
4月25日、ワシントン・ヒルトンホテルで開かれたトランプ大統領出席のホワイトハウス記者協会主催晩餐会において発砲事件がありましたが、とくに死傷者はなく、容疑者は取り押さえられました。
容疑者は31歳のコール・トーマス・アレン、カリフォルニア州立大学でコンピュータサイエンスを学び、学習指導やゲーム開発の仕事をしていたといいます。犯行寸前に家族にマニフェストを送り、トランプ氏を小児性愛者、強姦犯、裏切者とののしり、みずからを「フレンドリーな連邦の暗殺者」と称し、連邦政府のさまざまな政策に反対を表明していました。
司法省は記者会見でこの事件を「大統領を狙った暗殺未遂事件」と称しました。
トランプ氏は自分が狙われたかもしれないことについて、リンカーン大統領を例に挙げて、「暗殺の標的になるのは影響力の大きい人物だ」と言いました。
影響力といっても、よい影響力と悪い影響力があります。
高市首相は事件について、「暴力は、世界のいかなる場所でも、決して容認できません」とXに投稿しました。
世界中に暴力があふれていて、とくにアメリカとイスラエルの暴力が問題になっているときに、高市首相は今回の暴力だけを取り上げました。
今回の容疑者は、ローンオフェンダーであるようです。
宿泊客としてホテルに銃を持ち込みました。
そして、全速力で走ってホテル内の検問を突破しました。
セキュリティ面の問題が指摘されています。
しかし、銃を持った5人程度の集団でも検問は突破でき、会場は大惨事になったでしょう。
テロ防止は容易ではありません。
もちろん暗殺は許されません。
しかし、暗殺といえばトランプ大統領のほうが上手です。
アメリカとイスラエルがイランの最高指導者ハメネイ師を殺害したのも暗殺です。
2020年にはアメリカはイランの革命防衛隊の中心的人物ガセム・ソレイマニを暗殺しました。そのときに大統領だったトランプ氏はツイッターで「ソレイマニは多くの米国人の殺害を計画していた」「彼はずっと前に殺害されるべきだった」と述べました。
イスラエルはハマスやヒズボラやフーシ派の要人を暗殺しています。
アメリカはベネズエラのマドゥロ大統領を拉致し、そのときに約100人を殺害しました。これは暗殺とはいえませんが、完全な犯罪で、殺人です。
アメリカはまた、麻薬密輸船とされるものを攻撃し、撃沈し、乗組員を殺害してきました。もし麻薬を密輸していたら、逮捕して裁判にかけなければなりません。船を撃沈して殺害するのはただの殺人です。
もちろんトランプ氏を暗殺することは犯罪であり悪です。
しかし、暗殺、殺人に関しては、トランプ氏のほうがはるかに多くを殺しています。
「やられたらやり返す」という論理でいえば、トランプ氏は百回殺されても足りないぐらいです。
トランプ氏に限らずアメリカはこれまで圧倒的な殺人をしてきましたが、圧倒的な軍事力と経済力があったために不問にされてきました。
それに加えて、アメリカの味方をしてくれる多くの同盟国もありました。
しかし、最近はアメリカの軍事力と経済力は相対的に低下し、トランプ氏は同盟国との絆を破壊しています。
そういうことからアメリカの犯罪性が露わになってきました。
とりわけトランプ氏は言葉が乱暴なので、犯罪性を隠しもしません。
「私には国際法は関係ない」と言い、「ひとつの文明を滅ぼす」とか「すべての発電所と橋を破壊する」などと言って、犯罪を予告しています。
ヘグセス国防長官もイラン戦争について「初めから公正な戦いをするつもりもなかったし、今も公正な戦いではない。相手が倒れている間に殴りつけるべき」などと発言し、戦う意志のない敵を攻撃するのは犯罪だなどと批判されました。
日本人やヨーロッパ人は武士道や騎士道があるので、戦争にもルールがあると思っていますが、アメリカ人はインディアンとの戦いを基本に考えているのかもしれません。あるいは古代ローマ帝国のように文明人対野蛮人の戦いと見ているのかもしれません。
とにかく、トランプ氏のやり方には「公平」というものがありません。
トランプ氏はサッカーのワールドカップについて、FIFAに対して「イランの代わりにイタリアを出場させてはどうか」と提案しました。
イランは正当な出場権を持っていますが、イタリアは予選落ちしています。そんなへんな前例ができれば、予選を必死になって戦うのがばからしくなります。
トランプ氏はスポーツが公平を前提として成り立っているということを理解していないようです。
世界が公平でないと、どうしても不満を持つ者が出てきます。
トランプ氏は「力による平和」を掲げていますが、これは「力による秩序」というべきです。
「力による秩序」は、力が弱まれば秩序が乱れますし、力が強くても隙間をねらってテロが起きます。
「公平な世界」を実現すればテロはなくなるはずですが、人間は「公平」を正しく認識するのが困難です。
というのは、人間には強い者に迎合する傾向があるからです。強い者が自分勝手なふるまいをしても大目に見てしまいます。
それから、自分と親しい者の行動についても大目に見てしまいます。
日本にとってアメリカは強くて親しい国ですから、高市首相もアメリカの自分勝手なふるまいを大目に見てしまうわけです。
これの究極のものが、親がわが子を虐待するケースです。子どもは親が悪いということを認識できず、心を病んでしまいます。
それに加えて、道徳的評価が認識を妨げます。
「テロ」「暗殺」「悪人」などの道徳的評価を含む言葉を使うと、現実が正しく認識できません。
たとえばアメリカやイスラエルはイスラム過激派を「テロリスト」と呼びますが、多くのイスラム教国ではイスラエルを「テロ国家」と呼んでいます。つまり「テロリスト」という言葉を使うだけで認識が偏ってしまうのです(道徳的評価をしない方法については「道徳観のコペルニクス的転回」を読んでください)。
アレン容疑者はマニフェストに「政権の地位が高い順に狙う」と書いていました。
これについて「羽鳥慎一モーニングショー」コメンテーターの玉川徹氏は「トランプ政権が、イランに対して攻撃していることの『暗喩』になっているように、僕には受け取れる」と述べました。
つまり容疑者はトランプ氏のやり方をまねたというのです。
あれだけ大々的にイラン政権幹部の暗殺をしたのですから、そういうことはあってもおかしくありません。
トランプ氏は一方的に暗殺をして得意になっていたようですが、今回の事件で「やったらやり返される」ということを学んだのではないでしょうか。そうであってほしいものです。


