたって権力者の座に居続けています。側近はイエスマンばかりになり、不都合な情報は上がってこなくなっているのでしょう。
「権力は人を酔わせる。酒に酔った者はいつかさめるが、権力に酔った者は、さめることを知らない」という言葉もあります。

習近平氏も2012年に国家主席の座についてすでに10年です。最近は独裁ぶりに磨きがかかってきました。いずれプーチン氏みたいになるかもしれません。
トランプ前大統領も、もし2期目があったら、そうとうおかしくなっていた気がします。
軍事大国の指導者が異常になることほどおそろしいことはありません。


ともかく、軍事大国同士が第三次世界大戦を避けるために「密約」をするということはありえます。
アメリカが日本のために戦ってくれるとは限りません。

外務省のホームページには、安保条約について「第5条は、米国の対日防衛義務を定めており、安保条約の中核的な規定である」と解説されていますが、実際の第5条には「義務」という言葉はありません。
第五条 各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。
「自国の憲法上の規定及び手続に従つて」という文言がありますが、合衆国憲法では宣戦布告の権限は議会にあります。大統領が議会に諮らずに参戦することもできますが、参戦したくないときは議会に諮って否決されるという筋書きもありえます。

アメリカは日本を助けないかもしれないので、米軍なしで日本の防衛は大丈夫かということになります。

ところが、そういう議論は行われていません。
代わりに「憲法九条で国は守れるのか」というような議論が行われています。
これは憲法論であって防衛論ではありません。

また、安倍晋三元首相は、米国の核兵器を自国領土内に配備して共同運用する「核共有(ニュークリア・シェアリング)」について議論すべきだと語りました。
これも防衛論というよりも核論議です。


今議論するべきは「日本はウクライナみたいなことにならないのか」ということです。
具体的には、中国軍が日本海側のどこかに上陸してきて、自衛隊を撃破し、中国のかいらい政権を樹立するというようなことにならないのかということです。
もちろん米軍が助けてくれるなら、そういうことにはなりません。
米軍の助けがなかったとしたらどうかということです。

これは重要な問題です。
ところが、こういう議論は昔からほとんど行われたことがありません。

防衛省ホームページの「中国情勢(東シナ海・太平洋・日本海)」という項目を見ると、中国は国防費を年々増加させ、東シナ海での活動を活発にし、太平洋へも進出し、日本海における海上戦力と航空戦力を拡大させていると書かれていますが、日本に上陸する戦力についての言及はありません。
なぜなら中国軍にそんな戦力はないからです。

中国軍は台湾に上陸して占領する戦力もありません。ただ、このまま軍拡を続けていくと、2025年ごろにはそれが可能になるという説があります。
そのことから最近「台湾有事」ということが言われるようになりました。しかし、侵攻する能力があることと、実際に侵攻することとは別です。「台湾有事」というのはなにかのプロパガンダでしょう。

グローバル・ファイヤーパワーによる世界の軍事力ランキングで、日本は5位、台湾は22位です。
日本の面積は台湾の約10倍で、人口は約5倍です。
日本が中国軍に占領されて中国の支配下になるということはまったく考えられません。

ただ、日本が中国のミサイル攻撃を受けたり空爆されたりということはありえます。
航空戦力の比較はむずかしいので、空爆の可能性はどの程度かよくわかりませんが、ミサイル攻撃を防ぐことは困難です。通常弾頭ならたいしたことはありませんが、核弾頭なら悲惨なことになります。
しかし、冷静に考えれば、中国が日本をミサイル攻撃してもなにも利益はなく、国際的非難を浴びるという不利益があるだけです(日本が敵基地攻撃能力などを持つと話は違ってきます)。
北朝鮮によるミサイル攻撃にしても同じです。

このように具体的に考えると、米軍の助けがなくても、日本がウクライナのようになるということはまったくありえないことがわかります。
これは島国であることのありがたさです。
かりに尖閣諸島を巡って日中の武力衝突が起きても、それだけで終わるでしょう。


そうすると、日米安保条約は必要ないのではないかということになります。
自衛隊の戦力で十分に国は守れます。
むしろ世界5位の軍事力は過剰ではないかと思われます。
しかし、日本の適正な防衛力はどの程度かという議論はありません。

なぜ日本にはまともな防衛論議が存在しないのでしょうか。
それは自衛隊の歴史を見ればわかります。


自衛隊の前身の警察予備隊は1950年、マッカーサーの要請により創設されました。朝鮮戦争で在日米軍が手薄になったのを補うためで、共産革命を防ぐ治安維持が目的でした。
自衛隊になってからは国防も目的となりました。
しかし、安保条約があり、駐留米軍がいるので、自衛隊がなくても国は守れます。
では、なんのための自衛隊かというと、たとえば朝鮮半島で戦争があったときに米軍を助けるためです。
つまり自衛隊創設の最大の目的は米軍を助けることでした。

自衛隊はソ連の侵略を想定して北海道で演習していましたが、「国防」らしいことはそれぐらいです(ソ連が北海道に攻めてくることもあまり考えられません)。
自衛隊を巡る論議はつねに「国防」ではなく「海外派兵」に関することでした。

ホルムズ海峡防衛とかマラッカ海峡防衛とかシーレーン防衛とかもよく議論されましたが、これもいわば海外派兵です。
湾岸戦争のときはアメリカから「ショー・ザ・フラッグ」と言われ、イラク戦争のときは「ブーツ・オン・ザ・グラウンド」と言われ、結局、湾岸戦争では金だけ出し、イラク戦争のときはサマワに自衛隊を派遣しました。
アフガン戦争のときは、自衛隊はインド洋で米軍などへの給油活動をしました。
2011年にはジブチ共和国に初の海外基地を設け、現在、自衛隊員約400人が駐留しています。
2015年に新安保法制が成立したとき、当時の安倍晋三首相は朝鮮半島有事のときに日本の民間人が乗った米艦を自衛隊が護衛するというケースを例に挙げて、新安保法制の必要性を訴えました。
近ごろ議論されている敵基地攻撃能力も国防とは違います。


自衛隊の目的は、第一が米軍を助けることで、第二が国防です。
第一と第二は逆かもしれませんが、いずれにしても、米軍を助けるという目的をごまかしているので、日本ではまともな防衛論議が存在しないのです。
国防に限定すれば、安保条約は必要ないばかりか、自衛隊はすでに過剰な戦力を持っています。

ところが、日本人はあまりにもアメリカへの依存心が強いので、自衛隊だけで国を守ろうという気持ちになれないようです。
世界を見渡せば、ほとんどの国は日本よりも低い軍事力しかなく、核の傘にも入っていませんが、それでもちゃんとやっています。

ロシア・ウクライナ戦争をきっかけに、まともな防衛論議が起きてほしいものです。

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8月15日、安倍首相は靖国神社を参拝せず、稲田朋美議員が代理人として靖国を訪れて、玉串料を納めました。
安倍首相と思想的に近い稲田議員にふさわしい役回りです。
しかし、稲田議員は、安倍首相自身が参拝しない理由についてはなにも語りませんでした。

安倍首相は、第一次安倍政権のとき靖国参拝を公約にして首相になりましたが、小泉政権で悪化した日中関係を建て直すため靖国参拝はしませんでした。そのことを「痛恨の極み」と言って第二次政権を成立させたので、安倍支持者はみな安倍首相が靖国参拝をするものと思いました。靖国参拝は正式の公約ではありませんが、準公約みたいなものです。
しかし、第二次政権で靖国参拝をしたのは一度だけです。

安倍首相は参拝しない理由を説明しません。
そのため、メディアは首相が参拝しない理由を憶測で書いています。
安倍総理大臣が靖国神社に玉串料奉納 参拝は見送り
安倍総理大臣は終戦の日の靖国神社参拝を今年も見送り、代理を通じて私費で玉串料を奉納しました。

 自民党・稲田朋美総裁特別補佐:「(安倍総理からは)令和の新しい時代を迎え、改めて我が国の平和と繁栄が祖国のために命を捧げたご英霊のおかげであると感謝と敬意を表しますということです」
 玉串料は自民党の稲田総裁特別補佐が代理で奉納しました。「安倍晋三」という肩書で納めたということです。また、これまでに安倍内閣の閣僚の参拝は確認できていません。来年春に中国の習近平国家主席が国賓として来日することなど、改善している日中関係に配慮したものとみられます。一方、自民党の小泉進次郎衆院議員や萩生田幹事長代行は参拝に訪れました。また、超党派の国会議員も集団参拝しました。
https://news.tv-asahi.co.jp/news_politics/articles/000162074.html
この記事は「改善している日中関係に配慮した」と書いています。
普通は、「関係筋によると」とか「政府高官によると」などと情報源が示されるものですが、そういうものがないので、あくまで記者の推測なのでしょう。

ほとんどのメディアが同じ書き方をしています。
その部分だけを抜き出してみます。


朝日新聞
中国の習近平(シーチンピン)国家主席の国賓待遇での来日を来春に控え、改善が進む日中関係に配慮する必要があると判断したとみられる。
https://www.asahi.com/articles/ASM8H32ZLM8HUTFK003.html

時事通信
関係改善が進む中国が首相の参拝に反対していることを踏まえ、日中関係に配慮したとみられる。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2019081500291&g=pol

毎日新聞
 首相は13年12月に靖国神社を参拝して以降は、春秋例大祭を含めて靖国参拝を控えている。首相の参拝に反対する中国、韓国への配慮とみられる。↵
https://mainichi.jp/articles/20190815/k00/00m/010/026000c

どれもこれも「配慮」です。しかも、根拠が示されていません。
こういう横並びの記事を平気で書けるのが日本のマスメディアのだめなところです。

そもそも私は、安倍首相が靖国神社に参拝しない理由が中国への配慮のためだとは思いません。
安倍首相が一度靖国参拝したときのことを振り返ってみればわかります。

安倍首相は2012年12月26日に第二次政権を発足させ、翌年4月の靖国神社の例大祭には3人の閣僚が参拝し、安倍首相は真榊を奉納しました。これに対して中国や韓国が反発、それに対して安倍首相が国会答弁で「わが閣僚はどんな脅かしにも屈しない。尊い英霊に尊崇の念を表する自由を確保していくのは当然のことだ」と述べるなどしましたが、オバマ政権も外交ルートを通して懸念を表明したと報じられました。
結局、8月15日に安倍首相は靖国参拝をしませんでした。それに対して支持者の不満は高まりました。
10月には訪日したジョン・ケリー国務長官とチャック・ヘーゲル国防長官が千鳥ヶ淵戦没者墓苑に献花しました。これは安倍首相に靖国差参拝をするなというメッセージと思われました。
しかし、安倍首相は就任一周年の12月26日に電撃的に靖国に参拝しました。
するとアメリカはその日に在日アメリカ大使館のホームページに「日本は重要な同盟国であり友だが、アメリカ政府は日本が隣国と関係を悪化させる行動を取ったことに失望している」という声明を発表しました。
これ以降、安倍首相は靖国参拝をしていません。

この経緯を見れば、安倍首相が靖国参拝をしなくなったのは、アメリカ政府が「失望」を表明したのが決定的だったと思われます。安倍政権は日米同盟重視ですから、中国や韓国の反発は無視できても、アメリカと亀裂をつくるわけにはいきません。
ですから、各メディアが安倍首相が靖国参拝をしない理由を「中国への配慮」だと書くのは納得がいきません。

今はオバマ政権からトランプ政権に変わりましたが、国務省の考え方は同じでしょう。安倍首相がトランプ大統領に頼めば靖国参拝を認めてくれるかもしれませんが、トランプ大統領が見返りを求めるのは確実です。


各メディアがそろって「中国への配慮」と書くのは、「アメリカの圧力」とか「アメリカが許さないから」とか書くと、日本の属国ぶりが露わになってしまうからです。これは日本のタブーです。

本来は安倍首相自身か周辺の人間が理由を説明するべきです。しかし、「アメリカに止められているので」とは言えませんし、「中国に配慮して」と言うと、安倍支持者から「中国になんか配慮するな」という声が上がりそうです。そのためなにも言わないのでしょう。

各メディアは「アメリカ政府が『失望』を表明して以来、安倍首相は参拝をしていない」とか「安倍首相は参拝しない理由を説明していない」というように、事実だけを書くべきです。
根拠もなしに「中国に配慮」という推測を書くのは、安倍政権に対する甘やかしです。

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