村田基の逆転日記

親子関係から国際関係までを把握する統一理論がここに

タグ:言葉狩り

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このところ「男性差別だ」という非難の声が上がって炎上するケースが相次いでいます。
目立つものを並べてみました。

・7月下旬、衣料品チェーン・しまむらグループの子ども服に「パパはいつも寝てる」「パパはいつも帰り遅い」「パパは全然面倒みてくれない」という文字が書かれていたことに「男性差別だ」という声が上がって、結局その商品は発売中止になりました。

・8月初め、女性フリーアナウンサーがXに「夏場の男性の匂いや不摂生してる方特有の体臭が苦手すぎる」などと投稿すると非難が殺到。すぐに釈明・謝罪しましたが、「男性差別だ」などの非難がやまず、所属事務所から契約解消されてしまいました。

・8月下旬、自民党総裁選のポスターに対してTBS系「News23」でトラウデン直美氏が「おじさんの詰め合わせ」などとコメントすると、やはり「男性差別だ」という声が上がりました。

・9月初め、焼き肉チェーンの牛角が始めた「食べ放題 女性半額」キャンペーンに対して「男性差別だ」という声が上がり、多くのメディアが取り上げて議論になりました。


フェミニズムサイドから「女性差別だ」という声が上がって炎上する事案がよくあるので、それに対する意趣返しで、男たちががんばって炎上させている感じです。
しかし、所詮は「女性専用車両があって男性専用車両がないのは男性差別だ」と主張するのと同じレベルの議論です。


たとえば、しまむらの子ども服ですが、「パパはいつも寝てる」「パパはいつも帰り遅い」「パパは全然面倒みてくれない」という言葉は、仕事ばかりで育児に参加しない父親を描写しているだけで、批判しているわけではありません。
ワンオペで育児をがんばっている母親には共感されるでしょうし、育児をやっている父親にとっては、自分には関係ない言葉です。
しかし、育児に参加していないことをやましく思っている父親にとっては、自分を批判する言葉に思えるでしょう。
ですから、しまむらを非難しているのは、育児をろくにやっていない父親か、そういう父親に共感する男であろうと推測できます。
しまむらにとっては非難をはね返すことは容易でした。


女性フリーアナウンサーは個人的な意見をXで発信しただけなのに「男性差別だ」と非難されました。
すでに削除されましたが、Xに投稿された文章は「ご事情あるなら本当にごめんなさいなんだけど、夏場の男性の匂いや不摂生している方特有の体臭が苦手すぎる。常に清潔な状態でいたいので1日数回シャワー、汗拭きシート、制汗剤においては一年中使うのだけど、多くの男性がそれくらいであってほしい…」というものでした。
あくまで「あってほしい」という個人の願望を述べているだけで、命令したり強要したりしているわけではありません。
「1日数回シャワー」というところに引っかかるかもしれませんが、なんの権力もない個人が言っているだけですから、無視すればいいことです。

お笑いコンビ「空気階段」の鈴木もぐら氏はラジオ番組でこの件に触れ、「俺が子どものころの“おじさん”って、男性差別だとか騒ぐような人じゃなかった」と指摘した上で、「クサい」と言われたとしても「クサいですか。すいません」程度で返せばいい、それができなくなっているのはおじさんが弱くなっているからだと語りました。
この「おじさんが弱くなっている」説はかなり共感を呼びました。


自民党総裁選のポスターを「おじさんの詰め合わせ」とたとえたことが「男性差別だ」と非難されたのはバカバカしいとしか言いようがありません。
このポスターを「おじさんの詰め合わせ」とたとえたのは言い得て妙です。
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女性政治家が集団で写っている写真を持ってきて、「これを『おばさんの詰め合わせ』と言ったら大騒ぎになるだろう」と言う人もいました。
しかし、女性政治家の写真は単なる集合写真で、「詰め合わせ」ではありません。自民党のポスターは実際に「詰め合わせ」です。
問題は「おじさん」「おばさん」でもなければ「詰め合わせ」でもありません。歴代自民党総裁が「全員おじさん」であることです。「女性差別」のみごとな視覚化です。

実際のところは、「おじさんの詰め合わせ」という言葉が炎上したのは、それを言ったのがトラウデン直美氏という若い美人だったからです。
古い男の考えでは、テレビに出てくる若い美人はいつもニコニコしていて当たり障りのないことを言っていればいいというものです。それがきびしく男性政治家を批判したので古い男が逆上したのです(石丸伸二氏に対した山崎怜奈氏も同じようなものです)。


牛角は9月上旬に期間限定で食べ放題コースが女性のみ半額となるキャンペーンを始めたところ、「男性差別だ」という声が殺到しました。
約4000円のコースが半額になれば約2000円の得ですから、金額が大きいということもあります。
それに、昔はレディース・デイみたいな女性限定のサービスがけっこうありましたが、最近はあまり見かけません。女性(男性)限定サービスというのは好まれないのかもしれません。

しかし、少なくとも食べ放題に限っては、女性限定サービスは合理的なものです。
厚生労働省のホームページには、1日に必要なエネルギーは「活動量の少ない成人女性の場合は、1400~2000kcal、男性は2200±200kcal程度が目安です」と書かれています。
つまり平均して男性は女性より多く食べるのです。
「食べ放題 女性料金」で検索すると、食べ放題の料金が女性のほうが安く設定されている飲食店がいっぱいあることがわかりますし、バイキングやビュッフェ方式では女性料金や子ども料金が安くなっているのは普通に見られます。
牛角によると、食べ放題で女性は男性より4皿少ないというデータがあるそうです。

ということは、牛角では通常は食べ放題男女同一料金ですが、これは明らかに女性が損です
したがって、期間限定女性半額キャンペーンは、日ごろ損をしている女性への還元と見なすことができます。
ところが、女性半額キャンペーンが告知されると、多くの男が「男性差別だ」と声を上げました。
日ごろ男が得をしていることに気づかないか、見て見ぬふりをした身勝手な主張です。

要するに「男性差別だ」と主張する人は、目の前のことだけ見て、背後に広がる社会を見ていません。
女性専用車両を「男性差別だ」と言う人は、痴漢被害者がほとんど女性であることを見ていませんし、食べ放題女性半額を「男性差別だ」と言う人は、日ごろ男性のほうが女性より多く食べているということを見ていません。


ひろゆき氏も「女性半額は男性差別」という立場ですが、「アメリカで白人と黒人で、黒人の方が焼き肉を多く食べます、だから白人優遇です、って言ったら、普通に人種差別じゃないですか」というわけのわからないたとえを持ち出すので、男性のほうが女性より多く食べるということを理解せずに議論をしているようです。
ひろゆき氏は対談相手が「男性差別だと民事訴訟を起こしても『受忍の範囲』として退けられるだろう」と言ったことをとらえて、「受忍の範囲なら差別してもいいのか」「小さな差別が少しづづ積み重なることで、差別は大きくなります」「『どんな差別も許容しない』という方針で差別を一つづつ無くした時に、最後に差別はなくなります」という論法で、小さな男性差別も許してはいけないと主張します。

ひろゆき氏は女性差別と男性差別を同列に扱っているようです。
しかし、女性差別と男性差別は根本的に違います。

今の世の中は女性差別社会です。
女性差別はいたるところにあるのですが、いちいち取り上げるわけにはいかないので、特別に目立ったものだけがやり玉に上がって炎上することになります。
炎上は差別語やポスターの絵などがきっかけなので、言葉狩りと見られがちですが、言葉はもちろん意識とつながっています。
しかし、差別意識を守りたい人は、言葉と意識を切り離して、「言葉狩りだ」「ポリコレにはうんざりだ」といった反応をするわけです。

女性差別社会にも、男性が差別される状況が生じることがあります。
しかし、そうした男性差別は局地的、一時的現象ですから、めったにあることではありません。
「男性差別だ」と騒がれるのは、ここで取り上げたケースのように、ほとんどがこじつけです。
しかし、「男性差別だ」と騒いで企業や個人を攻撃し、なんらかの対応を引き出すという成功体験がいくつかあるために、このところ「男性差別だ」と騒ぎ立てるケースが増えているのかもしれません。

「女性差別社会における男性差別」はめったにあることではなく、ほとんどがこじつけだということを理解すれば、うまく対応できるはずです。

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                Keith JohnstonによるPixabayからの画像 

このままだと「お前」という言葉が使えなくなるかもしれません。
完全に議論が間違った方向にいっています。

発端は中日ドラゴンズの与田剛監督の発言でした。

中日応援歌自粛騒動 与田監督は言葉狩り非難に困惑隠せず
 中日が2日の巨人戦(東京ドーム)で0―6と今季4度目の零封負けを喫し、連勝が5でストップ。勢いに水を差す格好となったのが与田剛監督(53)の巻き起こした“応援歌騒動”だ。

 1日に中日の公式応援団がSNS上で応援歌「サウスポー」使用を自粛すると発表。指揮官が歌詞の「お前が打たなきゃ誰が打つ」の「お前」の部分を疑問視し、球団を通じて歌詞の変更を要請していた。この件がネット上で大炎上し、ワイドショーにも取り上げられるなど大騒動となった。

 今回の事態に与田監督は「意外と不本意な方向にいっているみたいで。僕は単純に『お前』という表現よりは名前の方にしてもらえませんかというのが事の発端なので。応援を自粛してくれとか、応援団を否定しているわけではない。リスペクトもしているのに、いろんな方が言葉尻を逆の方に持っていかれるのはさみしい」と語った。

 しかし、チーム関係者は「紳士たれの巨人軍でも坂本(勇)やゲレーロらの選手応援歌には『お前』のフレーズがあるのに公認されている。こんなことシーズン中に言いだすことではなかった。監督にはもっと試合だけに専念してほしいのに」と指摘する声もある。
(後略)
https://www.tokyo-sports.co.jp/baseball/npb/1456512/


与田監督は「お前という言葉を子どもたちが歌うのは、教育上よくないのではないか」とも発言していますが、これに対して巨人ファンからは、巨人の球団歌の「ゆけゆけ、それゆけ、巨人軍~」というサビの部分を歌うと、中日ファンが「死ね死ね、くたばれ、巨人軍~」という替え歌をかぶせるのが常態化していて、こちらのほうがよほど教育上よくないのではないかという声も上がっています。

この騒動の原因は、ひとえに与田監督の考え違いにあります。
与田監督は、「お前が打たなきゃ誰が打つ」というフレーズを不快に思って、不快の原因は「お前」という言葉にあると思ったわけです。
しかし、「お前」という言葉に悪い意味はありません。目上の人に使えば失礼になりますが、ファンにとって選手は目上ではないはずです。

与田監督が「お前が打たなきゃ誰が打つ」というフレーズを不快に思ったのは理解できます。このフレーズは、「お前」以外のチーム全員を打てないと決めつけているからです。
  「誰が打つ」は反語表現です。受験コトバでいうと「誰が打つ(いや、誰も打たない)」となります。
1人の選手を奮起させるためにほかの選手を否定するというやり方は、ほかの選手が不愉快ですし、監督も不愉快です。
これまでこんな歌を歌っていた公式応援団が間違っています。
ですから与田監督は、「ほかの選手だって打つんだから、『お前が打たなきゃ誰が打つ』というフレーズはおかしい。やめてくれ」と言うべきでした。
そうすれば混乱は起きなかったでしょう。

それから、「お前が打たなきゃ誰が打つ」というフレーズは、選手にプレッシャーを与えるものです。
おそらくこの歌が歌われるときは、得点圏にランナーがいて、その選手が打つかどうかで試合が決まるような重要な場面でしょう。選手はすでにプレッシャーを感じているはずです。その上にさらにプレッシャーをかけるのはマイナスでしょう。

重量挙げとか百メートル走とかは、大きな大会で新記録が出るので、選手にプレッシャーをかけるのは意味があるかもしれませんが、野球のバッターの場合は、リラックスさせたほうがいいはずです。肩に力が入るとろくなことはありません。

与田監督はそういうことも感じて、「お前が打たなきゃ誰が打つ」というフレーズを不快に思っていたのかもしれません。


ところで、与田監督はなぜこの時期にこの発言をしたのでしょうか。
私がこれを書いている時点で、中日はセ・リーグの5位で、首位の巨人から12.5ゲーム離されています。
あまりのふがいない成績に、日ごろから感じていた「お前が打たなきゃ誰が打つ」に対する不快感を口にしたのでしょう。
いわば八つ当たりです。
ほんとうなら口にする以上、なぜ「お前が打たなきゃ誰が打つ」がだめなのかを正しく説明するべきですが、要するに八つ当たりなので、深く考えずに「お前」という言葉のせいにしたのです。
言葉のせいにするのがいちばん簡単なやり方です。

このように考えると、「言葉狩り」がどうして発生するのかも理解できます。
なにか不快な表現に出会ったとき、なぜそれが不快なのかを論理的に説明するのがめんどうなので、なにかの言葉のせいにするのです。

現在、中日の公式応援団は「サウスポー」を歌うのを自粛していますが、「お前」という言葉が悪いからだと説明すると、世の中が混乱します。
「お前が打たなきゃ誰が打つ」というフレーズが中日の選手に失礼だからだと説明するべきです。


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