村田基の逆転日記

親子関係から国際関係までを把握する統一理論がここに

タグ:陰謀論

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学術会議法案が国会で採択されようとしていますが、学者は反対運動をしても、一般の人を巻き込むまでにはなっていません。
アカデミズムや科学、学問に対する一般人の価値観が変わってきているのです。
こうした傾向は日本よりもアメリカで顕著に見られます。

第二次トランプ政権は、発足当初から科学予算の大幅削減に着手しました。
NASAの科学予算は約半分に削減される予定です。米国立衛生研究所(NIH)の助成金も削減され、この影響でとくに医学や気候変動分野の研究が打撃を受けています。
これに対し世界の科学者約2000人が「科学界は壊滅的な打撃を受けている」と警告する書簡を公開しました。
「Nature」誌が3月に実施したアンケートによると、アメリカの科学者の約75%がアメリカを離れることを検討しているということです。

トランプ政権はハーバード大学やコロンビア大学を攻撃しているので、リベラルな大学を攻撃しているように見えますが、最初から大学、科学、学術を攻撃しているのです。
トランプ政権は反科学です。
保健福祉長官に就任したロバート・ケネディ・ジュニア氏は有名な反ワクチン活動家で、さまざまな陰謀論を述べてきました。保健福祉長官はアメリカ食品医薬品局(FDA)、アメリカ国立衛生研究所(NIH)、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)を監督する立場です。

なぜトランプ政権が反科学なのかというと、聖書の記述を絶対視するキリスト教福音派に寄せたのかなと思います。
キリスト教はもともと反科学的なところがあります。
ガリレオ・ガリレイの時代に戻っていきそうな感じです。

しかし、キリスト教との関係だけでは説明しきれないものがあります。
世の中全体に反科学ないしは反アカデミズムの気分が広がっています。
トランプ政権がハーバード大学を攻撃しても、それをいい気味だと思っている人たちがかなりいるようです。


この傾向は日本でも同じです。
この背景にはもちろんインターネットの普及があります。
オールドメディア対ニューメディアということが言われましたが、それにならっていうとオールドアカデミズム対ニューアカデミズムという状況が生まれているのです(かつて浅田彰氏が登場したころニューアカデミズム=ニューアカという言葉がありましたが、それとは別の言葉です)。

新聞、雑誌、テレビがオールドメディアで、SNSを中心としたインターネットがニューメディアです。
新聞には右から左までさまざまな論調がありますし、インターネットにも多様な意見があるので、メディアによる意見の偏りはほとんどないはずです(ニューメディアには新聞、テレビのようなチェック機能がないので、陰謀論がはびこりやすいという傾向はあります)。
ただ、新聞、雑誌、テレビには権威があり、既得権益もありそうですから、ニューメディアに拠る人々は“マスゴミ”という言葉を使ったりしてなにかとオールドメディアを攻撃します。

オールドメディア対ニューメディアの対立が極端に表れたのが斉藤元彦兵庫県知事をめぐる問題です。
オールドメディアは圧倒的に斎藤知事を批判しましたが、ニューメディアにおいて急速に斎藤知事支持の論調が高まり、オールドメディアに拠る人たちとニューメディアに拠る人たちの対決という形になりました。
なぜメディアによって論調が変わるかというと、やはりニューメディアには陰謀論が多いということがありました。それに、ニューメディアの人はオールドメディアを批判するのに、オールドメディアはニューメディアをほとんど批判しないということがあります。たとえばオールドメディアが「告発者のプライバシーを言うべきではない」とか「告発者のプライバシーに問題があっても、告発内容とは関係ない」といったことを主張していれば、かなり変わっていたでしょう。


科学に関することでも、オールドメディアとニューメディアで論調が違いました。
地球温暖化問題では、化石燃料を今まで通りに燃やしたいというのが一般の人の素朴な思いですから、どうしても温暖化を否定する説を信じたくなり、陰謀論も信じてしまいます。その代表的なものが、「気温の低下を隠す策略(trick)を終えたところだ」という気象研究者のメールが流出したことです(このメールは切り取られたために意味が違うとされています)。
新型コロナのワクチンが問題になったときも、できたばかりのワクチンの注射なんか打ちたくないというのが人々の素朴な思いですから、陰謀論でもいいので反ワクチンの説を信じてしまいます。

そうしてネットの中に、アカデミズムの大勢とは別の説がはびこります。この説はもっともらしい科学の体裁を整えているので、反科学ではなく疑似科学かニセ科学というべきものです。
ですから、オールドアカデミズム対ニューアカデミズムと表現することにしました。

科学界隈のことでは、「政府はUFOの存在を隠している」とか「古代史には宇宙人の痕跡がある」とか「異星からきたヒト型爬虫類が人類を支配している」といったものから「〇〇は健康にいい」とか「〇〇で運気を上げる」といったものまで、さまざまあります。バカバカしいような説でも、ネットでは同じ考えの人が集まって、エコーチェンバー効果でどんどん確信を強めていきます。


ニューアカデミズムを信じる人は、オールドアカデミズムは既得権益のために古い説にしがみつく科学者に支配されていると見なすので、科学者へのリスペクトもありませんし、アカデミズムの権威も認めません。
そういう気分は一般社会にも広がっているので、たとえば学術会議法案に反対する人が「学問の自由」を守れと主張しても、学者が特権を守ろうとしていると受け止められてしまいます。
これはマスコミが「報道の自由」を主張すると、自分たちの特権を守ろうとしていると思われるのと同じです。
ですから、「学問の自由」がなぜたいせつなのかから説明しないといけません。


日本学術会議法案とはどういうものでしょうか。
『【学者が猛反対】菅政権の任命拒否から5年、今度は法人化ゴリ押し、国が「日本学術会議」を狙い撃ちする理由を探る』が詳しく説明しています。

なにがいちばんの問題かというと、学術会議の独立性が損なわれて、政府の管理下に置かれてしまうのではないかということです。
ひじょうに複雑な仕組みになっていて、要約するのがむずかしいので、直接引用します。
2026年10月の新法人発足時とその3年後の会員選定では、特別に設置された選考委員会が候補者を選ぶ。この委員会のメンバーは、会長が首相の指定する学識経験者と協議して決めなければならない。
 その後は会員で構成された委員会が候補者を選ぶが、その際、会員以外で構成される「選定助言委員会」に意見を聞くことが半ば義務付けられている。
活動に関しても外部から目を光らせる仕組みができる。いずれも会員以外で構成される「運営助言委員会」、「監事」、「評価委員会」が新たに設置されるのだ。監事と評価委員会のメンバーは首相が任命する。

坂井学・内閣府特命担当大臣は5月9日の衆議院内閣委員会で「特定のイデオロギーや党派的主張を繰り返す会員は今度の法案で解任できる」と答弁しました。法案の本質を表現しています。

この法案に反対してもらうには、学術会議の独立性のたいせつさを理解してもらうことから始めねばなりません。

今の日本は民主主義ですが、国政選挙は数年に一度しかなく、民意を政治に反映させるには不十分です。
政府は膨大な情報を管理しているので、意図的な操作が可能です。国民に真実が知らされないのでは、選挙も意味がなく、容易に独裁国になってしまいます。
そこで重要になるのはジャーナリズムによる調査報道です。その意味で「報道の自由」は絶対に必要です。
同様に必要なのが「学問の自由」です。学問や科学は政府に不都合なことを示すことがあります。政府が学問を支配しようとするのは独裁化の兆候です。
そもそも菅内閣が新会員として任命を拒否した6人も、政府批判の意見を述べたことのある人たちです。

したがって、学術会議を政府の管理下に置くのはあってはならないことですが、世の中には政府から金をもらっているのだから、政府が口出しするのは当然だという意見もあります。
たとえば橋下徹氏は5月11日、フジテレビ系「日曜報道THE PRIME」において「公金が入るなら公のチェックが入るのは当たり前じゃないですか」「そもそも、お金をもらって、後は全部自由にさせてくれというのは、仕送りをもらっているろくでもない学生と同じですよ」などと言って、法案に反対する学者を非難しました。
公金が不正に使われていないかをチェックするのは当たり前ですが、使いみちにまで口を出すのは政府の役割ではありません。子どもに仕送りして、金の使いみちにまで口を出す親がろくな親ではないのと同じです。


インターネットの普及によって、学者もアカデミズムの権威の上にあぐらをかいていられなくなりました。
さまざまな陰謀論や橋下氏のような愚論とも戦っていかねばなりません。

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2024年でいちばん大きな出来事は、トランプ氏の米大統領再選だったでしょう。
トランプ氏はタイム誌の「今年の人」にも選ばれています。

トランプ氏については、戦争を止めて世界を平和にしてくれると期待する向きもありますが、「アメリカ・ファースト」はアメリカの利己主義ですから、必然的に世界は利己主義と利己主義のぶつかり合いになります。現にトランプ氏は大統領就任前からもうすでにカナダ、メキシコ、パナマ、グリーンランドと軋轢を生んでいます。

トランプ氏のような政治家が人気になる現象は世界中で見られます。
いちばん最初はフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ元大統領です。トランプ氏が一期目の当選をした2016年にドゥテルテ氏もフィリピンの大統領選に立候補し、その主張がトランプ氏に似ていることから「フィリピンのトランプ」と呼ばれました。ドゥテルテ氏が主に訴えたのは犯罪対策ですが、そのやり方は人権上問題があると指摘されると、「人権に関する法律など忘れてしまえ。私が大統領になった暁には市長時代と同じようにやる。麻薬密売人や強盗、それから怠け者共、お前らは逃げた方がいい。市長として私はお前らのような連中を殺してきたんだ」と言いました。
2019年にイギリス首相に就任したボリス・ジョンソン氏も暴言を連発する人なので、「イギリスのトランプ」と呼ばれました。
チェコのアンドレイ・バビシュ前首相も反移民政策を掲げて「チェコのトランプ」と呼ばれましたし、
ブラジルのジャイル・ボルソナロ前大統領は「ブラジルのトランプ」と呼ばれ、アルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領は「アルゼンチンのトランプ」と呼ばれています。

彼らは要するにポピュリズムが生んだポピュリスト政治家です。
その主張には移民排斥、強硬な犯罪対策、人権軽視、環境問題軽視といった傾向があり、暴言、差別発言を平気でするという特徴があります。
こうしたポピュリスト政治家が表に出てきたのは、インターネットあるいはSNSのおかげです。いわゆるオールドメディアは差別発言をする政治家を排除してきました。

去年、兵庫県知事選で再選された斎藤元彦知事や都知事選で旋風を巻き起こした石丸伸二氏は、きわめて攻撃的な言動をする政治家で、SNSによって人気になったということでは「ミニ・トランプ」ともいえるポピュリスト政治家です。


日本ではこうした政治家の人気をきっかけに「オールドメディアの敗北」ということがいわれました。
しかし、ニューメディアによって形成された民意はひどいものでした。
兵庫県知事選の場合、立花孝志氏の根拠の定かでない主張を信じる人が大勢いて、それが斎藤知事当選の原動力になりました。
新聞、テレビ局の情報はある程度信用できますが、SNS、掲示板の情報は基本的に信用できないので、必ずソースを確かめないといけないという常識すらない人が大勢いたのです。

匿名で情報発信のできるインターネットの世界はもともと差別、デマ、誹謗中傷の吹き荒れる世界でしたが、昔の人はそのことを前提として参加していました。それに、PCを持ってネットに書き込みのできる人は少数派でしたから、学歴もある程度高かったといえます。
しかし、スマホの普及でネット人口が爆発的に増えて、今ではネット民は国民平均とほとんど同じです。
では、SNSで形成される民意は国民の平均的な民意と見なしていいかというと、そんなことはありません。

オールドメディアは、事実の報道には裏付けを求めますし、差別語は排除し、個人のプライバシーも尊重します。つまり情報の質の低下に一定の歯止めがあります。
しかし、SNSにそうした歯止めはほとんどないので、虚実入り混じった情報があふれています。
そうした情報に触れると、人は真偽を見きわめるという厄介な作業をするよりも、心地よい情報を選択したくなります。
そして、一度ある種の情報を選択すると、SNSのプラットフォームはそれに類似する情報を提供するように仕組まれているので、いっそう深くその種の心地よい情報にはまっていくことになります。


人間が心地よく思う情報には一定の傾向があります。
ひとつは「単純化された情報」です。
『サピエンス全史』を書いた歴史家のユヴァル・ノア・ハラリは、人類は複雑な現実を単純に説明する「物語」をつくって、集団で共有することで文明を発展させてきたといいます。
ネットでもそういう「物語」を語れる人がネットの世論をリードします。専門家は複雑な現実を複雑なまま語ろうとするので、ほとんど無視されます。

それから、人に好まれるのは「不満のはけ口を教えてくれる情報」です。
人々は日常生活の中で不満をため込んで生きているので、どこかでそれを吐き出したいと思っています。そこに悪徳政治家とか、不倫芸能人とか、車内のマナーが悪い乗客とか、家事育児を手伝わない夫とかの情報が与えられると、ネットで書き込みをして攻撃するか、書き込みはしなくても心の中で彼らをバカにして、溜飲を下げることができます。

「単純化された情報」と「不満のはけ口を教えてくれる情報」の組み合わせは最強です。
複雑な政治の世界を既得権益層対改革派の対立というふうに単純化し、既得権益層を悪者として攻撃すると多くの人を引きつけることができます。

陰謀論というのも基本的に「単純化された情報」と「不満のはけ口を教えてくれる情報」から成っています。
世の中に解決困難なさまざまな問題があるのはディープステートが陰で政府を支配しているからだという説は、きわめて単純ですし、攻撃すべき対象も示されます。
コロナワクチンを打つべきかどうかというのもむずかしい問題ですが、ワクチンに関する陰謀論は単純に説明してくれ、製薬会社などの悪者も示してくれます。

それから好まれるのは「利己主義を肯定してくれる情報」です。
人間は誰でも利己主義者ですが、他人と協調するためにつねに自分の利己主義を抑えて生活しています。
ナショナリズム、つまり「自国ファースト」の考え方は、国家規模の利己主義ですが、国内で主張する分には声高に主張しても許されるので、日ごろ抑えつけた利己主義をナショナリズムとして吐き出すと気持ちがすっきりします。
また、地球環境のために温室効果ガス排出削減をしなければならないとされていますが、経済のことを考えれば削減なんかしたくない。そこで、地球温暖化だの気候変動などはフェイクだという情報に飛びつきます。ポピュリスト政治家はおしなべて地球環境問題を軽視します。

SNS内の論調はナショナリズムが優勢で、ポピュリスト政治家はみな右派、保守派です。
これは実は深刻な問題です。
ナショナリズム、自国ファーストは最終的に戦争につながるからです。
ですから、SNSにはびこるナショナリズム、自国ファーストはきびしく批判されなければなりません。


ところが、日本では兵庫県知事選で斎藤知事が再選されたとき、テレビのキャスターなどは反省の態度を示していました。
反応があべこべです。
民主主義においては「民意」は絶対だという誤解があるのでしょうか。
しかし、民意は間違うことがありますし、とりわけいい加減な情報があふれるSNSではおかしな民意が形勢されがちです。
ニューメディアを批判することはオールドメディアの重要な役割です。

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米中間選挙の開票結果は、上院で民主党が過半数確保となりました。
しかし、トランプ氏は共和党候補が僅差で敗れたアリゾナ州について「不正があり、選挙をやり直すべきだ」とSNSに投稿し、共和党全国委員会もアリゾナ州でもっとも有権者が多いマリコパ郡で「選挙に深刻な欠陥が露呈した」とする声明を発表しました。
今後、このような不正選挙の訴えがどうなっていくのかよくわかりませんが、2年前の大統領選挙でもトランプ氏は「選挙は盗まれた」として、ほんとうの大統領は自分だと主張していますし、共和党支持者の3分の2が真の当選者はトランプ氏だと信じているそうです。

民主主義の危機は意外なところからやってきます。
選挙制度が機能しないと民主主義は成り立ちません。

独裁国や民主主義の未熟な国ではよく不正選挙が行われますが、こういう場合は、たとえば国連の選挙監視団を派遣するというような対策があります。
ところが、今アメリカで不正選挙が行われているわけではありません。小さな不正はあるかもしれませんが、大統領選の結果をくつがえすような大規模な不正はありえません。
つまり不正選挙があるのではなく、「不正選挙がある」と信じる妄想集団がいるのです。
こうした妄想に確実な対策はありません。ファクトチェックもほとんど無意味です。

「陰謀論」というのも、実態は集団的妄想です。
Qアノンが広めたとされる「ディープステート」という陰謀論は、悪魔崇拝主義者と幼児性欲者の秘密組織が陰で国家を支配しているというもので、トランプ氏はディープステートと戦う英雄だとされます。
アメリカでは悪魔崇拝主義者が秘密の儀式などをしているという事実はありますし、幼児性欲者の秘密組織が過去に摘発されたこともありますが、そうした連中が国家を支配しているというのは妄想というしかありません。

文明が進めば人間は理性的になるものと信じられていましたが、実際はまったく違って、もっとも文明の発達したアメリカにおいて妄想集団が大量発生しているわけです。

なぜこうなったかというと、インターネットの普及がひとつの原因です。
集団で討議して意思決定をする場合、もともとあった偏りがさらに強くなる傾向があるとされ、これを「集団極性化(集団分極化)」といいます。
たとえば軍拡賛成派の人が集まって議論すると、それまで平均10%の軍拡を求めていた人たちが議論のあとは平均20%の軍拡を求めるようになるといったことです。
インターネット空間では、保守とリベラルが分離し、それぞれが集まって議論しているので、保守はますます保守的になり、リベラルはますますリベラルになるわけです。
そうしてネットの議論がどんどん過激化し、その中で陰謀論が広まったと考えられます。

それから、なんといってもトランプ氏のキャラクターの特異性があります。
トランプ氏は体が大きく、パワフルで、つねに自信満々で、いかにも「強いリーダー」という雰囲気を持っています。
大統領に就任して権限を手にすると実際に「強いリーダー」になりました。
強い人間に従いたくなるのは人間の本能です。
トランプ氏が「選挙は盗まれた」と言えば、信じる人間が出てきても不思議ではありません。


強いリーダーは、最初は民主的に選ばれたとしても、長期政権になると次第に独裁化します。プーチン大統領や習近平国家主席を見てもわかりますし、ヒトラーもそうでした。

もしトランプ氏が大統領に再選されていたら、独裁化していたかもしれません。
アメリカ大統領はたいてい再選されるとしたものですが、トランプ氏が再選されなかったのは、ひとえにコロナ対策を失敗したせいです。
「強いリーダー」というのは、人間の目にそう映るだけで、ウイルスのような自然界には無力でした。


トランプ氏の命運が今後どうなるかはわかりませんが、集団極性化(分断)が進んだアメリカでは、第二、第三のトランプ氏が出てきて、独裁国家になっても不思議ではありません。
日本はそういう事態を警戒しなければなりませんが、岸田文雄首相はプノンペンにおける11月13日の日米首脳会談でも「日米同盟のいっそうの強化をはかる」と言うばかりです。



安倍晋三元首相はミニ・トランプみたいなものでした。第二次政権を9年近くやって、かなり独裁化しました。
安倍氏が首相を辞任したのも、表向きは健康理由でしたが、実態はコロナ対策の失敗でした(後継の菅義偉首相の辞任理由も同じです)。
考えてみれば、コロナウイルスは偉大です。日米で独裁政権の芽をつんだのですから。

安倍氏は辞任後も存在感を示していました。これもトランプ氏と同じです。
しかし、山上徹也容疑者の銃弾がすべてを断ちました。
その後の政治の動きを見ていると、安倍氏の存在がいかに大きかったかがわかります。

菅首相も「強いリーダー」でした。日本学術会議任命拒否問題でかたくなに説明を拒否したところにそれが表れています。


岸田首相は「聞く力」をモットーにしているだけあって、安倍首相や菅首相とはまったく違います。
岸田内閣の支持率が高く始まったのも、多くの国民が安倍首相や菅首相の強権的な政治手法にうんざりしていたからでしょう。

ところが、内閣支持率はどんどん低下しています。
その理由は明白で、方針がころころ変わるからです。

山際大志郎経済再生担当大臣は、統一教会とのずぶずぶの関係が次々と明るみになり、「記憶にない」などとあやしい弁明を続けて、国民の批判が高まっていました。岸田首相はずっと「山際氏は説明責任を果たすべき」と擁護していましたが、突然更迭を決定しました。
「法務大臣は死刑のハンコを押す地味な仕事」などの発言で批判された葉梨康弘法務大臣についても、岸田首相は最初は擁護していましたが、突然更迭しました。
宗教法人法に基づく解散命令請求の要件についても、岸田首相は最初は刑法違反などが該当すると答弁していましたが、野党などから批判されると一転して、民法の不法行為も含まれると答弁を変更しました。
統一教会問題についても、最初は自民党は組織的な関係はないとして調査すらしない方針でした。それが不十分ながらも調査することになり、宗教法人法に基づく質問権を行使することになり、被害者救済法案の成立を目指すことになりました。

絵に描いたような朝令暮改ぶりです。
岸田首相がかたくなな姿勢を貫いたのは、国葬問題ぐらいです。

途中で方針が変わるのはよいことではありません。
しかし、間違った方針をかたくなに変えないよりははるかにましです。
もちろん最初から正しい方針を決定していればいいわけですが、いつもそうとはいきません。
今のところ、岸田首相の「修正する力」はたいしたものです。

しかし、かたくなに方針を変えないと「強いリーダー」と見なされ、世論に合わせて方針を変えると「弱いリーダー」と見なされます。
「弱いリーダー」は、野党はもちろん国民からも攻撃されます。
しかし、弱くても最終的に正しい方針にたどりつくなら、かたくなに間違った方針を貫くよりもよいのは明らかです。


国民は「強いリーダー」が正しく国を導いてくれることを期待しますが、そういうことはめったにありません。
「強いリーダー」は利己的にふるまい、最終的に独裁者になり、国民を不幸にします。それは歴史を見れば明らかです。

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嘘にまみれた安倍政権とトランプ政権が終わっても、トランプ大統領の嘘はこれからも生き続けるかもしれません。

トランプ大統領が「選挙は盗まれた」と主張するのに合わせて、さまざまな嘘が飛び交いました。
トランプ票が大量に燃やされたとか、投票機にソフトウェアを提供した企業の社長はバイデン氏の政権移行チームの一員であるといったものから、ドイツで投票機のサーバー押収をめぐって米軍特殊部隊とCIAが銃撃戦を演じて5人死亡したとか、オバマ前大統領が逮捕されたといったものまでありました。
しかも、日本にこうした嘘を拡散させる人が少なからずいました。

2017年のトランプ大統領就任式における観客はオバマ大統領のときより大幅に少なかったとメディアが報じると、トランプ大統領は「フェイクニュース」と言って猛反発し、報道官は過去最多だったと主張して、「オルタナティブファクト」と称しました。
それからトランプ大統領は嘘をつき続け、ワシントン・ポストは最初の1年間に2410回も嘘をついたと報じました。
「コロナウイルスはもうすぐ魔法のように消える」という罪の深い嘘もありましたが、トランプ大統領はこうした嘘について嘘と認めたり謝罪したりすることはありませんでした。


安倍前首相も任期中、モリカケ桜で嘘をつき続けて、桜を見る会問題では国会で118回の虚偽答弁をしたとされました。

しかし、トランプ大統領の嘘と安倍前首相の嘘は明らかに異質です。
安倍前首相の嘘は、自分が関わった不正をごまかすための嘘、要するに自己保身のための嘘です。
自己保身の嘘は誰でもつきますから、われわれの常識で理解できます。安倍前首相の場合は、公の場で異常に多くの嘘をついただけです。
しかし、トランプ大統領の嘘は常識では理解できません。


トランプ大統領の嘘を知る手がかりは、Qアノンです。
Qアノンはトランプ大統領の嘘に呼応して生まれました。

ウィキペディアによると、
「Qアノンの正確な始まりは、2017年10月に「Q」というハンドルネームの人物によって、匿名画像掲示板の4chanに投稿された一連の書き込みである」
「この陰謀論では、アメリカ合衆国連邦政府を裏で牛耳っており、世界規模の児童売春組織を運営している悪魔崇拝者・小児性愛者の秘密結社が存在し、ドナルド・トランプはその秘密結社と戦っている英雄であるとされている」
ということです。
政府を裏で支配する秘密結社はディープステートと呼ばれます。

私は最初、小児性愛者の秘密組織がアメリカを支配しているというふうにネットの記事で読みました。
小児性愛者の秘密組織は過去に摘発されたことがありますし、上流階級に存在する可能性はあります。しかし、そういう人間は自分の性的嗜好が満たされればいいわけで、国家を裏であやつる必要はありません。ですから、ばかばかしい話と思いました。

しかし、そのネット記事は不正確で、正しくは小児性愛者でかつ悪魔崇拝者の秘密組織だったわけです。
それなら話として成立します。


悪魔崇拝者というのは、ホラー映画やホラー小説にはいっぱい出てきますが、現実にはほとんどいないと思われます。
敵対する宗派や一部の人を攻撃するときに悪魔崇拝者というレッテル張りをしたのが実際のところでしょう。
ただ、そこにおどろおどろしいイメージが付与され、女性や小児を生贄にして性的快楽を得る儀式(サバト)を行うといったこともありました。
ですから、ディープステートが小児性愛者でかつ悪魔崇拝者の秘密組織だというのはありそうな設定です。
メインは悪魔崇拝で、小児性愛はつけ足しです。

もちろんすべてはQアノンのデマです。
Qアノンが敵に対して悪魔崇拝者のレッテル張りをするということは、Qアノンは政治勢力というより宗教勢力だということです。
「陰謀論」という言葉も適切ではありません。「ディープステートが国を支配している」というのは、Qアノンの「教義」というべきです。

トランプ大統領のコアな支持層は福音派という宗教勢力だとされています。Qアノンはそのさらにコアな支持層で、カルト集団みたいなものです。

そうすると、トランプ大統領はQアノンにとってなにかというと、ウィキペディアには「秘密結社と戦っている英雄」と書かれていましたが、「英雄」というより「救世主」というべきでしょう。
つまりQアノンはトランプ大統領を救世主として崇拝するネット上の宗教勢力で、民主党などを悪魔崇拝者として攻撃しているということになります。


こういう宗教勢力が生まれたのは、トランプ大統領の言動にカリスマ性があったからです。
トランプ大統領が言い続けたのは「アメリカは偉大だ」と「私は偉大だ」ということです。
こういう言い方がカリスマ性を高めます。

トランプ大統領の言葉は教祖が語る宗教の言葉なので、いちいちファクトチェックをしても意味がありません。
教祖は奇跡も行えるからです。
科学に従うのも教祖らしくありません。
「コロナウイルスは魔法のように消える」というのは、いかにも教祖らしい言葉でした。

しかし、トランプ大統領に奇跡を行う力はなく、日々の感染者数は増え続け、それがためにトランプ大統領のカリスマ性は失墜し、大統領選挙で落選する結果となりました。


ただ、アメリカはきわめて宗教性の強い国家で、今でも多くの州の学校で進化論を教えることができませんし、アメリカ国歌「星条旗」には「神」という言葉がありますし、大統領は議会での演説の最後に必ず「God bless America」と言いますし、大統領就任式では必ず左手を聖書の上に置いて宣誓します。同性愛差別、人工中絶禁止などの保守派の主張も宗教的価値観からきています。クリスマスに「メリークリスマス」と言うか「ハッピーホリデーズ」と言うかは大きな政治的争点です。

日本のメディアはアメリカを宗教国家と見なすことをタブーとしているので、Qアノンの実態も見えてきません。
トランプ大統領やQアノンの主張は宗教だと考えれば、「嘘だ」とか「事実に反する」と批判するのは的外れで、むしろ「政教分離」の観点から批判するべきだということになります(あるいはキリスト教の権威による「異端審問」も)。

宗教勢力は今後もトランプ大統領を教祖として担いでいこうとするでしょう。
あるいは、司法当局の追及や民事訴訟やマスコミの報道などでカリスマ性が失われていくかもしれません。



ところで、日本におけるトランプ支持者の多くは、統一教会系「ワシントン・タイムズ」と法輪功系「大紀元(EPOC TIMES)」の情報をよりどころにしているということですし、日本でトランプ支持デモを主催しているのは統一教会や幸福の科学だということです。
新宗教やカルトの人たちはトランプ大統領のカリスマ性にひかれるのでしょう。
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1月17日の福岡のデモに登場した“トランプみこし”(「水木しげるZZ」のツイートより)

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