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ウクライナとパレスチナで同時進行している戦争を見ていると、戦争の残酷さ、愚かさ、虚しさが身にしみて、早くやめてもらいたいとしか思えません。
ところが、世の中にはもっと戦えと主張する人がいます。
そういう人たちの頭の中はどうなっているのでしょうか。

さすがにストレートに「戦争賛成」と言う人はいません。
代わりに、イスラエルのガザ攻撃について「テロをしたハマスが悪いのだから、イスラエルが攻撃するのは当然だ」というふうに言います。
しかし、ハマスのテロによって約1400人が殺されましたが、その後のイスラエルの攻撃によってすでに10倍以上の人が殺されています。
それに、ネタニヤフ首相は「ハマスの殲滅」を目的にすると言っていますが、明らかに自衛権の範疇を超えています。

イスラエルを支持するのはどういう人かというと、要するに安倍元首相を支持していたような保守派の人です。保守派はほぼ完全にイスラエル支持です。
日本がイスラエルを支持してもなんの国益にもなりません。むしろ中東産油国をたいせつにしたほうが国益です。
もっとも、日本の同盟国であるアメリカは強力にイスラエルを支持しているので、保守派の人の頭の中は完全にアメリカにシンクロしているのでしょう。


ウクライナ戦争は、完全に戦線が停滞しています。第一次世界大戦や朝鮮戦争と同じで、双方が塹壕と地下陣地で守りを固めて、前進できないのでしょう。このままでは双方の損害が増大するばかりですから、停戦するしかない状況です。
ところが、日本では「侵略したロシアが悪いのだから、侵略開始時点へ押し戻すまでウクライナは停戦するべきでない」という声があります。
勝利の展望があるなら戦い続ける選択肢もありますが、勝てないばかりかウクライナが劣勢になり、ロシアがますます占領地域を広げる可能性もあります。
そして、戦い続けろという声はやはり保守派から上がっています。
これもアメリカがウクライナを支援しているからでしょう。

つまり戦争継続を主張している人は、ほとんどが保守派で、アメリカに同調してイスラエルとウクライナを支持しているのです。
しかし、イスラエルとウクライナは保守派が支持できる国でしょうか。


ネタニヤフ首相は11月28日にイーロン・マスク氏と対談した際、戦前のドイツと日本を「有毒な体制( the poisonous regime)」と称し、それらの国々が辿った末路のようにハマスを殲滅させるべきだと主張しました。さらに、マッカーサー元帥が日本にしたように、ハマスに対しても「文化的改革」を行う必要性があると述べました。

ゼレンスキー大統領は昨年3月16日に米連邦議会でオンライン演説をした際、「真珠湾攻撃を思い出してほしい。1941年12月7日、あのおぞましい朝のことを。あなた方の国の空が攻撃してくる戦闘機で黒く染まった時のことを」と語り、さらに9.11テロとも関連づけました。

日本の保守派はいまだに戦前の日本の体制を美化し、理想としています。
こうはっきり戦前の日本を否定する指導者のいる国を支持していいのでしょうか。


ともかく、戦争するどちらかの国に肩入れすると、「勝利か敗北か」という発想になり、平和や停戦を目指そうということになりません。
ですから、第三者の立場から双方を公平に見ることがたいせつです。

しかし、そこに「自分」が入ってくるとむずかしくなります。
自分と相手の関係を客観的に公平に見るのは容易ではないということです。

たとえば日本と北朝鮮の関係について、日本人はどうしても日本につごうよく考えてしまいます。
北朝鮮は11月末に軍事偵察衛星の打ち上げに成功したと発表し、日本にとって脅威だと騒がれています。
しかし、日本はこれまでに19機の偵察衛星を打ち上げていますし、アメリカはもっとです。
公平な立場からは、北朝鮮が偵察衛星を持つことを非難することはできません。
また、北朝鮮は核兵器とICBMを開発して、これも日本とアメリカにとって脅威だとされていますが、アメリカの核兵器は北朝鮮にとってはるかに脅威です。
北朝鮮は自衛権があり、抑止力を持つ権利もあり、2003年に核拡散防止条約を脱退しているので核武装の権利もあります。
ですから、アメリカは北朝鮮の核兵器開発を防ぐために、北朝鮮が核兵器開発を断念する代わりにアメリカが軽水炉を提供するという「米朝枠組み合意」を締結したのですが、アメリカ議会が軽水炉の予算を承認しなかったために、合意は崩れてしまいました。

中国の軍拡も脅威だとされていますが、中国はGDPに合わせて軍事費を増やしているだけです。
今でもアメリカの軍事費は中国の軍事費の3倍あります。
アメリカにとって中国が脅威であるよりも、中国にとってアメリカが脅威であることのほうがはるかに大きいといえます。

自国中心主義を脱すると、世界のあり方が正しく見えてきます。


人類が高度な文明を築けたのはどうしてかというと、互恵的利他主義によって互いに協力してきたからだとされます。
互恵的利他主義というのは、あとの見返りを期待して行われる利他行動のことですが、遺伝子レベルに組み込まれているので、見返りを期待しないで行われることも多いものです。
互恵的利他主義だと「こちらは軍事費を削減してそちらを安全にするから、そちらも軍事費を削減してこちらを安全にしてくれ」ということになり、双方が利益を得られます。
ところが、互恵的利他主義は共同体から機能社会にまで広がっていますが、まだ国際社会には広がっていません。そのため、どの国も軍事費を増大させて財政を苦しくし、戦争になったときの損害を大きくしています。
日本国憲法前文が「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」となっているのは、互恵的利他主義を前提としたものと思われますが、国際社会はまだその段階に達していません。

国際社会に互恵的利他主義を広めるには、まず自国中心主義を脱し、世界を公平に見る視点を確立しなければなりません。



なお、イスラエルを支持する人は決まって、ハマスは「テロ」をしたからイスラエルが攻撃するのは当然だと主張します。
ウクライナを支持する人は、ロシアは「侵略」をしたからウクライナは撃退するまで戦い続けるべきだと主張します。
つまり向こうはテロや侵略などの「悪」であり、それと戦うこちらは「正義」だということです。
このように「悪」と「正義」のレッテル張りをすると、もう自分と相手を公平に見ることはできません。

善悪や正義を頭の中から消去することが世界を公平に見るなによりのコツです。