村田基の逆転日記

親子関係から国際関係までを把握する統一理論がここに

タグ:対米依存

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発足してまだ半年のトランプ政権が世界を引っ搔き回しています。
もちろん日本も翻弄されているので、どう対応するかが問題です。
ところが、参院選の争点に対米外交をどうするかということは入っていません。
対米外交だけでなく外交安保が選挙戦でまったく議論になっていません。
争点になっているのは、給付か減税か、外国人政策をどうするかといった内政ばかりです。

日本政府は「日米同盟は日本外交の基軸」という基本方針を掲げてきました。これは「対米従属」とか「対米依存」とか批判されながらも、国民多数の支持を得ています。
しかし、この基本方針はアメリカがまともな国であってこそ成り立つものです。
トランプ氏は同盟国を同盟国と思わず、むしろ同盟国によりきびしい要求を突きつけてきますし、方針がころころ変わります。

アメリカが「アメリカファースト」を主張するなら、日本は「ジャパンファースト」を掲げて対抗するのが本来ですが、日本とアメリカでは国力が違いすぎるので、現実には不可能です。
第一次トランプ政権のときは、安倍首相はトランプ氏の懐に飛び込む作戦に出て、日米同盟基軸路線を維持することに成功しました。
それが可能だったのは、トランプ氏が政権運営に慣れていなくて、とくに外交安保については既定路線を踏襲していたからです。
しかし、第二次政権のトランプ氏は国務省も国防省も牛耳っているので、石破首相が安倍首相みたいな恭順の姿勢を示したら、トランプ氏はどんな無茶な要求をしてくるかわかりません。

今の日本は、日米同盟基軸路線を維持するのはどう考えても無理になり、かといって「ジャパンファースト」でアメリカと対抗することもできず、政府も国民も思考停止に陥っている状況です。
そのため外交安保が参院選の争点にならないのです。

参政党は「日本人ファースト」を掲げました。
「日本ファースト」を掲げるとトランプ政権と衝突することになるので、そこから逃げたのです。
「日本人ファースト」は日本人と外国人を分断し、外国人を差別するものだと批判されていますが、国際社会で戦う姿勢のないことも批判されるべきです。


日本中がトランプ政権の前で思考停止に陥っている中で、石破首相だけは違います。
トランプ氏は各国との関税交渉において、日本を甘く見ていたでしょう。安倍首相とのつきあいから、そう思って当然です。アメリカに有利な合意をまず日本と結んで、それを前例にして各国と有利な合意を結んでいくというのがトランプ氏の腹づもりだったでしょう。
ところが、石破政権は何度もアメリカと交渉しながら、いまだに合意に至っていません。
日本だけではなくほとんどの国とトランプ政権は合意できていません。
トランプ氏は関税政策が失敗に終わりそうで、面目丸つぶれです。


今のところアメリカと合意したのはイギリス、中国、ベトナムの三か国です。
イギリスとの合意はあまり価値がないとされます。

トランプ関税の最大の標的は中国でした。アメリカは対中関税を145%まで上げると主張し、中国は報復関税を125%にすると主張して、ぶつかり合いました。
で、合意の内容はというと、単純にいうと、アメリカは対中関税30%、中国は対米関税10%にするというものでした。
どう考えても、中国の強硬姿勢に対してトランプ氏が腰砕けになった格好です。

ベトナムとの合意は妙なことになっています。
トランプ氏は7月2日、SNSへの投稿で「ベトナムからのすべての輸入品に20%の関税をかけ、アメリカからベトナムへの輸出品は関税0%」という内容で合意したと発表しました。
ベトナム政府も同日にアメリカと貿易協定を締結することで合意したと発表しましたが、その中身についての発表はありませんでした。
そして、ブルームバーグの7月11日の報道によると、「トランプ米大統領がベトナムからの輸入品に対して20%の関税で合意したと先週発表したことは、ベトナムの指導部にとって寝耳に水だった」ということです。ベトナム指導部としては関税率10-15%を目指して引き続き交渉していく方針だそうです。
どうやらトランプ氏がまだ決定していないことを発表してしまったようです。

このことから、トランプ氏がよほど“成果”を国民に示したくてあせっているということがわかります。
それから、最終決定権はトランプ氏にあるのでしょうが、トランプ氏と交渉担当者との意思疎通がうまくいっていないということもわかります。

赤沢大臣はベッセント財務長官やラトニック商務長官らと交渉していますが、もしかしてこうした交渉相手が“子どもの使い”状態なので交渉が進展しないのかもしれません。各国が合意しないのも同じ理由からかもしれません。


日本がアメリカと合意しないのは、単に交渉の技術的な問題なのか、それとも石破政権の方針によるものなのか、はっきりしませんでしたが、石破首相は9日の街頭演説で関税交渉について「国益をかけた戦いだ。なめられてたまるか。たとえ同盟国であっても正々堂々言わなければならない。守るべきものは守る」と語りました。
「なめられてたまるか」は強い言葉なので、波紋が広がっています。

石破首相は前から日米地位協定を改定するべきだというのが持論です。首相就任後はその持論を封じていますが、日米は対等であるべきだという思いは基本的にあるのでしょう。
石破首相は発言の翌日、BSフジの番組で「なめられてたまるか」の真意を「米国依存からもっと自立するように努力しなければならないということ」と説明しました。
この説明に反対する人はいないでしょう。しかし、「依存」から「自立」へと急に切り替えることはできません。
そのため多くの人は、石破首相が「なめられてたまるか」とアメリカと対等の口利きをしたことに戸惑っています。

立憲民主党の小沢一郎衆院議員は首相発言についてXで「トランプ大統領に直接言うべき。選挙向けの内弁慶のくだらないパフォーマンスはやめるべき」と批判しました。
野党議員が批判するのは当然ですが、自民党の佐藤正久参院議員もXで「この発言、確実にトランプ大統領に伝わる。より交渉のハードルを上げてしまった感。選挙でいう話ではない」と批判しました。

「なめられてたまるか」が英語に翻訳されたときにどうなるかを心配する声もありました。当然トランプ氏の耳に入ることを考えてです。
ストレートに訳せば「Don’t fuck wiht me」になるという意見もありましたが、さすがにそんな翻訳をするメディアはないでしょう。

関税交渉は石破首相の言うように「国益をかけた戦い」ですから、右翼や保守派は石破首相を応援していいはずですが、そうはなっていません。
高須克弥院長はXで、中国軍機が空自機に2日連続で30メートルまで接近したことを報じた記事を引用し、「石破首相に嘆願申し上げます。中国大使を呼び出して『なめるな!』と恫喝してくだされ。なう」と投稿しました。
タレントのフィフィさんも同様に「中国には、舐められてたまるか!とは言わない石破総理」と投稿しました。

FNNプライムオンラインで金子恵美氏は「なめられてしまうような状況をつくっているのはご自身なのではないでしょうか」とコメントしました。

私がざっと見た範囲では、なんらかの形で石破首相を批判するものばかりでした。「国益のためにトランプ氏との交渉をがんばれ」というような応援の声はありませんでした。
もともと反政府、反自民、反石破の人がかなりいるとしても、関税交渉という重要な役割を担っている石破首相を応援する声がないのは不思議なことです。
これは要するに、日本人のほとんどが対米依存のままだからでしょう。


鳩山由紀夫首相はオバマ大統領と会談したとき、普天間飛行場移設問題に関して「trust me」と発言したのが失礼だとして大バッシングを受けました。
「trust me」が失礼な表現であるはずがありませんが、対等な口利きではあるでしょう。当時の日本人には、日本の首相がアメリカの大統領に対等な口利きをしたことが非礼と感じられたのです(今回検索してみると、鳩山首相は普天間問題について「trust me」と言い、オバマ大統領は「あなたを完全に信じる」と返しました。しかし、事態がうまくいかない中で鳩山首相が再び「trust me」と言ったために、オバマ大統領は「責任が取れるのか」と不快感を表明したということだったようです)。


日本人にとっては今でも日本の首相がアメリカ大統領に対等の口を利くというのは考えられないことのようです。
では、石破首相はなぜ対等の口を利くことができたのでしょうか(本人の前では言っていませんが)。

アメリカのような大国の横暴に対しては各国が連携して対応するのが正しいやり方です。
今回は表立って連携する動きはありませんが、水面下でやっているのかもしれません。
各国が一致してアメリカとの合意を拒否し、結果的にトランプ包囲網を形成する格好になっています。
ベトナムだけは合意しましたが、ベトナムは共産党政権なので“西側”と情報共有ができなかったのかもしれません。

4月にトランプ関税が発表されると、アメリカ市場は株式・国債・ドルのトリプル安に見舞われたため、関税の実施は90日後に延期されました。
7月9日がその期限でしたが、アメリカと合意する国がないまま期限は8月1日まで再延期されました。
しかし、いまだにアメリカと合意する国はありません。
EU、カナダ、メキシコはトランプ関税が発動されたら報復関税を実施すると言明しています。
日本は報復関税は口にしません。そのためトランプ氏からなめられているのか、日本は自動車を買わない、コメを買わないと圧力をかけられています。
こうした状況で石破首相は「なめられてたまるか」と言ったわけです。

もし今、日本がアメリカに有利な合意をしたら、日本は世界中から白い目で見られ、軽蔑されます。
否応なく石破首相(と赤沢大臣)はタフ・ネゴシエーターにならざるをえないわけです。
日本国民はトランプ氏に向かって「日本をなめるな」と声を上げるべきです(そういえば参政党の去年の衆院選のスローガンが「日本をなめるな」でした)。


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参院選が始まりましたが、争点はなんでしょうか。

安倍首相は改憲問題を争点にしたいようで、「憲法について、ただただ立ち止まって議論をしない政党か、正々堂々と議論する政党か、それを選ぶ選挙だ」と言いました。
しかし、「改憲をする・しない」ではなくて、「改憲を議論する・しない」ですから、明らかに後退しています。

自民党は3月に「改憲4項目」の素案というのを出しましたが、九条改正、緊急事態条項、参院選「合区」解消、教育の充実と並べているので、優先順位がわかりません。
本来なら九条改正を前面に打ち出すべきでしょう。
しかし、自民党の九条改正案は、「自衛隊」は明記されても、「戦力の不保持」はそのままですから、かえってわかりにくくなっています。改憲派も盛り上がっていません。
九条の議論から逃げるために4項目を並べたのではないかと思えます。

憲法施行から72年たって、改憲論議は後退しているのですから、もう終わりにするべきでしょう。


7月3日付朝日新聞が「各党の公約 特徴と主張」と題して、争点をわかりやすく示していました。


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消費増税については、与野党で賛否が分かれています。
これがわかりやすい争点かもしれません。

「年金」という項目がありませんが、年金制度の改革を巡って対立しているわけではないので、争点にはならないのかもしれません。

「外交」という項目もありません。
その代わりに「沖縄」という項目があります。これは辺野古移設に賛成か反対かというものです。
辺野古移設問題は、対米関係をどう考えるかという問題と直結しているので、これが「外交」に近いのかもしれません。

外交についての国論は、日本はアメリカ依存を続けるべきだという主張と、日本はアメリカ依存を脱するべきだという主張とで二分されます。

この対立は、トランプ政権の誕生でより深刻化しました。
対米依存派は「アメリカファースト」の踏み絵を踏まされたからです。
安倍首相は踏み絵を踏んで、トランプ大統領から言われるままにさまざまな武器を買い、アメリカとの二国間通商交渉にも応じています。
ブッシュ政権やオバマ政権にはある程度の良識がありましたが、トランプ政権にそういうものはないので、対米依存の道は日本を危うくします。

こうした安倍外交こそ参院選の争点であるべきです。

もっとも、「安倍外交」を論じるより「トランプ政権」を論じたほうが盛り上がるでしょう。トランプ大統領のキャラが立っているからです。

これから各党の党首は、「トランプ政権」をどう評価するかを語ってほしいものです。

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