mv-22b-osprey-2505121_1280

米空軍のオスプレイが屋久島沖で搭乗員8人死亡の墜落事故を起こしたことで、全世界でオスプレイの飛行が停止されましたが、さらに米国防総省はオスプレイの新規調達を終了すると決定し、生産ラインも閉鎖されることになりました。
アメリカも欠陥品ないし失敗作であると認めたわけです。
これまで400機余りが製造されましたが、アメリカ以外で購入したのは日本だけです。
しかも日本はオスプレイ17機を2015年当時で3700億円という高値で購入しています。
「もったいない」というしかありません。

辺野古新基地建設には防衛省の試算でも9000億円以上の費用がかかります。
最初は普天間飛行場を日本に返還してもらうという話だったのですが、アメリカが代替基地を要求してきたので、自然破壊しながらバカ高い費用で日本が辺野古に新基地を建設することになりました。
大阪万博の会場建設費が2350億円にふくれ上がって批判されていますが、辺野古の建設費はそれどころではありません。
これも「もったいない」というしかありません。

しかし、究極の「もったいない」は防衛費の倍増です。
今後5年間の防衛費の総額が43兆円になると発表されていますが、それで終わるわけではありません。その先も今の2倍を払い続けるわけです。
これまでの防衛費は年間5兆円余りですから、今より毎年5兆円をよけいに支出することになります(今の経済規模が続くとして)。
かなりの「防衛増税」をしないとおっつきません。

世界の主要国で最大の財政赤字をかかえ、ほとんど経済成長しない日本が防衛費を増大させるとは、信じられない愚かさです。


私は前回の「イスラエルやウクライナを支持する人の思考法」という記事で、人類は「互恵的利他主義」によって互いに協力することで文明を発達させてきたのだから、軍事費に関しても「こちらは軍事費を削減してそちらを安全にするから、そちらも軍事費を削減してこちらを安全にしてくれ」ということが可能だと述べました。
もっとも、書いている途中で「互恵的利他主義」のことを思いついたために、中途半端な内容になってしまいました。
「互恵的利他主義」はスケールの大きな問題なので、改めて書き直すことにしました。


動物が利他行動をすることはダーウィンの時代から知られていましたが、生存競争をする動物が利他行動をすることは当時の進化論ではうまく説明できませんでした。しかし、遺伝子が発見されたことで「血縁淘汰説」が生まれ、親が子の世話をすることや、自分は子孫を残さない働きバチが群れのために働くことなどがうまく説明できるようになりました。この説は数式で表され、「2人の兄弟か、8人のいとこのためなら死ねる」という言葉がその数式の内容を表しています。
血縁関係にない個体同士においても利他行動は見られます。それはゲーム理論を用いることで説明できました。それが「互恵的利他主義(互恵的利他行動)」です。
互恵的利他主義というのは、あとの見返りを期待して行われる利他行動のことです。リチャード・ドーキンスは「ぼくの背中を掻いておくれ。ぼくは君の背中を掻いてあげる」という言葉で説明しました。
動物の場合は、はっきりとした見返りの見通しなしに利他行動をしますが、人間の場合は、約束や契約などで見返りを確かなものにすることができるので、幅広く利他行動をするようになりました。人間が文明を築けたのはそのためだという説があります。

互恵的利他主義を頭の中に入れておけば、「こちらは軍事費を削減してそちらを安全にするから、そちらも軍事費を削減してこちらを安全にしてくれ」という発想はおのずと出てきます。もちろん協定や条約で見返りを確かなものにすることができます。軍事費を削減できれば双方が得をして、まさにウィンウィンです。


前回はこういうことを書いたのですが、よく考えると、これはうまくいきません。
たとえば、日本が中国に対して、互いに軍縮しようと提案すれば、どうなるでしょうか。
中国は応じるはずがありません。というのは、中国はアメリカに対抗するために軍拡をしているからです。日本はほとんど眼中にありません。
北朝鮮にしても同じことです。米軍と韓国軍に対峙しているので、日本はどうでもいい存在です。
ロシアももっぱらアメリカの軍事力を意識しています。

アメリカの軍事費は世界の軍事費の約4割を占めていて、世界第2位の中国の約3倍です。
アメリカは軍事力のガリバーです。

アメリカがなぜこれほどの軍事力を持つかというと、ひとつには海外に米軍を駐留させているからです。
ウィキペディアの「アメリカ合衆国による軍事展開」によると、海外基地に駐留する米軍の人員がもっとも多いのは日本で約5万7000人です。2番目がドイツで約3万5000人、3番目が韓国で約2万7000人、4番目がイタリアで約1万2000人となっています。
要するにアメリカが戦って占領した国に今も駐留しているのです。

昨年9月の『「米国は日独韓をいまだに占領」とロ大統領』という記事にはこう書かれています。
 ロシアのプーチン大統領は30日の演説で「米国はいまだにドイツや日本、韓国を事実上占領している。指導者たちが監視されていることを全世界が知っている」と述べ、同盟関係が対等でないと批判した。

同盟関係が対等でないか否かは別にして、日本もドイツも韓国も強力な軍隊を持っていますから、その上に米軍が駐留しているのは、ステーキの上にハンバーグが載っているみたいにへんな格好です。
ロシアや中国や北朝鮮から見れば、この「二重軍事力」は自分たちに対する攻撃が目的としか思えません。
よく「その地域から米軍がいなくなると『力の空白』が生じる」ということを言いますが、「力の空白」が生じることはなく、「二重軍事力」が解消されるだけです。


アメリカ軍は世界のどこへでも展開できる体制をとっています(オスプレイもそのためのものです)。
昨年10月、バイデン政権は外交戦略の基本となる「国家安全保障戦略」を発表しましたが、それによると、米軍を「世界史上最強の戦闘部隊」と自慢した上で、「米国の国益を守るために必要である場合には、武力を行使することもためらわない」としています。
決して「国を守るため」ではありません。「国益を守るため」なのです。
ですから、アフガニスタンにもイラクにも攻めていきます。
「国益を守るため」という名目さえつけば、ロシアにも中国にも攻めていくでしょう。
なお、「国家安全保障戦略」には「世界平和を目指す」みたいな文言はまったくありません。


もしどこの国の軍隊も自国を守ることに徹していれば、戦争は起こらない理屈ですし、もし起これば、どちらが「侵略」でどちらが「防衛」かが明白になります。
ところが今は、アメリカの過剰な軍事力が世界各地に「二重軍事力」を生み出しているので、「侵略」と「防衛」の区別がつきません(ロシアも「防衛」を主張しています)。


「世界史上最強の戦闘部隊」を維持するには巨額の軍事費がかかります(アメリカの軍事費はGDP比3.5%です)。それで引き合うのかというと、引き合うのでしょう。
たとえば、アメリカはイラクに大量破壊兵器があると嘘をついて攻め込み、イラクを混乱させましたが、大量破壊兵器の情報が捏造であるとわかってからも、イラクに対して謝罪も賠償もしていません。こんなことが許されるのは、アメリカが強大な軍事力を持っているからです。

また、日本はアメリカと数々の貿易摩擦を演じてきましたが、結局は日本が譲ってきました。たとえば日本の自動車メーカーはアメリカに工場をつくり、アメリカで多くの部品を調達しています。人件費の高いアメリカに工場をつくるのはメーカーにとって損ですし、日本にとっても日本人の雇用がアメリカに奪われました。

アメリカはイランやキューバに対して長年経済制裁をしています。国際基準ではなく“自分基準”の制裁ですが、アメリカの経済力は大きいので、制裁された国は苦境に陥ります。
アメリカはいつどの国に経済制裁をするかわからないので、どの国もアメリカに対して貿易交渉などで譲歩せざるをえません。
アメリカが自由に経済制裁できるのも、背後に軍事力があるからです。


ともかく、アメリカは軍事力を使って国益を追求しています。
こういう国が一国でもあれば、互恵的利他主義で軍縮を成立させることはできません。

世界が平和にならない理由は明らかです。
アメリカが世界平和を目指さないからです。

中国や北朝鮮が脅威だと騒いでいる人は、自国中心でしかものごとを見られない愚かな人です。
グローバルな視点で見れば、世界にとっての脅威はアメリカです。
今後、世界は力を合わせてアメリカを「普通の国」にしていかなければなりません。