
このごろなにかとカスハラ(カスタマー・ハラスメント)が話題です。
東京都は全国初のカスハラ防止条例をつくり、4月1日から施行されます。
政府は3月11日、カスハラ対策を企業に義務付ける労働施策総合推進法などの改正案を閣議決定しました。パワハラやセクハラはすでに企業の防止義務がありますが、カスハラに関する法規制はこれまでありませんでした。
カスハラが増えているのかどうかはよくわかりませんが、治安のいい日本で大声で店員を威圧するようなカスハラ行為が悪目立ちすることは確かです。
女性508人を対象にしたネット調査で「デートで最もされたら嫌なことを教えてください」という質問にもっとも多かったのは「店員への態度が悪い」22.8%でした(2位は「時計やスマホばかりを見る」18.7%)(1000人に聞いた「デートでされたら嫌なこと」1位は? | マイナビニュース)。
恋愛カウンセラーの堺屋大地氏は、年間約1500件のペースで恋愛相談を受けてきた経験から「飲食店デートで嫌われる男性」として筆頭に「偉そうな上から目線で店員に横柄な態度を取っている」を挙げ、その次に「料理が遅いなど些細なことで激しくクレームを入れる」を挙げています(「飲食店デートで嫌われる男性」が実はよくやっている10の行動 | 日刊SPA!)。
デートのときにもカスハラ行為をする男がかなりいるようです。
カスハラをするのはどんな人間でしょうか。
カスハラ人間は、自分は相手より上だと思ってやっています。つまり弱い者いじめです。
ですから、デートで店員にカスハラをする男は、デート相手の女性にはそんなことをしなくても、結婚するとパワハラ、モラハラ、DVをする可能性があります。
それから、カスハラ人間は、出発点は正当なクレームを言っている場合が多いと思われますが、その主張のしかたが異常に激しく、しつこいのです。だからカスハラになります。
なぜ激しく主張するかというと、自分は正義だと思っているからです。
ここがカスハラの厄介なところです。
カスハラ人間は、どうしてそういう人間になったのでしょうか。
この答えはきわめて単純です。
その人間は子どものころ親から(親とは限りませんが)激しく叱られて育ったのです。
親が子どもを叱るというのは弱い者いじめです。しかも、親は悪いことをした子どもを叱るのは正義だと思っています。
そのため、一度叱るだけでなく、しつこく叱って、とことん子どもを追い詰めるような親もいます。
「虐待の連鎖」という言葉があって、虐待されて育った子どもは親になると自分の子どもを虐待することがありますが、虐待が第三者に向かうとカスハラになるわけです。
つまりカスハラ人間は、親からされたことを他人にしているだけなのです。
日常生活で激しく怒っている人を見かけることは、カスハラ以外はめったにありません。
しかし、ひとつ例外があります。親が子どもに対して怒る場合です。これは「しつけ」として社会的に正当化されているので、しばしば見かけます。
家庭内など人目につかないところではもっと頻繁に行われています。
カスハラをする人間が多くなるのは当然です。
子どもに対する暴力・暴言が子どもの脳を萎縮・変形させることは明らかになっています。
今では暴力あるいは体罰を肯定する人はほとんどいません。
しかし、暴言については「叱る」と称して肯定されています。
たとえば公共の場で子どもが騒いでいて迷惑だったという話がネットでよくあります。そういうときは親が叱るべきだという声が圧倒的です。
さらには、よその子どもであっても叱るべきだという声もあります。
叱ることは肯定されているどころか、むしろ義務とされているのです。
子どもを叱っても、子どもが親の思う通りになるとは限りません。
そうするともっと激しく叱ることになります。
子どもが宿題をやっていないということで叱ると、子どもは叱られたくないので、宿題をやったと嘘をつくようになります。そうすると今度は宿題と嘘と叱る対象が増えます。
子育ての悩み相談でよくあるのは、「子どもを叱ってばかりいて、やめられない。こんなに叱っていると悪影響があるのではないか心配だ」というものです。
最近は「叱る依存」という言葉があって、依存症のひとつに数えられたりします。
子どもを叱るととりあえず子どもはやっていたことをやめるので、親は満足感を得ます。
そうすると「叱る→満足感」という脳の回路ができて、親は満足感を得るために、叱る行動を増やしていくという理屈です。
叱られた子どもはその行動をやめても、その行動がよくないことだと理解したわけではないので、親の目のないところでその行動をします。
ですから、親はその行動がよくないことだと理解させるのが本来のやり方です。
しかし、たいてい子どもは幼いのでまだ理解力がありません。ですから親は叱って、その場限りの満足を得ようとするのです。
叱らなくても、子どもは成長すれば自分で判断して適切な行動ができるようになります。
子どもの成長が待てない親、子どもの判断力を信じられない親が子どもを叱るのです。
最近の子育て法の本を見ると、ほとんどが自己肯定感を持たせるためにほめて育てましょうと書いてあります。
ただ、叱ることを100%否定する本はまだそんなに多くありません。今は過渡期というところです。
叱られて育った子どもは、脳と心にダメージを受け、その影響はさまざまな形で出てきます。
カスハラをすることもそのひとつですが、パワハラ、モラハラにもつながっています。
さらに学校でのいじめの原因にもなっているに違いありません。
親が子どもを叱るというのは弱い者いじめですから、子どもは家庭でされたことを学校でもするのです。
親が子どもを叱る習慣というのは社会全体に悪影響を与えています。
今のカスハラ対策というのは、カスハラが起こってからの対策ですが、カスハラが起こる原因にも目を向ける必要があります。