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「弱きを助け、強きをくじく」という言葉があります。
正義のヒーローのキャッチフレーズとして昔はよく使われていましたが、最近はあまり耳にしません。
国語辞典には「弱い者を救い、横暴な者をこらしめる。任侠の気風をいう」とあり、任侠に由来する言葉なので、使いにくいのでしょうか。

「強きをくじく」と言っておきながら正義のヒーローがいちばん強いわけで、そこに矛盾があります。任侠という特殊な立場だから成立する言葉かもしれません。

「弱きを助け、強きをくじく」という言葉を批判する立場もあります。
モラロジー道徳教育財団の「道徳の授業:親切・思いやり」というページにこう書かれています。
「弱きを助け、強きをくじく」というと、一見カッコよく、道徳的に聞こえますが、弱者をすべて善人、強者をすべて悪人と見るのも、はなはだあわてた結論でしょう。

 また、弱い者を偏愛することになり、そのため、やたらと強い者を憎み、これに刃向かう気風をつくってしまうという一面があります。

 同情や親切は大切な道徳ですが、深い理性と真に人を愛する心が伴ってこそ、質のよい価値ある道徳といえましょう。

モラロジー道徳教育財団というのは、ウィキペディアによると『廣池千九郎が1926年に説いた「道徳科学」(moral+-logy)を基に始まった修養・道徳団体。教育再生、道徳教育による「日本人の心の再生」を主張し、その出発点を家庭に置く』となっていますが、私の印象としてはひじょうに宗教に近い感じがしますし、道徳教育を重視する点で自民党とも近い感じがします。

強者をすべて悪人、弱者をすべて善人と見なすことに疑問を呈していますが、これはモラロジーが強者の側に立っているからでしょう。


弱者がすべて善人であるかどうかわかりませんが、強者がすべて悪人であるというのはかなり正しいかもしれません。
それを肯定する言葉があります。

それは「権力は腐敗する。絶対的権力は絶対的に腐敗する」という言葉です。

19世紀末のイギリスの歴史家で政治家のジョン・アクトンが述べた言葉ですが、アクトンはフランス革命の歴史や自由主義を研究した人なので、単なる思いつきの言葉ではありません。

この言葉の正しさは、現実を見てみればわかります。
長い歴史において、善政を敷いた権力者はいないではありませんが、ごく少数です。しかも、その善政の期間は短いものです。
政権が長期化すると、どんな権力者も独裁者と化していきます。独裁者が民衆のための政治をするわけがありません。
最近の政治を見ても、ウラジミール・プーチン、習近平、安倍晋三と、長期政権は独裁化していきます。

企業経営者も同じです。
最初は優秀な経営者でも、長期化するといつしか周りをイエスマンで固め、ワンマン経営者といわれ、独善的な経営をするようになります。

例外がないとはいえませんが、「権力は腐敗する」というのはかなりの程度真実です。

「権力は人を酔わせる。酒に酔った者はいつかさめるが、権力に酔った者は、さめることを知らない」という言葉もあります。
これはアメリカの政治家のジェームズ・バーンズの言葉です。

ともかく、権力は腐敗し、横暴になり、弱者をいじめるので、「弱きを助け、強きをくじく」という原理で行動すれば、ほとんどの場合間違いありません。

決して名言だけを根拠にして主張しているわけではありません。
ちゃんと“科学的”な根拠もあります。
次の実験は、金持ちと貧しい人についてのものですが、現代社会で金を持っていることは権力を持っていることと同じようなものでしょう。
お金持ちほど人をだます傾向あり、米研究
2012年2月29日 14:49 発信地:ワシントンD.C./米国 [ 北米 米国 ]

【2月29日 AFP】社会的地位の高いお金持ちはそれ以外の人々よりも、交通ルールを守らず、子供のキャンディーを横取りし、金銭的利益のためにうそをつく傾向があるとする研究結果が、27日の米科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences、PNAS)に発表された。

 米カリフォルニア大学バークレー校(University of California at Berkeley)とカナダ・トロント大(University of Toronto)の心理学者チームは、米国で行った人間行動に関する7つの実験を分析した。

 ある実験では、メルセデス・ベンツ(Mercedes-Benz)やBMW、トヨタ(Toyota)のプリウス(Prius)などの高級車のドライバーは、カムリ(Camry)やカローラ(Corolla)などの大衆車のドライバーに比べて、交差点での交通ルールを守らない傾向があることが分かった。高級車ドライバーはまた、大衆車ドライバーよりも、道路を横断しようとする歩行者を優先しない傾向があった。

 サイコロを使った別の実験では、サイの目が大きいと50ドル(約4000円)の賞金をもらえるというゲームを行ったところ、社会経済的な地位が高いと自己申告した人では、実際の目よりも大きい数を言う頻度が高かった。「50ドルなど大した金ではない階級の人々がうそをつく頻度は(低所得者層の)3倍だった」と、論文の主執筆者であるカリフォルニア大バークレー校のポール・ピフ(Paul Piff)氏は言う。

 また、自分を雇用者と仮定し、近く廃止する部署であると知りながらもその部署を希望する求職者と面談するという設定では、高い地位の人ほど事実を隠す傾向があった。

 別の実験では、キャンディーが詰まったポットを「近くの研究所の子供たち用」だと言って渡し、「好きならいくつかとっても構わない」と言い添えた場合、お金持ちほど多くのキャンディーをとる傾向があった。平均して、お金持ちがとったキャンディーの量は(お金持ちではない人の)2倍だった。富裕層の施しの量が貧しい人よりも少ない傾向があることを見出しつつあるピフ氏も、お金持ちが子供のお菓子を横取りするというこの事実には驚きを禁じ得ないと言う。

 さらに、自分の社会的地位が高いと思い込ませる実験では、社会的地位が他の人より高いという認識が、貪欲さを増し、例えば、実際より多くのおつりをもらっても黙ってとっておくなど、倫理的な行動規範も薄れる可能性があることも明らかになった。

■富と自立が他人への感受性弱める

 以上の実験結果は「上流階級の個人の間で文化的に共有されているいくつかの規範」を浮き彫りにした、と、論文は述べる。

 例えば、富裕層は貧しい人よりも自立し、財産も多いため、「他人が自分をどう思うか」が貧しい人よりも気にならないかもしれないという。

 ピフ氏によれば、お金を持っている人ほど、貪欲さを肯定的にとらえ、ピンチの時には家族や友人を頼らない傾向がある。こうした「気高さ」が自身を社会から切り離した存在にしているという。「日常生活の極めて異なるレベルでの特権が自立性を生み、自分の行為が他人の幸福へ及ぼす影響への感受性を弱めると同時に自己の利益を最優先させる結果を生んでいる」(ピフ氏)

 だが、論文は、慈善活動を行っている億万長者、ビル・ゲイツ(Bill Gates)氏やウォーレン・バフェット(Warren Buffett)氏などの例外が存在することも指摘する。また、貧困と凶悪犯罪の関連性を示した以前の研究は、貧しい人が必ずしもお金持ちより倫理観が高いわけではないことを示している。

 ただし論文は、「私利私欲は社会のエリート層のより根本的な動機であり、富の蓄積と地位の向上に関連したもっと欲しいという欲求は不正行為を助長しかねない」と指摘する。

 なお、実験はそれぞれ100~200人の米国人を対象に行われたが、「結果は米国外の社会にも当てはまるだろう」とピフ氏は言う。これらのパターンは、特に、格差の大きい社会で顕著に表れることが予想されるという。(c)AFP/Kerry Sheridan
https://www.afpbb.com/articles/-/2861397
要するに金持ちほど悪いことをするという内容です。

私はこれを読んだとき、正直者がバカを見る世の中だから、悪い人間が金持ちになったのではないかと思いました。
しかし、人を押しのけて生きていくような人間が出世することもありますが、周りから信頼される人間が出世する場合もあります。
この論文は、金持ちになったから人の目を気にしなくなり、悪いことをするのではないかと見なしています。
出世して金と権力を手にした人間は、次第に傲慢になり、平気で利己的なふるまいをするようになるということです。
これは「権力は腐敗する」ということに合致します。


前回の「『人間は利己的である』ということ」という記事で、人間は基本的に利己的であるということを述べました。今回の記事はその続編になります。
人間は誰もが利己的ですが、周りに人間がいるのでそんなに利己的なふるまいはできません。弱い立場の者はなおさらです。
しかし、権力を手にすると、利己的なふるまいができるようになり、どんどんエスカレートしていきます。

ですから世の中は、権力者や金持ちや地位の高い者などの強者は利己的にふるまって不当に利益を得て、弱者は不当に利益を奪われています。
しかも、強者は社会制度を自分たちに有利なようにつくっています。
民主主義によって弱者の意志も社会制度に反映されることになっていますが、上が下を支配する力は網の目のように社会に張り巡らされているのに対して、下から上への声を吸い上げる民主主義のパイプは細くて目詰まりしているので、まったく不十分です。

これが世の中の基本の仕組みですから、世直しの原理は「弱きを助け、強きをくじく」ということになるわけです。


つけ加えると、保守派や右翼やネトウヨの原理は「強きを助け、弱きをくじく」です。
したがって、リベラルと保守派の対立というのは、「弱きを助け、強きをくじく」と「強きを助け、弱きをくじく」の対立ととらえることができます。