
石破茂新政権はいくつもの火種を抱えて不安なスタートとなりました。
中でも気になるのが安全保障政策です。
安全保障は石破氏の得意分野ですが、人はしばしば得意分野で転ぶものです。
石破氏は総裁選に立候補するに当たって9月10日に政策発表会見を行い、アジア版NATOの創設を提案すると述べました。
私はこれを聞いたとき、単なる思いつきかなと思いました。アメリカがその気にならなければアジア版NATOはできるわけがないからです。
それから石破氏は、アメリカ国内に自衛隊の訓練基地を設置するとも述べました。
この案はそれなりに理解できました。
今の安保条約はアメリカが一方的に日本の防衛義務を負うものだという誤解があります(トランプ氏も誤解する一人です)。
実際はアメリカが日本の防衛義務を負い、日本は米軍基地の受け入れ義務を負うという双務的なものです。日本がアメリカ国内に基地を設置したいと要求することで、誤解を解くことができるでしょう。
これらのことは石破氏の思いつきではありませんでした。石破氏はその内容の論文をアメリカのシンクタンク「ハドソン研究所」に寄稿していたのです。
それがウェブ上に公開されました。
「Shigeru Ishiba on Japan’s New Security Era: The Future of Japan’s Foreign Policy」
(英文と日本文と両方載っています)
石破氏は『石破政権では 戦後政治の総決算として米英同盟なみの「対等な国」として日米同盟を強化し、地域の安全保障に貢献することを目指す』と書きます。これが石破氏の基本的な考えでしょう。
ただし、日本とアメリカが「対等な国」になるという意味ではなく、同盟関係を対等ななものにするということのようです。
その観点からすると、現在の安保条約は対等なものではありません。アメリカが日本の防衛義務を負い、日本がアメリカへの基地提供の義務を負うという関係は、「義務」という言葉こそ同じですが、「義務」の内容がぜんぜん違うというのが石破氏の考えです。
かといって、日本が軍事大国アメリカの防衛義務を負うというのも妙なものです。
そこでアジア版NATOという構想が出てきたのでしょう。
日本が韓国や台湾やフィリピンの防衛義務を負い、ついでにアメリカの防衛義務も負うということにすれば、不自然ではありません。
それから石破氏は自衛隊をグアムに駐留させるという案を提示します。そして、安保条約と地位協定の改定を行うというのです。
日米が相互に駐留すれば、地位協定も必然的に対等なものになるでしょう。
石破氏は総裁選の討論会が沖縄で行われたとき、9人の候補の中で唯一、地位協定の見直しに言及しました。それなりの戦略があっての発言だったわけです。
では、このアジア版NATO構想が実現するかというと、どう考えてもアメリカが乗ってこないでしょう。
ちなみに元米国防次官補代理でトランプ氏が当選したときには要職に就くかもしれないエルブリッジ・コルビー氏はXに投稿して、日米同盟をより対等にするには日本は防衛費を「3%程度に引き上げる必要がある」と述べました。
安易に「防衛費3%」を口にするとは、完全に日本を軽視しています。
日本国内の世論の支持があれば、アメリカも認めるかもしれません。
しかし、それもありえないでしょう。
安倍晋三氏や高市早苗氏を支持しているような保守派は、「地位協定の見直し」など口にしたことがありません。アメリカに従属するのが当たり前で、その一方で中国と韓国には強いことを言いたがるのが保守派です。
では、リベラルや左翼はどうかというと、これも支持しそうにありません。
というのは、石破氏は論文の中で、アジア版NATO創設のためには「国家安全保障基本法」の制定と憲法改正が必要であると述べているからです。
マスコミも対米従属路線ですから、石破構想を認めるわけがありません。
朝日新聞はかねてから地位協定の見直しを主張していますが、石破氏の論文についてはこのように書いています。
石破は新総裁に選出された27日付で、米シンクタンク・ハドソン研究所のホームページ上で外交政策論文を発表。「『非対称双務条約』を改める時は熟した」として安保条約・地位協定改定を提唱した。関係者によると、石破側はもともと総裁選中の掲載を考えていたというが、「次期首相」の見解として掲載されており、日本国内でのこれまでの「石破節」では済まされない。信頼醸成を図る前に、一方的に現在の日米関係の不満を表明したと米側に受け取られかねず、稚拙な政治手法とのそしりは免れない。https://www.asahi.com/articles/DA3S16046491.html?iref=pc_ss_date_article
「稚拙な政治手法」を非難することで論文そのものを否定する印象の文章になっています。
朝日新聞でこれですから、ほかのマスコミは推して知るべしです。
鳩山由紀夫政権が辺野古移設の見直しをしようとしたときのことが思い出されます。
鳩山政権は東アジア共同体構想を持っていました。これはアジア版EUです。
対等な日米関係をつくるには日本一国の力ではむりなので、周辺国を巻き込もうということです。
石破氏のアジア版NATOもそれと同じことです。
鳩山政権の辺野古移設見直しはマスコミにも官僚にも足を引っ張られて、みごと玉砕し、これが鳩山政権の命取りになりました。
石破政権も同じ道をたどりかねません。
アメリカはもちろん国内の誰も賛成しないような案を出してくるとは、石破氏は政治音痴だといわざるをえませんが、ただ、日米同盟を対等なものにしたいという根本のところは評価できます。
もし石破氏が鳩山氏と同じ道をたどったら、もう二度と日米同盟を対等なものにしたいという有力政治家は出てこないでしょう。
石破氏はもともとタカ派政治家で九条改憲論者として知られていましたから、護憲派やハト派は石破氏を忌み嫌っているでしょう。
しかし、石破氏は保守派ではあっても、安倍氏や高市氏らとは根本的に違います。
慰安婦問題について、石破氏は東亜日報のインタビューで「納得を得るまで(日本は)謝罪するしかない」と述べたことがあります。
朝日新聞でこれですから、ほかのマスコミは推して知るべしです。
鳩山由紀夫政権が辺野古移設の見直しをしようとしたときのことが思い出されます。
鳩山政権は東アジア共同体構想を持っていました。これはアジア版EUです。
対等な日米関係をつくるには日本一国の力ではむりなので、周辺国を巻き込もうということです。
石破氏のアジア版NATOもそれと同じことです。
鳩山政権の辺野古移設見直しはマスコミにも官僚にも足を引っ張られて、みごと玉砕し、これが鳩山政権の命取りになりました。
石破政権も同じ道をたどりかねません。
アメリカはもちろん国内の誰も賛成しないような案を出してくるとは、石破氏は政治音痴だといわざるをえませんが、ただ、日米同盟を対等なものにしたいという根本のところは評価できます。
もし石破氏が鳩山氏と同じ道をたどったら、もう二度と日米同盟を対等なものにしたいという有力政治家は出てこないでしょう。
石破氏はもともとタカ派政治家で九条改憲論者として知られていましたから、護憲派やハト派は石破氏を忌み嫌っているでしょう。
しかし、石破氏は保守派ではあっても、安倍氏や高市氏らとは根本的に違います。
慰安婦問題について、石破氏は東亜日報のインタビューで「納得を得るまで(日本は)謝罪するしかない」と述べたことがあります。
この発言が保守派から批判されると、石破氏は「謝罪」という言葉は使っていないと弁明しましたが、東亜日報に抗議はしませんでした。
南京大虐殺についても石破氏は「少なくとも捕虜の処理の仕方を間違えたことは事実であり、軍紀・軍律は乱れていた。民間人の犠牲についても客観的に検証する必要がある」と述べています。
安倍氏も高市氏も靖国神社参拝にこだわっていましたが、石破氏は2002年に防衛庁長官として初入閣して以降、靖国参拝はしていません。
なぜ靖国参拝をしないのかについて、石破氏は『正論』2008年9月号の対談で次のように語っています。
石破氏は軍事オタクです。軍事オタクというのはある意味、現実主義者であり合理主義者です。しかし、安倍氏や高市氏のような保守派は違います。天皇制、靖国神社、教育勅語、特攻隊を崇拝します。要するに神がかりです。ですから、日本会議や統一教会とも結びついています。
リベラル、左派、護憲派は石破構想を一概に否定するべきではなく、むしろ応援したほうがいいかもしれません。
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南京大虐殺についても石破氏は「少なくとも捕虜の処理の仕方を間違えたことは事実であり、軍紀・軍律は乱れていた。民間人の犠牲についても客観的に検証する必要がある」と述べています。
安倍氏も高市氏も靖国神社参拝にこだわっていましたが、石破氏は2002年に防衛庁長官として初入閣して以降、靖国参拝はしていません。
なぜ靖国参拝をしないのかについて、石破氏は『正論』2008年9月号の対談で次のように語っています。
「あの戦争は、まともに考えれば勝てるはずのない戦争だった。決して後知恵で言っているのではありません。昭和16年7月には陸軍主計課が緻密な戦力分析を行い、8月にはそのデータを引き継いだ政府の総力戦研究所が日米開戦のシュミュレーションで日本必敗の結論を出して、総理はじめ政府中枢に報告している。(中略)勝てないとわかっている戦争を始めたことの責任は厳しく問われるべきです。(中略)さらに”生きて虜囚の辱めを受けることなかれ”と大勢の兵士に犠牲を強いた。神風特攻隊も戦艦大和の海上特攻も、何の成果も得られないと分かった上で、死を命じた行為が許されるとは思わない。陛下の度重なる御下問にも正確に答えず、国民に真実も知らせず、国を敗北に導いた行為が、なぜ”死ねば皆英霊”として不問に付されるのか私には理解できない」
石破氏は軍事オタクです。軍事オタクというのはある意味、現実主義者であり合理主義者です。
リベラル、左派、護憲派は石破構想を一概に否定するべきではなく、むしろ応援したほうがいいかもしれません。
