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アラスカでトランプ・プーチン会談が行われた際、「両国は4キロしか離れていない」という言葉が出ました。
そんなに近かったかと思って調べると、ベーリング海峡のいちばん狭いところでも86キロあります。ただ、海峡の真ん中にアメリカ領の島とロシア領の島があり、その距離が4キロでした。
いずれにしてもアメリカとロシアは「隣国」といえる関係です。

東西冷戦のとき、両陣営の最前線といえばベルリンの壁とかドイツ・ポーランド国境を思い浮かべましたが、実はアラスカ・シベリアもそうだったのです。
冷戦が終わって、ロシアはアメリカの脅威から解放されたはずでしたが、その後、西からNATOが拡大を続け、東のアラスカと挟み撃ちにされる格好になりました。
なにしろアメリカは世界の軍事費の4割を占めて、世界中に軍事基地を置く軍事大国です。
北方領土交渉のとき、プーチン大統領に「北方領土を返還するとそこに米軍基地ができる可能性はあるか」と聞かれた日本の外務省担当者は「可能性はある」と答えたために、返還交渉が行き詰まったとされます。
ロシアが強大なアメリカとその同盟国に包囲されていることを理解すれば、ロシアのウクライナ侵攻は恐怖心のゆえではないかという発想もわくでしょう。
なにごとも相手の立場になって考えることがたいせつです。


このところ欧米に急速に移民排斥運動が盛り上がり、日本にまで波及しています。
どうして移民排斥運動が盛り上がったのかというと、アメリカの場合、ヒスパニックなど非白人人口が増えて、やがて白人がマイノリティになるという危機感が高まったからです。この危機感が人種差別意識や反移民感情を高めると同時にトランプ氏を大統領に押し上げました。
欧州の場合、白人がマイノリティになることはありませんが、アフリカや中東におけるグローバルサウスの勃興を肌身に感じて、危機感を持ったからでしょう。

西洋は長らく世界を支配する立場にありました。
そのため西洋人は優越感を持っていますが、同時にその優越感が崩れることを恐れています。
シュペングラー著『西洋の没落』がベストセラーになったり、黄禍論が広まったりしたのがその表れです。

G7(主要国首脳会議)は日本、アメリカ、カナダ、フランス、イギリス、ドイツ、イタリアとEUです。
昔はこれが確かに世界の主要国でしたが、グローバルサウスが経済発展したことで情勢は変わりました。
2024年のGDPランキングは上位から順にアメリカ、中国、ドイツ、日本、インド、イギリス、フランス、イタリア、ブラジルです。
少なくともG7には中国とインドが加わらなければなりません。

ロシアのウクライナ侵攻に対して「西側」はロシアに経済制裁を行いました。これによってロシアは苦境に陥るだろうといわれましたが、ぜんぜんそうなっていません。西側の力が弱くなっているからです。
世界をグローバルサウス対グローバルノースの対立と見なすと、力の逆転が起こりかけている状態です。
同じヨーロッパでも、西ヨーロッパは先進的で、東ヨーロッパは後進的なので、東ヨーロッパはグローバルサウスの側に入るかもしれません。
西ヨーロッパとアメリカ合衆国は西側として結束していますが、日本は西側の一員であることに安住していると、世界の変化に対応できませせん。

日本での最近の外国人排斥運動は、西洋至上主義や白人至上主義のバックグラウンドもないのにグローバルサウスの人間を追い出そうという意味不明な行為です。
トランプ氏は不法移民を犯罪者、テロリスト、精神異常者、悪いやつなどと呼んでいますが、こうした移民を送り出す側のメキシコやコロンビアなどの反発を呼んでいることは当然です。
日本では、クルド人が犯罪的であるという言説があふれていますが、日本国内のクルド人が不快に思うのはもちろん、世界に4000万人前後いるとされるクルド人に知られたら国益を損ねます。

西側やグローバルノースの側に立っていたのでは、世界の半分しか認識できません。
グローバルサウスの側に立って物事を見ると、世界の全体が見えるようになる理屈です。


石破首相が戦後80年談話を発表するか否かという問題について、侵略や植民地支配について反省や謝罪を表明すると中国や韓国を利するだけだなどという人がいます。
こういう人は侵略や植民地支配を日本とアジアの関係でしか見ていません。
欧米列強は世界中を侵略して植民地支配をしてきました。つまり侵略と植民地支配はグローバルな問題で、日本のしたことはその一部です。
そして、かつての列強はいまだに反省も謝罪も補償もしていません(列強には奴隷制の罪もあります)。
そういう状況で日本だけが反省や謝罪をするのもおかしなものです。
いや、とりあえず先に日本が反省と謝罪をするのはいいのですが、それで終わりにするのではなく、かつての列強に反省と謝罪をするように迫らなければなりません。
グローバルサウスとグローバルノースの間に溝があるのも、かつての植民地支配が清算されていないからですから、この問題を追及するのは世界平和にも通じます。


ついでにいうと、アメリカファーストなどの自国ファーストは、国と国の対立を生み、戦争につながります。
利己主義がだめなのはわかりきったことで、これはグローバルな視野以前の問題です。