
右派、保守派の基本はナショナリズムです。ナショナリズムは国家規模の利己主義ですから、各国に保守派政権ができると必然的に互いに衝突し、戦争になる可能性が高まります。
そうならないようにナショナリズムの主張を弱めると、国内の支持者が失望するというジレンマに陥ります。ですから、保守派政権は長続きしないだろうということを私は前に書きました。
しかし、時代が変わって、ナショナリズムも変わりました。いわば旧型から新型にモデルチェンジしていたのです。
どうモデルチェンジしたのか、改めて確認しておきたいと思います。
高市首相は韓国の李在明大統領と10月30日に会談し、李大統領が「心配はすべてなくなった」と述べるなど、きわめて友好的な会談だったようです。
翌日には習近平主席と会談し、「戦略的互恵関係」を確認しました。
高市首相はナショナリズムの主張を封印し、現実的な対応をしましたが、高市支持者から不満の声は上がりません。むしろうまくやったと評価されているようです。
靖国神社参拝については前から行わないことになっていましたが、やはり不満の声は上がっていません。
つまり高市支持者は、高市政権が中国や韓国に強い態度に出ることを望んでいるわけではないのです。
高市支持者の関心はもっぱら国内にあります。
参政党のスローガンは「日本人ファースト」でした。これが日本の保守派の心情にぴったりなのです。
「日本ファースト」だと外国とぶつかってしまいます。それは望まないわけです。
国内で外国人を差別している限り国際的な問題になりません。
それに外国人は犯罪的だとか、マナーが悪いとかの理由をつければ、これは差別ではないという言い訳が立ちやすくなります。
つまり今のナショナリズムは、国内だけで完結する内向きのナショナリズムです。
これはヨーロッパでも同じようです。
ドイツでもフランスでも極右政党が伸びています。いずれ政権を取るかもしれません。そうすると二十世紀のようにドイツとフランスが戦争をすることになるかというと、そうはならないでしょう。
イタリアでは2022年の総選挙で極右政党「イタリアの同胞」が第一党となり、党首のジョルジャ・メローニ氏が首相に就任しました。メローニ首相はイタリア史上初の女性首相です。くしくも高市首相と同じです。
極右政権ができたということで警戒されましたが、メローニ首相はそれまでの極右的な主張を封印して現実路線をとり、一応安定政権を築いています。
考えてみれば、ヨーロッパの極右政党がもっとも強く主張することは移民排斥です。移民を国から追い出すことに限れば国内問題です。他国との摩擦は起きません(追い出される移民の母国は不愉快でしょうが)。
今はグローバル経済のもとで各国が互いに密接につながっているので、自国ファーストを主張して他国と対立することは損にしかなりません(自国ファーストの主張ができるのはアメリカぐらいですが、それですらうまくいっていません)。ましてや戦争になると、ウクライナ戦争を見てもわかるように、ただ悲惨なだけです。
極右政党とその支持者もそういうことはわきまえているのでしょう。
高市政権とその支持者も同じです。
日本の保守派はみな反中国です。
しかし、中国に直接なにかを強く言うことはありません。
尖閣諸島について強く主張したところで、中国が日本の領有権を認めることは考えられませんし、習近平主席がへそを曲げるとやっかいです。なにしろ中国のGDPは日本の約4.5倍です。
保守派やネトウヨもそういうことはわかっているので、彼らは日本の親中国の政治家、たとえば引退した二階俊博氏や林芳正衆院議員などを“媚中派”として非難するだけです。
中国人が日本の土地を買うのを規制しろとか、中国人留学生が優遇されすぎているとか、中国人のマナーが悪いとかいったこともよくいわれますが、これらはすべて国内問題です。
対象は中国人に限りません。外国人の犯罪が多いとか、外国人のマナーが悪いとか、オーバーツーリズムをなんとかしろとか、外国人が生活保護を受けているとか、社会保険料を払っていないとか、起訴されないとかといったことが盛んにいわれます。
たいていは大げさであるかフェイクですが、こうして外国人を差別して非難することが保守派のメインの“仕事”になっています。
高市首相は総裁選のときに外国人が奈良公園の鹿をいじめているという話をし、これは根拠がないと批判されましたが、それによって支持も得ました。
今、高市内閣が高い支持率を得ているのは、こうした外国人差別の人の支持があるからでしょう。
しかし、国内の外国人を差別するだけでは終わりません。保守派の矛先は日本人にも向けられます。
高市政権は「スパイ防止法」制定に向けて動き出しました。
スパイ防止法はかつて「日本はスパイ天国」というデマのもとに制定に向けた動きが強まった時期がありましたが、特定秘密保護法が制定されてスパイ防止法の必要性がなくなりました。
今度は「スパイ防止法がないのは日本だけ」というプロパガンダが行われています。
防止法の対象となる「国家機密」がきわめてあいまいで広範囲であり、機密を「探知・収集」、「外国に通報」、「他人に漏らす」などの行為もあいまいで広範囲なので、誰にでも「スパイ」の汚名を着せることができます。
参政党の神谷宗幣代表は先の参院選で「極端な思想の人たちを洗い出すのがスパイ防止法」と発言しました。
スパイ防止法ができなくても、法案について議論するだけで、「スパイ防止法に反対するのはスパイ」と言って日本人を分断することができます。
日本国を侮辱する目的で日本国旗を損壊した人を罰する「国旗損壊罪」を制定しようとする動きもあります。
バカバカしい法律なので、いちいち批判は書きませんが、この法案に反対する人を「反日日本人」と決めつけて、やはり日本人を分断しようという考えでしょう。
つまり今の保守派は、外国に対してはなにも主張せず、もっぱら国内で外国人を差別し、日本人を分断する「内向きナショナリズム」になっています。
「内向きナショナリズム」は互いに連携することが可能です。バンス副大統領やイーロン・マスク氏は欧州の極右政党の支持を表明しています。
つまり欧州の極右政党やトランプ政権の移民排斥運動は、世界的な人種差別運動と見ることができます。
「内向きナショナリズム」は、グローバルノース対グローバルサウスの世界的対立の一部です。
日本の保守派は“名誉白人”のつもりで外国人差別をしているわけです。
ナショナリズムの変質を見きわめて、今は外国人差別と日本人分断に対処することがたいせつです。





