
2023年はジャニーズ事務所と宝塚歌劇団という芸能界の権威の中の闇があばかれた年でしたが、最後に松本人志氏の性加害スキャンダルが出て、芸能界に激震が走りました。
松本氏は吉本興業のタレントの中心的な存在であり、ダウンタウンとして大阪万博のアンバサダーも務めています。
今は週刊文春の第一報が出ただけですが、今後の展開から目が離せません。
『《参加女性が続々告発》「全裸の松本人志がいきなりキスしてきて…」「俺の子ども産めや!」1泊30万円の超高級ホテルで行われた「恐怖のゲーム」』という文春オンラインの記事で概略が読めますが、これは無料版なので詳しくありません。
「松本人志の性加害疑惑内容まとめ」というまとめサイトはもう少し詳しいですが、正確なまとめとは限りませんし、焦点もはっきりしません。
そこで、私が「週刊文春1月4・11日新年特大号」の記事から、重要な部分を紹介します。
重要な部分というのは、松本氏の行為は犯罪に当たるのか、犯罪でなくても倫理的に許されず芸能界を引退するレベルのものか、謝罪すればすむレベルのものか、そもそも記事内容はどの程度確かなことなのか、といったことです。
2015年の冬、A子さんはスピードワゴンの小沢一敬氏から飲み会に誘われます。A子さんは小沢氏の飲み会に何回か参加したことがあります。ただ、そのときは小沢氏から「VIPをお呼びするから絶対ドタキャンはしないように」と言われます。
飲み会の場所は六本木のグランドハイアット東京の「グランドエグゼクティブスイートキング」という一泊約三十万円の部屋です。女性の参加者はA子さんを含めて3人、男性は小沢氏と放送作家X氏、そこにA子さんには「ものすごいVIP」としか知らされていなかった松本氏が現れます。
松本氏は飲むとだんだん饒舌になり、「日本の法律は間違ってると思うねん。俺みたいな金も名誉もある男が女をたくさん作れるようにならないとあかん。なんで嫁を何人も持てないんや」などと言います。
女性の一人が「素敵な奥様がいらっしゃいますよね」と言うと、松本氏は「女は出産すると変わんねん」と言い、女性たちに向けて「俺的には三人とも全然ありやし。で、俺の子ども産めるの? 養育費とか、そんくらい払ったるから。俺の子ども産まん?」などと言います。
夜10時すぎ、小沢が「さぁ、みんなでゲームを始めよう」と言います。グーチョキパーによって男と女がペアになり、松本氏が寝室、X氏が浴室、メインルームのソファに小沢氏がいて、15分ほどで女性は部屋を移動するというゲームです。
A子さんが寝室で松本氏と対面したときの様子を記事から引用します。
A子さんが恐怖の体験を振り返る。
「いきなりキスされ、混乱していると、松本さんは『さっきの話や。俺の子ども、産めるの?』と迫ってきた。またキスされそうになったので、しゃがんで抵抗したところ、足を固定されて三点止めの状態にされてしまった。その日、私はボタン付きのシャツを着ていましたが、松本さんが無理やり上から脱がそうとしたため、ビリッと破れてしまった」
いつの間にか松本は全裸になり、身体を押し付けてくる。A子さんは唖然と佇立するしかなかった。
「松本さんは『俺の子どもを産めや』と呪文のように唱えてきて、それでも拒否していると大声で『なぁ! 産めへんのか!』と。恐怖で震えている私を見て、ますます興奮しているようでした。私は『このまま本当に殺されるかもしれない』とパニック状態になりました」(同前)
A子さんの右手を掴んだ松本は、股間を触るように誘導してきたという。
「私は『ホント、すみません、すみません』と必死に拒否しながらも『一度射精させれば襲われなくなるかもしれない』と防御策を考えました。何度も抵抗した後、右手だけで応えるようにしていたんですけど、しゃがみ込んだ途端に口に押し入ってきた。そして最後は口内に出されました。その瞬間、頭の中が真っ白になってしまった」(同前)
それから約十秒と経たないタイミングだった。
「はい、終了~!」
隣室から小沢が嗄れ声で叫んだのだ。
「あまりのタイミングの良さに『相当慣れてるな』と思ったんです。口の中の精液を目の前で吐き出すと怒られるかもしれないと思い、松本さんがリビングに行った瞬間を見計らい、ベッド右脇の床に吐き出してしまいました」(A子さん)
被害者はA子さんだけではありません。
A子さん参加の飲み会の3か月ほど前、B子さんはやはり小沢氏に誘われて飲み会に参加しました。場所は同じグランドハイアット東京の「グランドエグゼクティブスイートキング」で、参加者は男性4人、女性4人でした。そして、飲んでいると“ゲーム”が始まります。
B子さんが松本氏の部屋に入ると、松本氏は全裸になってベッドに引きずり込んできました。そのときに言われた「君みたいな真面目な子に俺の子どもを産んでほしいねん。君の子どもがほしい」という言葉がB子さんの脳裏に焼きついています。
B子さんが必死に抵抗すると、「セックスがだめなら口でやって」と言い、B子さんが「むりです」と断ると、「口がだめなら手でやって」と言い、ベッド上の攻防は十数分続き、心が折れて、「最後は私の手の中で果てていました」(B子さん)ということです。
それから数年間、B子さんはPTSDに悩まされ続けました。
これらの行為は法的にはどうなのでしょうか。
「口淫」と「手淫」であって、「挿入」はありません。
かつて強姦罪は姦淫すなわち性交のみが処罰対象でした。
しかし、2017年の刑法改正により「強姦罪」は「強制性交等罪」と名前が変わり、性交のほか、肛門性交、口腔性交も処罰対象となりました(男性の被害も認められ、非親告罪となりました)。
ただ、松本氏の行為は2015年のことですから、処罰対象にはなりません。
それに、当時この事件が発覚して、検察がむりやり起訴に持ち込んだとしても、裁判所は「性交していない」ということのほかに、「被害者は拒否しようとすればできたのにしなかった」という論理で松本氏に強姦罪を適用しないでしょう。
松本氏の行為に刑法上の罪は問えないと思われます。
しかし、それはA子さんとB子さんに「性交」がなかったからです。
飲み会に参加したほかの女性には「性交」をした人もいるはずです。
「三人中、二人が生理やん。どないなってんねん!」と松本氏が怒ったとA子さんは言っています。性交できない女性を「生理」という隠語で呼ぶそうです。
松本氏と性交した女性が被害を訴えたら、強姦罪の時効は10年なので、即「松本アウト~」となります。
今回の文春の報道が呼び水となって、被害を訴える女性がさらに出てくるかもしれません。
もっとも、松本氏は「証拠がない」と主張して争うかもしれません。飲み会参加の女性は松本氏がくる前に携帯電話を預けさせられています。ですから、証拠の写真や録音はないはずです。
しかし、「証拠がない」と言って無実を主張するのは、今では裁判所はともかく世の中が許しません。
性交に関して、同意があったか強制だったかということはしばしば問題になります。腕力が強い男、権力を持った男に女性は強く抵抗できませんが、そうすると「合意があった」と見なされがちです。
そこでさらに法律が改正され、2023年7月に施行された改正法では「強制性交等罪」は「不同意性交等罪」という名前に変わり、成立要件がより明確になりました。
たとえば「暴行又は脅迫」「アルコール又は薬物の影響」「 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力による不利益の憂慮」などで「同意しない意思を形成したり表明したりするのが困難な状態」であれば、不同意性交等罪が成立します。
松本氏は芸能界の大物で、筋肉ムキムキです。A子さんは小沢氏から「くれぐれも失礼のないように。怒らせるようなことをしたら、この辺、歩けなくなっちゃうかもしれない」と言われます。スイートルームにいる男たちはみな「セックスするのが当たり前」という認識でいます。この状況で拒否するのはたいへんです。
もし当時に「不同意性交等罪」があったら、松本氏は完全に有罪です。
「昔はそんな法律はなかったからいいんだ」という言い訳は、やはり世の中が許しません。
この7年間に2度も「強姦罪」に大きな変更が加えられたのは、強姦に関する世の中の価値観が大きく変わってきたからです。昔の法律はあまりにも男に都合よくできていました。
もしA子さんとB子さんの事例だけなら、刑法的にはセーフです。しかし、世の中の価値観からはアウトです。
ほかの事例が発覚すれば刑法上もアウトです。
吉本興業は週刊文春の記事に関して「当該事実は一切なく、本件記事は本件タレントの社会的評価を著しく低下させ、その名誉を毀損するものです」「厳重に抗議し、今後、法的措置を検討していく予定です」という声明を発表しました。
この時点では、文春記事は事実か否かが問題になりそうな感じでしたが、その後、松本氏も小沢氏もノーコメントを貫いているので、松本氏を擁護する声はなくなりました。
松本氏のキャラクターや日ごろの言動から、文春の記事のようなことはあったに違いないと思う人が多いように思えます。
松本氏は沈黙したままこの問題から逃げきることはできません。
自分は無実だと主張すると、被害女性は嘘つきだと決めつけることになり、非難の火に油を注ぐようなものです。
松本氏が芸能活動を続けたければ、罪を認めて、謝罪し、被害者に補償することです。
松本氏のお笑いの才能は多くの人が評価しているので、真摯に謝罪すれば世の中も許してくれるかもしれません。
テレビに出られなくてもYouTuberとして活躍することはできます。
問題は吉本興業です。
松本氏全面支持の声明を出してしまったので、路線転換できるかです。
松本氏が反省の態度を示さない場合、島田紳助氏のように切り捨てられるかが問われます。
「俺の子どもを産めや」というのは奇妙なセリフです。セックスしたい男は「ちゃんと避妊するから」と言って口説きます。
小沢氏は「松本さんの性癖って本当に凄く変わってるの。AV女優とかプロの女性はダメで、ファンの子もダメなのよ。そこに価値を感じないわけ」と言います。
松本氏も「最近は俺、図書館にいる司書さんみたいな人と付き合いたいねん」と言います。
松本氏の立場なら、あと腐れなくセックスさせてくれる女性を見つけるのは容易なはずです。しかし、そういう女性では満足できないのでしょう。
「俺の子どもを産めや」と言って、相手の女性の拒否感を強めておき、そういう女性を支配することに喜びを感じるのです。
ただ、腕力や暴力を行使せずに、心理的に屈服させ、支配するのです。
そのため、「ほとんど強制だが、完全に強制とはいえない」という微妙な状況になって、気の弱い女性はレイプされ、気の強い女性はレイプを免れることができるというわけです。
松本氏はきわめて支配欲、権力欲の強い人です。
松本氏はほとんどのお笑いコンテストで審査員を務めています。そのためお笑い界で権威になり、それはお笑い界にとってよくないことだと、オリエンタルラジオの中田敦彦氏が松本氏を批判しました。まっとうな批判でしたが、逆に中田氏がたたかれました。松本氏の芸能界における支配力が強すぎたのです。
松本氏はカリスマといってもいい存在になり、女性蔑視発言やさまざまな問題発言をしても謝罪せずに許されてきました。
こういう権力欲の強い人は、謝罪することを人よりも屈辱的に感じるのでしょう。
今後は、松本氏がどれだけ真摯な謝罪をするかが問題になると思われます。
