村田基の逆転日記

親子関係から国際関係までを把握する統一理論がここに

タグ:排外主義

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高市早苗政権が発足しました。
内閣支持率は好調で、とくに若者の支持が高いそうです。
私などから見ると、安倍政権の二番煎じとしか見えませんが、第二次安倍政権の発足が2012年ですから、若い人には新鮮に見えるのかもしれません。
それに、石破茂前首相と高市早苗首相は政治的スタンスがまったく違いますから、自民党得意の「疑似政権交代」感が強く出たということもあるでしょう。ですから、裏金問題などがかすんでしまいました。

しかし、あくまで疑似政権交代であって、ずっと自民党中心政権が続いていくことになります。これが日本にとって最大の問題です。


アベノミクスは日本にとってよかったのか悪かったのかという基本的なことも検証されていません。
高市首相はサナエノミクスという言葉を使っていますが、これはアベノミクスと同じなのか違うのかもよくわかりません。
自民党においては安倍首相が神格化されて、批判が封じられているのです。
自民党だけでなく保守派全体も安倍首相とその政策を批判しません。

最近、在留外国人や訪日観光客の増加が問題になっていますが、これは安倍政権が「移民政策ではない」と言いながら外国人労働者を増やし続け、菅義偉官房長官が訪日観光客を増やす政策をやってきたからです。
ところが、外国人を増加させた安倍政権を批判しないので、現状に対する反省がありませんし、これから外国人政策をどうするのかもよくわかりません。
高市首相は所信表明演説で「一部の外国人による違法行為やルールからの逸脱に対し(中略)政府として毅然と対応します」と言う一方で、「人口減少に伴う人手不足の状況において、外国人材を必要とする分野があることは事実です。インバウンド観光も重要です」とも言っています。
外国人労働者の増加は財界の要請でもあるので、自民党は今後も応えていくのでしょう。


とはいえ、高市首相は元気ですし、高市応援団も元気です。
高市首相の所信表明演説のときに野党のヤジがうるさいという批判の声がSNSなどで上がりました。ほかにもNHKのニュースで高市首相を映すとき意図的に映像を揺らしているとか、時事通信の高市首相の写真に悪意が感じられるとか、よくわからないことまで批判しています。
国会の野党のヤジについては、石破首相や岸田首相のときは問題にならなかったのに、高市首相のときに問題になったのですから、高市首相に原因があることになります。少なくともヤジるほうとヤジられるほうの両方に原因があると見るべきですが、高市応援団は一方的な見方しかしません。

高市応援団がなぜうるさいかというと、基本にナショナリズムがあるからです。ナショナリズムは国家規模の利己主義です。
国家主義は愛国主義ともいい、「愛」という言葉が入っています。それに「国のため」という利他的な名分もあります。
人はみな日ごろ利己的な主張を抑えて生活しているので、その抑えられたものが「愛」や「利他的」という装いのもとに噴出するのです。

しかし、ナショナリズムの主張というのは、国内で言っている分にはあまり問題になりませんが、国際社会で主張すると他国と摩擦を起こしますし、へたをすると戦争になります。
ですから、対外的にはナショナリズムの主張は抑制せざるをえません。

これは安倍政権を振り返れば明らかです。
安倍氏は第一次政権のとき靖国参拝をしなかったことを「痛恨の極み」とし、第二次政権においては首相就任1年後に靖国参拝をしました。これは中国韓国の反発を招き、アメリカからも「失望」を表明されたために、もう二度と参拝しませんでした。

従軍慰安婦問題についても、安倍首相は「強制連行はなかった」と強硬に主張していましたが、結局日韓合意において「おわびと反省」を表明しました。
このときはオバマ政権の圧力に屈した形でしたが、そうでなくても軍国主義時代の蛮行を正当化しようとすれば、国際社会での日本の評価が下がるだけです。

きわめつけは、2020年に習近平主席を国賓として招待しようとしたことです。安倍首相はそれまで中国包囲網の外交をしていたので、安倍支持者は現実を受け止められない様子でした。結局、コロナ禍によって習近平主席の来日は中止となりました。
国内では「国益追求」などと勇ましいことを言っていても、国際社会では協調外交をせざるをえないのが現実です。


これは高市政権でも同じです。
高市首相は靖国神社の例大祭に毎年参拝しているのに、首相就任直前の今年は参拝を見送りました。

高市首相は就任記者会見で韓国人記者の質問に対して「韓国は日本にとって重要な隣国です」などと述べたあと「韓国のりは大好き。コスメも使っています。韓国ドラマも見ています」と笑顔で語りました。

高市首相が所信表明演説において中国を安全保障上の「深刻な懸念」としたことについて、中国外務省の副報道局長は「平和と安全において中国は最も実績ある大国だ」と反論し、さらに「日本側は侵略の歴史を真剣に反省し、安全保障分野で言動を慎むよう求める」と述べました。
日本側としてはちょっとカチンとくる言い方ですが、官房長官か誰かが言い返したということはありません。
こんなことで言い争いをして日中関係が悪化してはなんの利益にもならないので、当然です。


高市首相は所信表明演説で「強い」という言葉を乱発しましたが、外国に強く出ることはできず、“内弁慶”にならざるをえません。
高市支持者はそういう現実をどう受け止めるかです。
高市首相を「弱腰」と責めることはなさそうです。安倍首相のときもそうだったからです。

そこで懸念されるのは、国内の外国人に対する排斥や攻撃です。


鈴木馨祐前法相は7月の講演で「15年後の2040年ごろには外国人比率が10%まで上昇する可能性がある」と述べました。
参政党の神谷宗幣代表は、8月28日の配信番組で「緩やかに外国人を受け入れていくのは10%以下ではないか、との概算をわれわれはしている」と述べました。これまでの主張と違うのではないかと支持者は驚きました。
日本維新の会は9月19日に公表した外国人政策と「移民問題」に関する政策提言で「欧州の経験をみれば、10%を超えると地域社会でさまざまな社会問題が顕在化し、緊張が高まることは明白だ」としました。
どうやら外国人を10%程度まで増やすことはほぼ決まっているようです(背後には財界の要請があるはずです)。

現在の外国人は約3%ですから、3倍強に増えることになります。
そのとき、高市応援団は政権を非難できるでしょうか。外国人を非難するほうに行くのではないでしょうか。
国内の外国人を非難してもなんの国益にもなりません。ただの「弱い者いじめ」です。

安倍政権のときは「移民政策ではない」という言葉に安倍支持者はみんなだまされました。
高市支持者はとくに、高市政権の外国人政策を見きわめないといけません。


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トランプ大統領の支持層のほとんどは白人であり、白人至上主義者です。
欧州の極右政党も白人至上主義です。欧州は移民や難民を入れすぎてたいへんなことになっているなどという人がいますが、移民や難民を不快に思う白人至上主義者がそういっているだけです。

差別主義の波は日本にもやってきて、参政党のスローガン「日本人ファースト」がその典型です。
参政党の神谷宗幣代表は、これは差別主義ではないし排外主義でもないと言っていますが、あくまで表向きです。

神谷代表は選挙演説のとき、「アホだ、バカだ、チョンだと言われる」と言い、その直後に「あ、『チョン』って言ったらダメだ。ごめんなさい。いまのカット。ああ、また言っちゃった。これ、切り取られるわけですよ。私がちょっとでも差別的なことを言うと、すぐ記事になる」と言いました。
これは明らかにわざと言い間違っています。聴衆の受けを狙うと同時に、マスコミを挑発しているのでしょう。
聴衆も「チョン」という言葉をおもしろがっています。
「差別語はいけない」という常識をバカにしているのです。


差別主義が世界的に勢いづいているのは、もちろんインターネットの普及のせいです。
インターネット以前は、メディアと知識人が言論を支配していて、そこには「差別はいけない」という共通認識がありました。
しかし、インターネットの世界では大衆が言論を支配して、そこでは差別的な言説が横行しています。

差別というのは日常生活の中にあり、人間は幼児期から周りの人々の言動から差別を学びます。
たとえばアメリカの白人にとっては黒人を見下すのは当たり前のことでした。そこに「白人も黒人も同じ人間だ。人種差別はよくない」という新しい考えが脳の表層に植えつけられるので、差別肯定の感情と差別否定の理性に分裂することになります。差別感情がまったくないというのはよほどできた人間だけです。
人々は差別語を使わないようにして差別感情を隠して生きています。これは知識人も大衆もたいして変わりません。
そうしたところにインターネットが普及し、誰でも匿名で発信ができるようになると、隠されていた差別感情が放出されました。昔、ひろゆき氏が管理人をしていたころの2ちゃんねるはヘイトスピーチの巣窟でした。
掲示板の書き込みは「便所の落書き」といわれました。


ネットでは個人に対する誹謗中傷も盛んです。
人は誰でも悪口を言いたくなるときがありますが、あまり悪口ばかり言っていると性格の悪い人間と思われます。そこで少数の人間にだけ悪口を言います。それが「陰口」です。
ネットでは匿名で発信できるので、これまで陰口で言っていたことを公然と言えるようになりました。そのためネットは人の悪口、つまり誹謗中傷であふれることになったのです。
よく若い芸能人が「エゴサをすると悪口ばかりで落ち込む」と言っていますが、そうなるのは当然です。

バイトテロなどといわれましたが、悪ふざけをしたバイト店員の動画がSNSなどにアップされると、非難が集中して炎上するということがひところ相次ぎました。
それから、寿司テロとか飲食店テロなどといわれましたが、客が醤油差しをなめるなどした悪ふざけ動画もよく炎上しました。
悪ふざけの若者を非難してもなんの世直しにもなりませんが、人を非難したい人がネットにはたくさんいるためにこうした炎上が起こります。
私はこれを「ネットテロ」と呼んでいます。悪ふざけしたバイト店員や飲食店の客よりもネットで炎上させる人間のほうがよほど悪質です。

ヘイトスピーチも誹謗中傷も同じことで、人はみなリアルではいい人ぶって生きているので、ネガティブな感情をネットで出して人を非難するのです。
ネット言論の世界は、『ジキル博士とハイド氏』でいえばハイド氏の横行する世界です。


政治の世界ではYouTubeやTikTok のショート動画がよく利用されています。
最初にこれを有効に使ったのは安芸高田市長時代の石丸伸二氏でした。石丸市長が市会議員や記者と議論してやりこめるシーンを切り抜いた動画が再生回数を稼ぎ、石丸氏はその人気で東京都知事選で善戦しました。
その後、兵庫県知事選でも切り抜き動画がよく使われ、最近は参政党や国民民主党がうまく利用しています。
切り抜き動画でも同じことで、誰かを非難するものが人気になるようです。
財務省を非難することから財務省解体デモが起きました。
外国人を非難することから「日本人ファースト」のスローガンができました。
政治の世界では「世のため人のため」という大義名分が立つので、遠慮なく誰かを非難できます。


「便所の落書き」といわれたネットの言論が今では政治を動かすまでになりました。
しかし、ネット言論の本質はやはり「便所の落書き」であり、差別発言であり、陰口です。
人間は誰でもいい人の部分を表面に出して、みにくい部分は隠しています。つまり「美しい建前」と「みにくい本音」に分裂しています。
ところが、そのことに気づく人はめったにいません。
その意味で、デルフォイの神託「汝自身を知れ」はまさに金言です。

ネット世論のそうした性質をわきまえず、ネット世論に受ける政策を打ち出そうとする政治家はみんな“闇落ち”していきます。


つけ加えると、多数派の民意は正しいと思っている人がいるかもしれませんが、それは誤解です。
たとえばアメリカのように多数派の白人が少数派の黒人を差別している社会では、多数派の民意は差別的になります。
「日本人ファースト」が多数の日本人に受けたとしても、それが差別的であることに変わりはありません。

なお、多数派といってもそれは日本国内だけのことで、世界から見れば差別的だというのは容易にわかりますし、アメリカで起こっていることも日本から見れば差別的だとわかります。
ただ、日本人はヨーロッパ文化を尊敬しているせいか、ヨーロッパの移民排斥運動が差別的だということに気づかない人が多いかもしれません。

ネット内では、一般的な世論調査の世論を見下し、ネットの世論のほうが優れているみたいな主張がされていますが、これはネット内でしか通用しない意見です。
人々はリアルではいい人としてふるまい、ネットではみにくい感情を吐き出しています。
このことを理解すれば、ネット世論に左右されることはなくなり、逆にネット世論を左右する方法が見えてくるかもしれません。


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