村田基の逆転日記

親子関係から国際関係までを把握する統一理論がここに

タグ:白人至上主義

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2月28日のアメリカ・ウクライナの首脳会談は思いもかけず決裂しました。
合意のための条件が折り合わなかったのではありません。
メディアの前で両首脳が友好的な姿を見せる演出をしていたところ、「失礼だ」「感謝がない」などという言葉をきっかけに感情的な言い争いになって、決裂したのです。
こんな外交交渉は前代未聞でしょう。

「情報7daysニュースキャスター」(TBS系)で言い争いの部分をノーカットで放送していましたが、私が見たところ、ゼレンスキー氏が「外交ではプーチンの侵略を止められなかった」とプーチン氏の批判をしたところ、バンス副大統領が感情的になり、それがゼレンスキー氏とトランプ氏に伝染していったという感じです。
つまりゼレンスキー氏はどうしてもプーチン氏が許せないし、バンス氏とトランプ氏はどうしてもプーチン批判が許せないということで言い争いになったのです。

会談が決裂したきっかけがなんだったかは別にしても、トランプ氏とプーチン氏が太い絆で結ばれていることは確かです。これがなんとも不思議です。
ロシアは2016年の米大統領選に介入して、トランプ氏当選に貢献したといわれます。トランプ氏は自分の事業が危機に瀕したときロシア人ビジネスマンに助けられ、それからロシアはトランプ氏を「育ててきた」という説があります。
最近のニュースで、元カザフスタン諜報局長のアルヌール・ムサエフ氏がモスクワのKGB第6局に勤務していたとき、資本主義国からビジネスマンをリクルートする仕事をしていて、トランプ氏を「クラスノフ」というコードネームで採用したという話をフェイスブックに投稿したというのもありました。
こんな話はこれまではデマだと一蹴していましたが、トランプ氏のプーチン氏への入れ込み方を見ると、信じたくなってきます。

トランプ氏がこんなにもプーチン氏を支持するのはなぜかということは誰もが疑問に思うはずです。
一応の説明としては、アメリカにとって中国が主要な敵なので、中国とロシアを引き離そうという戦略だというのがあります。
これは理屈としてはありそうですが、もし中国を主要な敵とするなら、トランプ氏は同盟国をたいせつにし、途上国を味方につけなければなりません。
しかし、トランプ氏はまったく逆のことをしているので、トランプ氏は覇権国になるのを諦めたのだということを、私は前回の「トランプ、覇権国やめるってよ」という記事に書きました。

トランプ氏が覇権国になるのを諦めたのはその通りだと思いますが、トランプ氏の外交はそれだけでは説明しきれません。
トランプ外交の謎について考えてみました。


バンス副大統領は2月14日、ミュンヘン安全保障会議で演説し、「欧州が最も懸念すべき脅威はロシアではない。中国でもない。欧州内部だ」と述べ、もっばら欧州批判を展開しました。SNSの偽情報対策を「言論の自由の弾圧」だとして糾弾し、移民排斥を唱える欧州の極右政党の主張に「同意する」と語りました。さらにドイツの主流政党が極右政党AfDとの連立を否定していることは「民主主義の破壊」だと述べ、さらに環境、エネルギー問題なども論じました。
聴衆はバンス氏がウクライナ問題や関税問題についてトランプ政権の立場を説明するのかと思って聞いていたところ、バンス氏が欧州の内政批判ばかりを述べたので、最後のほうでは場内は静まり返ったといいます。
要するにバンス氏は、欧州の政治を保守対リベラルととらえて、米大統領選でバイデン陣営やハリス陣営を批判したのと同じようなことを述べたのです。

イーロン・マスク氏は1月26日、ドイツの極右政党AfDが開いた大規模な選挙集会にオンライン参加し、AfD支持を表明し、さらに欧州の主要国の政権批判をしました。
これも内政干渉で選挙介入だと批判されました。

トランプ氏は2月26日の記者会見で、「EUは米国をだますために設立された」「それがEUの目的であり、これまではうまくやってきた。だが、今は私が大統領だ」などと述べました。
EUはリベラルやWoke(意識高い系)に支配された組織だという認識なのです。
トランプ氏はEUを離脱したイギリスを前から賞賛しています。

トランプ氏やマスク氏やバンス氏は、EUや欧州の主要国がリベラルなのはけしからん、移民排斥、反DEI、反脱炭素、反LGBTQの方向に舵を切るべきだと主張して、保守の立場から欧州の政治に介入しているのです。
アメリカの分断をそのまま欧州に持ち込んだ格好です。

なお、トランプ氏は南アフリカが白人差別の土地政策をしているなどの理由で南アフリカへの経済援助を停止する大統領令に署名しました。
南アフリカは白人支配の政府が倒され、黒人の政権になりました。それがトランプ氏やマスク氏には許せないのでしょう(マスク氏は南アフリカ出身)。
これを見てもトランプ政権が白人至上主義の外交をしていることがわかります。

プーチン氏は保守かリベラルかといえば、もちろん保守です。ロシア国内にほぼリベラル勢力がないので保守らしさが目立たないだけです。
ですから、プーチン氏とトランプ氏が理解し合うのは当然です。
トランプ氏はプーチン氏や欧州の極右政党とともに欧州のリベラルと戦っているわけです。



最近、欧州で極右政党が台頭しているのには、世界の勢力図の変化が影響しています。

トランプ氏は2月13日、G7にロシアを復帰させるべきだと述べました。
主要国首脳会議(サミット)は、1998年にロシアが加わってG8となりましたが、クリミア併合のためにロシアは追放されて、それ以降G7となっています。
G7の内訳は日本、アメリカ、カナダ、フランス、イギリス、ドイツ、イタリアです(それとEU)。
昔はこれで「主要国」と称してもよかったのですが、今は状況が違います。ロシアを加えるなら中国やインドやブラジルも加えるべきだということになります。

2023年のGDPトップ10は次の国です(ロシアは11位)。

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しかも、昔の主要国と新興国の経済成長率が大きく違うので、今後5年、10年たつと世界の勢力図が大きく変わることが予測できます。
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アメリカでは人口における白人の割合が、1960年には89%だったのが2020年には60%にまで低下し、そのうち過半数を割ることは確実です。
オバマ黒人大統領の誕生もあって、白人の危機感が高まり、それがトランプ大統領誕生の原動力になりました。
それと同じことが世界規模で起こっていて、非白人国の経済力、軍事力、政治力がそのうち白人国を凌駕しそうです。
白人至上主義者がそれに対する危機感を深め、それが欧州において移民排斥を訴える極右勢力の台頭につながっています。

ところが、メディアは極右の台頭を欧州内部の政治状況としてしかとらえていないので、なぜ最近になって極右が台頭してきたのかよくわかりません。
極右はレイシストであることを隠しているので、「不法」移民はよくないとか、「移民の犯罪が多い」などと理由をつけますが、移民の犯罪が今になって増えたわけではありません。


非白人国の勢力はグローバルサウスと呼ばれるものとだいたい一致します。
日本ではグローバルサウスの力を軽視して、まだ世界は欧米中心に回っていると考えています。
そのため、ウクライナ戦争が始まってロシアに対する経済制裁が始まったとき、ロシアは長く持たないだろうなどといわれました。
しかし、実際は3年持っていますし、むしろ最近ロシア経済は好調です。
中国、インド、その他グローバルサウスの国がロシア経済をささえているからです。

グローバルサウスが力をつけてきたことに欧米は危機感を持って、そのため内部で保守対リベラル、あるいはレイシズム対反レイシズムの対立が激化しています。
トランプ政権もその中で保守ないしレイシズムの側でプレーしているわけです。
そして、プーチン政権を味方につけることで有利な立場に立とうとしています。
そう考えると、トランプ政権の外交が見えてくるのではないでしょうか。

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トランプ前大統領の口止め料を巡る裁判で有罪評決が下りましたが、トランプ氏は控訴を表明し、「不正な裁判だ」「判事は暴君だ」などと述べました。
トランプ支持者も有罪評決でめげることはなく、逆に気勢を上げているようです。トランプ陣営は有罪評決後の24時間で約82億円の寄付が集まり、うち3割は新規の寄付者だったと発表しました。
アメリカの有権者の35%が4年前の大統領選は不正だったと思っているそうです。

「法の支配」は社会の基本ですが、トランプ氏とその支持者は「法の支配」など平然と無視しています。
これはトランプ氏のカリスマ性のゆえかと思っていました。
しかし、それだけでは説明しきれません。
私は、アメリカ人はもともと「法の支配」なんか尊重していないのだということに気づきました。

私の世代は若いころに映画とテレビドラマで西部劇をいっぱい観ました。
西部劇には保安官や騎兵隊も出てきますが、基本は無法の世界で、男が腰の拳銃を頼りに生きていく様を描いています。
今、アメリカで銃規制ができないのはその時代を引きずっているからです。

銃規制反対派は市民が権力に抵抗するために銃が必要なのだと主張しますが、アメリカの歴史で市民が銃で国家権力に抵抗したのは独立戦争のときだけです。
では、銃はなんのために使われていたかというと、ほとんどが先住民と戦うためと黒人奴隷を支配するためです。
それと、支配者としての象徴でしょう。
日本の侍が腰に刀を差しているのと同じ感覚で西部の男は腰に拳銃を吊るして、先住民、黒人奴隷、女子どもに対する支配者としてふるまっていたのです。
ですから、「刀は武士の魂」であるように「銃はアメリカ男子の魂」なので、銃規制などあってはならないことです。

西部開拓の時代は終わり、表面的には「法の支配」が確立されましたが、今もアメリカ人は「法の支配」を軽視しています。
たとえば白人至上主義者は平気で黒人をリンチしてきました。
『黒人リンチで4000人犠牲、米南部の「蛮行」 新調査で明らかに』という記事によると、米南部では1877年から1950年までの間に4000人近い黒人が私刑(リンチ)によって殺されていたということです。

同記事には『私刑のうち20%は、驚くことに、選挙で選ばれた役人を含む数百人、または数千人の白人が見守る「公開行事」だった。「観衆」はピクニックをし、レモネードやウイスキーを飲みながら、犠牲者が拷問され、体の一部を切断されるのを眺め、遺体の各部が「手土産」として配られることもあった』と書かれています。ナチスの強制収容所を連想します。人種差別主義者は似ているのでしょう。

リンチの犯人がかりに裁判にかけられることがあっても、陪審員は白人ばかりなので有罪になることはありません。
最近でも似たようなものです。警官が黒人を殺す場面が動画に撮られて大きな騒ぎになった事件でも、警官は裁判にかけられても無罪か軽い罪で、恩赦になることもあります。

そういうことから、白人至上主義者にとってトランプ氏の裁判で有罪の評決が出たのは「不当判決」なので、平然と無視できるのでしょう。


「法の支配」を軽視するのはアメリカ人全体の傾向です。
それは国際政治の世界にも表れています。
国際刑事裁判所(ICC)は5月20日、ガザ地区での戦闘をめぐる戦争犯罪容疑でイスラエルのネタニヤフ首相らとハマスの指導者らの逮捕状を請求したと発表しました。
これに対してバイデン大統領は「言語道断だ。イスラエルに対する国際刑事裁判所の逮捕状請求を拒否する。これらの令状が何を意味するものであれ、イスラエルとハマスは同等ではない」などの声明を発表しました。
「法の支配」をまったく無視した態度です。

バイデン大統領はトランプ氏への有罪評決に関して「評決が気に入らないからといって『不正だ』と言うのは向こう見ずで、危険で、無責任だ」「法を超越する存在はないという米国の原則が再確認された」などと語っていました。
評決が気にいらないからといって「不正だ」と言うのはバイデン大統領も同じです。
なお、アメリカは国際刑事裁判所(ICC)に加盟していませんが、加盟していないということがすでに「法の支配」を軽視しています(ロシア、中国も加盟していませんが、アメリカの態度が影響しているともいえます)。


国際司法裁判所(ICJ)は24日、イスラエルに対しガザ地区南部ラファでの軍事攻撃を即時停止するよう命じましたが、イスラエル首相府はこれを真っ向から否定しました。
アメリカもこれを容認しています。
国際司法裁判所(ICJ)は国連の機関なので、各国は法的に拘束されますが(執行力はない)、ここでもアメリカは法を無視しています。


トランプ氏が「アメリカファースト」を言うのは、もちろんアメリカは他国よりも優先されるという意味ですが、結果的にアメリカは法の上にあることになります。
バイデン大統領もこの点ではトランプ氏と変わらないようです。


アメリカもいつも無法者のようにふるまうわけではなく、表向きは「法の支配」を尊重していますが、いつ無法者に変身するかわかりません。
そうなるとアメリカの世界最強の軍事力がものをいいます。
当然、世界のどの国もそのことを意識せざるをえません。

日本も例外ではありません。
日本はアメリカと繊維、自動車、半導体などさまざまな分野で通商摩擦を演じてきましたが、どれも最終的に日本が譲歩しています。
日本がとことん強硬に主張し続けると、アメリカはテーブルをひっくり返して腰の拳銃を抜くかもしれないからです。
軍事行動に出なくても、貿易や金融などで不当な仕打ちをしてくるということはありえます。WTOに提訴するぐらいでは防げません。
なにかの理由をつけて経済制裁をしてくるということも考えられます。イランやキューバは今ではなんの理由だかわからなくなっても制裁され続けています。

どの国もアメリカと二国間交渉で対等な交渉はできません。
アメリカがGDP比3.45%もの巨額の軍事費を支出しているのも、それによって経済的な利益が得られるからに違いありません。



世界が平和にならないのは、アメリカが「法の支配」を無視ないし軽視して「力の支配」を信奉する国だからです。
世界を平和にするには、国際社会とアメリカ国内の両面からアメリカを変えていかなければなりません。

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トランプ前大統領が共和党の大統領候補になるのは確実な情勢です。
「もしトラ」――もしトランプ氏が大統領になったら――ということを真剣に考えなければいけません。

しかし、トランプ氏の行動を予測するのは困難です。
2020年の大統領選でトランプ氏の負けがはっきりしたとき、トランプ氏は「選挙は盗まれた」と言って負けを認めず、支持者を扇動してホワイトハウス襲撃をさせました。
民主主義も国の制度も平気で壊します。

もしトランプ氏が次の大統領選に出たらたいへんです。負けた場合、負けを認めるはずがないからです。またしても大混乱になります。
それを防ぐには、トランプ支持者による特別な選挙監視団をつくって、選挙を監視させるという方法が考えられますが、それをすると、その選挙監視団がまた問題を起こしそうです。
かりにトランプ氏が正当に当選しても、果たして4年で辞任するかという問題もあります。大統領の免責特権がなくなるので、むりやり憲法を改正してもう1期続けることを画策するに違いありません。


マッドマン・セオリーという言葉があります。狂人のようにふるまうことで、相手に「この人間はなにをするかわからない」と恐れさせるというやり方です。
しかし、トランプ氏は戦略としてマッドマン・セオリーを採用しているとは思えません。やりたいようにやっている感じです。
そして、そこにトランプ氏なりのセオリーがあります。

トランプ氏は保守派で白人至上主義者です。その点に関してはぶれません。
ですから、保守派で白人至上主義者のアメリカ国民も、ぶれずにトランプ氏を支持し続けるわけです。
支持者にとっては、トランプ氏が大統領職にとどまってくれるのが望ましく、正当な選挙で選ばれたかどうかは二の次です。


アメリカの白人至上主義者はアメリカを「白人の国」と思っています。
アメリカ独立宣言にはこう書かれています。

「われわれは、以下の事実を自明のことと信じる。すなわち、すべての人間は生まれながらにして平等で あり、その創造主によって、生命、自由、および幸福の追求を含む不可侵の権利を与えられているという こと」

「すべての人間は生まれながらにして平等」とありますが、先住民や黒人奴隷にはなんの権利もなかったので、先住民や黒人奴隷は「人間」ではなかったわけです。
また、白人女性に参政権がなかったことから、白人女性も「人間」とされていなかったかもしれません(「すべての人間」は英文では「all men」です)。
「創造主(Creator)」という言葉も出てきます。これは当然キリスト教由来の言葉です。異教徒にもこの宣言は適用されるのかという疑問もあります。

ともかく、独立宣言には「すべての人間」に人権があるとしていますが、実際には「白人成年男性」にしか人権はなかったのです。
このときうわべの理念と中身のまったく違う国ができたのです。そのことがのちのちさまざまな問題を生みます。


「白人成年男性の人権」を「普遍的人権」にする戦いはずっと行われてきました。

女性参政権は1910年から一部の州で始まりましたが、憲法で「投票権における性差別禁止」が定められたのは1920年のことです。

アメリカは世界でもっとも遅く奴隷制を廃止した国です。
リンカーン大統領は黒人奴隷を解放した偉大な大統領とされていますが、実際はやっとアメリカを“普通の国”にしただけです。

黒人参政権は、奴隷制の廃止にともなって1870年に憲法で認められ、実際に黒人が投票権を行使して、州議会だけでなく14人の黒人下院議員、2人の黒人上院議員が誕生しました。
しかし、そこから白人の巻き返しが始まり、さまざまな理由をつけて黒人の選挙権は奪われます。
黒人の投票権が復活したのは1964年の公民権法の成立以降のことです。

現在、共和党の支配する州では、非白人の有権者登録を妨害するような制度がつくられています。たとえば、有権者登録には写真つきの身分証が必要だとするのです。貧困層は写真つきの身分証を持っていないことが多いからです。また、車がないと行けないような場所に投票所や登録所を設けるとか、黒人の多い地域では何時間も並ばないと投票できないようにするといったことが行われています。

白人至上主義者にとっては、黒人やヒスパニックが選挙権を得たときにすでに「選挙は盗まれた」のです。
ですから、トランプ氏が「選挙は盗まれた」と言ったときに簡単に同調できたわけです。

アメリカの人口構成で白人はいずれ少数派になりそうです。そこに黒人のオバマ大統領が出現して、白人至上主義者はますます危機感を強めました。その危機感がトランプ氏を大統領に押し上げました。

「ラストベルト」における“しいたげられた白人”の不満がトランプ当選につながったと日本のマスコミはしきりに報道していました。しかし、テレビに出てくる白人を見ていると、失業者はいなくて、大きな家に住み、広い土地を持っています。ぜんぜん“しいたげられた白人”ではありません。そもそも黒人世帯の所得は白人世帯の所得の60%ですし、白人世帯の資産は黒人世帯の資産の8倍です。
日本のマスコミは白人側に立っているので、アメリカの人種差別の実態がわかりません。

アメリカの先住民は、先住民居留地に住むという人種隔離政策のもとにおかれています。先住民女性の性的暴行にあう確率はほかの人種の2倍です。「町山智浩のアメリカの今を知るTV」によると、ナバホ族は居留地に独自の“国”をつくっていますが、連邦政府と交渉しても水道や電気がろくに整備されないということです。
日本のマスコミは先住民差別についてはまったくといっていいほど報道しません。


アメリカは今でも人種差別大国で、白人至上主義はいわばアメリカの建国の理念です。
アメリカの外交方針も基本は白人至上主義です。
「ファイブアイズ」と呼ばれる、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドによって成り立つ情報共有組織があります。この5か国はアングロサクソンの国です。1950年ごろに結成され、長く秘密にされていましたが、2010年の文書公開で明らかになりました。
人種によって国が結びつくというのには驚かされます。ここにアメリカの本質が現れています。

第二次大戦後、アメリカが白人の国と戦争をしたのはコソボ紛争ぐらいです。あとベトナム、イラク、アフガニスタンのほか、数えきれないくらい軍事力を行使していますが、すべて非白人国が対象です。

同じ白人国でも、西ヨーロッパの国は文化が進んでいますが、東ヨーロッパの国は遅れているので、東ヨーロッパは差別されています。
東西冷戦が終わって、ロシアが市場経済と民主主義の国になったのに、NATOがロシア敵視を続けて冷戦に逆戻りしたのも、東ヨーロッパに対する差別があったからというしかありません(あと東方教会という宗教の問題もあります)。

パレスチナ問題も、イスラエルは白人の国とはいえませんがヨーロッパ文化の国であるのに対し、パレスチナはアラブ人とイスラム教の地域です。そのためアメリカは公平な判断ができません。


アメリカ国内は保守派とリベラルの「分断」が深刻化しています。
単純化していうと、保守派は人種差別と性差別を主張し、リベラルは反人種差別とフェミニズムを主張しています。
もっとも、保守派は表立って人種差別と性差別を主張するわけではありません。本人たちの主観では「道徳」を主張しています。
つまり保守思想というのは「古い道徳」のことです。

自民党の杉田水脈衆院議員が国会で「男女平等は絶対に実現し得ない反道徳の妄想です」と発言したことがあります。この発言は保守思想の本質をみごとに表現しています。「良妻賢母」や「夫唱婦随」といった古い道徳を信奉する人間は必然的に男女平等に反対することになります。

公民権法が成立する以前のアメリカでは、バスの座席も待合室も白人と黒人で区別されていました。黒人は黒人として扱うのが道徳的なことでした。もし白人が黒人を連れてレストランに入ってきたら、その行為はひどく不道徳なこととして非難されました。公民権法が成立したからといって、人間は急に変われません。黒人を黒人として扱うのが道徳的なことだと思っている人がいまだに多くいて、そういう人が差別主義者です。
ですから、差別主義者というのは要するに「古い人間」です。
自分の親も祖父母も黒人を黒人として扱っていた。自分も幼児期からそれを見て学んで、同じようにしている。自分は家族と伝統をたいせつにする道徳的な人間だ――そのような自己認識なので、差別主義者の信念はなかなか揺るぎません。

ですから、差別主義を克服するということは、自分の親や祖父母のふるまいを批判するということであり、自分が幼児期から身につけたふるまいを否定するということです。
もちろんこれはむずかしいことです。
リベラルはこのむずかしいことから逃げて、安易な“言葉狩り”に走ったので、人種差別も性差別もそのまま温存されています。
そのため、保守とリベラルの分断は深まるばかりです。


トランプ氏は過激なことばかり主張しているようですが、実はアメリカがもともと隠し持っていたものを表面化しているだけです。
ですから、バイデン政権とそれほど異なるわけではありません。日本はすでにバイデン政権の要求で防衛費GDP比2%を約束しました。もしかするとトランプ政権が成立すると3%を要求してくるかもしれませんが、その程度の違いです。

とはいえ、トランプ政権になると要求が露骨になり、これまで隠してきた屈辱的な日米関係が露呈するかもしれません。
そのときに日本政府は、国民世論をバックに、中国やグローバルサウスと連携することでトランプ政権とタフに交渉できればいいのですが、これまでの日本外交を考えると、残念ながらとうていできそうにありません。

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Foto-RabeによるPixabayからの画像 

トランプ大統領は7月14日、民主党の4人の女性議員に対してツイッターで「アメリカで暮らして幸せでないなら出ていけばよい」「どうして彼女たちは完全に崩壊し、犯罪が横行するもとの国に戻って建て直さないのか」などと発言し、さらに17日に支持者を集めた集会で、「彼女たちがアメリカを好きでないなら出て行けばよい」と繰り返しました。
4人の女性議員は、もとはソマリアの難民だったり両親がパレスチナ人だったりするので、トランプ大統領は「もとの国」と言ったようです。

こうした発言に対して、「アメリカは移民の国だ。トランプ大統領も移民の子孫なのに、出ていけというのはおかしい」という声がありますが、それはアメリカについて考え違いをしています。
アメリカは白人が先住民を追い出してつくった国ですから、白人が非白人に対して出ていけと言うのは建国の理念にかなっています。
ついでにいうと、白人は銃を使って銃を持たない先住民を追い出したので、白人が銃を持つことも建国の理念にかなっています。
アメリカ独立宣言には基本的人権がうたわれましたが、先住民にも黒人にも人権は認められませんでした。ということは人種差別がアメリカの建国の理念なのです。
リンカーン大統領は奴隷解放という偉業を成し遂げたとされますが、ヨーロッパは奴隷制を廃止していたのにアメリカは最後まで奴隷制を続けていただけのことです。

つまりアメリカは世界最悪の人種差別国家です。
トランプ大統領が言ったことはアメリカの建国の理念であり、白人至上主義者の本音です。


とはいえ、差別主義の発言に世界から批判が集まるのは当然です。
イギリスのメイ首相は「まったく受け入れられない」、ドイツのメルケル首相は「強いアメリカと矛盾する」、ニュージーランドのアーダーン首相は「ニュージーランドでは人々が正反対の考え方を持っていることを誇りに思う」、カナダのトルドー首相は「カナダで私たちがとる対応ではない」といった具合です。

わか安倍首相はというと、もちろんなにも言いません。
トランプ大統領に従うことしか考えていませんし、それに、もともと人権感覚がほとんどないからです。

トランプ大統領の差別発言を批判しないのは日本のメディアも同じです。
そもそも日本のメディアは、トランプ大統領の差別発言を差別発言でないようにごまかして報道しています。
たとえば、次の日経新聞の記事がその典型です。

トランプ氏「国へ帰れ」発言が波紋、与野党が批判
【ワシントン=中村亮】トランプ米大統領の人種差別と受け取られかねない発言が米政界で波紋を広げている。祖先の出身地が中東やアフリカの野党・民主党の女性下院議員に「国に帰ったらどうか」と促した。不法移民対策の停滞に不満を示し保守層にアピールする狙いがあるとみられるが、非白人議員を狙い撃ちした批判に民主党は猛反発し、与党・共和党内からも「限度を超えている」と非難する声が出ている。
「彼女らは(過激派組織の)アルカイダに近い」。トランプ氏は15日、ツイッターでソマリア出身のオマル、パレスチナ系のタリーブ両下院議員らを念頭に断じた。両議員らがトランプ政権の批判を繰り返す姿勢に不満をにじませ「この国を愛せないのであれば、国を去った方がよい!」と訴えた。
オマル、タリーブ両氏は2018年秋の中間選挙でイスラム教徒女性として連邦下院議員に初当選した。同時に当選したプエルトリコ系の母親を持つオカシオコルテス氏、アフリカ系のプレスリー氏と合わせた新人女性議員4人は民主党の急進リベラル派の中核的存在だ。トランプ氏の不法移民政策を厳しく批判してきたことでも知られる。
オマル氏は15日、他の3議員とともに緊急記者会見を開いて「トランプ氏は白人至上主義者の主張をしている」と痛烈に非難した。タリーブ氏はトランプ氏の言動が弾劾に値するとの考えも示し、対決姿勢を鮮明にした。
トランプ氏の発言は不法移民対策の進捗への不満を反映したとの受け止めが多い。米税関・国境取締局(CBP)によると、メキシコ国境での拘束数は18年10月~19年6月の9カ月間で約69万人と、すでに18会計年度(17年10月~18年9月)の通年実績の1.7倍に上った。
(中略)
だが人種差別とも受け取られるトランプ氏の言動は米社会の分断を広げかねない。トランプ氏はこれまでも白人至上主義者と反対派が衝突し死者を出した事件を巡り、白人至上主義を非難せず激しい批判を浴びた。ユダヤ教の礼拝堂で銃乱射事件が相次いだのも、トランプ氏の人種間の分断をあおる言動が一因だとの指摘は根強い。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO47408260W9A710C1EA1000/

「人種差別と受け取られかねない発言」とか「人種差別とも受け取られるトランプ氏の言動」というように、人種差別と断定しない書き方になっています。

では、トランプ大統領はなぜそんな発言をしたかというと、選挙対策のために「保守層にアピールする狙い」であり「不法移民対策の進捗への不満を反映」したものであるので、差別主義からではないということになります。
しかし、それはあくまで記者の推測です。そうしたことは解説や論説で書くべきで、こうした短い記事は事実だけでいいはずです。

差別主義の発言ではなく再選戦略のための発言だ――という論理でトランプ大統領の差別発言を擁護することは、日本のあらゆるメディアが行っています。
今回の差別発言に限ってもそうした記事がいくつも目につきます。

たとえば毎日新聞の『「国に帰れ」 裏に再選戦略 岩盤支持層にアピール、野党左傾化を印象付け』という記事はこう書いています。

発言からは、保守派の「岩盤支持層」にアピールすると共に、野党・民主党の「左傾化」を強く印象付けて批判材料にしようとするトランプ氏の再選戦略が透けて見える。 
https://mainichi.jp/articles/20190718/ddm/007/030/134000c

日刊スポーツの『トランプ大統領、非白人議員に「国に帰れ」撤回せず』という記事はこうです。

トランプ氏には来年の大統領選に向け、保守派支持層にアピールする狙いがある。女性議員らがペロシ下院議長ら民主党指導部ともあつれきを生んでいる点を突き、同党内の亀裂を深めさせる思惑もありそうだ。
https://www.nikkansports.com/general/news/201907160000109.html

FNNPRIMに木村太郎氏が執筆した記事は、民主党の4人の女性議員を過激な「独立愚連隊」と見なすNBCニュースの記事を紹介する形でこう書いています。

反トランプの立場を貫いているNBCニュースのサイトに「トランプは民主党が急進左派に縛られるよう期待し、その通りになった」という分析記事が16日掲載された。

それによると、トランプ大統領は来年の大統領選で対立候補が誰であれ急進過激派に近ければ「国を率いるには過激すぎる」と攻撃して有利な立場になると計算してシナリオを作り、まず「独立愚連隊」に攻撃を仕掛けた。案の定民主党内では反発が広がり、もともとは「独立愚連隊」と党内で対立していたペロシ下院議長も大統領の主張は「米国を白人第一に」とするものだと非難する声明を発表した。

大統領の狙い通り、民主党を「独立愚連隊」の周囲に結束させることになったわけだが、これについてNBCニュースの分析記事はこう評している。

「トランプが喋ったりツイートする誹謗中傷の全てが彼の天才的な駆け引きの賜物であると考えるのは間違いだが、彼のメッセージが何の思惑もなく発せられていると考えるのも間違っている」

民主党は、トランプ大統領の「罠」にハマったのだろうか?
https://www.fnn.jp/posts/00047257HDK/201907161730_tarokimura_HDK

こうした分析に当たっているところがあるかもしれませんが、過激な差別発言はコアな白人支持層にしかアピールしません。再選されるには中間層に支持を広げる必要があり、もしこれが再選戦略であるなら、間違った再選戦略です。

ともかく、日本のメディアはトランプ大統領の差別発言を、あの手この手で差別発言でないように報道しています。
トランプ大統領は今でも40%ぐらいの支持率があります。トランプ大統領の差別主義はアメリカの根幹とつながっています。
トランプ氏個人を批判することはできても、アメリカの根幹を批判することはできないということでしょう。
首相もメディアも属国根性です。

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