村田基の逆転日記

親子関係から国際関係までを把握する統一理論がここに

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岸田文雄首相はウクライナを電撃訪問し、ゼレンスキー大統領と会談した際に「必勝しゃもじ」をプレゼントしました。
必勝しゃもじというのは広島の特産品で、大きな木製のしゃもじに「必勝」の文字が書かれていて、日清戦争、日露戦争当時に軍人が必勝祈願のために厳島神社に奉納したのが始まりだそうです。
これには「スポーツの試合や選挙のときならともかく、戦争のときに贈るべきではない」という批判がありました。
確かに岸田首相の戦争観が気になる出来事ではあります。


日本の首相としてウクライナに行くなら、停戦や休戦の提案を持っていくべきだと思うのですが、岸田首相にそうした外交力があるはずありません。
それにしても、「必勝」を訴えたのでは逆に戦争をあおることになります。
しかも、武器弾薬を提供しない日本の立場にも反します。

それに、必勝しゃもじは神道という宗教とつながっているので、キリスト教国のリーダーに贈るのはどうなのかなと思えます。
そうしたところ、ゼレンスキー大統領がテレグラムに岸田首相との会談について投稿して、その中に「岸田総理から、一枚の木の板を託された。日本古来の呪術の板のようなもので、そこには必ず勝つと書かれている。(中略)会談とウクライナへの強い支援に感謝します」という文章がありました。

「呪術の板」といわれれば、確かにその通りです。
極東の島国では今でも呪術を使っていると思われたかもしれません(「呪術の板」についての文章は捏造されたものでした。根拠はこちら。あえて消さずにそのままにしておきます)。

自民党は政教分離をまじめに考えてこなかったので、靖国神社や日本会議や統一教会が政治の世界に入り込んでいました。
岸田首相がゼレンスキー大統領に神道色のある物を贈ったのも、自民党の宗教に対するルーズさの表れでしょう。

なお、松野博一官房長官によると、岸田首相は必勝しゃもじとともに「折り鶴をモチーフにしたランプ」もゼレンスキー大統領に贈ったそうです。このランプは広島の焼き物「宮島御砂焼(おすなやき)」でできたものです。
折り鶴はもちろん平和の象徴ということですが、これも「呪物」と思われたかもしれません。焼き物のランプはいかにも魔法のランプみたいです。
それにしても、平和の象徴と「必勝」の文字を同時に贈るのは矛盾しています。


そもそもいったいなんのために岸田首相はウクライナに行ったのかというと、よくいわれるのは「G7の国の首脳でウクライナに行っていないのは岸田首相だけだから」というものです。
同調圧力に弱い日本人らしい発想です。
しかし、G7は日本以外は北米と西欧の国ばかりです。ウクライナともっとも縁の薄いアジアの国が行かなくても不思議ではありません。というか、ウクライナ市民も日本の首相が来たというので驚いていたようです。
行ってなにもしないわけにいかないので、岸田首相は600億円超の援助を申し出ました。
行かなければよかったのにというしかありません。


岸田首相は日本がG7の一員であることと、とくに今年5月の広島サミットで議長国を務めることを重く見ているようです。
しかし、G7というのは、米国、英国、フランス、ドイツ、日本、イタリア、カナダの7か国にEUが加わったものです。
中国、インド、ブラジルなどが加わっていないので、決して世界の大国の集まりというわけではありません。
要するにアメリカと価値観を共有する国の集まりということです。
国連の外にこのような組織をつくることは世界を分断することになります。

ロシアは一時期G7に加わって、G8といわれていた時代がありました。
しかし、2014年にロシアがクリミア併合をしたことでロシアは排除されました。
もしこのときにロシアを排除していなければ、今回のウクライナ戦争はなかったかもしれません。


岸田首相は核兵器廃絶が信念だそうです。
今年5月のG7サミットの開催地を広島にしたのも、世界に非核の訴えをするためだとされます。
岸田首相は3月19日、地元後援会の会合で「ロシアによる核兵器による威嚇や使用の懸念など、危機的な状況にある中、核軍縮・不拡散の議論においても、被爆地 広島でサミットを開く意味を世界の皆さんとともにかみしめなければならない」と語りました。

確かに非核の訴えをするのに広島は最適の場所です。
なぜ非核の訴えをするかというと、核兵器があまりにも非人道的だからです。
つまり5月のサミットでは、岸田首相はロシアの核による威嚇を牽制しつつ、核兵器の非人道性を訴えるはずです。
となると、広島、長崎に原爆を落としたアメリカを非難することにならざるをえません。
岸田首相がどんなに言葉を選んでも、広島の地で非核の訴えをすれば、誰もがアメリカの原爆投下を思います(サミット参加の首脳は平和祈念館を見学するという話もあります)。

日米の信頼関係を重視する岸田首相が広島で非核の訴えをするのは、明らかに矛盾しています。


必勝しゃもじに続いて「サミットまんじゅう」も話題となりました。
『岸田首相の後援会が配った「サミットまんじゅう」 ロゴ使用ルールを逸脱? 外務省は「基準に合致」強弁』という記事を要約して紹介します。

3月23日の参院予算委員会で立憲民主党の田名部匡代議員が、3月19日に広島市内で行われた岸田首相の政治資金パーティでサミットのロゴ入りのまんじゅうとロゴ入りのペンが参加者に配られたことを取り上げました。
サミットのロゴを使うには著作権を持つ外務省に使用承認申請書を提出する必要があり、承認条件のひとつに「特定の政治、思想、宗教等の活動を目的とした使用はしない」というのがあります。ペンには「岸田文雄後援会」の文字とサミットのロゴが並んで入っていますし、政治資金パーティで配るのは明らかに政治利用です。
しかし、サミット事務局長の北川克郎大臣官房審議官は「開催地広島でサミットの機運を高めることは不可欠」「機運醸成に認められるロゴの使用申請は基準に合致する」と首相をかばい、岸田首相は「さまざまな指摘を受けないように、今後とも慎重に取り扱いを行うことは大事かと思います」と答弁しました。


ウクライナ戦争やサミットという世界的な問題に、必ず岸田首相の地元広島が出てきます。
ゼレンスキー大統領に必勝しゃもじを贈ったのは、ゼレンスキー大統領のためというより、地元広島の特産品を国内にアピールするためでしょう。
つまり岸田首相においては「世界より地元」なのです。

なぜそんなことになるかというと、岸田首相は外交安保の問題を自分の頭で考えていないからです。
考えているのはアメリカです。岸田首相はそれに従っているだけです。
岸田首相は、安倍首相もできなかった防衛費GDP比2%と敵基地攻撃能力保有を簡単に決めました。アメリカに要求されたから従ったのです。
岸田首相は安倍政権時代に長く外相を務めていましたから、そのときにアメリカに従うのが無難だということを学んだのでしょう。

3月20日はイラク戦争開始から20年です。
れいわ新選組の山本太郎参議院議員は3月2日の参議院予算委員会で、岸田文雄首相にイラク戦争の是非について質問しました。「イラク戦争から20年、いまだに開戦支持の過ちを認めない日本政府」という記事から引用します。
山本議員は、米国の世界戦略や自衛隊の米軍との一体化を問う質疑の流れの中で、「アメリカが間違った方向に行った場合は、(日本は)行動を別にすることできますよね?」と岸田首相に質問した。

 岸田首相が「当然のことながら、日本は日本の国益を考え、憲法や、国内法、国際法、こうした法の支配にもとづいて外交安全保障を考えていく、これが当然の方策であると考えます」と答弁したのに対し、山本議員は「イラク戦争はどうだったと思われます? イラク戦争は間違いでしたか? 正しい戦争でしたか? 教えてください、総理」とたたみかけた。

 とたんに岸田首相は歯切れが悪くなり、こう答弁した。

「あのー、我が国としてイラク戦争の、えー、評価をする立場にはないと考えています。わが国として、自らの国益を守る。もちろん大事でありますが、それとあわせて 先ほど申し上げました、法の支配、国際法や国内法、こうしたものをしっかりと守る中で、国民の命や暮らしを守っていく。これが日本政府の基本的な考え方であります」

日本政府はアメリカのイラク戦争の是非を評価する立場にはないそうです。
そうだとすれば、今後アメリカが中国と戦争するときにもその是非を評価する立場になく、アメリカの要求のままに行動するのでしょう。

岸田首相は安保政策については自分で判断しないので、お気楽なものです。
ウクライナ訪問のときもサミットのときも、国内政治と地元のことだけ考えていればいいので、そのため必勝しゃもじやサミットまんじゅうが出てきます。

これは岸田首相だけの問題ではありません。
日本はアメリカ依存をどんどん深めているので、今や日本の安全保障政策はアメリカが決めているようなものです。
それを「緊密な同盟関係」などといって正当化しています。

しかし、こうした関係では、日本国民の税金がアメリカのために使われることが否定できません。
防衛費GDP比2%と敵基地攻撃能力も、日本のためというよりほとんどアメリカのためです。

自衛隊員の命もアメリカのために使っていいか考えないといけません。

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人間は誰でも自分中心にものごとを考え、自国中心に国際情勢を考えます。
自分中心の考えは周りから利己的だとして戒められますが、自国中心の考えは周りから愛国的だとして称賛されます。
こうして普通に市民生活をしている人がどんどん戦争に突き進んでいきます。


北朝鮮は2月18日夕方、ICBM級と見られる弾道ミサイルを発射し、北海道渡島大島の西方およそ200キロの日本のEEZ(排他的経済水域)内の日本海に落下しました。
マスコミは大きく取り上げ、岸田首相は「今回の発射は、国際社会全体に対する挑発をエスカレートさせる暴挙だ」と語り、浜田防衛相は「飛翔軌道に基づいて計算すると、弾頭重量等によっては1万4000キロを超える射程になり、米国全土が射程に含まれる」と語りました。また、日本のEEZ内に落下させたのは挑発だという声もありました。

その少し前の2月9日、アメリカは核弾頭の搭載が可能なICBM「ミニットマン3」の発射実験を行いました。カリフォルニア州で発射され、太平洋のマーシャル諸島クェゼリン環礁までおよそ6760キロを飛行したということです。アメリカ空軍は「定期的な実験であり、現在の世界情勢に起因するものではない」と発表しました。
日本政府はなにも反応せず、日本のマスコミも冷静な扱いでした。そのため、このニュースに気づかなかった人も多いかもしれません。

同じICBMでも、北朝鮮が発射したのとアメリカが発射したのとでは、日本の反応がまったく違います。
「日本はアメリカの同盟国だから当然だ」と思うかもしれませんが、偏った見方をしているのは事実です。
「よいICBM」も「悪いICBM」もありません。


北朝鮮の保有する核弾頭は20個から30個程度と見られ、ICBMの性能もアメリカ西海岸に届く程度でした。今回の発射実験でアメリカ全土が射程に入ったかもしれないというところです。
アメリカの保有する核弾頭は5000個以上で、ICBMの数は450基から500基程度ですが、ほかに長距離爆撃機と潜水艦発射ミサイルでも核攻撃ができます。
北朝鮮とアメリカの核戦力を比較したら、アメリカが北朝鮮の数百倍です。

日本のマスコミは「北朝鮮の脅威」をいいますが、北朝鮮にすれば圧倒的な「アメリカの脅威」を感じているわけです。


「中国の軍拡の脅威」もいわれますが、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の2022年版によると、『中国は軍事力を急速に強化しているイメージがあるものの、軍事費はGDP比1.7-1.8%前後で安定的に推移しており、公表値ベースでは「経済成長並みの増加」を継続していると言える』ということです。
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つまり中国は経済成長に合わせて軍拡しているだけです。
一方、日本はほとんど経済成長しない国なのに、防衛費をGDP比1%から2%にすることにしました。
軍拡のために経済成長を犠牲にせざるをえず、自滅的な戦略です。

そもそもアメリカの軍事費は中国の軍事費の3倍ぐらいあり、しかもアメリカ軍はハイテク化していますが、中国軍は人件費の割合が多いので、数字以上の実力差があります。
いや、アメリカ一国の軍事費を取り出すのもおかしなものです。アメリカにはNATOや日本や韓国などの同盟国があるからです。

SIPRIは世界の国を「自由主義国」「部分的自由主義国」「非自由主義国(専制主義国)」の三つに分類して、それぞれの軍事費の割合を算出しています。「自由主義国」はほぼアメリカとその同盟国と見て間違いありません。
それによると「自由主義国」の軍事費は世界の軍事費の66.4%を占めています。
それに対して中国は14.1%、ロシアは3.2%です。

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つまりアメリカ陣営は圧倒的な軍事力を持っていて、中国、ロシアは束になってもかないません。

アメリカはアジアでは韓国、日本、フィリピンに基地を持って、中国を圧迫しており、ヨーロッパではドイツ、イタリア、スペイン、ベルギーなどに基地を持ち、さらにかつてのワルシャワ条約機構の国をNATOに引き込んで、ロシアを圧迫しています。

アメリカは「安全保障」という言葉を使いますが、アメリカの国土の安全が脅かされる心配はないので、不適切な言葉づかいです。中国の空母がアメリカ西海岸沖を航行するようになったら、その言葉を使ってもいいかもしれませんが。
「安全保障」を真剣に考えなければならないのはロシア、中国のほうです。北朝鮮などは「安全保障」のことで頭がいっぱいです。
日本はもっぱらアメリカ陣営の側から世界を見ているので、全体像が見えていません。

以上のことは、誰もが知るべき基本的な情報ですが、日本では「中国の軍拡の脅威」や「北朝鮮のミサイルの脅威」ばかりがいわれます。アメリカ陣営の側に立って世界を見ているからです。安全保障の専門家もみずからの利益のために危機感をあおるので、こうした戦力比較という基本的な情報がおろそかになっています。


このところ「台湾有事」ということがよくいわれます。
もし中国軍が台湾に侵攻して台湾有事が起こり、アメリカが介入すれば、米軍は日本の基地から出撃するので、日本が中国から攻撃される可能性があります。そのとき日本政府は「存立危機事態」と認定して、自衛隊を出動させ、中国軍を攻撃します。その際必要になる攻撃能力を今準備しているところです。
日本には台湾を守る義務もなければ、米軍を守る義務もないので、中国軍の攻撃で米軍基地周辺の市街地に被害が出ても、断固として傍観するという選択肢もあります。「台湾のために自衛隊員を死なせるわけにいかない」というのは立派な理由です。
しかし、日本政府はアメリカ従属一筋なので、参戦しないということはまったく考えられません。

バイデン政権は2022年10月に「国家安全保障戦略」を発表し、中国を「国際秩序を変える意思と能力を兼ね備えた唯一の競合国」と認定し、中国と対抗するために「同盟国や友好国との連携を一段と深める」としました。
アメリカが中国と戦うとき、自衛隊の戦力も利用しようとするのは当然です。
自衛隊が米軍と共同行動をするには、専守防衛を捨てて敵基地攻撃能力を持たなければなりません。
岸田首相はアメリカの戦略に忠実に従っています。

自民党の細野豪志元環境相は1月2日に「中国や北朝鮮の脅威増大で亀のような国では国民を守れない。これは日本の外部要因だ。ヤマアラシのように外敵が攻撃を躊躇する国になることで国民を守る以外にない」とツイートしましたが、各国の軍事力についての基本知識もなく、アメリカにあやつられているだけの政治家だということがよくわかります。


自国中心の発想を抜け出て、すべての国に対して中立の立場から世界を見れば、正しい世界が見えてきます。
ところが、人間は最初から国を色分けして見ています。
たとえば北朝鮮は「極悪非道な独裁国」と多くの人は見ています。
ウクライナ侵攻をしたロシアも「悪いプーチンの国」です。
アメリカは日本を守ってくれる「よい国」ないし「正義の国」です。
バイデン大統領は世界を「民主主義国対権威主義国」と色分けしました。日本は民主主義国で、中国は一党独裁、習近平独裁の国なので、相容れません。
あるいは、多くの日本人は欧米を崇拝し、アジアを見下すという傾向がありますし、イスラム教の国はつきあいにくいと思っています。

今挙げたことはすべて事実ではなく価値観の問題です。
民主主義国と独裁国は事実ですが、「民主主義国はよい、独裁国は悪い」というのは価値観です。
「やつらは悪い国だ。我々は悪と戦う正義の国だ」と思うと戦争になってしまうので、こうした価値観はすべて頭の中から消去しなければなりません。

すべての価値観を頭の中から消去することはそんなにむずかしくありません。
「すべての思想を解体する究極の思想」に入口があります。

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タモリさんが年末に「徹子の部屋」に出演した際、「来年はどんな年になりますかね」と聞かれ、「新しい戦前になるんじゃないですかね」と答え、「新しい戦前」がキーワードとしてSNSで話題になりました。
確かに最近の日本の動きを見ていると、また戦争に向かっている感じがして、人間の愚かさにがっかりします。

人間は戦争をして、悲惨な目にあって反省し、やがてその反省を忘れてまた戦争するということを繰り返してきました。
人間も生存闘争をする動物なので、戦争を繰り返しても不思議ではありません。
ただ、文明が進むとともに戦争の悲惨さが増してきました。
第一次世界大戦、第二次世界大戦にはその悲惨さが極限に達し、反省も深まって、戦争を克服しようという機運が高まり、国際連盟と国際連合がつくられました。

戦争のひとつの原因は、自国中心主義です。
自分の国さえ利益を得ればいい、安全であればいいという利己主義的な考え方が他国との争いを招きます。
これを防ぐには国際社会において「法の支配」を確立するしかありません。
つまり世界政府が主権国家を支配する体制をつくることです。
国際連盟や国際連合はそれを目指してつくられました。

しかし、国際連盟はアメリカが加盟しなかったことで力がなく、失敗しました。
国際連合は五大国に安全保障理事会における拒否権を与えたことで五大国を支配できず、十分に機能していません。

したがって、今するべきことは国連を強化して、アメリカ、中国、ロシアなどを制御することです。
それをしないと今後、アメリカと中国の覇権争いはどんどん激化します。
覇権争いがいつまでも続くといつか世界は破滅します。

ところが、日本の政府、マスコミ、知識人は圧倒的なアメリカの影響下にあるので、これまで国連軽視の風潮を広めてきました。
国連が無力であったのは事実ですが、だからこそ国連強化をしなければならないので、国連を軽視・蔑視するのは方向が逆です。


今の日本は、国連が頼りにならないのでアメリカに頼るしかないというのが一般的な認識です。
実際、アメリカの軍事費は世界の軍事費の約4割を占め、中国の軍事費の約3倍あるので、アメリカに頼っていれば安心なのは事実です。
ところが、アメリカは日本に防衛力の増強を求めてきます。同盟国の戦力はアメリカの戦力でもあり、アメリカの軍需産業が潤うからです。

これまでの日本政府はアメリカの要求をなんとか値切ってきましたが、第二次安倍政権になってからはどんどん受け入れるようになりました。辺野古の新基地建設など、軟弱地盤が判明して9000億円以上かかるとわかってもアメリカと再交渉せず、ひたすら建設を続けています。
防衛費倍増は安倍路線の仕上げです。


防衛費倍増に限らず日本の安全保障政策はほとんどアメリカの望み通りです。
これはアメリカの要求に屈してやっているのか、日本がみずから望んでやっているのか、うわべからはわかりません。
いずれにしても、日本政府はみずから望んでやっていることにしていますし、マスコミもそこは追及しません。

とはいえ、アメリカの強大な軍事力があるのに日本はなぜ防衛費増額をしなければならないのかという疑問が生じます。
そのため、安全保障論議をするときはアメリカの軍事力については触れないという習わしがあります。

安保論議をするときは、「きびしさを増す安全保障環境」という決まり文句があって、必ず「中国の軍拡や北朝鮮のミサイル開発など、わが国を取り巻く安全保障環境はきびしさを増し」という文から始まります。思考停止のきわみです。
そして、アメリカの軍事力には決して触れません。

最近はアメリカの軍事力だけでなくアメリカの存在そのものにも触れなくなっています。
安倍元首相は「台湾有事は日本有事」と言いました。
中国が台湾に侵攻したら(私はないと思いますが)、アメリカがどう出るかが問題で、それによって日本の出方も決まります。
中国が台湾に侵攻し、アメリカが静観しているのに、自衛隊だけが出動して中国軍を攻撃するなんていうことはありえません。
もしアメリカが軍事介入したら、沖縄や日本本土から米軍が出撃することになり、日本が中国から攻撃されるか攻撃される危機に瀕するので、日本政府は「存立危機事態」と認定して自衛隊を出動させることになります。
つまり「日本有事」になるかどうかはアメリカ次第です(日本政府の意志はないも同然です)。
ですから、安倍元首相の言葉は「台湾有事は(アメリカが介入すれば)日本有事」というふうに言葉を補えばわかりやすくなります。

また、「敵基地攻撃能力」に関して、「相手国がミサイル発射の準備をしている段階で攻撃する」といった議論が行われていますが、これについてもアメリカがなにもしないのに自衛隊だけで中国や北朝鮮の基地を攻撃するということはありえません。
もし攻撃したあとで中国や北朝鮮が攻撃の準備をしていなかったことが判明したら、日本は絶体絶命の立場になります。アメリカは大量破壊兵器があるという理由でイラクに攻め込み、大量破壊兵器がないことが明らかになりましたが(アメリカが“証拠”を捏造していた)、アメリカが知らん顔をしていられるのは超大国だからです。日本が同じことをすれば国際的非難を浴び、巨額の損害賠償請求をされて、首相がハラキリでもしないと収拾がつきません。
それに、中国は広大ですから、日本が単独で中国の基地を攻撃しても意味がありません。あくまで日本の攻撃力はアメリカの攻撃力の補助的な役割です。

自国の抑止力を同盟国の安全保障に提供することを「拡大抑止」といいます。
外務省のホームページには、日米拡大抑止協議が2022年6月21日から22日まで及び11月15日から16日まで開催されたと発表され、「日米拡大抑止協議は、日米両国間の公式な対話メカニズムの一つとして設立され、2010年以降、定期的に開催されています」という説明があります。
以前の拡大抑止はアメリカが日本に提供するものでしたが、これから日本がアメリカに提供することになったために、最近続けて協議されているのでしょう。

つまり日本の「敵基地攻撃能力」は最初からアメリカ軍と一体のものとして構想されているのです。
それなのに日本での議論はまるで日本が単独で中国や北朝鮮を攻撃するみたいになっています。

東アジアでは、日本、韓国、オーストラリアを含めたアメリカ陣営と中国が対峙しています。
ですから、アメリカ陣営と中国との戦力比較が重要ですが、そういう議論も聞いたことがありません。

要するにすべての安全保障論議からアメリカというファクターが消去されているのです。
「モーゼの十戒」に「神の名をみだりに唱えてはならない」とあるのを想起してしまいます。
日本はアメリカを絶対神として崇めているのでしょうか。


今後、安全保障論議をするときは、「わが国を取り巻く安全保障環境はきびしさを増し」という決まり文句はやめて、アメリカと中国の軍事力の比較をするところから始めてもらいたいものです。
そうすると、覇権争いの愚かさと、世界の軍事費の巨大なことに思い至るでしょう。
スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、21年の世界の軍事費は2兆1130億ドル(約277兆円)でした。
今の軍事費を貧困対策や環境対策や科学技術振興などに回せば世界は見違えるように変わります。

もっとも、それにはアメリカが変わらなければなりません。
ヨーロッパでロシアと対峙し、東アジアで中国と対峙し、中東でイスラム諸国と対峙するというアメリカの世界戦略こそがすべての元凶だからです。
中国の共産主義よりもアメリカの覇権主義のほうがはるかに問題です。

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岸田政権は12月16日、安保関連三文書を閣議決定し、新聞各紙は「安保政策の歴史的転換」などと大々的に報じました。

この大転換を決めたのは岸田首相でしょうか、安倍元首相でしょうか。それとも防衛省と外務省の官僚でしょうか。
いずれにせよほとんど議論もなしに決まりました。敵基地攻撃能力に関しては多少議論がありましたが、今後5年間の防衛費を総額43兆円にすることについてはまったく反対の声がありません。
一方、防衛費増額の財源をどうするかについては、増税か国債か建設国債か、外為特別会計の資金活用か復興特別所得税の転用かなど議論百出でした。

どうしてこうなるのでしょうか。
それは、防衛費増額はアメリカと日本が合意してすでに決まっているので、今さら議論しても意味がないからです。
財源についてはこれから日本が決めることなので議論百出になります。

防衛費増額の経緯についてはこれまでも書いてきましたが、改めて整理しておきたいと思います。


そもそもの発端は、昨年10月の衆院選向けの自民党選挙公約に、防衛費について「GDP比2%以上も念頭に増額を目指す」という文言が入ったことです。
これまでずっと日本は防衛費GDP比1%でやってきたのですから、GDP比2%は倍増になります。1割増とか2割増ならともかく倍増というのは冗談としか思えない数字です。
私はタカ派の高市早苗政調会長が自分の趣味を全開にして数字をもてあそんだのかと思いました。
発表当時はマスコミもほとんど注目しませんでした。

しかし、高市政調会長が選挙公約を発表したのが10月12日で、10月20日には米上院外交委員会の公聴会に次期駐日大使のラーム・エマニュエル氏が出席し、「日本が防衛費を(GDP比)1%から2%に向けて増やそうとしているのは、日本がより大きな役割を果たす必要性を認識している表れで、日米の安全保障協力にとっても非常に重要だ」と述べました。
政党の選挙公約というのはあまり当てにならないとしたものですが、自民党の「防衛費GDP比2%」はすぐに米議会で取り上げられ、対米公約みたいなことになったのです。

さらに11月22日には朝日新聞に掲載されたインタビュー記事で、前駐日米大使のウィリアム・ハガティ上院議員は「米国はGDP比で3・5%以上を国防費にあて、日本や欧州に米軍を駐留させている。同盟国が防衛予算のGDP比2%増額さえ困難だとすれば、子どもたちの世代に説明がつかない」と言って、日本の防衛予算のGDP比2%への引き上げを早期に実現するように求めました。

次期駐日大使と前駐日大使がともに自民党の選挙公約の「防衛費GDP比2%」を高く評価しているところを見ると、自民党はアメリカと話し合った上で選挙公約を決めたのでしょう。

ちなみに「防衛費GDP比2%」はアメリカがNATO諸国に要求している数字です。
アメリカは同じ数字を日本にも要求したのでしょう。
岸田政権はその要求を受け入れて、自民党の選挙公約に「防衛費GDP比2%」と書いたことになります。

5月23日、岸田首相はバイデン大統領と都内で会談し、その後の共同記者会見で「防衛費の相当な増額を確保する決意を表明し、これに対する強い支持をいただいた」と述べました。
その後、参院予算委員会で「防衛費増額は対米公約か」と質問された岸田首相は「約束というと、米国から嫌々求められた感じがする」「防衛費はわが国として主体的に決めるもの」などと答弁しました。

そして今回、安保関連三文書が閣議決定されると、バイデン大統領はツイッターに「日本の貢献を歓迎する」と投稿し、サリバン大統領補佐官は「日本は歴史的な第一歩を踏み出した」との声明を出し、オースティン国防長官は声明で「防衛費が2027年度にはGDPの2%に達する決定をしたことを支持する」と表明しました。

こうした流れを見ても、今回の防衛費増額はアメリカの要求によるものだということがわかります。
予算の総額が先に決まり、なにに使うかが決まっていないという、通常と逆の展開になっているのもそのためです。


バイデン政権は「中国を唯一の競争相手」とした国家安全保障戦略を発表しています。
中国は経済成長とともに軍事力をつけてきているので、アメリカの優位が揺るぎかねません。
そこで、日本の自衛隊を利用する戦略です。

もし自衛隊が国土防衛のための兵器だけを保有しているなら、アメリカ軍は自衛隊を利用できませんが、すでに自衛隊は空母やイージス艦や早期警戒管制機(AWACS)を保有しています。これらバカ高い兵器を購入したりつくったりしてきたのは、アメリカ軍が利用可能だからです。
さらに自衛隊が「敵基地攻撃能力」のための長距離ミサイルなどを保有すれば、それもアメリカ軍の戦力にカウントすることができます。
安保三文書にも「日米が協力して反撃能力を使用する」と明記されています。
それに、日本がアメリカから兵器を購入することでもアメリカは利益を得られます(すでにトマホーク購入が計画されています)。


アメリカが日本に「防衛費GDP比2%」を要求するのはアメリカの国益ですが、日本にとってはどうでしょうか。
NATO基準を島国の日本に当てはめるのはおかしなことですし、NATO未加入のウクライナと違って日本には日米安保条約があり、駐留アメリカ軍もいます。
アメリカが長距離ミサイルを必要とするなら、自前で用意してもらいたいものです。

「防衛費GDP比2%」の選挙公約を発表したのは高市政調会長ですが、高市氏が一人で決めるはずもなく、岸田首相も了承していたはずです。
高市氏の背後には安倍元首相がいました。おそらく安倍元首相が中心になって決めたのではないでしょうか。
安倍元首相は2015年に新安保法制を成立させ、自衛隊とアメリカ軍の一体化を進めました。安保三文書はその延長線上にあります。
岸田首相はハト派のイメージがありますが、安倍政権時代に長く外務大臣を務めていたので、外交防衛政策で安倍元首相に合わせるのは得意です。

もっとも、日米でどのような交渉が行われたのかについてはまったく報道がありません。
高市氏に「どうして選挙公約に防衛費GDP比2%という数字を入れたのですか」と問いただしているのでしょうか。

次期駐日大使のエマニュエル氏が昨年10月20日に米上院外交委員会の公聴会に出席したときの毎日新聞の記事の見出しは「日本の防衛費大幅増に期待感 米駐日大使候補、上院公聴会で証言」でしたし、朝日新聞が昨年11月22日に掲載した前駐日大使のハガティ上院議員のインタビュー記事の見出しは「日本の防衛予算のGDP比、早期倍増を ハガティ前駐日米大使が主張」でした。
つまりマスコミはアメリカが強く防衛費倍増を求めていることを知りながら、日米交渉の内実はまったく報道しなかったのです。
アメリカの要求には逆らわないというのがマスコミの習性であるようです。

その結果、岸田政権は自主的に防衛費倍増を決定したようにふるまっています。
これを“自発的隷従”といいます。
「防衛費増額は対米公約か」と国会で質問されたとき、岸田首相が「約束というと、米国から嫌々求められた感じがする」「防衛費はわが国として主体的に決めるもの」と答弁したところに“自発的隷従”の心理が表れています。

日米交渉の内幕が報道されると、アメリカに「要求を飲まないと日米安保条約を廃棄する」という脅しを受けていたといったことが出てくるかもしれません。
こうした報道があれば、日本人も対米自立を考えるようになるでしょう。


自民党は統一教会という韓国系の教団に“売国”行為をしていたことが明らかになりましたが、もともと自民党の売国先の本命はアメリカです。「反共」を名目にアメリカと手を組み、統一教会とも手を組んだわけです。
自民党が“売国政党”であるために、日本国民は重税にあえぐことになります。

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外交や戦争が同盟関係に大きく左右されるのは当然ですが、日本人はそのことを忘れてしまう傾向があるようです。

明治時代の日本人は、極東の三流国だった日本が当時の覇権国だったイギリスと日英同盟を結んだことに舞い上がってしまって、イギリスの期待に応えようと日露戦争に突き進みました。結果はよかったものの、大国ロシアとの戦争は危険な賭けでした。
日本人は日本が自発的に日露戦争をやったように思っていますが、実際のところは老獪なイギリスに未熟な日本があやつられていたのです。

第一次世界大戦に日本は参戦しましたが、これも日英同盟が背景にあったからです。

日本がアメリカと戦争したことについても、日米の国力を比較して無謀な戦争だったなどといいますが、日本には日独伊三国同盟があったわけです。真珠湾攻撃の当時は、ドイツ軍がモスクワを包囲していて、日本政府は独ソ戦はドイツが勝利すると予想しました。そうなると、アメリカとイギリスが孤立する格好となり、アメリカは講和に応じるだろうというもくろみでした。
英米が孤立したからといって講和ができるとも思えませんが、独ソ戦がソ連優勢になってはなんの展望もなくなってしまいました。
つまり日本は単独でアメリカと戦争しているつもりはなくて、ドイツとイタリアの勝利に便乗するつもりだったのです。
ところが、現在の真珠湾攻撃を巡る議論がほとんど欧州情勢を抜きにして行われているのを見ると、視野が狭小なことに驚かされます。


同盟関係がその国の行動を強く規定するのは当然です。
韓国はベトナム戦争に派兵して、今もそのことがトラウマになっていますが、同盟関係にあるアメリカの要請があったから、しかたなく派兵したのです。
オーストラリアはベトナム戦争、アフガン戦争、イラク戦争に派兵して、どれもがトラウマになっています。
NATO諸国もイラクとアフガンに派兵しました。

ちなみに独ソ戦には、枢軸側にイタリアのほかにルーマニア、ハンガリー、フィンランドなども派兵していました。

同盟関係といっても対等なものではありませんし、力のあるほうから「わが国の若者が命をかけて戦っているのに、お前たちはなにもしないのか」と言って強い圧力を加えられると、断り切れないのでしょう。

わが国は平和憲法を盾にアメリカの要請を断り続けてきましたが、とうとう断り切れなくなり、アフガン戦争では洋上給油活動をし、イラク戦争ではサマワに自衛隊を派遣しました。
今となってはアフガン戦争もイラク戦争も無意味な戦争であることが明らかとなり、日本人が命を落とさなかったのは幸いでした。


さて、岸田政権は防衛費GDP比2%と敵基地攻撃能力保持を打ち出していますが、日本とアメリカの力関係を思えば、これがアメリカの要請によるものであることは明らかでしょう。
防衛費GDP比2%というのはNATO基準なのですが、日本がみずからNATO基準を採用するわけがありません。日本は島国なのですから、違って当然です。

防衛費GDP比2%は、昨年10月の衆院選で自民党が選挙公約として打ち出したものです。これまで1%だったものを倍増するとは冗談かと思いましたが、次期駐日大使に指名されたラーム・エマニュエル氏がすかさず米上院外交委員会の公聴会において自民党の選挙公約を評価する発言をしたので、自民党とアメリカが交渉の末合意したものと思われました。

中国の軍拡に対抗するためという名分になっていますが、中国は経済成長に合わせて軍拡をしています。ほとんど経済成長しない日本が軍拡だけするのは財政破綻への道です。

防衛費を増加させてなにに使うかというと、とりあえず「敵基地攻撃能力」のためです。

敵基地攻撃能力というのは、最初のころは、「敵国がミサイルなどを発射する準備をしているのを察知した場合、発射する前にこちらから攻撃する」というような説明をしていました。
しかし、「敵国の発射の準備が正確に察知できるのか。実質はこちらの先制攻撃ではないか」という反論があったためか、最近は「反撃能力」と言い換えて、「敵の第一撃があった場合、敵の攻撃基地をたたいて第二撃を阻止する」という説明に変わっています。

説明の変わるのがあやしいところですが、どちらの説明でも敵国と日本との関係しかいっていません。
超大国である同盟国アメリカ抜きの議論など無意味です。

敵国というのはたぶん中国のことですが、自衛隊の力だけで中国の攻撃力を無力化できるはずがありませんし、自衛隊の情報収集能力で敵国の攻撃準備を察知できるとも思えません。
つまり敵国の情報収集をするのはアメリカで、攻撃の決定をするのもアメリカです。自衛隊の攻撃能力はアメリカの攻撃能力を補うだけです。

そもそも中国や北朝鮮が日本を先制攻撃するとは考えられません。
それよりも考えられるのは、台湾や朝鮮でアメリカが戦争をすることです。そのとき、自衛隊の攻撃能力を利用しようというのがアメリカの狙いです。

日本が攻撃されていないのに自衛隊が他国を攻撃することは法的に可能かというと、日本政府は可能と考えています。
国際法学会のサイトに田中佐代子法政大学法学部准教授がエキスパートコメントとして「敵基地攻撃能力と国際法上の自衛権」という文章を書いていて、そこにはこうあります。
本コメントでは基本的に、他国によるミサイルを手段とした武力攻撃が日本に対して発生し、日本が個別的自衛権の行使として敵基地攻撃を行うという状況を仮定して検討してきました。日本政府の説明によれば、敵基地攻撃能力についての考え方は、集団的自衛権が根拠となる場合にも変わりません。例えば米国に対するミサイル攻撃が(例えばグアムを標的として)発生した場合、それが日本の存立危機事態に該当することも含め諸条件を満たせば、集団的自衛権の行使として敵基地攻撃を行うことが法理的には可能(ただし現状では実行は想定していない)という立場と理解できます。

安倍政権が新安保法制をごり押しで通したのも、こうした場合に備えるためだったわけです。

もともと日米安保体制では、日本はあくまで専守防衛で、敵基地攻撃はアメリカの役割でした。
日本が攻撃能力を持つということは、アメリカの負担の一部を肩代わりするか、アメリカの能力を補強するということです。
日本が一国で攻撃能力を行使することなどありえません。


野党やマスコミは「専守防衛に反する」と言って批判していますが、それよりもこれはカネの問題であり、アメリカが負担するか日本が負担するかという問題です。
アメリカは経済が好調で、財政赤字もGDP比で日本の半分ぐらいしかありません。
いくら同盟国のアメリカから求められたとはいえ、毎年1%ぐらいしか経済成長せず、財政赤字がふくらみ続ける国が防衛費をふやすのはあまりにも愚かです。

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自民党はこれまで「敵基地攻撃能力」と言っていたのを「反撃能力」と言い換えるそうです。
「反撃」とは広い意味の言葉ですから、なにを言っているのかわかりません。
これは「越境攻撃能力」と言えば意味が明快です。
つまり中距離ミサイルや渡洋爆撃で中国や北朝鮮をたたく能力ということです。
ただ、そんな攻撃力にお金をかけていたら、肝心の防御力が手薄になってしまいます。


ロシア・ウクライナ戦争によって、日本人の戦争観のおかしさが浮き彫りになりました。

橋下徹氏は戦争の初期、「ウクライナは早く降伏したほうがいい」とか「国外退避も選択肢のひとつ」などと主張していました。ほかにもウクライナ降伏論を主張した著名人は何人もいます。

当時、ロシア軍はウクライナ軍よりも圧倒的な戦力があると言われていました。もし確実にウクライナ軍が負けるなら、早期に降伏したほうがいいということもいえますが、確実に負けると決めつけることはできません。
一般的に侵略する側の兵士よりも防衛する側の兵士のほうが士気は高いものですし、防衛する側は民衆と一体となれるという利点もあります。

橋下氏らがウクライナ軍は確実に負けると予測したのは、要するに第二次世界大戦末期の日本と重ね合わせたからでしょう。
あのときの日本と今のウクライナはまったく違いますが、日本人は橋下氏に限らず敗戦の体験がトラウマになっているので、そういう冷静な判断ができません。


「ゴジラ」のような怪獣映画は、怪獣は戦争の象徴として描かれます。
ゴジラが日本に上陸してくると、人々は荷物を背負い、子どもの手を引き、家財を載せたリヤカーを引いたりして逃げまどいますが、これは空襲で街が焼かれて逃げまどったことの再現です。
そして、自衛隊はゴジラに銃弾や砲弾やミサイルを雨あられと浴びせかけますが、ゴジラにはまったく効果がありません。最終的にゴジラを倒したのは「オキシジェン・デストロイヤー」という科学的な新兵器です。

日本の怪獣には通常兵器はまったく効果がありません。最終的に怪獣を倒すのはなにかの新兵器か別の怪獣かウルトラマンのような存在です。
アメリカなどの怪獣映画では、割と簡単に通常兵器で退治されることが多くて、日本人が観ていると拍子抜けします。
ここに日本人とアメリカ人の戦争観の違いが出ていると思います。

ともかく、日本人は敗戦のトラウマがあるので、戦争というと「戦っても勝てない」という負け犬根性がしみついています。
実際はアメリカに勝てなかっただけなのですが、トラウマはそう論理的なものではないので、一人の男にレイプされた女性が男性全般を拒否するようになるのと同じで、日本人は戦争全般を拒否するようになっています。
橋下氏のような降伏論はそこから出てきます。


それから、日本人は侵略戦争と防衛戦争の区別がつけられない傾向があります。

近代日本のやってきた日清、日露、日中、日米の戦争はすべて侵略戦争です(日露は双方が侵略戦争です)。
侵略戦争が悪だというと、日本の戦争はすべて悪ということになります。

そういうことは認めたくない人もいます。
真珠湾攻撃の直後に天皇の名で出された「開戦の詔書」には、「自存自衛ノ為」という言葉があるので、戦後右翼はこれを根拠に「太平洋戦争は自衛戦争だった」と主張しています。
そういう人においては侵略戦争と防衛戦争の区別がつかなくなるのは当然です。

2013年、安倍晋三首相は国会答弁で日本の植民地支配や侵略に関して、「侵略という定義は学界的にも国際的にも定まっていない。国と国との関係でどちらから見るかで違う」と述べました。
それを受けて橋下徹氏も「侵略の定義が存在しないのは事実」と述べました(実際は1974年、国連第29回総会において、「侵略の定義に関する決議」が日本も賛成して採択され、定義は定まっています)。

ウクライナ戦争が始まってから安倍氏や橋下氏の発言が迷走を続けているのは、ここに根本原因があります。
「ロシアは侵略戦争、ウクライナは防衛戦争」という明快な認識があれば、橋下氏もそう簡単にウクライナに降伏しろとは言わないはずですし、安倍氏もプーチン大統領を批判する言葉を口にしたはずです。
安倍氏はウクライナ戦争以降、「核共有を議論するべきだ」とか「台湾有事は日本有事」とか「敵基地攻撃能力は基地に限定する必要はない。中枢を攻撃することも含むべきだ」とか、おかしな発言を連発しています。

日本は侵略戦争しかしてこなかったのですが、硫黄島と沖縄の戦いは防衛戦争です。防衛戦争では日本軍は善戦しました。日本の領土以外で戦っているときは、無意味な突撃をして自滅する傾向がありました(もっとも、日米戦争は真珠湾攻撃という侵略から始まったので、すべてが侵略戦争だとも見なせますが)。

日本が本土決戦に突き進めば、そこで初めて本格的な防衛戦争をすることになりますが、その前に降伏してしまいました。
ですから、日本人は防衛戦争の経験がほとんどない、世界でも珍しい国民です(アメリカもそうです)。
ロシアなどはナチスドイツに攻め込まれたときからずっと防衛戦争をしていたので、日本人と戦争に対する見方が百八十度違うはずです。


今後、日本が中国やロシアに攻め込まれたら、そのときはまさに「本土決戦」をすることになります。
ところが、日本人は「本土決戦はするべきではない」と思っているので、そこで思考停止してしまいます。
本来なら「中国軍はどのようにして上陸してくるのか。それにどう対処するのか」ということを考えなければなりませんが、誰も考えませんし、誰も議論しません。

では、これまで日本で行われてきた防衛論議はなにかというと、「半島有事や台湾有事にどう対応するか」「シーレーン防衛をどうするか」「イラクに自衛隊を派遣するべきか」など、侵略論ばかりです。
「敵基地攻撃能力」も同じです。

専守防衛に徹するなら、うんと安くつきます。
アフガニスタンのタリバンは、たいした武器もないのに山の多い地形を利用したゲリラ戦をやってアメリカ軍を追い出しました。
日本も国土の75%は山地で、しかも森林が多いので、ゲリラ戦に最適の地形です。
軽トラに携行式ミサイルと迫撃砲などを積んで林道などを移動すれば、空からも発見されません。
主要都市を占領されても、山岳ゲリラをやって敵を消耗させて最終的に勝利するというシナリオもあります。
攻め込んでも最終的な勝利は困難と敵に思わせれば、それが抑止力になります。


日本の防衛費はGDP1%程度で、NATO諸国と比べると少ないといわれますが、島国だから少ないのは当然です。
ところが、自民党は防衛費を倍増させてGDP2%程度にするという目標を立てています。
財政赤字大国の日本にとって冗談としか思えない数字ですが、これはアメリカから要請されたからです。
江戸時代、幕府は各藩に「御手伝普請」といわれる土木工事を命じて、藩の財政力を弱体化させようとしましたが、アメリカも同盟国に「御手伝軍備」を命じて、同盟国の財政力を弱体化させようとしているようです。

普通、予算というのは、必要なものを積み上げて最終的に数字を出しますが、防衛費については、目標の数字が最初にあって、それに合わせて防衛装備などを積み上げます。「越境攻撃能力」もその一環です。


ところで、日本が中国を攻撃する能力を備えたところで、中国の主要な基地を全部たたけるわけがありません。
中途半端な攻撃力があっても意味がないではないかと思えますが、そういうことではありません。
朝日新聞の『自民、首相に「反撃能力」提言 北ミサイル対処→「米軍の一翼」へ』という記事にはこう書かれています。

今回、自民党が出した「反撃能力」は、①仮想敵国は中国②米軍の打撃力の一部を担う③攻撃対象を拡大という3点が特徴だ。
反撃能力を求めた項目では、北朝鮮には触れず、軍事力を増強する中国を名指しして対抗する色合いを強めた。また、米国との役割分担についても言及。「相手領域内への打撃については、これまで米国に依存してきた」と指摘し、「迎撃のみではわが国を防衛しきれない恐れがある」とした。日本も打撃力を保有する必要性につなげている。
提言に関与した政府関係者は、狙いについて「米国の攻撃の一翼を担うこと」と明かす。日米安全保障条約に基づき、敵を攻撃する「矛」の役割は米軍にゆだね、日本は「専守防衛」のもと守りに徹する「盾」の役割を担ってきた。反撃能力はこれを転換し、自衛隊も米軍とともに矛の一部を担うことを意味する。

要するにアメリカの攻撃力の一部を日本が肩代わりするということです。
そうすればアメリカの費用負担がへります。
自民党の言う「反撃能力」とは、日本の税金を使ってアメリカの財政を助けるという話なのでした。

橋下氏、安倍氏、高市早苗自民党政調会長のような右翼のタカ派ほど、敗戦のトラウマが深いので、アメリカにものが言えなくなるようです。

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