
7月10日に参院選の投開票があり、自民党が勝利しました。
投票日の2日前に安倍晋三元首相が暗殺されたことは、この結果にどう影響したのでしょうか。
今私は「暗殺」と書きました。
外国のマスコミも普通に「暗殺」という言葉を使っています。ただ、日本のマスコミはほぼ「暗殺」という言葉を使っていません。
「テロ」という言葉もほとんど使いません。
最初の警察発表によると、山上徹也容疑者は「母親が特定の宗教団体にのめり込んで破産した。安倍元首相が団体を国内で広めたと思って恨んでいた」と動機を説明し、「安倍元首相の政治信条とは関係ない」と言ったそうです。
「安倍元首相の政治信条とは関係ない」ということで、個人的な恨みによる犯行と見なされたようです。
確かに犯行声明のようなものもありません。
政治的な意図がないということで、「テロ」や「暗殺」という言葉を使わないようです。
しかし、安倍元首相が特定の宗教団体とつながるのは政治的な行動です。
とすると、山上容疑者が安倍元首相と特定の宗教団体のつながりに反対するのも政治的な行動ですから、この犯行は「テロ」や「暗殺」と呼んで当然です。
「特定の宗教団体」というのは統一教会(現在は世界平和統一家庭連合に名称変更)のことです。
もともと統一教会と自民党は密接な関係にありました。統一教会は「国際勝共連合」という反共政治団体を持っていて、学生などの動員力もあり、社会党、共産党、新左翼などが強い時代に自民党は統一教会を利用しました。
ただ、統一教会は高価な壺を売りつけるなどの霊感商法や合同結婚式などが社会的な問題を引き起こして、テレビのワイドショーでもよく取り上げられました。オウム真理教と統一教会は二大カルトという感じでした。
ですから、統一教会と自民党とのつながりも問題にされていました。
しかし、いつの間にか統一教会の霊感商法はワイドショーで取り上げられなくなりました。といって、霊感商法の被害がなくなったわけではありません。
どうやら統一教会と自民党との結びつきがいっそう強くなって、マスコミは統一教会と自民党に忖度して取り上げなくなったようです。
そのため今の若い人は統一教会が問題のあるカルトだということをろくに知らないかもしれません。
安倍元首相は自民党の中でもとりわけ統一教会とのつながりが強いようで、昨年9月に統一教会の関連団体にビデオメッセージを送りました。
「全国霊感商法対策弁護士連絡会」は安倍元首相に対して強い調子の「公開抗議文」を送ったので、その一部を抜粋します。
◆公開抗議文(抜粋)衆議院議員 安倍晋三 先生へ4.ところが、本年9月12日、韓国の統一教会施設から全世界に配信された統一教会のフロント組織である天宙平和連合(UPF)主催の「神統一韓国のためのTHINK TANK2022希望前進大会」と称するWEB集会において、安倍晋三前内閣総理大臣の基調演説が発信される事態が生じました。これを統一教会が広く宣伝に使うことは必至です。上記要望書の要望を全く無視したものというほかなく、当連絡会としては深く失望し、今後の被害の拡大に強く憂慮しております。安倍先生が、日本国内で多くの市民に深刻な被害をもたらし、家庭崩壊、人生破壊を生じさせてきた統一教会の現教祖である韓鶴子総裁(文鮮明前教祖の未亡人)を始めとしてUPFつまり統一教会の幹部・関係者に対し、「敬意を表します」と述べたことが、今後日本社会に深刻な悪影響をもたらすことを是非ご認識いただきたいと存じます。5.安倍先生が今後も政治家として活動される上で、統一教会やそのフロント組織と連携し、このようなイベントに協力、賛助することは決して得策ではありません。是非とも今回のような行動を繰り返されることのないよう、安倍先生の名誉のためにも慎重にお考えいただきますよう強く申し入れます。また、事の重大性に鑑み、公開抗議文として送付するとともに抗議文を公開させていただく次第です。あわせて、今回のUPFのWEB集会の基調演説のビデオメッセージを提供された経緯について明確なご説明をいただきますようお願いします。https://www.stopreikan.com/kogi_moshiire/shiryo_20210917.htm
山上容疑者は安倍元首相のメッセージビデオを見て、安倍元首相をターゲットにすると決めたそうです。
安倍元首相のような有力な政治家が統一教会を賛美するメッセージを送ると、その影響は甚大ですから、この考えはそれほど不思議ではありません。
ただ、この場合は「統一教会にメッセージを送る安倍はけしからん」というように、公憤とか正義感になるはずです。個人的な恨みにはなりません。
山上容疑者がもし「安倍はけしからん」という正義感を持てば、ネットの書き込みなどで発散できて、犯行には及ばなかったかもしれません。
また、彼の最後の職歴は、派遣社員としてフォークリフトの運転などをしていたそうです。
給料が安くて、結婚もできそうになく、将来になんの希望もなくて、それも犯行動機のひとつだったでしょう。
こうした境遇について、「安倍政治が悪いからだ」「自民党政治が悪いからだ」と考えれば、社会改革の方向にも意識が向いて、やはり安倍元首相個人を殺そうという考えにはならなかったかもしれません。
それにマスコミの責任もあります。安倍元首相のビデオメッセージについても、報道したのは「しんぶん赤旗」ぐらいです。一般のマスコミがこのときに「安倍元首相はけしからん」と言っていれば、山上容疑者はマスコミに任せて自分は手を出さなかったかもしれません。
もとはフェミニズムから出てきた言葉で、「個人的なことは政治的である」という言葉があります。
男女のことや家族などの問題も、国家などの政治的なこととつながっているという意味です。
山上容疑者は、自分の家庭が崩壊したことを個人的な不幸と思っているようですが、「個人的なことは政治的である」という言葉を知っていれば、またとらえ方が違っていたはずです。
また、マスコミも「暗殺」や「テロ」という言葉を使わず山上容疑者の個人的な犯行ということにしていますが、マスコミも「個人的なことは政治的である」という言葉をかみしめるべきでしょう。
ここで簡単に安倍元首相の足跡を振り返っておきたいと思います。
第二次政権のときの安倍氏は、首相の権力を自由自在に使いこなしていたという印象があります。
一般論として国家は巨大なのに個人は小さいので、個人が首相の権力を使いこなすのは容易なことではありません。しかし、安倍氏は第一次政権の挫折で人間が一回りも二回りも大きくなったのでしょう。第二次政権のときは余裕の政権運営でした。
閣僚も官僚も思い通りに動かし、それだけでなく閣僚や官僚は安倍氏の意向を忖度して先回りして動きました。そうした中で森友学園問題、加計学園問題、桜を見る会問題が起きました。
当時の財務省の佐川宣寿理財局長は、森友学園問題で公文書改ざんを指示し、みずからも虚偽答弁をしましたが、これは安倍氏が命じたのか佐川氏がみずから動いたのか、現在にいたるもわかりません。それぐらい安倍氏と官僚は一体化していたということです。
それだけ権力を使いこなして安倍氏はなにをしたかというと、評価が分かれるところです。
私は否定的な評価をこのブログにずっと書いてきましたから、ここではなにも言わないことにします。
ともかく、安倍氏は「強いリーダー」となりました。
国民は強いリーダーを好むものなので、ずっと高支持率でした。
しかし、実際のところは、強いリーダーはろくなものではありません。
プーチン大統領、習近平主席、トランプ前大統領を想像すればわかります。ここにヒトラー総統をつけ加えることもできます。
ともかく、日本国民は強いリーダーとして安倍元首相を記憶にとどめるでしょう。
そして、その記憶が薄れるとともに、改憲問題も慰安婦問題も靖国参拝問題もフェードアウトしていくでしょう。
安倍元首相の冥福を祈ります。
