村田基の逆転日記

親子関係から国際関係までを把握する統一理論がここに

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9月10日、アメリカの右派活動家チャーリー・カーク氏がユタ州のユタバレー大学で演説中に銃撃されて死亡し、33時間後にタイラー・ロビンソン容疑者が逮捕されました。

トランプ大統領はまだ犯人の正体もわかっていない時点で、「長年にわたり、極左の人々はチャーリーのような素晴らしいアメリカ人を、ナチスや大量殺人犯、そして世界最悪の犯罪者と比較してきました。こうした言説は、今日我が国で見られるテロリズムの直接的な原因であり、今すぐ止めなければなりません」と語って、極左の言説がテロの原因だと決めつけました。

ユタ州のスペンサー・コックス知事(共和党)は、容疑者の逮捕について報告する記者会見で「33時間、私は祈っていました。もしここでこんなことが起きなければならないのだとしても、それ(容疑者)が私たちの仲間ではありませんように、と。他の州から来た誰か、他の国から来た誰かでありますように、と」と述べました。
こういう心理で犯罪と移民が結びつけられるのだということがよくわかります。


逮捕されたタイラー・ロビンソン容疑者は22歳の白人男性で、今のところ犯行動機については黙秘しています。
両親は共和党員として有権者登録をしていて、ロビンソン容疑者は過去に無党派として有権者登録をしていました。
ロビンソン容疑者は家族との会話でカーク氏について「彼は憎しみに満ち、憎しみを広めている」と非難したと報道されていますが、彼の政治的な傾向を示す報道はそれぐらいしかありません。
犯行に使われたライフル銃に残された銃弾に、反ファシストやLGBT擁護を意味する言葉が刻印されていたと報道されましたが、そのあとの報道では銃弾にはさまざまなネットスラングが刻印されていて、そこから容疑者の思想を読み取ることはできないようです。

それでもトランプ氏は12日のFOXニュースに出演した際、「左派の過激派こそが問題だ。凶暴で、恐ろしく、政治的に狡猾だ」と言い、ロビンソン容疑者を左派の過激派と決めつけました。
右派のカーク氏を銃撃した人間だから左派だろうというのはあくまで推測です。カーク氏の対話を重視するやり方は右派からも批判されていましたし、右派・左派ではない思想からの暗殺ということもありえますが、トランプ氏はとにかく左派への憎しみをあおり立てたいようです。

イーロン・マスク氏もXに「左派は殺人政党だ」と投稿しました。

殺されたカーク氏は銃規制に反対しており、「銃撃による死者がでてもそれは憲法修正第二条(国民が銃を持つ権利)を守るための尊い犠牲だ」と主張していたので、今回の銃撃について「自業自得だ」という声も多くありました。右派はそれを「暗殺を肯定している」として批判しました。
クリストファー・ランドー国務副長官は、カーク氏の暗殺を賛美する投稿をした外国人のビザを剥奪すると警告し、インターネットユーザーに対しそうした投稿の情報を共有するよう呼びかけました。

右派は左派を非難し、左派は右派を非難するという、分断を絵に描いたような状況になっていますが、コックス・ユタ州知事は「SNSはガンである」と言いました。さらに捜査当局からの情報として、ロビンソン容疑者の恋人がトランスジェンダーだったとも言いました。
ロビンソン容疑者の恋人がトランスジェンダーだったという情報が伝わると極右活動家がいっせいに非難の声を上げて、保守系インフルエンサーのローラ・ルーマー氏は「トランス運動をテロリスト運動として指定するよう」呼びかけました。

要するになにが起こっているかというと、みんなして左派のせいにし、右派のせいにし、SNSのせいにし、トランスジェンダーのせいにするということをしているのです。
なぜそんなことをしているかというと、問題の本質から目をそむけるためです。
問題の本質というのは、ロビンソン容疑者がどうしてテロリストになったのかということです。
これがわからなければ次のテロを防ぐこともできません。


ロビンソン容疑者はどんな人間だったのでしょうか。
父親はキッチンカウンターやキャビネットの設置事業を営んでいて、母親は免許を持つソーシャルワーカーで、ロビンソン容疑者は3人兄弟の長男です。ロビンソン一家はモルモン教徒で、教会での活動に熱心に参加していたということです。
SNSにはロビンソン容疑者が家族とともにグランドキャニオンを旅行したり、釣りなどのアウトドア活動をしたりしている写真が投稿されており、父親とともにライフル銃を持った写真もありました。父親といっしょに鹿狩りや射撃練習もしていたということです。
母親はフェイスブックに、ACTという大学入学試験でロビンソン容疑者が36点満点中34点を取ったという写真を掲載していました。これは受験者上位1%に当たる点数だということです。その後、ロビンソン容疑者がユタ州立大学奨学金合格通知書を朗読する動画も掲載されていました。ロビンソン容疑者は母親にとって自慢の息子だったようです。
家族仲がよく、みんな敬虔なキリスト教徒であるという、保守派が理想とするような家庭です。


ちなみに昨年7月に演説中のトランプ氏が銃撃され耳を負傷する事件があり、犯人であるトーマス・マシュー・クルックスという20歳の白人男性はその場で射殺されました。
このときの建物の屋上から演説中の人物を狙撃するという手口がロビンソン容疑者の手口とまったく同じです。ロビンソン容疑者もほんとうはトランプ大統領を狙いたかったのかもしれません。しかし、大統領は警備がきびしいためにチャーリー・カーク氏を狙ったということが考えられます。
トーマス・マシュー・クルックスは平凡な家庭の生まれで、両親はリバタリアン党の支持者、彼自身は共和党員として有権者登録をしていました。クラスメートからは「思想的には右寄り」と評されていました。
その場で射殺されたので動機はわかりませんが、ごく平凡な家庭で育った20歳の若者がテロリストになったということで、ロビンソン容疑者と似ています。


平凡な家庭で育った若者が凶悪な犯罪者になるのはなぜでしょうか。
実は平凡な家庭というのは見かけだけで、その内部では子どもへの虐待が行われていたと考えられます。
そうでなければ凶悪な犯罪者にはなりません。

子どもを虐待する親は、当然そのことを隠します。家の中で激しい物音がするとかいつも子どもの泣き声がするとかで警察沙汰にならない限り、虐待は発覚しません。心理的虐待だけならなおさらです。
幼児虐待がニュースになるのは子どもが死ぬか大ケガをした場合だけです。それらはもちろん氷山の一角なので、虐待が行われている家庭は広範囲に存在します。
ちなみに日本で幼児虐待で子どもが死亡する件数は年間100人以下ですが、アメリカでは年間1500人前後です。


ロビンソン家については、母親がロビンソン容疑者の成績のよさを自慢していたことがわかっています。
しかし、ロビンソン容疑者は奨学金付きで入学したユタ州立大学に在籍したのは1学期だけでした。その後、ディキシー工科カレッジで電気技師の課程を受講していて、現在は3年生です。ディキシー工科カレッジというのは職業訓練校みたいなもののようです。
ロビンソン容疑者は母親の決めたレールの上を歩まされていて、それに反発してユタ州立大学を1学期で中退したのではないかと想像されます。つまり“教育虐待”が疑われます。
もちろんこれだけでは虐待があったとは決めつけられませんが、メディアがちゃんと取材すればわかるはずです。

日本では、凶悪事件の犯人の生い立ちについては、ひと昔前はまったく報道されませんでしたが、最近は週刊誌がよく報道するようになりました。その結果、みな悲惨な生い立ちであったことが明らかになっています。
日本では、そういう悲惨な生い立ちの者が犯罪に走る場合、通り魔事件を起こすことがよくありますが、アメリカでは銃乱射事件ということになるでしょう。
ときどきターゲットが政治家になることがあって、それは政治的暗殺、テロということになります。
子どもにとって親は権力者ですから、親への憎悪が政治家に投影されるのはありがちなことです。


ロビンソン容疑者はなにかの組織には属していないようです。こういう個人のテロリストをローンオフェンダーといいます。トランプ氏を狙撃したトーマス・マシュー・クルックスも同じです。
過激派組織を抑え込んだところで、ローンオフェンダーの発生を防ぐことはできません。
したがって、今アメリカがするべきことは、右派と左派がやり合うことではなく、ロビンソン容疑者がどうしてテロリストになったかを解明することです。
そうすると、おのずと家族のあり方にメスを入れることにもなります。

アメリカで犯罪、薬物依存、アルコール依存が深刻なのは、家族関係がゆがんでいるからです。
ところが、多くの人はこの問題から目をそらしています。そのために今回のテロ事件についても右派や左派やSNSやトランスジェンダーのせいにしているのです。

家族関係から目をそらしているのは、左派よりも右派のほうが顕著でしょう。右派は「家族の絆」を重視するので、「家族の絆」が崩壊している現実を認めたくないのです。


トランプ氏は州兵派遣によってワシントンD.C.の犯罪はゼロに等しくなったと主張し、市当局は「『家庭内の出来事』のような些細な事件まで犯罪統計に含め、数字を膨らませている」「夫が妻と軽く口論すると、その場所が犯罪現場になったと言われる」と犯罪統計のあり方を非難しました。
トランプ氏は明らかに家庭内暴力を軽視しています。

アメリカではまた、「マムズ・フォー・リバティ(自由を求める母親)」という名の保守派の団体が草の根で活動を広げ、学校図書館でLGBTやセクシュアリティや人種問題を扱った本を禁書にしようとしています。この団体は「母親の権利」を主張し、子どもの権利を無視するものです。
フロリダ州の保守派のデサンティス知事は、「子どもは子どもらしく」という標語を掲げ、「教育における親の権利法」という州法を成立させました。この州法は、学校でなにを教えるかは学校が決めるのではなく親の権利だとするものです。
このように親の権利を拡大し、子どもの権利を制限するのが保守派の思想です。
単純にいえば、子どもはきびしくしつけるべきだという思想です。
この思想のもとでは幼児虐待が深刻化するのは当然です。

テロを生むのは過激な左翼思想ではなく、どこにでもある保守的な家庭です。

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最近はテロ組織に属さない個人のテロリスト、ローンオフェンダーが増えています。
ローンオフェンダーによるテロは発生の予測が困難なので、防止策が課題とされます。
テロにはなにかの政治的な主張があるものですが、ローンオフェンダーの場合は、そうした政治的主張よりも深層の動機に注目する必要があります。

この4月、アメリカでトランプ大統領暗殺計画が発覚しました。
17歳の高校生ニキータ・カサップ被告は2月11日ごろ、母親タティアナ・カサップさん(35)と継父ドナルド・メイヤーさん(51)を射殺し、車で逃亡しているところを逮捕されました。車内には拳銃のほかに両親のクレジットカード4枚、複数の宝石類、こじ開けられた金庫、現金1万4000ドル(約200万円)がありました。
被告の携帯電話からは、ネオナチ団体「ナイン・アングルズ教団」に関する資料や、ヒトラーへの賛辞が見つかりました。さらに、トランプ大統領暗殺計画をかなり詳しく書いていました。
両親を殺したのは、トランプ大統領暗殺計画のじゃまになるからで、また、爆薬やドローンを購入する資金を奪うためでもありました。
反ユダヤ主義や白人至上主義の信条も表明していて、政府転覆のためにトランプ大統領暗殺を呼びかけていました。

「ナイン・アングルズ教団(The Order of Nine Angles)」というのは、ナチ悪魔主義の団体ともいわれていて、カルトの一種のようです。
本来あるべきユダヤ・キリスト教の思想は何者かによって歪められているという教義が中心になっており、組織ではなく個人の行動により社会に騒乱をもたらし新世界秩序を再構築することを目的としているそうです。

計画段階で終わりましたが、この被告はまさにローンオフェンダーです。
ただ、動機が不可解です。
白人至上主義なのにトランプ氏暗殺を計画するというのも矛盾していますし、トランプ氏暗殺のために両親を殺害するというのも奇妙です。


私がこの事件から連想したのは、山上徹也容疑者(犯行当時41歳)による安倍晋三元首相暗殺事件です。
山上容疑者は親を殺すことはありませんでしたが、母親を恨んでいたはずです(父親は山上容疑者が幼いころに自殺)。それに、統一教会というカルトが関係しています。最終的に元首相暗殺計画を実行しました。「親・教祖・国家指導者」という三つの要素が共通しています。

山上容疑者の母親は統一教会にのめり込んで、家庭は崩壊状態になりました。また、統一教会に多額の寄付をし、そのために山上容疑者は大学進学がかないませんでした。
したがって、山上容疑者は母親を恨んでいいはずですが、誰でも自分の親を悪く思いたくないものです。そこで山上容疑者は「母親をだました統一教会が悪い」と考え、教団トップの韓鶴子総裁を狙おうとしましたが、日本にくる機会が少なく、警護も厳重でした。
そうしたところ安倍元首相が教団と深くつながっていることを知り、安倍元首相を狙うことにしたわけです。
親、教祖、元首相と標的は変遷していますが、共通点があります。
親は子どもの目から見れば超越的な存在です。教祖や神も超越的です。国家指導者も国民から見れば超越的です。
戦前までの天皇陛下は、国民は「天皇の赤子」といわれて、天皇と国民は親子の関係とされていました。天皇は現人神であり、国家元首でもありました。
つまり天皇は一身で「親・教祖・国家指導者」を体現していたわけです。
オウム真理教の麻原彰晃も教団を疑似国家にして、教祖兼国家指導者でした。そして、教団そのものがテロ組織となりました。


「親・教祖・国家指導者」が似ているというのは理解できるでしょう。
問題はそこに殺人だの暗殺だの政府転覆だのがからんでくることです。
その原因は親子関係のゆがみにあります。親子関係はすべての人間関係の原点です。そこがゆがんでいると、さまざまな問題が出てきます。

ところが、人間は親子関係がゆがんでもゆがんでいるとはなかなか認識できません。
これはおそらく哺乳類としての本能のせいでしょう。
たとえばキツネの親は、天敵の接近を察知すると警告音を発して子どもを巣穴に追いやり、遅れた子どもは首筋をくわえて運びます。そのやり方が乱暴でも子どもは抵抗しません。子どもは親のすることは受け入れるように生まれついているのです。そうすることが生存に有利だからです。
人間の子どもも親から虐待されても、それを受け入れます。それを虐待と認識できないのです。
これは成長してもあまり変わりません。二十歳すぎて、親元を離れて何年かたってから、自分の親は毒親だったのではないかと気づくというのがひとつのパターンです。

ヒトラーも子ども時代に父親に虐待されていました。そのこととヒトラーのホロコーストなどの残虐行為とが関連していないはずがありません。ところが、ヒトラーが子ども時代に虐待されていたことはヒトラーの伝記にもあまり書かれていないのです。このことは「ヒトラーの子ども時代」という記事に書きました。

心理学は幼児虐待を発見しましたが、一方でそれを隠蔽し、混乱を招いてきました。この問題は『「性加害隠蔽」の心理学史』という記事に書きました。


不可解な事件が起こったとき、「そこに幼児虐待があったのではないか」と推測すると、さまざまなことが見えてきます。
たとえば冒頭の17歳高校生の両親殺しの事件ですが、高校生は両親から虐待されていたと推測できます。17歳の少年に凶悪な動機が芽生えるとしたら、それしか考えられません。しかし、本人は自分が虐待されているとは認識できないので、自分の中の凶悪な感情が理解できません。そこにナチ悪魔主義教団の教義を知り、トランプ氏暗殺肯定の主張を知ります。トランプ氏暗殺は自分の凶悪な感情にふさわしい行為に思えました。そして、トランプ氏暗殺のためには親殺しが必要だという理屈で親殺しをしたのです。

昨年7月に演説中のトランプ氏が銃撃され、耳を負傷するという事件がありました。
その場で射殺された犯人はトーマス・マシュー・クルックスという20歳の白人男性です。写真を見る限り、平凡でひ弱そうな若者です。共和党員として有権者登録を行っていました。親から虐待されていたという報道は見かけませんでしたが、20歳の平凡な若者に大統領候補暗殺という強烈な動機が生じたのは、やはり親から虐待されていた以外には考えられません。

2023年4月、選挙応援演説を行っていた岸田文雄首相にパイプ爆弾が投げつけられるという事件がありました。その場で逮捕された木村隆二被告(犯行当時24歳)は、被選挙権の年齢制限や供託金制度に不満を持ち、裁判を起こすなどしましたが、自分の主張が認められないため、岸田首相襲撃事件を起こしました。政治的な主張のテロですが、その主張と首相暗殺とは釣り合いがとれません(被告は殺意は否定)。
木村隆二被告については、父親から虐待されていたという報道がありました。
『「父親は株にハマっていた」「庭は雑草で荒れ果てていた」岸田首相襲撃犯・木村隆二容疑者の家族の内情』という記事には、近所の人の証言として「お父さんがよく母親や子どもたちを怒鳴りつけててね。夜中でも怒鳴り声が聞こえることがあって、外にまで聞こえるぐらい大きな声やったもんやから、近所でも話題になってましたね。ドン!という、なにかが落ちるものとか壊れる音を聞いたこともあった。家族は家の中では委縮していたんと違うかな」と書かれています。

親に虐待された人は生きづらさを感じたり、PTSDを発症したりします。そのときに親に虐待されたせいだと気づけばいいのですが、国家指導者のせいだと考えると、どんどん間違った方向に行って、最終的にテロ実行ということになります。
これがローンオフェンダーの心理です。

とくに政治的主張がなくて、世の中全体を恨むような人は、通り魔事件を起こします。
ですから、ローンオフェンダーと通り魔は根が共通しています。


したがって、ローンオフェンダー型テロや通り魔事件をなくすには、根本的な対策としては世の中から幼児虐待をなくすことです。そして、幼児虐待のためにPTSDを発症した人などへの支援を十分にすることです。
目先の対策などどうせうまくいかないので、こうした根本的な対策をするしかありません。

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