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戦艦ミズーリ

高市早苗首相は11月7日の衆院予算委員会で、台湾有事においてどのような事態が「存立危機事態」になるのかと質問され、「戦艦を使って、武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になりうるケースだ」と答えました。
「戦艦」という言葉が出てきたのに驚きました。「強力な軍事力」のたとえとしたのでしょうが、艦種は関係ありません。小さい艦艇でも多数あれば強力な軍事力です。

中国に戦艦はあったかなと調べてみると、中国に戦艦はないどころか、2006年以降、世界に戦艦といわれるもので現役のものは一隻もありません。戦艦は完全に時代遅れとなりました。
高市首相は戦争オンチかと思いましたが、もしかすると戦艦ではなく軍艦と言いたかったのかもしれません。つまりミサイル攻撃や空爆だけでなく、軍艦が上陸部隊を伴って攻めてくるような状況は「存立危機事態」だと言いたかったのでしょうか。
「存立危機事態」と認定すれば、日本が攻撃されていなくても武力行使が可能となります。
高市首相は、中国軍が台湾を攻めれば、自衛隊は中国軍を攻撃するかもしれないと言ったわけです。

これに対して中国の薛剣(せつけん)駐大阪総領事がXに「勝手に突っ込んできたその汚い首は一瞬の躊躇もなく斬ってやるしかない」と投稿しました。
この投稿が物議をかもし、保守派は薛剣総領事を国外追放にしろなどと騒いでいます。

このことはトランプ大統領の耳にも届くことになりました。
高市総理が「台湾有事は日本の存立危機事態になりうる」とした国会答弁について、中国の薛剣駐大阪総領事が「汚い首を斬ってやる」とSNSに投稿し、波紋が広がっています。
トランプ大統領は10日、FOXニュースのインタビューの中で、司会者から一連の経緯を紹介され、「中国は我々の友人と言えないのではないか」と問われたところ、「多くの同盟国だって友人とは言えない。中国以上に貿易で我々を利用してきた」と答え、中国への直接的な批判を避けました。
https://news.yahoo.co.jp/articles/86a393775c379e0868c1426af59d77aadc18c8ce?source=sns&dv=pc&mid=other&date=20251111&ctg=wor&bt=tw_up

高市首相はトランプ氏を日本に迎えたとき、いかにも良好な関係をつくったかのように見えましたが、なんの効果もなく、日本はトランプ氏に梯子を外されました。
「日本はわれわれを食いものにしてきた」というのがトランプ氏の持論で、それは少しもゆるぎませんでした。

それでも高市首相の接待ぶりは日本では評価されていて、高市首相がトランプ氏から肩を抱き寄せられても、多くの日本人は無礼だとも屈辱だとも思わず、むしろ喜んでいます(高市首相の夫である山本拓氏はどう思ったでしょうか)。


アルコール依存症の人は、自分はアルコール依存症ではないと思っていることが多く、そのため「否認の病」ともいわれます。
日本はアメリカに依存しているのに、多くの日本人は依存していないと思っていて、「否認の病」状態です。
この「認知のゆがみ」がさまざまな問題を生みます。


高市首相の「存立危機事態」の答弁には、「アメリカ」という言葉が出てきません(質問者の岡田克也議員もアメリカ抜きで議論しています)。
中国と台湾が戦争状態になったとき、日本が単独で介入して、自衛隊が中国軍を攻撃するということはまったく考えられません。
アメリカが参戦して、日本にも強く参戦を要請してきたときにどうするかということが問題です。

ベトナム戦争のとき、アメリカの同盟国である韓国とオーストラリアはアメリカの要請に応えて参戦しましたが、それは両国にとって黒歴史となりました。
日本は憲法と国民感情を理由にして参戦しませんでした。
その後もアメリカは湾岸戦争、アフガン戦争、イラク戦争とつねに日本の参戦を求めてきましたが、日本はなんとかして断り、中途半端な形の参加にとどめてきました。
アフガンにはNATOの多くの国も軍を派遣しましたが、兵士は傷つき、現地の人も傷ついて、やはり黒歴史になりました。

なお、独ソ戦のときはルーマニア、ハンガリー、フィンランド、イタリアもドイツとともに戦いました。「わが軍の兵士が血を流して戦っているのに、お前たちはなにもしないのか」と言われると、断りにくいのでしょう。“同盟国はつらいよ”というところです。

日本も、強まるアメリカの圧力に抗しきれず、安倍政権は解釈改憲で新安保法制を成立させ、日本が攻撃されなくても参戦できる理屈をつくりました。それが「存立危機事態」です。
安倍首相はアメリカの圧力に屈したのに、日本がみずから望んでやったことだとしました。
この「認知のゆがみ」は高市首相にも受け継がれて、今回もまるで日本が単独で軍事介入するようなことを言いました。

中国にしてみれば、日本は軍事的にはアメリカの陰に隠れている国と思っていたら、突然前面に出てきて武力行使の可能性を言ったので、驚いたでしょう。
それも、日本が攻撃されたわけでもないのに、しかもアメリカと関係なく中国を攻撃するというのですから、あまりにも中国をバカにした態度だということになります。


そもそも「存立危機事態」というのは、「日本と密接な関係にある他国への武力攻撃により、日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由、幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること」というのを前提とします。
台湾への武力攻撃により日本の存立が脅かされるかというと、そんなことはありません。日本は傍観していればいいのです。
ポーランドはウクライナとロシアと国境を接している国ですが、ウクライナ戦争に参戦したりはしません。それと同じです。

では、どんなときに「存立危機事態」になるかというと、アメリカが参戦して、アメリカ軍が攻撃されたときです。「アメリカの危機は日本の危機」というわけです。
私はアメリカ軍は世界最強なので、日本はなにもしなくていいと思いますが、アメリカの圧力にさらされる日本政府としてはそうはいかないのでしょう。


立憲民主党の辻元清美参院議員はXで《安保法制の議論は「台湾が米国に要請をし、米国(我が国と密接な関係にある他国)の軍隊が攻撃されるか、在日米軍基地が攻撃された場合」》に限定されていたが、《高市答弁の「台湾有事は日本有事」は「台湾から日本が援助要請を受けて集団的自衛権を行使」するパターンのようで当てはまらない》と指摘しました。

辻元議員の指摘するように、アメリカ抜きで日本が台湾有事に介入することは法的にもありえませんし、現実的にもありえません。
高市首相は今回の発言について「特に撤回、取り消しをするものではない」と述べましたが、へんな意地を張るとこじれます。
「アメリカの参戦かアメリカの要請があったということを前提とした議論でした」とでも言って訂正するしかありません。
今の高市首相の発言のままでは、自衛隊員は台湾を守るために死ぬことになります。

アメリカは中国をアメリカの覇権に挑戦する可能性のある「唯一の競争相手」と認定しているので、アメリカは中国と戦う理由があります。
しかし、日本は中国と戦う理由はありませんし、中国も日本と戦う理由がありません。

自衛隊も中国との戦争に備えていません。
戦闘機は地上で破壊されないように頑丈なコンクリートの掩体壕に入れておかなければなりませんが、自衛隊の飛行場に実質的に掩体壕があるのは北海道と青森だけです。
つまり自衛隊はソ連との戦争には備えていましたが、中国との戦争にはいまだに備えていないのです。
自衛隊はもっぱら空母をつくったりスタンド・オフ・ミサイルを配備したりして、防衛力より攻撃力をつけています。アメリカ軍と共同行動するためです。


今回の高市首相の不用意な発言は、首相になったのに頭の切り替えができていなかったからです。
「『内向きナショナリズム』の時代」という記事で書いたのですが、自国ファーストなどのナショナリズムの主張は、国内で言っている分には問題ありませんが、対外的に主張すると他国と衝突します。ですから、首相になれば、対外的には国際協調や互恵主義を打ち出すしかありません。
ところが、高市首相はいつもの調子で、勇ましいことを言えば受けると思って、「戦艦」などという言葉を持ち出してしまったのです。
「世界の真ん中で咲き誇る日本外交」という言葉も捨てなければいけません。
「分相応の日本外交」を目指すべきです。