
人類は法律をつくったときから犯罪対策をしてきたはずですが、犯罪は克服されるどころか、むしろ深刻化しているように見えます。
犯罪対策のやり方が間違っているのではないでしょうか。
トランプ大統領は首都ワシントンの警察を連邦政府の管理下に置くとともに、市内に州兵を派遣しました。首都での犯罪状況が制御不能に陥っているというのが理由です。
しかし、最近のワシントンの犯罪は減少傾向にあります。いつもながらトランプ氏のいうことはでたらめです。
トランプ氏はまた、シカゴやニューヨークやボルティモアへも州兵派遣の意向を表明し、「(メリーランド州知事の)ウェス・ムーアが助けを必要としているなら、ワシントンで行われているように私が『部隊』を派遣して、犯罪をすばやく一掃する」とSNSに投稿しました。
州兵で犯罪を一掃することはできません。犯罪捜査をして犯人を逮捕することは警察の役割です。
ハリウッド映画で正義のヒーローは、最後に悪人を派手にやっつけます。州兵投入はそのイメージでしょう。
トランプ氏は表面的でいいので、“やってる感”を出したいようです。
8月27日、ミネソタ州ミネアポリスの「受胎告知カトリック学校」で銃の乱射事件があり、8歳と10歳の子ども2人が死亡し、17人がけがをしました。23歳の容疑者は現場で自殺しました。銃の弾倉に「ドナルド・トランプを殺せ」という文字が書かれていました。
トランプ氏は昨年7月、ミシガン州で演説しているときに銃撃され、耳を負傷しましたが、その場で射殺された犯人は20歳の白人男性で、共和党員として有権者登録を行っていました。
このような犯人の動機を解明することは犯罪防止にきわめて重要です。とくにトランプ氏にとっては自分の命を守ることにもなります。
ミネアポリスの銃撃犯については、2002年6月17日生まれの女性ということですが、過去に性的自認に合わせて男性名を女性名に変えています。つまりトランスジェンダーでした。
ホワイトハウスのレビット報道官は「混乱したトランスジェンダーが無垢な子どもたちを狙った事件である」と説明し、イーロン・マスク氏も「これは明白な(トランスジェンダーの行動)パターン」と言いました。ある共和党の下院議員は「ジェンダー・ディスフォリア(性別違和)」を「精神疾患」と規定し、「未成年者の性転換手術を重犯罪と規定する法案を通過させなければならない」と主張しました。つまりトランスジェンダーへの憎悪をあおり、犯罪と結びつけたのです。
一方で、「自分をかばってくれたお友だちが撃たれてしまった」と涙ながらに語る少年の映像がメディアで繰り返し流されました。
つまり「凶悪な犯人対英雄的な被害者」というハリウッド映画的な図式でとらえられ、動機の解明に踏み込むいいチャンスなのに、ここでも表面的な対応に終わっています。
こうしたいい加減な犯罪対策によって、アメリカは先進国としてはありえない犯罪大国になっています。
そのため、最近は移民のせいで治安が悪くなったことにされています。
日本でも移民や外国人を犯罪と結びつける人が増えています。
しかし、外国人も日本人も同じ人間です。日本人が外国に行けば外国人になることを考えればわかりますし、日本は南米や合衆国に多くの移民を送り出してきたことを考えてもわかります。
日本人も外国人も同じ人間ですから、犯罪をする可能性に差はないはずです。ただ、置かれた状況が違います。
日本人は生まれたときから日本にいますが、外国人は外から日本に来たわけです。すぐに日本に溶け込めば問題はありませんが、そうでないと犯罪をしやすいということはあります。
ただ、外国人が日本に溶け込めないのは、外国人に原因があるのか日本人に原因があるのかを考えないといけません。
日本人は「外国人はマナーが悪い。日本に溶け込む努力をしない」と言いますが、外国人は「日本人に差別され、受け入れてもらえない」と思っているかもしれません。
差別されていると感じると、犯罪のハードルが下がります。
ヨーロッパでは人種差別がひどいので、移民の住む場所はスラム化し、治安の悪い地域になるということがあります。
それと比べると、日本では人種差別はそれほどひどくないので、外国人は比較的社会に溶け込んでいます。外国人の犯罪率は日本人の犯罪率の2倍強ぐらいです。日本人の犯罪率はひじょうに低いので、外国人も日本にいることで犯罪をしなくなったということがあります。
つまり日本が外国人を“善導”しているのです。
漫画家の倉田真由美氏はXに「人口比で日本の何十倍も殺人、強盗、強姦など凶悪犯罪が起きる国から移民入れますといわれたら、怖いし不安になるに決まっているでしょ。ごく自然なそういう感情を、差別とかいわれて封じられたらたまったものじゃないよ」と投稿しました。
「外国人は犯罪的」という考えは明らかにおかしいので、倉田氏は「犯罪の多い国の人間は犯罪的」という説を考え出したようです。
しかし、犯罪の多い国は貧困、格差、政情不安などの原因があって犯罪が多いのです。人間に原因があるのではありません。
ですから、犯罪の多い国からきた人も日本では犯罪をしないということは十分にありえます。労働に正当な報酬が得られて、周りの人間から暖かく受け入れられていれば、犯罪をする必要がありません。
犯罪の遺伝子も悪の遺伝子も発見されていないので、犯罪の原因は人間ではなく環境にあります。
ですから、正しい犯罪対策は犯罪の原因をなくすことです。
イギリスのブレア首相は1993年、犯罪対策の甘さを批判されたとき、「犯罪にきびしく、犯罪の原因にもきびしく」という言葉で反論しました。
しかし、「犯罪の原因にきびしく」ということを実践している国はほとんどないと思われます。
犯罪の原因を追及すると、その国の問題点があぶりだされるからです。
犯罪の最大の原因は貧困ないし格差です。
アメリカは極端な格差社会です。しかし、それが犯罪の原因だとするのは富裕層にとっては“不都合な真実”なので、犯罪者個人に原因があるというように報道されます。
ミネアポリスのトランスジェンダーの銃撃犯は、「受胎告知カトリック学校」の卒業生でした。母親は同校に5年間勤めていたことがあります。
キリスト教学校ですから、おそらくトランスジェンダーにきびしかったでしょうし、家庭でも理解されなかったのかもしれません。
犯罪の原因は、トランスジェンダーであることではなく、トランスジェンダーであるために学校や家庭で迫害されたことだと考えられます(トランスジェンダーが原因で犯罪をすることはないので)。
しかし、学校や家庭に犯罪の原因があるということは多くの人にとって“不都合な真実”ですから、犯罪の原因はすべて犯罪者個人に帰せられます。
法学もこうした状況を肯定します。刑法学では、犯罪の主な原因は個人の「自由意志」によるものとされます。弁護側が環境要因を挙げて情状酌量を訴えても、裁判官は「人間性のかけらもない身勝手な犯行」などと被告個人を断罪するのが常です。
「自由意志」は科学的にはほとんど否定され、文系の学者でも大っぴらに自由意志があるとは言えない状況になっていますが、刑法の世界だけ昔のままです。
対症療法と原因療法という言葉がありますが、今の犯罪対策はすべて対症療法です。犯罪が目についてから犯人を逮捕し、それで一件落着となりますが、犯罪の原因はそのままなので、また犯罪が起こります。
そうして延々と同じことを繰り返しているのです。
犯罪の原因に対処する原因療法を行わなければなりませんが、すでに述べたようにそれをすると“不都合な真実”があらわとなります。
犯罪者はもともとたいてい社会的弱者で、犯罪者になった時点で社会の最弱者になりますから、犯罪者にすべての責任を負わせるのがいちばん安易な方法です。
ということは、今の犯罪対策は貧困層、外国人や移民、トランスジェンダーなどのマイノリティへの差別の上に成り立っているということです。
みんなが正しい人権意識を持てば犯罪対策も変わっていくはずです。








